「 病 む 」
それは事務所のソファーでうつ伏せになったりあむさんから発せられた一言だった。
「いつもと違って、かなりガチめの『やむ』デスね」
「……だって、だって……!」
弄っていたスマホから顔を上げたあきらちゃんの言葉に、りあむさんはガバリと勢いよく体を起こす。その勢いで、ぶかぶかのロングTシャツの襟から深い谷間が見えてしまった……。
「今日はあの123プロダクションの感謝祭ライブなんだよ!?」
「そーデスね」
「本会場だけじゃなくて、全国各地にLV会場があるんだよ!?」
「海外も含めると百を超えるらしいデスね」
「……それなのに、どーしてぼくたちは事務所にいるのさぁ!?」
「……えっと、レッスンがあったからですよね」
「あかりちゃん! ぼくは今そんな正論を求めてないの!」
正直に答えたら怒られた。
「123プロのライブだよ!? あの『周藤良太郎』と『Jupiter』と『Peach Fizz』と『Cait Sith』と『三船美優』のライブなんだよ!? 国は今日という日を祝日にして国民は全員で観に行くべきだよ! これは国民の義務だよ!」
「気持ちは分からないでもないデスが、言ってること無茶苦茶デスね……」
頭を抱えながら髪をブンブンと振り乱すりあむさんに、あきらちゃんは「そもそもりあむさん」と言葉を続ける。
「本会場のチケットはおろか、LVすら外してるじゃないデスか」
「ぐっはあああぁぁぁ!?」
あきらちゃんから突き付けられた無慈悲な事実に、りあむさんはそのままソファーへ後ろに倒れ込んだ。今度はロングTシャツの裾から下着が丸見えに……。
「って、りあむさんアンスコ履いてないんご!?」
「そんなこと今はどーでもいいよぉ……」
「どーでもよくないんご!?」
いくらレッスン後で他の人の出入りが少ないシンデレラプロジェクトの部屋とはいえ、あまりにも無防備すぎる格好に私が慌ててしまった。プロデューサーさんが入ってきたらどうするつもりなのだろうか……。
「まぁ、そーいう私もチケットは全滅してるんデスけどね」
小さく「はぁ」とため息を吐くあきらちゃん。
そう、私たちがここにいる主な理由は『レッスンがあるから』というよりは、どちらかというと『チケットが当たらなかったから』なのだ。
私たちシンデレラプロジェクトのプロデューサーさんは、あの周藤良太郎と知り合いらしく「……その機会があるのであれば、是非そちらに参加してください」とレッスンよりもライブを優先してくれるぐらい優しい人だった。……顔は、まだちょっと慣れないぐらい怖いけど。
「
プロデューサーさんの許可を得て、今日のレッスンを休んだ他のプロジェクトメンバーたち。勿論千夜さんはちとせさんに連れていかれる形で、自主参加というわけではなかった。
「なんでぼくたちだけ当たらなかったのさー!?」
「りあむサンに限っては普段の行いかと」
「今日のあきらちゃん辛辣じゃない!?」
多分だけど、あきらちゃんもライブに参加したかったんだろうなぁ。
「うぅ~……! この鬱憤、全部TLに流してやる……!」
「また炎上する気デスか?」
「しないよ! 前にPサマとちひろサンに散々怒られたから懲りたよ!」
その場面は、私も目撃してしまったので覚えている。二人とも凄んだり声を張り上げたりはしないのだが、懇々とりあむさんを叱る姿はプロデューサーさんの見た目とちひろさんの満面の笑みのおかげで、第三者から見ても背筋が伸びるほどの恐怖を感じた。
「それならいいんですけど……ちなみに、どんなことを呟くつもりだったんデスか?」
「『なんかよそのライブで盛り上がってるらしいけど、そんなことよりレッスン!』って」
「よくそれで炎上しないって豪語出来ましたね!?」
「えぇ!? 123プロの名前出さないように考慮した上に、レッスン頑張ってるってアピールしただけなのに!?」
「もうちょっと自分のコメントを客観視する努力をしてください! しかも123相手って、冗談抜きで私たちなんて吹けば消し飛ぶんデスからね!?」
ワーギャーと騒がしくなってしまったが、これが私たち『
「あぁもう、後で呟く文章添削してあげますから何個か案を出しておいてください。絶対に勝手に呟いちゃダメデスからね」
「年下にSNSの添削されるってなんだよこの状況……やむ……」
一先ず落ち着いたらしく、二人とも自分のスマホに向き直ってしまった。私はどうしようかな……喉が渇いたし、三人分のお茶でも……。
「……って、なんじゃコリャー!?」
「わっ!?」
椅子から立ち上がろうとした途端、突然りあむさんが大声を出したので驚いて腰を抜かしてしまった。
「もー、今度はなんデスか。また何か炎上してましたか?」
「ヤバいって! ぼくの炎上なんか比じゃないぐらいヤバいって!」
「一体何が――」
「
「――はぁっ!?」
驚愕したあきらちゃんも慌てて自分のスマホを操作し始めた。私も気になって自分のスマホを取り出す。
「ほらコレ! SNSに感謝祭ライブの写真とか動画とか、めっちゃ上げられてる! コレとか見てよ! ステージの上に周藤良太郎と天ヶ瀬冬馬と東豪寺麗華が並んで……はあああぁぁぁ!? え、なんで麗華ちゃんいんの!? それどころかりんちゃんとともみちゃんもいるんだけど!?」
りあむさんは別のことに気を取られてしまっているが、確かにこれは大問題だった。どんなライブであっても、基本的には『公演中の撮影録音は禁止』だ。そもそもスマホは取り出すこと自体憚られる状況だ。
「……あっ! もしかしてコレじゃない!?」
「「どれっ!?」」
そんな中、その答えとなりそうコメントを見付けると、両脇からりあむさんとあきらちゃんが覗き込んできた。
「「……は、はあああぁぁぁ!?」」
『……さて、二曲お送りしたところで、遅ればせながらちゃんと紹介させてもらうか』
歴史的瞬間とも呼べる時間に心奪われていた私だったが、良太郎さんの声によって現実に引き戻された。
『サプライズゲストの「魔王エンジェル」! 東豪寺麗華! 朝比奈りん! 三条ともみ!』
わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!
