アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ライブの途中ですが、デレステ4周年おめでとうございまあああぁぁぁす!!


Episode34 Like a water… 2

 

 

 

「あっはははっ! めぐちんメッチャ泣いてるー!」

 

 隣の席の未央がセンターステージでまゆさんに縋りつきながら泣いている恵美さんを見ながら笑っていた。当然それは馬鹿にするわけではなく、純粋に友人の愉快な姿が滑稽で笑っているのだろう。……どのみち失礼であることには変わらないとは思うが。

 

「普段からボロボロ泣いてるけど、まさか一曲目から大号泣とは思ってなかったなー」

 

「そういえば、未央は恵美ちゃんと仲いいんだっけ?」

 

 最後の良太郎さんの曲にやられて座ったままだった加蓮の質問に、未央は「うんっ」と目尻に涙を拭いながら頷いた。

 

「そもそも、私がアイドルになろうと思ったきっかけって、めぐちんとままゆとしほりんだからね」

 

「えっ、そうだったんですか?」

 

「初耳なんだけど」

 

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 

 ユニットのリーダーからもたらされた新情報に、卯月と共に驚きを示す。

 

「聞いてないですよー」

 

()()()()のときに、三人が三人とも123プロのみんなと知り合いだったってことは知ったけど、その話は聞いてなかったよね」

 

 もっとも、そのときはそんなこと聞いてる場合じゃなかったっていうのもあるけど。

 

「えっとー、街でタピオカ飲みながら歩いてたら、めぐちんとぶつかっちゃって、服が濡れちゃったから着替えを用意するって言って楽屋に連れていかれてー……って感じ」

 

「え!? そのお話が掲載されたのは三年前だったっていうのに、タピオカ!?」

 

「三年後のタピオカブームを予期していた……!?」

 

「いや、そのときから既に流行ってたし……」

 

「お前ら、今の話で食いつくとこそこじゃねーだろ」

 

 お約束(メタネタ)で驚愕する卯月と加蓮に対し、未央と奈緒の冷静なツッコミが入った。

 

「そこで初めて『生のアイドル』っていうものを見て、興味が湧いたんだ。……だから、あのとき街中でめぐちんとぶつかってなかったら、もしかして私はアイドルになってなかったかもしれないなー」

 

 

 

「え、アナタ、アイドルなの!?」

 

 

 

「「「「「……え゛」」」」」

 

 突如後ろから聞こえてきたそんな声に、思わず五人の声が濁点で濁る。

 

 チラリと振り返ると、後ろの席のあずき色の髪のお姉さんが、キラキラと目を輝かせながら私たちのことを覗き込んでいた。

 

 私たちもアイドルの端くれ故に、身バレを防ぐための変装はしっかりとしている。そのおかげで、先ほども私のTシャツのことで話をした際も私たちがアイドルだということはバレなかった。

 

 しかし、先ほどの会話の中から『私たちがアイドルである』という文章をしっかりと聞き取ってしまったらしい。

 

(……ドーシヨウ)

 

 正直に言ってマズい状況だった。彼女が私たちのファンとは限らないが、それでも『私たちはアイドルである』という事実を周知されてしまうこと自体がよろしくない。

 

 もしかして「アイドルがいる!」と騒ぎたてるような子じゃないかもしれないが、そうじゃないかもしれない。そうなった場合、良太郎さんたちへ迷惑をかけないように即刻自主退場をしなければならなくなってしまう可能性もあるのだ。

 

 迷惑をかけてしまう申し訳なさ……というか、そもそもこの感謝祭ライブ現地参戦という千遇一財のチャンスを逃したくないという私欲の方が大きかった。

 

 だから、今私が取るべき行動は……!

 

 

 

「……ううん、言ってないよ」

 

((((盛大にしらを切ったー!?))))

 

 

 

「えー? 言ってたよー?」

 

「言ってないって。聞き間違いだよ」

 

((((そのままゴリ押す気だー!?))))

