アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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一先ず『開場前』編ラスト。

……あ、なんか300話目らしいっすね(雑)


Episode20 いざ、決戦の地へ! 4

 

 

 

「うひゃー! すっごい人ー! ゆいたちのライブとは比べ物にならないねー、奏ちゃん!」

 

「そうね、唯。私たちもそれなりの人気アイドルと言われてはいるものの、流石に123プロと比べると見劣りしちゃうわね」

 

「大丈夫ですか、文香さん」

 

「は、はい……ありがとうございます、ありすちゃん」

 

 プロジェクトクローネ内で行われた厳正なる抽選の結果、見事関係者チケットを手に入れた私と唯は、関係者特別物販に行きたがったありすちゃんと文香の二人を連れて会場へとやって来た。

 

「それにしても、文香がこういうところに来たがるなんて意外だったわ」

 

 このような大勢の人でごった返した場所という意味と、アイドルのライブという意味の二つだ。後者に至ってはこうしてグッズを買うためにこうして私たちについてきて、さらに本番はLVを観に行くらしい。アイドルとしての文香を知っていたとしても、これは少々驚くべきことである。

 

「……そうですね、私も不思議です」

 

 行きかう人々と何度もぶつかりそうになりつつも、文香はいつもよりも少しだけ楽しそうだった。

 

「昔の私ならば、きっとこのような場所に来ようとは考えなかったでしょうね……」

 

「確かにー! 文香ってばこういう場所似合わないもんねー!」

 

 バッサリと切り捨てるような唯の物言いだったが、本人もそろそろ言われ慣れた様子でやや苦笑していた。

 

「……それでも、アイドルという世界を知った今は……ここのような場所も、悪くないと……そう思っています」

 

 そう言った文香は柔らかく笑顔を浮かべていた。それは思わず少しだけ嫉妬してしまうぐらいとても綺麗で優しい笑顔で、唯とありすちゃんもそんな文香に見惚れているようだった。

 

 そしてそんな私たちの反応に気付いて赤面する辺りが、実に文香らしかった。

 

「さぁ、そんなに可愛い文香をずっと見ていたいけど、早いところ人混みを抜けましょう」

 

 あまり大勢の人の中にいては、変装していても身バレのリスクは高くなる。早いところ関係者以外立ち入り禁止エリアに入ってしまった方がいいだろう。そこでなら、私たちがアイドルだと知られても問題はないだろう。

 

「えっと、関係者専用入口へ行けばいいんですよね……?」

 

 再確認するように、ありすちゃんがポロリと口にしたその言葉は――。

 

 

 

「……おや? 今『関係者』って言ったかい?」

 

 

 

「「「「っ!?」」」」

 

 ――不運にも、すぐ近くにいた人に聞かれてしまった。

 

「……っ!」

 

 サーッと顔を青褪めたありすちゃんが見上げてくるので、彼女を隠すようにそっと抱き寄せる。確かにこれはありすちゃんの過失ではあるが、だからといって彼女を責めることは出来なかった。

 

(……大丈夫、まだアイドルだってことはバレてない)

 

 あくまでも『関係者チケットを持っている』ということがバレただけであり、私たちの正体に気付かれたわけではないだろう。それでも関係者チケットを持っているということは、123プロと縁のある人物ということだ。流石にそれに気付かないほど、勘の悪い人間はいないだろう。

 

 唯と文香も緊張に顔を強張らせる中、ありすの言葉を聞いてしまったその人物は――。

 

 

 

「いやぁ、丁度良かった……実は俺も、関係者なんだよ」

 

 

 

「「「「……え」」」」

 

 ――そんなことを言い出した。

 

 適当に言葉を合わせて私たちに近付こうとでもしているのかと思ったが、見るとその人物は確かに関係者チケットを手にしていた。一瞬、自分たちのチケットを取られたのかと思ってしまい慌てて確認するが、私が唯から預かっている分を含めて二枚ともしっかりと鞄の中にあった。

 

「こういうライブは久しぶりの参加でね……賑やかしい所は好きなんだけど、知り合いがいないところは好きじゃないんだ」

 

 そう言ってにこやかに笑うのは……金髪にダークブラウンの瞳の外国人男性だった。しかしとても流暢に日本語を喋っており、見た目とのギャップが凄かった。

 

