アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ご愛読、ありがとうございました!(4月1日)


Lesson29 地獄のレッスン!? 5

 

 

 

 休憩時間が終わり、魔王エンジェルの三人と共にスタジオへ向かう。

 

「でも、やっぱり少し可哀想じゃないかしら」

 

 眉根を潜め、あずささんは頬に手を当てる。先ほど話に上がった心折れてしまったアイドルのことを言っているのだろう。

 

「そうは言うけどね、三浦あずさ。アイドルとして大切なものに気付けなかったから心折れたわけであって、それに気付けない時点でアイドルとしては赤点なのよ」

 

「アイドルとして大切なもの?」

 

「まぁ簡単に言うと、自分自身の『売り』ね」

 

「『売り』?」

 

「例えば、水蓮寺ルカ。身軽なあの子はライブやコンサートにバック宙みたいなアクロバティックなパフォーマンスを取り入れてる。もちろん、バック宙ぐらいだったら良太郎でも軽く出来るでしょうけど、男の良太郎と女のルカがやるのでは意味合いや反応が変わるのは当然。これが水蓮寺ルカの『売り』よ」

 

「あと沖野ヨーコの場合はー……笑顔、になるのかな? 歌やダンスは二流でも、見てるだけで癒される笑顔って奴? 声や身振りだけの感情表現だって限界があるし、やっぱり見て分かりやすい表情での感情表現の方が評価されるんだよ?」

 

「リョウは笑顔がないっていうアイドルとして致命的な欠陥を抱えている。良太郎が持っていないものを持っているアイドルなんて、それこそいくらでもいる」

 

「アンタ達だって、笑顔だったら良太郎に勝ってるでしょ?」

 

 確かに、言われてみればそうだ。言い方はアレかもしれないが、アイドルはファンに笑顔を向けることも重要なことだ。技術だけでなく、存在そのものがアイドルの魅力の一つなのだから。

 

「そんな簡単なことに気付かずに、ただ歌やダンスが敵わないってだけで辞めていくなら、所詮アイドルとして大成しないわよ。アンタらは歌手にでもなりに来たのかっつーの」

 

 ふん、と麗華は鼻を鳴らす。

 

「そもそも、良太郎がアレをやらなくても律子みたいに辞めていったアイドルだっていくらでもいるわ。理由なんてそこら辺にいくらでも転がってるんだから」

 

 ――そろそろ、アンタ達の事務所でも出始めたりするんじゃない? 辞めたいって言いだす奴。

 

「………………」

 

 そんな奴私達の事務所にいる訳ないじゃない! と麗華に反論する伊織を余所に。

 

 私は、麗華のその言葉が心の何処かに引っかかったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 周藤良太郎。遅刻や軽い言動とは裏腹に、その実力はやはりアイドルの頂点の名に恥じぬものだった。

 

 その口から紡がれた私の歌。それは今の私には届くことができない領域。しかし私に新たな可能性を教えてくれた。

 

 自分の声で自分以上の技量で歌われたことは確かにショックではあったが、それ以上に得られることがあるならば私はそれを喜んで受け入れよう。それは私の歌が成長する可能性があると言うことなのだから。

 

 そう、だから――。

 

「……例えここで倒れようとも……私に、悔いは……ガクッ」

 

「ち、千早ちゃんが自分で『ガクッ』って言いながら倒れた!? し、しっかりして千早ちゃん! 傷は浅いよ!」

 

「んー、歌メインの千早ちゃんにはダンスレッスンはきつかったかな?」

 

「……あの、僕や響にも十分きついんですけど……」

 

「その割には雪歩ちゃんとやよいちゃんは随分と余裕そうだけど」

 

「え? 本当に……って、あ、あれ、雪歩? やよい?」

 

「ち、違う! 意識が朦朧とし過ぎてて表情が動かなくなってるだけだ!」

 

 あぁ、春香……時が見える……。

 

「千早ちゃーん!?」

 

