アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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まだまだ続く当日の朝事情。


Episode18 いざ、決戦の地へ! 2

 

 

 

 今日は日曜日である。休みである。オフである。すなわち……今日は一日、杏は自由の身なのだ!

 

 いやぁ学校もない上に仕事もなく、おまけにレッスンすらないというまさしく神様がくれた時間である。薄荷飴うまー。

 

 ともあれ、最近ではめっきり減ってしまった貴重な時間だからこれは贅沢に使わないと損である。

 

 ……だというのにも関わらず、自然と八時には目が冴えてしまったのが悔しい。いや、普段ならばこれでも遅刻の時間なのだから、世間的には十分惰眠を貪ることが出来たのだろうが……こんなの休みじゃない! 休むときはね、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃダメなんだ……独りで静かで豊かで……!

 

 眠れないならば、ゲームだゲーム! イベントを回すのに必死で全然進めることが出来なかった1.5部を進めるぞー! まだ杏のカルデアだとミドラーシュのキャスターとオケアノスのキャスターなんだからなー!?

 

 というわけで早速ジュースとポテチを用意して、ソファーに寝そべって優雅にゲームタイムを――!

 

 

 

「にょっわ~!」

 

「うわぁっ!?」

 

 

 

 ――その日、杏は思い出した。このお節介な親友の来襲という恐怖を……。

 

「おはよーごぜーます!」

 

「って、あれ? 仁奈ちゃん?」

 

 またいつものようにきらりが押し掛けてきたのかと思ったら、彼女とともにやって来た意外な人物に目を見張る。自慢じゃないけど、最近だとめっきりきらり以外の来客はなかったので驚いてしまった。

 

「おぉっ!? 杏ちゃんがもう起きてるにぃ!? どーしたの!?」

 

「目が冴えちゃっただけだよ……それより今日は何? 仕事もレッスンもオフでしょー?」

 

「何言ってるの杏ちゃん! 今日はライブの日でしょお!?」

 

「あーあーきこえないー」

 

 目を逸らそうとしていた現実を突き付けてくるきらりの言葉を、耳を塞いでシャットアウトする。

 

「杏おねーさん、忘れてやがったんですか……?」

 

「うぐっ……!?」

 

 しかし寂しそうな表情で顔を覗き込んでくる仁奈ちゃんに、流石の杏も言葉が詰まる。

 

「杏ちゃーん」

 

「……あぁもう覚えてるよ忘れてないよ。……とゆーことで、今のこの状況の説明プリーズ」

 

 確か今日はお昼過ぎに仁奈を迎えに行って、二人でライブ会場に向かう予定だった。午前中から仁奈がやってきたことが予想外で、ついでにきらりも一緒なのが予想外だった。

 

「あっ! もしかして杏じゃなくて、きらりと一緒に行きたくなった?」

 

「ちげーでごぜーます」

 

「あっ、そう……」

 

 僅かな望みをかけて尋ねてみたが否定され、ついでに即答されたことで背後のきらりも地味にダメージを受けていた。

 

「きらりは、仁奈ちゃんが早く杏ちゃんのおうちに行きたいっていうから、連れてきてあげたんだにぃ」

 

「杏おねーさんのことならきらりおねーさんに相談すればいいって、みりあちゃんが教えてくれやがりました!」

 

 流石、シンデレラプロジェクトのメンバーは杏の取り扱い方を熟知してるなぁ。ちくせう。

 

 それで結局なんでウチに来たのかを尋ねてみると、仁奈は「あのね!」と目を輝かせた。

 

「仁奈、物販に行ってみてーです!」

 

「……はぁっ!? 物販!?」

 

 なんでそんな戦場へ!?

