アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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久しぶりに翠屋スタート。


Episode03 その日、世界が震撼した。 3

 

 

 

「どう考えてもおかしいだろ……合宿だぞ合宿、お話の醍醐味みたいなものだろ。それを飛ばすとか何を考えてるんだよ……今時のアニメだったら欠かせないだろ……そんなことで視聴率取れるわけないだろう! なぁ、恭也!」

 

「やかましい」

 

 ズガンッ! と俺の頭頂部に垂直に立てられた銀のトレイが振り下ろされた。手加減されていたとはいえ、角は普通に痛かった。

 

 というわけでミーティングを終えた翌日、俺は翠屋へとやって来た。基本的に俺が訪れるのは比較的人が少なく常連さんばかりの時間帯を狙ってきているので、今のようなやり取りをしても「あぁ、あの二人か」みたいな目でしか見られない。

 

「それにしても、随分と大きな騒ぎになってるじゃないか。まさか新聞の見出しが全てあれになっているとは思わなかったぞ」

 

 バサリと新聞を広げると、そこには恭也が言うように『123プロダクション感謝祭ライブ開催!』の文字が。取り上げられているのは勿論俺たちのライブのことなのだが、その内容としてはどちらかというと告知によって生じた騒動の方だった。

 

「スポーツ紙以外は全部一面か」

 

 そのスポーツ紙も読み進めれば123の記事が載っているので、見事に全ての新聞を制覇したようだ。

 

「ウチでも大変だったんだぞ」

 

「あー……なのはちゃん?」

 

「あと美由希もだ。二人同時にお前へ連絡を取ろうとして、ずっと電話を片手にウロウロしていた」

 

 残念ながらそのタイミングはずっとスマホの電源を切っていたので、勿論俺に電話が繋がるはずがなかった。大変申し訳ない。

 

「それでなのはちゃんはずっとあの様子なわけだ」

 

 今では310(ミッド)プロダクション所属のアイドルであるものの、空いた時間にはちゃんとお店のお手伝いをするとても良い子であるなのはちゃん。しかし先ほどからチラチラと彼女の視線を感じていた。俺に直接話を聞きたいのに、今はお手伝い中だから聞けない。そんな葛藤が見えた。

 

「……ふむ」

 

 グイッとグラスの水を一気に呷ると、それを掲げながらなのはちゃんを呼んだ。

 

「なのはちゃーん、お冷のお代わり貰えるー?」

 

「え? あ、はーい!」

 

「おい」

 

 目の前の恭也が「なに仕事を増やしているんだ」と言わんばかりの目で見てきた。

 

「まぁまぁ」

 

 そもそも本当にお冷が欲しいだけなら恭也に頼む以前に自分で勝手に入れる。

 

「お待たせしましたー」

 

 氷水が入ったピッチャーを手にやって来たなのはちゃんに、お冷を入れてもらう。

 

「ありがとう、なのはちゃん。最近のお仕事はどう?」

 

「にゃはは……ちょっと大変だけど、頑張ってます! 今度フェイトちゃんとはやてちゃんの三人で魔法少女ものの映画に出ないかっていう話も来てるんですよ!」

 

「へぇ」

 

 なのはちゃんと同じ事務所に所属している、金髪双子の妹とおなじみ八神堂の主の少女を思い浮かべる。この三人が変身する魔法少女か……きっと可愛らしいメルヘンな作品に違いない。

 

「それじゃあ、頑張ってるなのはちゃんに……はい、ご褒美」

 

「え?」

 

 封筒を取り出してなのはちゃんに手渡す。驚いた様子のなのはちゃんの視線が俺と封筒を行き来していたので「開けてみて」と促した。

 

 なのはちゃんは封筒を開けて中を覗き込み、気になったらしい恭也も彼女の後ろに回る。

 

「……えっ!?」

 

 そこに入っていたのは一枚のチケット。まだ正式な応募期間も始まっていない上にデザインすら定まっていない仮のものではあるが――。

 

 

 

 ――それは『123プロ感謝祭ライブ』のチケットだった。

 

 

 

「こ、これ……!」

 

「しーっ」

 

 口元で人差し指を立てると、なのはちゃんは慌てて自分の口を両手で抑えた。

 

「……い、いいんですか……!?」

 

「うん。でも、まだ他の人には内緒ね?」

 

「……あ、ありがとうございます!」

 

