『魔王エンジェル』
あの『周藤良太郎』と同期のアイドルの生き残りにして、彼が
三条ともみ。良太郎さんに及ばないものの、世間一般的な意味で『無表情』と称されるほど感情の起伏に乏しい女性。しかし意外と気さくで悪ノリが大好きという点まで良太郎さんによく似ており、そしてライブ中にかける
朝比奈りん。小さな体にとても女性らしい体つきの小悪魔系正統派アイドル。良太郎さんの同期のライバルであると同時に、彼の熱烈なファンであることも公言している彼女だが……『周藤良太郎』に立ち向かうための
東豪寺麗華。『魔王エンジェル』のリーダーにしてプロデューサー。『周藤良太郎』という身近に存在する巨大すぎる壁に決して屈することなく、ただひたすらに前に向かって足を進め続けたその姿を、今や誰も
彼女たちこそ、現在の日本のアイドルで
――『周藤良太郎』に並び立つ
『悲鳴のように轟かせ!』
『燃えるように熱く激しく!』
『咆えろ! 咆えろ!』
咆えろ! 咆えろ!
普段の無口な印象のともみさんからはまるで想像もつかないような煽りに、会場全体があらん限りの声を張り上げる。私も持てる限りの全力を持ってコールに合わせる。
123プロのライブを観に来たファンたちばかりの会場だというのに、1054プロのアイドルである彼女たちのコールに応じることが出来ない人物は存在しなかった。
『アンタの耳に叩き込む!』
『その心に刻んであげる!』
『響け! 響け!』
響け! 響け!
『『『魂を焼け尽くす雷鳴の如く!』』』
2番のサビが終わり、最後のイントロに差し掛かる。
――それは天の剣。大地への慟哭。
「っ!?」
再び聞こえてきた天の声。魔王エンジェルの三人のものではないそれは、一体誰がという疑問を抱く暇すらなくその正体を現した。
『今ここに王としての証を刻もう!』
わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!???
(このタイミングで、
バックステージのポップアップからせり上がってきたのは、つい先ほど『Tulip』の前にそこから捌けていった良太郎さんだった。マイクを手に現れた彼は――。
『『『『さぁ行くぜBlazing Thunder!!』』』』
――そのまま魔王エンジェルの三人と共にラスサビを歌い始めた!
わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!
それは、彼らのファンならば一度は夢見た光景。『周藤良太郎』と『魔王エンジェル』が同じステージで同じ曲を歌うという、奇跡のコラボレーション。
「っ……!」
涙で滲む視界を、袖で拭って必死に広くする。この光景を一瞬でも見逃すなんて、あってはならないことだ。
もはや涙でかすれた声を必死に絞り出しながら、意識を全てステージの上へと集中させるのだった。
「……ひっく、ぐす……」
「大丈夫か、加蓮……」
泣きじゃくる加蓮の背中を、優しく撫でる奈緒。思わずあの加蓮が素直に感情を露にするなんて……とも思ってしまったが、これは仕方がないことだった。かくいう私もかなり怪しく、先ほどから何度も涙を拭っている。隣の未央や卯月も……そして後ろの甘奈も一緒になってグズグズと鼻を鳴らしていた。
正直に言うと、私は自称するほど『魔王エンジェル』のファンというわけではない。それでも、昔から『周藤良太郎』を知っている身としては『魔王エンジェル』という存在は切っても切れない関係ゆえに、自然と涙が零れ落ちるのだ。
『……ようこそ、「魔王エンジェル」』
良太郎さんが彼女たちのユニット名を口にしたことで、会場から改めて大歓声があがる。
『周藤良太郎』のライブに『魔王エンジェル』の三人が出演する。両者がアイドルとして活動してきた期間はそれなりに長くなり、お互いに良き友人であり良きライバルであることは世間的にも認知されているにも関わらず、それは未だに実現しなかった。そういう意味でも、これは歴史的な瞬間と言えるだろう。
『どーだ、俺らのライブは。凄いでしょ? 最高でしょ?』
無表情ながら「フフン」と自慢げな様子で指を振る良太郎さんに、観客たちが再び歓声をあげる。
『うん、悪くない』
『裏で見ててもサイコーだったのに、ステージに立てて更にサイコーだよー!』
微笑みながら頷く三条さんと、「いひひっ」と笑みを浮かべる朝比奈さん。
『ほら、麗華』
『……だから、さっき認めてあげるって言ったでしょ』
『………………』
『……何よ』
『いや、流石に「麗華ってば素直じゃないんだからー」って言い飽きたなーって思って』
『どういうことよ!?』
『もー! 少しは毎回その台詞を言わされるこっちの身にもなってよ!』
『知らないわよ!』
123プロの感謝祭ライブという、並のアイドルではまともに立つことすら出来ないステージで、そんなことを微塵も感じさせない彼女たちのいつものやり取りが繰り広げられていた。
『二人とも落ち着いて。そのやり取りはわたしたちの
『まずアンタはアイドルに鉄板ネタは必要ないという認識を持ちなさいっ!』
『アタシ知ってるよ! これが「ここまでテンプレ」ってやつだよね!』
『うがあああぁぁぁ!?』
