アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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トップアイドルの戯れ(序章)


Episode37 Like a storm!?

 

 

 

「り゛ょ゛う゛た゛ろ゛う゛さ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛」

 

 

 

「あーほらほら、泣かない泣かない」

 

 ステージを終え、舞台裏に戻ってきたまゆちゃんは大粒の涙を流していた。メイクが崩れないように目元の涙だけ軽く拭いてあげるが、これはどちらにせよメイク直しが必要だろう。

 

 というわけで、無事にまゆちゃんは恵美ちゃんと共にピーチフィズとしてのステージを成功させた。ステージの下から聞いていた分には、直前のトラブルによる動揺は一切なく、ちゃんと満点を上げることが出来るステージだった。俺も頑張ってイヤモニを届けてあげた甲斐があったってもんだよ。

 

「もーアタシまで焦っちゃったよー」

 

「ご心配をおかけしました……」

 

 グスグスと落ち込むまゆちゃんの頭を撫でながら「でも成功したんだから、落ち込まないの」と笑う恵美ちゃんのママみが強い。

 

「さ、まゆちゃんはメイクを直しておいで。恵美ちゃんはこの後のトークパートでステージに上がる準備しないと」

 

「分かりましたぁ……」

 

「はーい!」

 

「そのことなんですが」

 

「おや志保ちゃん」

 

 恵美ちゃんと共にステージに上る予定の志保ちゃんが背後から近付いてきていた。

 

「どうかしたの?」

 

「どうかしたの? ではなく、寧ろ()()()()()()()()()()なんですか?」

 

「……何のことだかワカンナイナー」

 

「逆に隠す気ないですよね」

 

 多分志保ちゃんはこの後の『ミニコーナー』のことを言っているのだろうけど、ここで喋ってしまっては()()()()()からね。

 

 しばらくジト目で俺のことを睨んでいた志保ちゃん(かわいい)は、それに効果がないことを悟り「……はぁぁぁっ」と分かりやすく深いため息を吐いた。

 

「もういいです。……少しは自重してくださいね」

 

「もーちょっと可愛らしくお願いしてくれたら考えようかな」

 

「あ゛?」

 

 可愛らしいどころか一体何処から出したのか分からないダミ声で返されてしまった。

 

 そのまま去っていく志保ちゃんの背中に手を振りながら見送りつつ……まゆちゃんに「さてと」と話しかける。

 

()()()()()? まゆちゃん」

 

「ぐすっ……お任せくださぁい!」

 

 

 

 

 

 

『『Happy×Happy Meating!』』

 

 

 

 きゃあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 『Peach Fizz』に続いて登場した天ヶ瀬冬馬さんと御手洗翔太さんが披露する『HAPPY×HAPPYミーティング』に、観客たちが黄色い歓声を上げる。

 

 ……知名度や人気では勿論『周藤良太郎』が一番であることは揺るがないが、それでもどうして良太郎さんにはこういう感じの黄色い歓声が上がらないのだろうか。もしくは、上がっているけれどもそれ以上の普通の歓声で掻き消されているのかもしれない。

 

 

 

 そんな黄色い歓声に包まれている会場だが……私の隣に席に座っている『天ヶ瀬冬馬のファン』である卯月はどうだろうか。

 

 出会った当初はまだ普通のファンだった卯月だが、『例の一件』をきっかけに(未央曰く)少しだけその関係性が縮まったらしく、少しずつ()()が外れていた。勿論それは開演前に笑顔で見せてくれた『天ヶ瀬冬馬』の法被のことも含まれているが……こんなものは序の口である。

 

 世間一般向けのアイドル『島村卯月』のイメージならば、きっと冬馬さんの姿に見惚れつつも少々気恥ずかしそうに、それでいて必死にサイリウムを振っていることだろう。ついでに小さく「が、頑張れー!」とでも囁くような応援をしていれば、きっとみんなが描く島村卯月の姿としては満点だろう。

 

 ……それじゃあ、そろそろ現実の卯月の姿を見てみよう。

 

 

 

「きゃあああぁぁぁ!!! 冬馬さあああぁぁぁん!!!」

 

 

 