 最初は戸惑った様子のなのはちゃんだったが、パァッと明るい笑顔を向けてくれた。

 

「二枚入ってるから、誰か保護者の人と同伴してもらってね」

 

「はい! それじゃあ……」

 

「はいはいはーい! 私! 私! 私が一緒に行きます!」

 

「にゃあっ!?」

 

 なのはちゃんが驚き飛び跳ねるぐらい、彼女の背後から突然美由希ちゃんが現れた。どうやら俺たちの話を聞いていたようだ。

 

「恭ちゃん、いいよね!? ね!? ねっ!?」

 

「お前もやかましい」

 

 再び恭也の手によって振り下ろされる銀のトレイ。

 

 美由希ちゃんがここまで大興奮しているのを見るのは初めてのような気がする。

 

 

 

「……しかし、本当に良かったのか?」

 

 再びフロアの仕事に戻っていくなのはちゃんと美由希ちゃんを見送ってから、ボソッと恭也が尋ねてきた。

 

「あぁ……誰が何を言おうと、なのはちゃんは『周藤良太郎』というアイドルの原点(オリジン)だ」

 

 もし、あの日あの時あの場所でなのはちゃんが泣いていなかったら。そんなIFを考えたことがないわけじゃない。しかしそれは無意味な話で、少なくとも今の『周藤良太郎』がいるのは彼女のおかげなのだ。

 

 高町なのはの笑顔が、俺のスタート地点。

 

「だから周藤良太郎の一つの節目となるこの感謝祭ライブに、是非とも来てもらいたかったんだよ」

 

「……そうか」

 

 基本的にいつも仏頂面の恭也が、一瞬だけ微笑んだような気がした。

 

「そういえばチケットで聞きたいことがあったんだった」

 

「ん? 応募方法とかはまだ何にも決まってないから、答えられることは少ないと思うぞ」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「ちなみに月村からチケットを無心された場合、今回は例外なく断るように」

 

「……了解した」

 

 ポチポチとガラケーを操作する恭也。どうやら本当に月村からチケットを融通するように頼まれていたらしい。

 

「申し訳ないが、今回は規模が規模だからな。俺たちアイドルに分配された身内チケットは各々二枚で打ち切りだ」

 

 つまり俺がなのはちゃんにあげた二枚が身内用のチケットだ。母さんや父さんは兄貴の分の身内チケットで招待するから、俺は第二の家族ともいえる高町家に融通したということだ。

 

「あとは関係各所に四枚ずつ配って……そうそう、茄子にも例外的に渡してある」

 

「鷹富士に、か?」

 

 予想外の名前が出たところで、恭也が首を傾げた。

 

「いやだってさ……アイツ、()()()()()()じゃん」

 

「……あぁ、そういうことか」

 

 鷹富士茄子の豪運について、もはや語る必要はないだろう。アイツが懸賞の賞金や商品まみれになっていないのはあくまでも自重しているからであって、出せば当たるのが鷹富士茄子という人間だ。

 

「念のため確認の電話したら『それは勿論私も参加したいですから……久しぶりに、本気を出そうと思います』……だってよ」

 

「それは当たるな」

 

「あぁ、200%当たる」

 

 それは一枚当選した上にシステムトラブルが発生してもう一枚当選するという意味である。アイツが本気を出したらそれぐらいやりかねないから困る。

 

「だからいっそのこと、関係者席に招待するから大人しくしておいてもらおうと思って」

 

「賢明な判断だな」

 

 恭也を持ってそう言わしめるほど、俺たちの高校での鷹富士茄子はそういう認識なのだ。

 

「しかし、あの基本的に無欲な鷹富士がそれほどまでに執着するとなると……チケットを巡る騒動も起こりそうじゃないか?」

 

「その点は既に解決済みだから心配するな。そのために『ファンクラブのアカウント一つにつき一枚のみ』っていう特殊な方法を取ってるんだから」

 

 それが『周藤良太郎』のライブにおいてチケットのトラブルを回避している秘訣である。

 

 最近のコンサートにおいてはチケットに当選者の名前を記載することで転売を防いでいるが、二席以上応募した場合の連番者の記名というものは当然ない。ゆえにその連番という一つの席を巡り、そこでも金銭トラブルなどが発生してしまう。

 

 一方で『周藤良太郎』のライブの場合、()()()()()()()()()()()()()()ので、このトラブルは一切発生しない。

 