 

 いくらりょーいん患者は(比較的)民度が高いことで有名でも、会場物販はそんなこと関係なしに修羅の道だ。ネットには既に『良太郎君のライブ物販、始発で来たのに長蛇の列……やむ……』と書き込まれていた。

 

「や、やめといた方がいいと思うんだけどなー……? 列並ぶの大変だよ?」

 

「大丈夫でごぜーます!」

 

 仁奈は大丈夫かもしれないけど杏は大丈夫じゃないんだよ……いや、きっと仁奈も大丈夫じゃないだろうけど……。

 

「杏ちゃん、チケット見た?」

 

「え? 見てないけど……」

 

 突然きらりからそんなことを尋ねられた。出来る限り思い出さないように、目の届かない場所に保管しておいたので、全く見ていない。

 

 一体これがなんなのかと思って取り出してみると……なんか裏面に書いてあった。

 

「……えっ? 関係者特別物販?」

 

 どうやら関係者チケットを持っている人は、一般物販とはまた別の場所でグッズを買えるらしい。

 

「なにそれきいてない」

 

「見てないなら知らなくて当然だにぃ……」

 

 なんでこんな配慮しちゃうんだよ123プロ! この身内贔屓! 今回身内側の杏が言えた義理ないけど!

 

「これで並ばずに買えるでごぜーます!」

 

 いや、確かに並ばずに買えるかもしれないが、現在進行形で会場周辺はすごい混雑しているだろう。

 

 というかそもそも並ばずに買えるのであればこんなに早く行く必要は……。

 

「………………」

 

「……はぁ、分かったよー」

 

 ワクワクウズウズとこちらの様子を窺っている仁奈ちゃんに、雀の涙ほどの杏の良心が屈してしまった。

 

「やったでごぜーます!」

 

「やったねぇ、仁奈ちゃぁん!」

 

 ハイタッチをする仁奈ちゃんときらりに、はぁと思わずため息が漏れる。

 

「それじゃー準備するからちょっと待っててー」

 

 しかし杏も最後の抵抗を見せてやる! 時間をかけて支度をして、少しでも時間を稼ぐんだ……!

 

「お手伝いするにぃ!」

 

「えっ、ちょっ」

 

 しかしその杏の企てを知ってか知らずか、いつもお仕事へ無理矢理連れていくときと同じノリできらりが手伝いを申し出てきた。

 

「い、いや、今日は仕事じゃないし時間にも余裕あるんだから……き、きらりも自分の休日を楽しんできたら……?」

 

「これが今日のきらりの予定だにぃ!」

 

 まさかと思って再びチケットを確認してみると、そこには『一枚につき一人まで同伴での物販利用可能』の文字が。きらりの狙いはコレかぁ!?

 

「どんだけ身内に甘いんだよコンチクショー!?」

 

「さぁ、早く準備しちゃうよぉ!」

 

「しちゃうでごぜーます!」

 

 親族経営どころか実質ワンマン経営というよくよく考えたら恐ろしすぎる事務所の本気を垣間見ながら、杏はきらりの手によって支度させられることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

「相変わらず凄い人……って、寧ろ今まで以上に人多くない!?」

 

「うわぁ……」

 

  ノエルの運転するワゴン(いつものリムジンは目立つので不採用)でライブ会場までなのはと美由希を送ってもらえることになり、そのついでに関係者チケットの特典を使って俺と忍も物販へ行こうという話になったのだが……会場周辺の人の多さに忍と美由希が目を剥いた。

 

 『周藤良太郎』のライブは俺も何度か観に来たことがあるが、確かに今回のライブはそれ以上だった。

 

「やっぱり123プロ初の感謝祭ライブっていうのが大きいのかなぁ……」

 

「実質ジュピターとピーチフィズとケットシーと三船美優さんのライブでもあるからね」

 

「盆と正月どころかクリスマスと桃の節句と端午の節句も一緒に来たレベルね」

 

 なのはと美由希と忍の感想はともかく、これだけ多いと関係者特別物販がある関係者入口に辿り着くまでが大変だろう。

 

「なのは、気を付けろよ」

 

「うん、お兄ちゃん」

 

 なのはに注意すると、頷いたなのはは変装用の帽子とサングラスを整えた。今ではすっかり芸能人側のなのはも、この人ごみの中で正体がバレたら俺たちが大変な目に遭うだけじゃなく、ライブ主催側の良太郎たちにも迷惑がかかる。俺たちの方でもしっかりと気を付けておかないと。

 

「でも、やっぱりこれだけ人が多いと芸能人も多いだろうね」

 

 まぁ『周藤良太郎』のファンの芸能人なんていくらでもいるだろう。例えば俺が気付かないだけで、今もすぐそばをアイドルが通って行ったのかもしれない。

 