 

 

 

「うーん……特にそっちの良太郎君一色のお姉さん、なんかキラキラ眩しいオーラ(プレミアムカット)がある気がするんだよねー……」

 

 思わず「月末限定じゃなかったら私も輝くこと(プレミアムカット)出来るから!」と声を大にして主張したくなったが、グッと飲み込む。いきなり瞬きするなんてズルすぎると思う。

 

(なんか瞬きしただけで文句言われた気がする……)

 

 それでもまだ納得いってない様子の少女に、私は最後の言いくるめに出ることにする。

 

「それにさ、よく見てよ」

 

「え?」

 

 チラリと加蓮に目配せをする。彼女はライブが始まる前からずっと『周藤良太郎』グッズにその身を包んだ……どこからどう見ても完璧なアイドルオタクの姿。かく言う私も『周藤良太郎』のサインだらけのTシャツを着ているし、卯月も『天ヶ瀬冬馬』の法被という中々気合いの入った格好である。

 

「こんな見た目したアイドルが、いると思う?」

 

((((……割といる気がする))))

 

 自分で言っておいてなんだけど、多数の心当たりがあって「我ながら信憑性ないな」って思っちゃった。

 

 

 

「……それもそうだね!」

 

((((納得したー!?))))

 

 

 

 こうしてアイドルとしての身バレや、感謝祭ライブからの途中退出という危機から逃れることが出来たものの……なんとなく「いやそこはもうちょっと食い下がって欲しかった……」と考えてしまうのは、アイドルとしての贅沢だろうか。

 

 さて、かなりのピンチだったが、無事に乗り切ることが出来た。

 

(しっかし、すっげぇ良太郎さんみたいな手口だったな……)

 

(出会った頃のしぶりんは何処へ……いや、初期から割とこんな感じだったか)

 

 何故か奈緒と未央が遠い目をしていた。奈緒はともかく、この身バレの危機は未央が引き起こしたものなんだから、もうちょっと感謝してくれてもいいと思う。

 

 そんなやり取りをしながらもしっかりと耳を傾けていた良太郎さんたちのトークも終わりそうなので、視線をステージの上に戻す。

 

『よーし、そろそろ次のブロックに向かうぞー』

 

『みんなー! 準備は出来てるー!?』

 

 涙を拭った恵美さんの煽りに、観客たちは一斉に歓声を上げる。私たちも気持ちをトークパートからライブパートへと切り替える。

 

 先ほどはスタートダッシュを切るような勢いのあるブロックだったが、今度はどんなブロックになるのか……そんな楽しみに期待に胸を高鳴らせながら、その時を待つ。

 

 このまま四人揃って『次は……この曲だ!』みたいな曲振りをすると私は予想していたのだが、なにやら様子が違った。自分たちで観客たちを盛り上げておきながら、口元で「しーっ……」と人差し指を立てる。

 

 私を含めた観客たちは、そのジェスチャーに困惑しながらもざわつきを鎮めていく。

 

 会場が静かになったことを確認した四人は、そのまま囁くように次の曲名を告げた。

 

 

 

『『『『……「Last Kiss」』』』』

 

 

 

 わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 その曲名が告げられて曲のイントロが流れ始めた瞬間、まるで爆発するかのような歓声が響き渡った。静まり返っていた分、反動でより大きく聞こえたような気もしたが、これはきっとメインステージに現れた()()のアイドルに対する驚愕だろう。

 

 

 

『『そっと、聞き入る……』』

 

 

 

「おわあああ美優さん……と、えええぇぇぇ!?」「しほりんんんんんっ!?」「志保ちゃんがラスキス歌ってるうううぅぅぅ!?」「うわなにあの色気」「高校生の色気じゃない……」

 

 

 

 なんと『北沢志保』が『三船美優』と一緒に『Last Kiss』を歌っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「おーすごい歓声」

 

 センターステージでのトークを終え、二人の曲の邪魔にならないようにそのままポップを利用してステージ下に引っ込むが、そこからでも大興奮した観客たちの歓声が大変よく聞こえてきた。

 

「美優さんの人気がすごいっていうのもありますけどぉ」

 

「今回は、それに加えて志保とのデュエットだもんねー」

 

「やっぱりそうだよね」

 

 まゆちゃんと恵美ちゃんの意見に俺も同意する。

 

 アイドル『三船美優』は123プロダクションの中では唯一の()()()()()()女性アイドルだ。インタビューなどで「キスの御経験は?」なんて聞かれようものならば顔を真っ赤にして言葉を詰まらせてしまう可愛らしい一面を見せつつも、いざステージの上に立つと大人の悲恋の曲をしっとりと歌い上げる様は、入社直後はただの事務員だったとは到底思えなかった。

 

 ……同じく事務員からアイドルになったこのみさんもそうだし、小鳥さんは言わずもがな。ちひろさんも意外と歌が上手いから、もしかしてアイドル事務所の事務員っていうのは総じて歌が上手かったりするのだろうか……?