 ではライブの参加者は全員一人での参加になるのかというと、そういうことでもない。実はウチのライブの場合、チケットの当選が確定した後に当選者同士で最大四人まで連番者として設定できる……という運営側の手間になりそうな作業を全て自動で行ってくれるシステムを()()()()()()()。これにより、一人一枚という制約を設けつつも仲間同士で連れだってライブに参加することが出来るのだ。

 

 ファンクラブの複数アカウントの所持という違反行為による抜け道もあるのだが……その辺りも兄貴がなんとかしたらしい。これだから天然チートは……。

 

「その点に関しては他力本願ではあるが……抜かりはないさ」

 

「そうか……そういえば」

 

 まだ何か気になることがあるらしい恭也が、拭き終わった最後のグラスを置いた。

 

「関係各所にチケットを配ったということは……勿論、朝比奈にも渡してあるんだよな?」

 

「え? りん? なんで?」

 

 予想外の名前が恭也の口から出てきて驚いた。いや、忘れがちではあるが一応大学の同級生だから勿論交友関係があってもおかしくないんだが。

 

「いや、深い理由はないんだがな」

 

「お前が全く理由のないことを聞くとは思えないんだが……」

 

 しかし恭也はシレッとした表情で目線を合わせないので、その真意は全く読めない。

 

 

 

「まぁ結論から言うと……チケット()渡してない」

 

「……チケット()?」

 

 

 

 

 

 

「……ふ、ふふ、ふふふふふ……」

 

「……ねぇ、りんはどうしたの?」

 

 竜宮小町の付き添いで向かったテレビ局にて、久しぶりに魔王エンジェルの三人と会ったのだが……何故か先ほどからずっとりんが怪しい笑みを浮かべていた。あそこまでいくと怪しいというか、もはや不気味だ。

 

「……あーあれね」

 

「律子のところにも、リョウからの連絡来たでしょ?」

 

 彼女のユニットメンバーである二人に尋ねてみると、麗華はうんざりした様子で首を振り、代わりにともみが答えてくれた。

 

「良太郎からってことは……ライブのチケットの話?」

 

 昨日、事務所のメンバー全員に『チケットが四枚だけ手に入った』ことを伝えてから起こってしまった騒動を思い出して、思わずうんざりとしてしまう。

 

 予想していた亜美真美は勿論のこと、いつもは控えめな千早や貴音ですらチケットを欲しがっていた。後日、シアター組のメンバーも合わせて抽選をすることになったのだが……その後で、事務所内の空気が悪くならないことを祈りたい……。

 

「つまり、良太郎からチケットを貰って浮かれてるってこと?」

 

「んー……半分正解、かな?」

 

「半分?」

 

 

 

「貰ったのは()()()()()()()()ってこと」

 

 

 




・310プロダクション
アイドルになったなのはちゃんが所属している事務所。
元ネタはリリカルなのはに登場する魔法世界『ミッドチルダ』

・フェイトちゃん
リリカルなのはの登場人物でメインキャラの一人。
よくよく考えたら嘘予告以外で名前出るの初めてじゃないかという魔法少女。

・魔法少女ものの映画
・きっと可愛らしいメルヘンな作品に違いない。
お、そうだな(目逸らし)

・『周藤良太郎』というアイドルの原点
『妹』であると同時に、良太郎にとっての全ての始まり。

・「アイツ、絶対に当てるじゃん」
鷹富士茄子、当選決定(白目)

・ファンクラブのアカウント一つにつき一枚のみ
・当選者同士で最大四人まで連番者として設定できる
・兄貴が開発した。
忘れがちですが、幸太郎もたいがいチートです。
※どうやら実在するシステムだったみたいです。知らなかった……。

・「チケットは渡してない」
・「貰ったのはチケットじゃないってこと」
……ということは、つまり……?



 今回も説明回的なサムシングでした。

 一部感想で懸念されていましたが、茄子はこういう扱いになりました。確かに彼女が外れた場合、宇宙の法則が乱れる可能性があるし……。

 そして久々の登場、魔王エンジェル。今までデレマス編でずっと出番がなかった彼女たちですが、今回は……?

 次回で、番外編の導入となるお話は終わる予定です。



『どうでもいい小話』

 先日迎えた志保の誕生日をお祝いするために、以前書けなかったフェス限お迎え記念を兼ねた記念短編をツイッターにて上げておりますので、よろしければどうぞ(定期宣伝)

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