アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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『開演直前編』という名の『観客席側の顔合わせ編』


Episode25 On Your Mark!

 

 

 

 ――お待たせいたしましたー!

 

 ――只今より開場いたしまーす!

 

 ――チケットと一緒に本人確認できる身分証明書のご用意をお願いしまーす!

 

 

 

 

 

 

「えーっと……私たちの席は……」

 

「おっ! ここじゃないか!」

 

「わぁ! 五人並んでますね!」

 

「まぁそうやって申し込んだからねー」

 

 自分たちのチケットに書かれた番号の席を見付け、一先ず荷物を置く。

 

 事務所での仕事や打ち合わせを終え、見切れ席組である私・加蓮・奈緒・卯月・未央の五人はついに会場入りを果たした。

 

「それにしても、いくら見切れ席とはいえこの五人が揃って当たるとは思わなかったよ」

 

「ホントホント。仮にも現地チケットには変わりないから、こっちの倍率も凄かったはずなのに……」

 

 凄い偶然だよねーと顔を見合わせて笑う未央と加蓮。何故か『この二人が総選挙で頑張ったご褒美』という意味の分からない単語が脳裏に浮かんだが、きっと気のせいだろう。

 

「やっぱりメインステージが見えませんね……」

 

「まぁ、そういう席だからな」

 

 自分の席から首を伸ばしてステージを確認しようとする卯月を、奈緒は「仕方ないよ」と慰める。

 

 今私たちが座っている場所はメインステージの真横のスタンド席からさらに奥、ほぼステージ裏と言っても過言ではない位置だった。卯月の言う通り、そして見切れ席という名前の通り、ここからではメインステージは一切見えない。一応目の前にはモニターが設置されているので何も見えないというわけではなく、センターステージやバックステージはかろうじて見ることが出来るが、距離が離れているのでやっぱり見づらい。

 

「でもやっぱり、直接良太郎さんたちを見たかったなぁ……」

 

 「ホントーに残念」と苦笑する加蓮に、未央はニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「そうだよね~? かれんも良太郎さんからのファンサービス、貰いたいよねぇ~?」

 

「むっ」

 

 ほんのり頬を赤く染めて言い返そうとした加蓮だったが、ぐっと言葉を飲み込んだ後で逆にニヤリとした笑みを浮かべた。

 

「……ふっふっふっ、悪いね未央」

 

「へ?」

 

「私はもう……自分を偽らない!」

 

 カッと目を見開いてそんなことを宣言した加蓮は、何やら持ってきた荷物をゴソゴソと漁り始めた。

 

 

 

「これが……私の本気っ!」

 

「「「「……お、おぉ……!?」」」」

 

 

 

 自信満々に胸を張る加蓮は……所謂『フル装備』状態だった。良太郎さんのイメージカラーである金と黒の法被を羽織り、額には『I♡RYOTARO』と書かれた鉢巻きを巻き、黄色と黒の公式ペンライトを両手に二本ずつ指の間に持っている。さらに頬には『周藤良太郎』と『123プロ』のロゴのフェイスペイントシールが張られていて、何処から見てもりょーいん患者だと一目瞭然で分かる格好だった。

 

「私はもう自分を隠さない! 『周藤良太郎』のファンとして……誇り高きりょーいん患者として! 私は今日、自分の全力を出し切る!」

 

「おぉ……かれんが吹っ切れてる……」

 

「普段のレッスンのときでもこんなにアグレッシブな加蓮は見たことないぞ……」

 

 加蓮を弄ろうとしていた未央といつも加蓮に弄られている奈緒が、普段の彼女との様子の違いに戸惑っていた。

 

「わ、私も負けません!」

 

「う、卯月?」

 

 そしてそんな加蓮に対抗心を燃やしたのか、卯月もまた自分の荷物を開け始めた。

 

「じゃーん! つ、ついに私も買っちゃいました!」

 

 そう言って取り出したのは赤を基調にした『天ヶ瀬冬馬』の法被だった。

 

「おぉ、卯月も法被買ったんだ!」

 

「はい! その、ふぁ、ファンとして、ちゃんと応援したいって思ったんです!」

 

「いいよ卯月! 今日は一緒に頑張ろう!」

 

「はい! 頑張ります!」

 