 ――そこには『天ヶ瀬冬馬』の(ファン)がいた。

 

 いや、他の本格的な(ファン)と比べてしまえば可愛いものなのだろうが、それでも「きゃーきゃー!」言いながらサイリウムやペンライトを全力で振っている姿はまさしく(ファン)と称しても問題ない姿だった。

 

 これには未央や奈緒は勿論、良太郎さんがいないことで落ち着いている加蓮すら若干引いていた。

 

 いや、これで歓声が「ぎゃあああぁぁぁ!」だったら取り返しがつかないだろうから、まだマシだと自分に言い聞かせる。

 

 ……いや、私は違うよ? 加蓮は怪しいかもしれないけど、私はここまでじゃないから。うん、大丈夫だから。

 

 

 

『みんな! ありがとなー!』

 

「……ふぅ」

 

 やがて曲が終わり、卯月も「一仕事終わった」と言わんばかりに満足そうな表情でハンカチを出して額の汗を拭った。

 

「今日も凄かったですね!」

 

「「「「………………」」」」

 

「ねっ!」

 

「「「「ア、ハイ」」」」

 

 多分いつもの笑顔だったと思うのだが、私たちは勝手に威圧されてしまった。

 

(なんというか、予想外の伏兵だったね……)

 

(凛と加蓮は知ってたけど、まさか卯月がここまでとは思ってなかった……)

 

 未央と奈緒がコソコソと話しているが、多分私と同じようなことを話しているんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 冬馬さんと翔太君の曲が終わり、一度暗転したステージが再び明るくなった。どうやらここで一区切りだということを察した観客たちが自分の席に腰を下ろし始める。

 

 

 

「冬馬くうううぅぅぅん!」「しょうたあああぁぁぁん!」「こっち見てえええぇぇぇ!」「カッコいいいぃぃぃ!」

 

 

 

 しかし彼らの立つメインステージ付近の観客たちは中々座りそうになかった。人気トップアイドルが目の前にいるのだから、仕方がないことと言えば仕方がないことだろう。夢中になる彼女たちの気持ちは、少し私にも分かる。

 

 私も少し休憩をしようと座ったのだが、何故か真美が「おやおや〜?」とニヤニヤ笑った。

 

「はるるんも、負けないように気合を入れなきゃダメなんじゃないの〜?」

 

「え? ……うん、そうだよね! 冬馬さんも翔太くんも頑張ってるんだから!」

 

 今でこそ『123プロのファン』としてここに座っているが、私たちだって同じ『アイドル』なんだ。彼らに負けないように、私たちも頑張らないと!

 

「あ、いや、はるるん? マミはそーいうことを言いたかったんじゃないんだけど……」

 

「やめときなさい、真美ちゃん。最初に通じなかった段階で貴女の負けよ」

 

 何やらこのみさんにポンと肩を叩かれた真美がガックリと項垂れていた。

 

『ありがとー。でもそろそろ落ち着いてねー』

 

『オラ、ただでさえ長丁場なんだから少しでも休憩しろ』

 

 二人がそう呼びかけたことで、メインステージ付近の観客たちもようやく腰を下ろした。

 

『やぁ、お疲れ様、二人とも』

 

『お疲れ様でーす!』

 

 そのタイミングを見計らっていたように、メインステージにアイドルたちが姿を表した。北斗さんに恵ちゃん、志保ちゃんと美優さんと志希ちゃん。……良太郎さんとまゆちゃんの姿だけなかったが、きっと次の曲のための準備だろう。

 

『というわけで、美優さんと志保の「Last Kiss」から始まって、志希の「秘密のトワレ」、北斗さんの「ROMANTIC SHAKER」、アタシとまゆの「Secret cocktail」、冬馬さんと翔太君の「HAPPY×HAPPYミーティング」と続いたブロックでした!』

 

『「ROMANTIC SHAKER」からの「Secret cocktail」は、個人的に凄いと思った繫ぎでした……』

 

 志保ちゃんのその感想に同意するように、観客たちから歓声と拍手が巻き起こる。

 

『えへへ、アリガトー!』

 

『ありがとう。俺としても、レディ二人にいいバトンを渡すことが出来て良かったよ』

 

