アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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宴はまだまだ始まったばかり……。


Episode06 『しんでれら』へようこそ 2

 

 

 

 カラーン……

 

 

 

「なん……ですって……!?」

 

 

 

 ドリアを食べていたスプーンが、驚愕の表情を浮かべるまゆの手から滑り落ちた。

 

「め、恵美ちゃん? もう一度言ってもらってもいいかしらぁ……? その、今度は聞き逃さないようにゆっくりと」

 

「そんな重要なことを言ったつもりないんだけど……」

 

 でもまぁ、まゆにとってリョータローさんに関する事柄は全部重要か。

 

「さっき留美さんがメッセージで教えてくれたんだけど、今日は北斗さん以外の大人組でお酒を飲みに行くんだってー」

 

 

 

 カラーン……

 

 

 

「え、なに、今度は何が落ちた音? 今まゆ何も持ってなかったよね?」

 

「『自重』とかじゃないですかね」

 

 髪をかき上げてパスタを口に運びながら事も無げに答える志保。まゆならそれでもおかしくないけど、流石に物理的な音はしないと思うな……。

 

「な、なんというか……相変わらずままゆに対して辛辣ー……」

 

「そうですか?」

 

 そんなアタシたちにとってはいつものやり取りに未央は苦笑いだ。

 

「なんだか、ちょっと怖いときの凛ちゃんに似てる気がします……」

 

「……ちょっと卯月、それどういう意味かな?」

 

「ひゃっ……!?」

 

 卯月が凛に問い詰められてアワアワしている。

 

「それって要するに、二人とも良太郎さんに似てるってことなんじゃないの?」

 

「「あぁんっ!?」」

 

「ひぃ!? 二人とも、それ女の子が出していい声じゃないよ!? ス、スマイルスマーイル!」

 

 ……危ない危ない、未央が言わなかったらアタシが言ってたよ……。

 

 

 

 さて、というわけで今日は少々珍しく、アタシとまゆと志保のいつもの三人に加え、未央たちニュージェネの三人でファミレスへと夕飯を食べに来た。本当は志希もいたのだが、いつも通りふらふらーっといなくなってしまった。ただ先ほど美嘉から『志希を捕獲した』という旨のメッセージが届いたので、問題はないだろう。

 

「そ、それで、良太郎さんたちがお酒を飲みに行ったって話だったよね?」

 

 まゆの大げさなリアクションで大分逸れてしまっていた話を、凛と志保の二人がかりでもみくちゃにされていた未央が戻す。

 

「ままゆはどうしてそれでショックを受けてるのさ。別に良太郎さんが食事に行くことぐらい、今までにもあったんじゃないの?」

 

「……それは、そうなんですけどぉ……」

 

 まゆの咥えたストローから息が吹き込まれ、彼女のウーロン茶がぶくぶくと泡立つ。

 

「ほら、私たちはまだお酒飲めないじゃないですかぁ……? だから……良太郎さんたちは大人で、私たちはまだ子どもで……それが少しだけ、寂しいんです……」

 

「……んー! ままゆ可愛いー!」

 

「きゃあっ!?」

 

 拗ねるまゆがツボに入ったらしく、今度は未央がまゆをもみくちゃにし始めた。

 

「でもそっかー確かにねー……アタシもまゆもお酒を飲めるようになるまで、あと「み、未央ちゃんそこは!?」「よいではないか、よいではないかー」年だもんねぇ」

 

「そっか、恵美たちはそうなるのか……私はまだ「お待たせしましたーチーズリゾットです」「あっ、ありがとうございます」年あるから……」

 

 凛と二人、お互いにまだまだお酒は飲めないね、と苦笑する。

 

「………………」

 

「ん? 志保、どうかしたの?」

 

「いえ……時系列を誤魔化す手段が、あまりにも古典的だったもので……」

 

「「?」」

 

「そういえば、みなみんも今日お酒飲みに行くって言ってたよ」

 

「美波も?」

 

 凛が聞き返すと、未央は「うん」と頷いた。

 

 確か美波というと……三人と同じシンデレラプロジェクトに所属している新田美波ちゃんだっけ。あの子も成人済だったのか。

 

「………………」

 

 それを聞いた途端、まゆが何やら思案顔になった。

 

「まゆ、どーしたの?」

 