 肩を組んで「えいえいおー!」と腕を突き上げる加蓮と卯月。なんとも珍しい組み合わせが意気投合している光景に、思わず未央や奈緒と共に言葉を失ってしまった。

 

「……えっと、しぶりんは?」

 

「なんかあるか?」

 

「流石にないよ」

 

 『周藤良太郎』のファンとしては加蓮にも引けを取るつもりはないが……私は私なりの応援の仕方があるから、別に彼女たちと競うつもりはない、うん。

 

 ……まぁ、私も上着ぐらい脱ごうかな。

 

 

 

(……奈緒さん奈緒さん、凛さんが着てるTシャツ、見て御覧なさい)

 

(え? あぁ、良太郎さんの公式ティーシャツ……って、んん!? サイン入ってるぞ!?)

 

(もっとよく御覧なさい! 一つだけじゃないでしょ!?)

 

(ほ、本当だ……! アレはまさか『周藤良太郎』の()()()()()()!?)

 

(そう! あれは身内という特権を使うことで成し遂げた『デビューしてから今まで全てのサインが書かれたTシャツ』! 正真正銘世界でただ一つしか存在しない超絶激レアアイテムなのだよ!)

 

(しかもそれを飾らずに着用するところが、周りに対するマウントにしか思えない!)

 

(「流石にないよ」と言いつつも、負ける気がない辺りが実にしぶりんらしいよね!)

 

(負けず嫌いここに極まれりって感じだな!)

 

 

 

 何やら悔しそうな目でこちらを見てくる加蓮に優越感を感じつつ、私も今日は久しぶりに全力で応援しようと心に誓うのだった。

 

 ……きっと今頃良太郎さんたちも舞台裏で最後の準備を始めてるところかな。

 

 

 

 

 

 

「開場したな」

 

「そうだな」

 

「ファンのみんなが俺たちを楽しみに来てくれたな」

 

「そうだな」

 

「……関係者席にも、みんなの招待客が来てくれてるよな」

 

「そうだな」

 

「みんなの招待客ってことは、この事務所にとっての来賓でもあると思うんだよ」

 

「そうだな」

 

「……ここはこの事務所を代表するトップアイドルとして、俺が挨拶に言った方がいいと思うんだよ」

 

「そうだな」

 

 

 

「……兄貴、このポリバケツ下ろしていい?」

 

「ダメだ」

 

 許されなかった。

 

 

 

「見てください、冬馬さん。あそこで水が入ったポリバケツを抱えながら立たされてる男の人、なんか世間ではトップアイドルとしてチヤホヤされてるらしいですよ?」

 

「世も末だよな。見ろよ、無様に腕がプルプル震えてるぜ」

 

 こちらを見ながら志保ちゃんと冬馬がコソコソと何かを話していた。123プロが誇るダブルエースの仲が良くてなによりである……あっ、別にフラグじゃないからね? 過剰反応しないでね?

 

「というか、何故俺は本番直前にこんな拷問みたいな真似させられてるのだろうか」

 

 確かに特典映像用のカメラを持っていったが、別に映しちゃマズいものは(まだ)撮ってなかったから怒られる要因は何も……。

 

「その本番直前に、スタッフに余計な手間をかけさせたからだよ」

 

「過剰戦力を投入したのは指揮官である兄貴の判断ミスでは」

 

「さては反省してないな?」

 

 フルフルと首を横に振る。これ以上重しを増やされてしまっては流石に会話すら出来なくなってしまう。

 

「……とはいえ、そろそろ時間だ」

 

 ようやく下ろしていいという許しが出たのでゆっくりとポリバケツを床に下ろすと、そのポリバケツはスタッフさんが片付けてくれた。……スタッフの余計な仕事を増やしたからという理由での罰だったにも関わらず、結局仕事を増やしてしまったのだが、そこのところどうなのだろか……。

 

「調子はどうだ?」

 

「腕がプルプル震えてる」

 

「本番までに治せ」

 

「はーい……」

 

 素直に返事をしたはいいものの、果たしてどうやって治したものかと首を傾げる。

 

「良太郎さぁん、大丈夫でしたかぁ?」

 

 しかしその腕の僅かな違和感は、まゆちゃんが腕に触れながら上目遣いに俺の顔を覗き込んできたことで綺麗さっぱり無くなった。美少女ってすげぇ!