「それを持ってるってことは、君たちも()()()()()()()ってことなんだろ? ビックリさせちゃったみたいでごめんね」

 

 怯えた様子のありすちゃんに気付き、そう謝罪をする男性。私たちに配慮をしてくれたのか先ほどから喋る言葉はコソコソとした小さなものになっていた。

 

「それで不躾で申し訳ないんだけど、俺もご一緒してもいいかな? もしよかったら、みんなの123プロのアイドルに対する感想を聞いてみたいんだ」

 

 そんなことを聞いてくるということは……もしかして、123プロの関係者なのだろか。少々うさん臭さを感じるものの……不思議と『悪い人ではない』という印象だった。

 

 私は別にいいが……チラリと他の三人に視線を向けると、三人とも私に任せるとアイコンタクトを送ってきた。

 

「……えぇ、いいわ。本物の関係者チケットのようだし……悪い人じゃないって、信じてあげるわ」

 

「これはありがたい。美女四人とご一緒できるなんて、愛する妻がいなかったら、もう少しお近づきになりたいところだったよ」

 

「あら、関係者チケットを貰えるような立場なのに、123プロのライブの品位を下げるようなことをする気?」

 

「ははっ、こいつは手厳しい……けど、一理ある。少しばかり軽率だったかな」

 

 言い回しが日本人のそれなので、ますます外国人感が薄れていて不思議な男性である。

 

 ともあれ、少しばかり不思議な同行人を加え、私たちは関係者特別物販へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「パパが大変失礼しましたあああぁぁぁ!」

 

 

 

 予想外に強力な一撃を腰に喰らってその場に倒れ伏した黒井社長のすぐ側でペコペコと頭を下げる少女。現在961プロの頂点に立つトップアイドルにして()()()()()()である黒井(くろい)詩花(しいか)ちゃんである。

 

「あぁいや、俺は気にしてないよ」

 

 一先ず恭也たちは一応一般人ということで、一旦下がってもらい俺と冬馬だけで二人の対応をする。

 

「………………」

 

「おい」

 

「……俺も別に気にしてねぇよ。おっさんの口の悪さは昔からだからな」

 

 無言を貫いていた冬馬の脇腹を軽く肘で小突いて口を開かせる。本当に気にしていないのだろうが、初対面の女の子に対するコミュ障は相変わらずのようである。

 

「それにしても、たまたま近くに寄っただけとは言いつつ、ちゃんと娘さんを連れて来てるじゃないですか」

 

「あ、いえ、これは私が無理を言ったんです! どうしても皆さんのライブに参加したかったんですけど、抽選に外れちゃったので……」

 

「へぇ」

 

 なんだかんだ言いつつ、娘さんには甘かったということだろうか。

 

「勘違いするな、私が見に来たのは貴様らの醜態だ……! ……それに、私がただで貴様らのライブを見てやるわけがないだろう」

 

 言葉は凄い上から目線だが、ダメージが大きかったらしく未だに倒れ伏したままなので物理的には下からの目線である。スーツが汚れるから、そろそろ起き上がったらいかがだろうか……。

 

「ただで……というと、何かしらの条件が?」

 

 尋ねると、黒井社長はフンッと鼻を鳴らしてポンポンと汚れを払い落としながら立ち上がった。

 

「まずは貴賓室に案内しろ。関係者席と言いつつ、どうせ一般席と変わらんのだろう?」

 

「それぐらいなら」

 

 今回の会場は普段野球の試合を行っているドームなので、貴賓室は存在してる。今回のライブだと使わない予定だったが……まぁ、下手に関係者席に座らせて他の人と角が立っても怖いし。

 

「……それと」

 

 次は「年代物のワインでも用意しろ」とでも言うのかな、と想像していると、黒井社長は胸元のポケットからチケットを取り出した。それは冬馬たちが送った関係者チケットで、六枚全てを俺に押し付けるようにして手渡して来た。

 

「二枚は私と詩花の分だ。……残りのチケットで」

 

 一瞬、視線を泳がせる黒井社長。

 

 

 

「………………高木と善澤………………ついでだ、音無小鳥も呼べ」

 

 

 

「「………………」」

 