「……ねぇ、凛ちゃん……その美波ちゃんって、確か『良太郎さんのことを嫌ってたんだけどだんだん(ほだ)されていって最終的にはデレたタイプ』のツンデレですよねぇ?」

 

「……う、うん」

 

 まゆに対して美波ちゃんの偏った知識を吹き込んだのは一体誰なんだろうか……いやまぁ、下手人は多分まゆの隣で口笛を吹いてるパーカー娘なんだろうけど。

 

 

 

「……これは間違いなく、お酒を飲みに行った先で出くわしてます!」

 

 

 

「まゆさん、店内ではお静かに」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 志保に静かに怒られ、立ち上がったまゆはそのまま腰を下ろす。基本的にいい子ちゃんの彼女は、怒られたことでシュンと落ち込んでいた。

 

「……えっと、それで? どうしてそういう結論に至ったの?」

 

「……多分ここにいる皆さんならご存じでしょうけど、良太郎さんは『アイドルを惹き付ける体質』です」

 

 ちょっとだけ可哀そうになったのでアタシが話の先を促すと、まゆは少しだけ涙目のまま言葉を続けた。可愛い。

 

「『アイドルを惹き付ける体質』ですか……?」

 

「心当たりはあるんじゃないですか?」

 

「……うん、すっごいある」

 

 卯月は首を傾げているが、凛は神妙な表情で頷いていた。

 

 確かにそれはリョータローさん本人が常々言っていることでもあるし、アタシにもいくつか心当たりがあることだった。アイドルと知り合いになったり、知り合いがアイドルになったり。街を歩けばアイドルに出くわすし、そもそもアタシも街中で出会ったリョータローさんにスカウトされてアイドルになった。

 

「そんな良太郎さんがお酒を飲みに行くって言ったタイミングで、その良太郎さんと露骨にフラグが立ってそうなアイドルがお酒を飲みに行ってるんですよぉ……? そんなの、お店でバッタリ遭遇するパターンに決まってるじゃないですかぁ!」

 

「あ、ありうる……」

 

 いやまぁ、ありえそうではあるんだけど……。

 

「それはそれでいつも通りなんだから、別に今更とやかく言うようなことでもないんじゃない?」

 

 そもそも。

 

 

 

 ――良太郎はフラグを立てるのは得意だが、回収するのが致命的に下手くそ。

 

 

 

「って、社長が言ってたような気もするけど」

 

「「……それもそうだね!」」

 

 あっさりと二人して納得してしまった。アタシが言い出したことではあるんだけど、自分を慕ってくれる女の子二人から微妙に不名誉な納得のされ方をされてしまったリョータローさんに同情を禁じ得ない。

 

「よしっ! 私たち未成年組は、飲み会じゃなくてカラオケにでも行きますか!」

 

「おっ! いーじゃん! 行こ行こー!」

 

 未央からの提案に、もろ手を挙げて賛同する。

 

「い、今からですか!? あんまり遅くなるのは……」

 

「そこまで長引かせないからヘーキだよ、卯月! ね? 志保とまゆも!」

 

「……仕方ありませんね」

 

「ご一緒しまぁす」

 

「しぶりんは、強制参加だから!」

 

「何それ……まぁ、いいけど」

 

 というわけで、ここで食事を終えたら六人でカラオケに行くことが決定した。大人組がお酒を飲みながら楽しんでいるというのであれば、アタシたちもそれ以上に楽しむことにしよう!

 

 

 

「よぉし! どうせなら事務所対抗歌合戦でもしようか!」

 

「おっ、面白そう! 何か罰ゲームとか賞品とか用意する?」

 

「……か、感謝祭ライブのチケットとかはー……?」

 

「ダメでぇす♡」

 

 

 

 

 

 

「……え、俺が乾杯の音頭するの?」

 

「このメンバーの中で全員が知ってるのはお前だけなんだから」

 

「頼んだよ、良太郎君」

 

 兄貴と高木さんのダブル社長から頼まれてしまっては断れない。

 

「ったく……えーっと、宴もたけなわですが」

 

「始まってすらいねぇよ」

 

 とりあえずお約束は済ませておいてっと。

 

「なんだか成り行きでこんなことになっちゃいまして……最初にいた三人は本当に申し訳ない」

 

 楓さんと瑞樹さんと美波ちゃんに謝罪すると、彼女たちは「大丈夫です」とヒラヒラと手を振ってくれた。

 