 

 そんな美優さんの『Last Kiss』。これも志保ちゃん自らが「歌ってみたいです」と立候補したのだった。

 

 

 

 ――わ、私だって……お、大人の女性に憧れることぐらいあります。

 

 

 

 顔を赤らめてそんなことを言ったらしい志保ちゃん。勿論、彼女が素直に俺の前でこんな可愛らしいことを言ってくれるはずがないので、俺がいないところで軽い尋問を行った恵美ちゃんからのリークである。勿論、志保ちゃんは俺が恵美ちゃんから聞いているということを知らない。後でバラして着火する瞬間が楽しみだ。

 

「それじゃーお先に失礼しまーす」

 

「良太郎さぁん! 暖かいお飲み物を用意して待ってますねぇ!」

 

「それじゃ、コーヒーでお願い。一式用意してあるから、それ使ってくれていいよー」

 

「はぁい! まゆにお任せくださぁい!」

 

 レディファーストということで、メインステージ行きのトロッコに乗った恵美ちゃんとまゆちゃんを見送る。

 

 ヒラヒラと手を振って美少女二人が去っていくのを見送りながら、翔太が「それにしても」とこちらに振り返った。

 

「一式って言ったけど、もしかして何故か持ちこんでた私物の手動ミルのこと?」

 

「一応リラックスする手段の一つとして持ってきてるんだよ」

 

 これまでのライブでもたまに持ってきていたが、生憎それを使ってまでリラックスしたい場面に遭遇したことはなかった。

 

「へー、いつの間にかまゆちゃんも豆から挽けるようになってたんだ」

 

「さあ」

 

「……いや、さあって」

 

「出来るなら出来るで美少女アイドルが手ずから豆を挽いて淹れてくれたコーヒーを飲めるし、出来ないなら出来ないで涙目になってるまゆちゃんが見れる。それでいて俺は一切損をしない」

 

「……やっぱりリョータロー君、加虐趣味(エス)っていうよりは()()()()()だよね」

 

「自覚はある」

 

 翔太とそんなやり取りをしながら、迎えのトロッコが到着するまでステージの下から美優さんと志保ちゃんが歌う『Last Kiss』にじっくりと耳を傾けるのだった。

 

 

 




・「あれ? 言ってなかったっけ?」
(言ってなかったよね……?)

・「三年前だったっていうのに、タピオカ!?」
あれって結構前から流行ってたんだよね。

・「え、アナタ、アイドルなの!?」
珍しく身バレ危機。例のメガネしてないからね、仕方ないね。

・プレミアムカット
・いきなり瞬きするなんてズルすぎると思う。
15時になって更新して開いてマジでびっくりしたゾ……。
当然の権利のように楓さんと唯ちゃんは全部カットしました。

・美優さんと志保の『Last Kiss』
美優さんのソロ曲は志保とのデュエットになりました。
え? 志保にこの曲は早いんじゃないかって? 大丈夫大丈夫、デレマス編の時点でしほりん高校生だし。

・アイドル事務所の事務員
それASの頃からずっと言われてたから()



 次のブロックは若干しっとりめのセトリが続いていきます。盛り上がるかなぁ……?



『どうでもよくない小話』

 今日はデレステ4周年記念日! おめでとうございますありがとうございます!

 マジでこのアプリがこなかったら、アイ転も三章で終わってたんだろうなぁ……。

 これからもよろしくお願いします加蓮ちゃん引きたい!(最後に欲が出た)



 そして7th幕張公演初日だあああぁぁぁ!

 諸事情により初日だけのLV参加になりますが、皆さん楽しみましょう!

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