 流石にその要求は予想外だった。俺だけじゃなくて冬馬も一緒になって絶句している。ちなみに詩花ちゃんは小さくクスクスと笑っていた。

 

「……なんだ」

 

「あ、いえ、なんでもないですよ。分かりました、善澤さんはプレス席にいるので、そちらからお呼びします。高木さんと小鳥さんは、今から連絡しますね」

 

 いきなりではあるものの、多分あの二人ならば来てくれるだろう。

 

「詩花ちゃんはどうする? 君も貴賓席で観る?」

 

「あ、いえ! 私はその……出来れば関係者席の方で……」

 

「了解」

 

 とはいえ開場前だから、それまでは黒井社長と一緒に貴賓室にいてもらうことにしよう。

 

 近くにいたスタッフを掴まえて、二人の貴賓室への案内をお願いする。

 

「それじゃあ、ごゆっくりお楽しみください」

 

「……ふんっ」

 

 去っていく黒井社長の背中に一言をかけるが振り返らず、代わりに詩花ちゃんがペコリと一礼してから彼の背中を追っていった。

 

「……お前たちは、あれでいいのか」

 

「ん?」

 

 そんな二人の背中を見送った後、背後から恭也にそんなことを問われた。振り返ると四人全員がなんだか怖い顔をしていた。

 

「冬馬さん、いいの!? あんなに酷いこと言われてたのに!?」

 

「あーいや……俺は別に……」

 

 本人よりもヒートアップしている美由希ちゃんに迫られてタジタジな冬馬。

 

 俺も本当は、冬馬たちのことや765プロのことでずっと言おうと思っていたことを言うつもりだったのだが……。

 

「なんか詩花ちゃんに毒気を抜かれちゃってな」

 

 アイドルに対する姿勢ややり方は勿論好きじゃないが、それでもこうしてちゃんと『娘をライブに連れてきた父親』に真正面からそれらを糾弾する勇気は俺になかった。

 

「あとは、言いたいことは全部ステージから伝えるさ」

 

 それが、アイドルだろう。

 

 

 

 

 

 

「九回の裏逆転満塁ホームランぴよおおおぉぉぉ!」

 

「ズルいのおおおぉぉぉ!?」

 

「ピヨちゃんの裏切り者おおおぉぉぉ!」

 

「あー美希君、真美君。実は黒井が冬馬君たちから受け取ったチケットは全部で六枚あるらしくてね、彼と詩歌ちゃんの分を除いて残りの四枚は私の好きにしていいと言われているんだよ」

 

「「……え」」

 

「……良太郎君からも『俺の大ファン二人をお願いします』とお願いされてしまったからね」

 

「「……えええぇぇぇ!?」」

 

 

 

 

 

 

「さてと、それじゃあそろそろ俺らも戻って最終調整を……ん?」

 

「良太郎、どうかしたか?」

 

「あぁ、いや、メッセージが届いててな。大したことじゃないんだが――」

 

 

 

 ――()()()()()()()も会場入りしたらしい。

 

 

 

 

 

 

 ――開演まで、あと『6時間』。

 

 

 




・唯、奏、関係者チケットを入手。
プロジェクトクローネのチケットはこの二人!
何でかって? ……この前、この二人が同じ限定ガチャで登場したじゃん? 二人ともお迎えしたじゃん? ……そういうことだよ!
※要約『私利私欲です!』

・謎の外国人男性
このタイミングでオリキャラ登場。
彼は一体ダレナンダー。

・詩花
『アイドルマスター ステラステージ』に登場するキャラ。
961プロに所属するアイドルで、なんと黒井社長の娘。
「似てねぇ!」ってすごく言いたかったけど、そもそも黒井社長の容姿を知らないっていうね。

・ツンデレ黒ちゃん
彼も既に、アイ転という腐海に沈んでしまっていた……!

・「九回の裏逆転満塁ホームランぴよおおおぉぉぉ!」
【速報】高木社長、小鳥さん、美希、真美、関係者席参戦決定!

・我が家の父上様
ついに登場!(紹介するとは言っていない)


 外伝でシリアスなんてやるもんじゃないって、じっちゃが言ってた。

 というわけで『開場前』編はこれで終わりです。

 次回からは……ピーチフィズの二人が主役の『舞台裏』編です!



 ……300話記念? ないよっ!(断言)

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