 

 

 

 

 

「――とまぁ、そんな感じで昨日のレッスンは概ね予定通りに終わったよ」

 

『今朝小鳥さんから焦った声で電話がかかってきた時は何事かと思ったぞ。ほどほどにって言っただろーが』

 

「ギリギリを攻めたつもりなんだけどなぁ……こう、インベタの更にインをつく空中に描くライン的な感じで」

 

『お前は何処を走っているんだよ』

 

「じゃあ複線ドリフトで」

 

『泣き別れっつー事故だからな、それ』

 

 今日も今日とて兄貴との定期連絡である。

 

 昨日の個人レッスンは、竜宮小町以外の765プロのみんなの実力を見ることが出来たので個人的には大変有意義なものだった。やはり歌唱力では千早ちゃんが頭一つ抜き出ており、続いて貴音ちゃんや雪歩ちゃんが優秀。しかし雪歩ちゃんとやよいちゃんは体力の無さがネックで、ダンスは響ちゃんと真ちゃんが秀でている。そして全てをひっくるめた総合的な評価で言うと、美希ちゃん。そして後一人、今後が凄く楽しみな少女が一人……。

 

『あと、律子ちゃんがえらくご立腹だったそうだけど、またお前何かしたんだろ』

 

「凄いナチュラルに俺の責任だって断言されたな」

 

 いやまぁ、俺なんだけど。

 

「今回は間違いなく俺が悪いから、りっちゃんには直接謝るつもりだよ」

 

『お前が悪くなかったこと何てなかっただろーが』

 

「失敬な。りっちゃんのライブで一番前の席になったのは俺じゃなくて高木社長の手引きだぞ。俺は並んでチケット買うって言ったのに向こうから送られて来たんだから」

 

『そこで他の律子ちゃんファンと意気投合してしっかりと振り付けをしてなかったら律子ちゃんも怒ってなかったと思うぞ』

 

「同じりっちゃんファンと仲良くなって何が悪いのか」

 

 というか、素直に応援していたのに怒られた俺は本当に悪くないと思う。

 

『とにかく、しっかりと謝ること。いいな?』

 

「了解」

 

 話は変わって。

 

「765の感謝祭ライブの日はオフってことでいいんだよな?」

 

『いや、残念ながら午後から収録だ』

 

「えー」

 

『えー、じゃない。結構無理してオフにした日の代償みたいなもんなんだからな』

 

 結構無理して? ……あ、りんと出かける日の話か。だいぶ前に話をしていたのだが、なかなか予定が噛み合わずここまでズルズルと来てしまっていたのだけれど、おかげで二人とも一日オフの日を合わせることが出来た。女の子と二人でお出かけとかテンション上がるね!

 

 話を765感謝祭ライブ当日のことに戻す。

 

「ライブの時間には間に合うのか?」

 

『そこはお前の頑張り次第だな』

 

 確か感謝祭ライブは夕方からだから……まぁ、何とかなるかな。

 

『というか、気付かれないように気をつけろよ? りんちゃんとのデート』

 

「大丈夫だって」

 

『お前は大丈夫かもしれんが、りんちゃんの方が普通に気付かれる可能性があるんだからな?』

 

 確かにそっちの可能性はあるわけだ。

 

「そこはほら、補正的なアレで」

 

『ギャグ補正か』

 

「ギャルゲ的主人公補正持ちの兄貴には負けるけどな」

 

 母さんが風呂から上がってくるまでずっとくだらない話題を続けるのだった。

 

 

 

「リョウくーん、お風呂上がったよー! あ、コウ君から電話ー!?」

 

「うん。あー、まだ頭乾いてないじゃねーか。ほら、乾かすからここ座って」

 

『……相変わらず、母親というか妹というか』

 

「今さらだよ」

 

 

 

 

 

 

「1! 2! 3! 4!」

 

「へぇ……」

 