 

「大丈夫大丈夫、これぐらい慣れてるから」

 

「アレが慣れるまで引き下がらない辺り、流石良太郎さんですよね」

 

「もっと褒めてくれていいんだよ? 多分志保ちゃんからも撫でられたら最高のコンディションになると思うんだ」

 

 ちょっとの期待と共に志保ちゃんへ向かって腕を差し出すと、全力でしっぺされた。これはこれであり。

 

「それよりまゆちゃんは大丈夫? なんか倒れたっていう話を聞いたけど」

 

「ちょっと休憩してたのをみんなが大げさに言ってるだけですよぉ。まゆはこの通り、絶好調です」

 

 むんっ! と元気よく細腕で力こぶを作る仕草をするまゆちゃん。確かにコンディションは良さそうだった。

 

「ほらみんな、そろそろ準備をしに行くよ」

 

 パンパンと手を叩いて北斗さんがアイドル全員を促す。こういう役を自然にこなす辺りは流石最年長……と言いたかったのだが、最年長は美優さんだった。いや、あの人はなんというか、どれだけ経っても拭いきれない『妹感』があるからなぁ……。

 

「………………」

 

「……え、な、なんですか?」

 

「ちょっとあのカメラに向かって『お兄ちゃん』って言ってもらっていいですか?」

 

「えっ……!?」

 

社長(せんせー)、またりょーたろー君が何か始めましたー」

 

 翔太にチクられたので止める。いや、今も一応特典映像用のカメラはスタッフが回してくれているのだから、美優さんのファンが喜びそうなことをしておいた方がいいと思ったんだけどなぁ。

 

「それじゃあ代わりに俺が」

 

「何が『それじゃあ代わりに俺が』なんだよ」

 

 冬馬のツッコミを無視してちょいちょいとカメラさんを指で呼び寄せる。そしてカメラのレンズを女性の顎に見立てて人差し指でクイッと持ち上げ……自分に出せる全力の猫撫で声を出す。

 

 

 

「見てて、姉さん……今日は姉さんのために、最高のライブにするからね」

 

 

 

 ここでニコリと笑顔の一つでも出来れば良かったのだが、それはもう俺が『周藤良太郎』である以上不可能である。

 

「「「かふっ」」」

 

社長(せんせー)! またまゆが負傷しました!」

 

幸太郎さん(せんせー)! こっちのりんにも流れ弾が!」

 

「ついでに姉属性持ちの志保ちゃんも被弾しました……!」

 

 恵美ちゃんとともみと美優さんが、それぞれ膝を突いたまゆちゃんとりんと志保ちゃんを支えていた。あれ?

 

「余計な仕事を増やすなって言ったばかりだろうがあああぁぁぁ!」

 

「流石にこれは理不尽じゃないか!?」

 

 

 

 

 

 

 ――開演まで、あと『2時間』。

 

 

 




・見切れ席組
ニュージェネ+トラプリ組。
流石にここは作者の書きやすさを重視した選抜になっております。

・『この二人が総選挙で頑張ったご褒美』
そしてこういう意味合いも兼ねて。二人とも、本当にお疲れ様!

・良太郎のイメージカラー
設定してなかったけど、ここにきて『金』と『黒』に決定。
……うん、そうだね、オーマジオウカラーだね。もしくはゴルドドライブ。

・ポリバケツ
Lesson131で言われてたやつが実行に移された模様。

・美少女ってすげぇ!
効能:疲労回復・神経痛・筋肉痛・肩こりetc

・「「「かふっ」」」
りょーいん患者はおろか、まさかの志保ちゃんにまでクリティカルヒット。



 開演直前編です。しつこいですが、今度こそこれで本番前のお話は終わりになりますので、もう少々お付き合いください。

 そして次回からは、恐らく皆さんが気になっているであろう場面です。

 そうです、『関係者組の顔合わせ』です。ご期待ください。



『どうでもいい小話』

 フェス限恵美きたあああぁぁぁ! 無料十連!? そんなの待ってられないぜ!

 俺は自分の力で引くぜ!!(辛勝)(結構痛かった)(でも幸せならオッケーです)

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