「そうそう。例えば、全種のグッズを買えてホクホク顔で横切って行った重装備の三人組。あれ765プロの松田亜利沙ちゃんと315プロの渡辺(わたなべ)みのりさんと283プロの三峰(みつみね)結華(ゆいか)ちゃんだよ」

 

「えぇっ!? あの『アイドルヲタアイドル三銃士』の!?」

 

「なんだ美由希、その括り方は……そして何でお前がここにいる、良太郎」

 

「「りょっ……!?」」

 

 咄嗟に叫びそうになったなのはと美由希がお互いの口元を抑え、忍は叫びこそしないものの口元を抑えて驚いていた。

 

 突然会話に入ってきた人物は、いつも通りの変装を施した今回のライブの主役の一人、周藤良太郎本人である。

 

「あれ、恭也は驚かないのね」

 

「後ろの冬馬共々、気配を感じてたからな」

 

「そーですか……」

 

「この人ごみの中で気配を感じるってどういうことだよ……」

 

 良太郎と共に冬馬も何故か呆れた様子だった。

 

「って、冬馬さんまで!?」

 

「ど、どうしてこんなところに……!?」

 

「リハーサル終わったから散歩」

 

「散歩っ!?」

 

 事も無げに答えた良太郎の返事に、抑えたはずの大声を上げて驚く美由希。気持ちは分からないでもないが注目を集めるわけにはいかないので、強めの手刀を頭頂部に叩き込んで沈黙させる。

 

「冬馬、良太郎が奇行に走ったら止めるのがお前の役目じゃないのか」

 

「寧ろ奇行に走らないためのお目付け役として指名されたんだよ」

 

「それよりお前は上の妹に対する扱いの雑さをなんとかしてあげろ」

 

 完全にいつものノリであり、我ながらこの大勢の人たちがお目当てとしているトップアイドル二人との会話とは到底思えなかった。

 

「というより、気分転換の散歩をするにしても、わざわざ外に出てくる必要はないんじゃないの?」

 

「いくら良太郎さんとはいえ、少しぐらい身バレの危険性を考慮した方が……」

 

「まぁ、二人の言う通りなんだけどさ」

 

 忍と美由希の言葉にポリポリと頬を掻く良太郎。

 

「……()()も、俺がライブのたびに楽しみにしてる光景の一つなんだよ」

 

 そう言った良太郎の視線の先を追う。今はどこに視線を向けても人しかいない。しかしそれは逆を言えば、どこを見ても()()()()()()()()()()()()()しかいないということでもあるのだ。

 

「……そうか」

 

「そんなことより、四人とも関係者物販行くんだろ? 案内してやるよ」

 

「いいの? 良太郎さん」

 

「全然オッケー、なのはちゃん」

 

 ポンポンとなのはの頭を撫でる良太郎。

 

 ……とはいえ、結局こいつはいい意味でも悪い意味でも、いつもと変わらない周藤良太郎なんだな。

 

 

 

「……それで、本当のところは?」

 

「物販のTシャツって結構薄手だから、こう、胸元が押し上げられてるおねーさんとかね!?」

 

「そこを言わなきゃいいのに……」

 

「語るに落ちるというか、積極的にオトしに行くところが周藤君よね」

 

「さっさと戻りてぇ……」

 

「にゃ、にゃはは……」

 

 

 

 

 

 

 ――開演まで、あと『7時間』。

 

 

 




・神様がくれた時間
・薄荷
加蓮の二曲目が大好きです(唐突な告白)

・休むときはね、誰にも邪魔されず(ry
どちらかというと杏はアームロック決められる側。

・杏のカルデア事情
基本的に作者の代弁をしてもらってます。
そもそもまだリンボにすら会っていないという……。

・――その日、杏は思い出した。
作者的追っかけてないけどとりあえずオチだけは知りたい漫画。

・『やむ……』
ちらりあむ。

・渡辺みのり
・三峰結華
三事務所越境ネタではおなじみの三人。
ちなみにLesson156での亜利沙の友人はこの二人だったりする。



 物販にまで辿り着かないというね。

 そして次回、久々に登場するあのキャラと初登場のあのキャラが。

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