「お店の方のご厚意で急遽貸し切りということにさせていただきましたが、皆さん騒がずに節度を持って大人らしく落ち着いてお酒を飲みましょう」

 

「「「お前が言うな!」」」

 

「はい、兄貴と冬馬とりっちゃんは乾杯の音頭が終わるまでちゃんと静かにしててくださいねー」

 

 やかましい外野を黙らせてから、コホンと咳払いを一つ。

 

「長々と挨拶するつもりはないし、あんまり長引かせると料理も冷めちゃうので……それじゃあ、乾杯!」

 

『乾杯!』

 

 

 

 そんなわけで、本当に何の因果かは分からないが三つのアイドル事務所の人間が揃い踏みしてしまった上に『どうせなら一緒に飲もう』と楓さんと高木さんが言い出したことにより、まさかの『123・346・765合同飲み会』となってしまった。全部足すと1234だな。……え、何この偶然。

 

 しかも半数がアイドルだということでお店の人が特別に貸し切りにしてくれるという素晴らしい配慮まで。勿論それ相応の代金は支払うが、これは今後も贔屓にすること確実な素晴らしい対応のお店である。

 

 そして本当は個室に入ってひっそりと飲む予定だったのだが、貸し切りになったことで堂々と飲むことが出来るようになった。今世では成人したときには既にアイドルで人目を気にしなければいけなかったので、こういう()()()は前世ぶりである。

 

「へぇ、元々は楓さんが見つけたお気に入りのお店だったんですか」

 

「はい。そこにたまたま瑞樹さんが来るようになって」

 

「私も色んな人におススメしてて、346プロの中じゃそれなりに有名なのよ?」

 

 「乾杯」と楓さんや瑞樹さんと軽くグラスを合わせる。

 

「それにしても、まさか美波ちゃんがこういうところにいるのが意外だったなぁ」

 

「そ、そうですか?」

 

 美波ちゃんとも乾杯しつつ、話しやすいように彼女の横に腰を下ろす。一瞬だけビクッとした彼女だったが、別に距離を離されるようなことはなかったので少しだけホッとする。

 

「美波ちゃんは居酒屋で日本酒よりも、バーでカクテルっていうイメージ」

 

 こうアダルティーな感じで……と言うと、美波ちゃんはクスクスと笑った。

 

「それ、似たようなことをみんなから言われるんです。でも私、そもそもお酒にそんなに強くなくて……それで、楓さんと瑞樹さんにここへ連れてきてもらって練習してるんです」

 

「練習ねぇ」

 

 なんでも二十歳を過ぎてからお酒に誘われる機会が多いため、そういうお酒の席で失敗しないように……ということらしい。相変わらず真面目な子である。

 

「まぁ、美波ちゃんを誘いたい気持ちはよーく分かる。清楚な子がほんのりとお酒に酔ってる姿とか見てるだけで癒される」

 

 むしろお金を払うから見てみたい、まである。

 

「そ、そんなことないですよ……!」

 

 照れたようにパタパタと手を振った後で、自身のグラスの日本酒に口をつける美波ちゃんの姿が色っぽく、それだけで十分お酒の肴になるのだが……。

 

「………………」

 

 その向こうで、まるで「知らないっていいわねぇ……」とでも言うような遠い目をした瑞樹さんが気になった。

 

 

 




・123三人娘withニュージェネ
何気に初の絡みである。

・時系列を誤魔化す手段
ただ年齢を言ったところで、完璧な時系列を割り出す人は早々いないだろう。
正直に言うと、作者でも無r(ry

・『良太郎さんのことを嫌ってたんだけどだんだんされていって最終的にはデレたタイプ』
まるでラブコメの正ヒロインのようだ(直喩)

・『アイドルを惹き付ける体質』
そもそもアイドルが多すぎるだけという説も。

・回収するのが致命的に下手くそ
最終的に自分でへし折るのが良太郎スタイル。

・宴もたけなわ
改めて「たけなわ」を調べてみたら「一番盛り上がってるとき」のことを指すらしい。
へぇ~。

・全部足すと1234
すげぇ偶然……(ガチ驚き)

・「知らないっていいわねぇ……」
※良太郎が回収するのが得意な方のフラグです。



 ついに飲み会が始まってしまった。大丈夫大丈夫、みんな大人だからそうそう酷いことにはならないよ(ニッコリ)

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