三条さんが余計な燃料を投入した直後に朝比奈さんが着火したことで、ついに東豪寺さんが炎上してしまった。
……こういうやり取りを毎回やってるから伝統芸とか言われることは、流石に気付いてはいるはずなのに……と若干不憫に思いつつ、それでも私も周りの観客同様に笑いを堪えられなかった。
『もしもーし。女の子たちがキャッキャウフフしてるのも悪くないんだけど、寧ろ「続けてどうぞ」って言いたいところなんだけど、そろそろお兄さん一人で寂しいんだけどー』
『あーあーはいはい悪かったわよ!』
ここでちゃんと謝れるところに麗華さんの人の良さが滲み出ている気がする。
『りょーくん、ごめんねー!』
『ちょっとテンション上がってた』
ペロッと舌を出して可愛らしく謝るりんさんの姿に観客が盛り上がる一方で、表情にあまり変化のないともみさんに対して(テンション上がってたの……?)と全員の内心で首を捻っている気がする。
『ったく。……改めて、今日呼んでくれたこと……一応、感謝してあげる』
『なんのなんの。寧ろ呼ぶのが遅くなって悪かったな』
ニヤリと笑う麗華さん。良太郎さんの表情は変わらないが、きっと内心では彼女と同じような表情をしているのだろう。
そんな二人のやり取りに『おぉっ!』というどよめきと共に……少しだけすすり泣くような声も聞こえた。長年良太郎さんや魔王エンジェルのファンを続けてきた人の中には、この四人の共演を待ち望んだ人もいることだろう。
『……いや、違うわ』
『ん?』
良太郎さんの言葉を否定した東豪寺さんは、二度三度とすぅはぁと深呼吸した。
『私たちこそ……
その、一言に。
『魔王エンジェル』の東豪寺麗華から放たれた、たった一言に。
普段の様子からは考えられないような柔らかい笑みで放たれた、たった一言に。
「っ」
再び、私の視界は涙で滲むことになった。
『待たせてゴメンね』
『りょーくん、寂しくなかったー?』
『ちょー寂しかった。お前らホントに遅ぇんだもん』
『『『うっさい!』』』
フンッと鼻で笑う東豪寺さん。アハハッと笑う朝比奈さん。ふふっと微笑み三条さん。そんな三人と同じ舞台に立ち……良太郎さんも、笑っているように見えた。
……いや、きっと良太郎さんも笑っていた。
『けど遅くなった分、それなりに
『……ふん』
これも彼女なりの肯定だろう。それを察した良太郎さんも『だよな』と満足げに頷いた。
『そんじゃ……そろそろいくか?』
『オッケー!』
『準備万端』
良太郎さんの問いかけに朝比奈さんと三条さんが頷きマイクを構えると同時に、観客たちも次の曲がくると身構えた。
『……私たちの足、引っ張るんじゃないわよっ!』
『……上等ぉ!』
その言葉を『周藤良太郎』に真正面から言ってのける人が果たして何人いるのか。
『始めるぞ!』
『私たちの!』
『俺たちの!』
『『「王様
わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!
流れ始めたのは『魔王エンジェル』の楽曲である『王様遊戯』。彼女たちの楽曲には自分たちのユニット名繋がりで『王』に関するような曲が多い。それはきっと『覇王』に対する挑発や挑戦状のようなものではないか、というのが世間の認識だった。
『ひれ伏せ、王の御前であるぞ』
『拝謁奉るその御言葉を聞け』
絶対! 絶対! 絶対!
けれど、今こうしてその『覇王』と並び立った今だからこそ分かる。
『
『その意向、背くこと違わず』
絶対! 絶対! 絶対!
『覇王』に対するユニットだから、ではない。
彼女たちもまた、
――泣いている暇があったら、少しでも早く立ち上がった方がよっぽど有益だと思うぞ。
――どうだ? 立ち上がったら、有益なことがあったろ?
あれから、随分と経った。
今更あのときの一件に未練なんてないし、後悔もしていない。
(でも)
あぁ、やっと。
私たちは。
良太郎と、肩を並べることが出来たんだ。
・『魔王エンジェル』
「彼女たちを登場させてみたかった」
ある意味、この小説の原点ともいえる存在です。
・凄いでしょ? 最高でしょ?
「天才でしょ?」
・『Blazing Thunder』
・『王様遊戯』
共に『魔王エンジェル』のために作者が考えたオリジナル楽曲。
……彼女たちの曲って『ラッキースター!』『ゆるして☆パイタッチ』とかだから、ちょっとこの場で歌わせづらくて……。
連載開始して六年。ようやく……ようやく、良太郎と魔王エンジェルの三人の共演です。ホント……ホンット長かったなぁ……。
中盤からとんと出番が減ってしまった彼女たちですが、作者は今でも『この作品を象徴するアイドル』の一組だと思っています。今後はちょくちょく出番作るからねぇ! 待っててくれぇ!
そして先ほども少しだけ触れましたが、先日の11/29をもってなんと連載六周年を迎えることが出来ました。
デレもミリも全く知らずにアニマスと二次創作の知識だけで書き始めたこの小説が、思えば遠くまで来たものです。
まだまだミリのアイドルもシャニにアイドルも、なんならデレの新人組も書きたいのでまだまだお付き合いいただけるとありがたいです。
感謝祭ライブ編もいよいよ終盤にさしかかっております!
これからもどうぞよろしくお願いします!