『僕としては、トップバッターの「Last Kiss」が凄かったと思うんだよね』

 

『それアタシも思った!』

 

 翔太君の言葉に、恵美ちゃんと共に観客たちも同意の歓声を上げる。その歓声を受けて、歌った美優さんと志保ちゃんが恥ずかしそうに体を揺する。

 

 そんな風に先ほどのブロックの曲の感想を話していた皆さんだが、冬馬さんが『……さて』と切り出したことで会話の流れが変わる。

 

『こうしてさっきのブロックの感想を言い合ってるわけなんだが……問題はこの後なんだよ』

 

 内心で「この後?」と首を傾げる。その疑問に答えてくれたのは、苦笑している翔太君だった。

 

『こういうライブっていうのは、一応台本が用意されてるんだけど……えーっと、スタッフさん? アレ映してもらっていい?』

 

 そう言いながら翔太君がチョイチョイと指で空に向かって指示を出すような仕草をすると、メインステージの大型スクリーンの画像が切り替わった。

 

 そこに映し出されていたのは、先ほどチラリと会話で触れた今日のライブのための台本のとあるページなのだが……。

 

 

 

『見てコレ。「ミニコーナー」の一言だけで、詳しい説明何も書いてないんだよ』

 

 

 

 ……頭を過ったのは、勿論彼だった。

 

 それが過ったのは私だけじゃないようで、現に冬馬さんは普段のライブでは見せないようなしかめっ面を晒しているし、志保ちゃんもこれでもかというほど眉間に皺を寄せていた。志希ちゃんだけは普段と変わらない表情で、他の面々は苦笑いだ。

 

『いやぁ、なんというか……恐怖でしかないよね』

 

『一体あの人は、こんな大舞台で何をやらかすつもりなんでしょうか……』

 

 ふぅ……と重いため息を吐く志保ちゃんは、既に()()()()()()何かをやらかすつもりだと断定していた。この会場には私を含め多くのアイドルが観に来ているだろうが……きっと彼女の言葉に心の中で深く頷いている人は私だけじゃないはずだ。

 

 とにかく、これで今ここに彼がいない理由はなんとなく察することが出来た。後はどれだけ被害が広がるのか……。

 

「……ん?」

 

 そんな不安を余所に、BGMが流れ始めた。

 

『……おい、なんか「帝○のマーチ」流れ始めたぞ』

 

『この時点で誰が何をしようとしてるのか大体分かるところがアレだよね』

 

 ざわつき始める観客たちとは対照的に、ステージ上のアイドルたちは「あぁ、始まったか……」みたいな達観的な目をしているのが印象的だった。私も観客席ではなくステージの上にいたら同じ目をしている自信がある。

 

 さて、何処から()が登場するのかと視線を彷徨わせると……メインステージの大型スクリーンが上へと持ち上がっていき――。

 

 

 

 ――玉座に座る『周藤良太郎』が姿を現した。

 

 

 

 その傍らには、多分従者的な役割なのであろうまゆちゃんが控えている。

 

 どうやら今からミニコーナーとやらが始まるのは決定的に明らかで……観客席の私に出来ることは、ステージ上の彼ら彼女らの無事を祈ることだけだった。

 

 

 




・ジト目で俺のことを睨んでいた志保ちゃん(かわいい)
笑顔も勿論可愛いけど、しほりんはこういう表情の方が似合うと思うんだよ(歪んだ性癖)

・『HAPPY×HAPPYミーティング』
冬馬のソロ曲。
主にアニマスでのイメージが強い自分は、初めて聞いた時「おぉ冬馬ってこういう曲歌んだ」とちょっとだけ驚いた。

・『天ヶ瀬冬馬』の女
いつから壊れているのは凛と加蓮だけだと錯覚していた……?

・「冬馬さんも翔太君も頑張ってるんだから!」
一方こちらは正統派ムーブを決めていた。

・「帝○のマーチ」
基本的に誰かが何かをやらかすときにはこれを流しておけばいいという風潮。



 さて、久しぶりにはっちゃけましょうか(基本的にいつもはっちゃけているのでは? というマジレスは無しの方向で)

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