 良太郎との合同レッスンから三日。果たしてみんなにどのような影響を与えたのかと気になったので、全員のレッスンの様子を見に来た。丁度感謝祭ライブでお披露目予定の新曲のダンスの練習をしていたのだが、全員しっかりと出来ていた。真や響はともかく、雪歩ややよいは厳しいレッスンに音を上げているかと思っていたのだが、全員しっかりと付いていけている様子だった。

 

「随分と頑張ってるじゃない。こう言っちゃなんだけど、何人か音を上げてる子がいるかと思ってたわ」

 

 トレーナーからオッケーを貰い、休憩しているみんなに話しかける。

 

「これぐらいなら全然大丈夫です~!」

 

「はい!」

 

 懸念していた雪歩とやよいから頼もしい返事が返ってきた。

 

『何より、良太郎さんのレッスンと比べたらどうってことないですし』

 

「……そ、そう」

 

 一言一句違わずに揃った全員の声に、思わず頬が引きつるのが分かった。何か得るものがあればと思って受けさせた良太郎との合同レッスンだったが、どうやら厳しいレッスンに対する『根性』を得て来たようだった。何人か目のハイライトが消えているような気もしたが、そこら辺は気にしないことにする。厳しいレッスンをモノともしないということは大変良イコトダ、ウン。

 

 とにかく、良太郎のレッスンから帰ってきた次の日は全員顔色が悪かったから何事かと思ったが、この調子なら大丈夫そうね。

 

 プロデューサーにこの場を任せ、私は竜宮小町のレッスンに戻る。

 

「律子……さん!」

 

 するとその途中、美希に呼び止められた。

 

「ミキのダンス、見てくれた!?」

 

「えぇ、頑張ってるじゃない」

 

 まるで子供が親に褒めてもらいたがっているような様子に内心苦笑しつつ、しかし口にした言葉は本心である。

 

 最近の美希の成長は目まぐるしいものがある。良太郎とのレッスンで気合が入ったのか、もしくは元々良太郎の影響を受けていたのか。間違いなく765プロの中でもトップクラスの実力を得たと言っても過言ではない。

 

 

 

 ――この時のことを、今になって思い返す。

 

 

「私達竜宮小町も、うかうかしてられない――」

 

 

 

 ――あの時、良太郎の電話を切らずに話を聞いていたら。

 

 

 

「それじゃあ! 今のミキなら竜宮小町に入れてくれるよね!?」

 

 

 

 ――何か変わっていたのだろうか、と。

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 ――しかし今となっては、意味のない例え話であるのだけれど。

 

 

 




・『売り』
例えば、リアルで関∞がコントやパフォーマンスを多く取り入れているように、ただ歌って踊るだけがアイドルではないと麗華さんは言いたい。アイマス世界だとVi(ヴィジュアル)Vo(ヴォーカル)Da(ダンス)で評価されるため、ある意味革新的な考えなんじゃないかと。

・「傷は浅いよ!」
元ネタを調べていたら何やら演劇の題目が出てきたんだが、これじゃない感が。

・……時が見える……。
春香「千早ちゃんは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ」

・『お前は何処を走ってるんだよ』
いろは坂だと思われます。

・複線ドリフト
『電車でD』で検索。ネタ自体はハヤテのごとくでも使用された。

・今後が凄く楽しみな少女が一人……。
ナイショ。

・りんとのお出かけ
Lesson03参照。

・シリアス……?
ヒント:投稿の日付



 前書きはもちろん嘘です。4月1日なので。

 今回の次回予告は短縮版になります。



 ようやく実現した良太郎とりんのお出かけ。

 しかしのんびりしている暇はない!

 一人の少女のアイドル人生が、お前たちに託されたのだから!



「……ミキは……もう……」

「アンタそれ本気で言ってんならマジでぶっ飛ばすわよ」



 次回! 『アイドルの世界に転生したようです。』第30話!

 『キラキラ』で、また会おう!



※果たして嘘か本当か?

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