この大歓声が、この場にその名前を知らない人はいないということを証明していた。
麗華さんたちが観客に手を振っている間に先ほどまでセンターステージにいた良太郎さんがメインステージに移動し、さらに後ろから冬馬さんたち他のアイドルが表に出てきた。
『今日は良太郎にわざわざ声をかけられたから、来てあげたわよ』
『123プロファンのみんなー! おじゃましてまーす!』
『紛れ込んでる魔王ファンのみんなはもっと声を張り上げてー』
ともみさんの煽りに、それはもう大きな歓声が上がる。この会場に集まった観客の九割以上が彼女たちのファンだったとしても、別に驚かない自信があった。
『さて、皆さんご存知「魔王エンジェル」。良太郎さんと肩を並べて日本を牽引するトップアイドルユニットのお三方を交えて、今からフリートークタイム……の! 予定だったのですが……』
まゆちゃんの言葉に一瞬沸き立った会場の空気が困惑に変わった。
『……皆さん、お忘れではないでしょうか……まだ
おおおぉぉぉ!? と改めて沸き立った会場の歓声の向こう側に良太郎さんの『忘れてて欲しかったなぁ』という呟きが聞こえた。
『これが最後のミニゲーム!』
まゆちゃんからバトンを引き継いだ翔太君が右手を突き上げる。
『相手のNGワードを引き出せ! 「アイドルトークバトル」ゥゥゥ!』
わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!
『それじゃあ、ルール説明するからよく聞いてよー!』
変わらぬ無表情の良太郎さん、げんなりした表情の冬馬さん、苦笑する恵美ちゃんを余所に、メインステージのモニターにルールが説明される。
『今からフリートークに参加するリョータロー君、冬馬君、恵美ちゃん、麗華さんの四人にはそれぞれNGワードを設定させてもらうよ! それをフリートーク中に口にしたらアウト! その時点でその人の罰ゲームが決定する一発勝負!』
『NGワードは皆さんが普段からそれなりに口にされる言葉が設定されますので、うっかり使ってしまってすぐにトークが終了しないように気を付けてくださいねぇ』
『ちょっと待てや』
翔太君とまゆちゃんのルール説明にドスの効いた声で待ったをかけたのは、当然麗華さんだった。
『なに人をしれーっと参加させてんのよ!? 罰ゲーム!? 聞いてないわよ!?』
『あたしたちも聞いてないけど』
『面白いからオッケー』
『やかましいわ!』
メンバーからの裏切りに会う麗華さんだったが、これもいつもの光景である。
『はっはっは、ようこそ地獄へ』
『俺たち123プロは、お前の参加を歓迎するぜ』
『くんな負け犬ども!』
『んだとぉ!?』
『俺はまだ負けてねぇよ!』
『不戦敗が粋がんじゃないわよ!』
『それブーメランだからな!?』
ワーギャーとステージの上が騒がしくなるが、観客席からは笑いが巻き起こる。麗華さんには同情するが、確かにこれは盛り上がる展開ではあった。
『ちょっと騒がしくなっちゃったけど、ルール説明の続きするよー』
『この四人にしてもらうトークテーマは
「……え」
今、まゆちゃんがシレッととんでもないことを言った。会場もそれに気付きざわついている。
『勿論、SNSを利用するためにはそれなりの電子機器が必要ですねぇ……?』
にやりと笑うまゆちゃん。不敵な笑みのつもりなのだろうがそれはとても可愛らしく……いや、今はそんなことを言っている場合じゃない。
『このトークバトル中に限り! スマートフォンの使用を解禁だぁ!』
『ついでに撮影録音全てを許可させていただきまぁす!』
『ほらほらみんなみんなー! ドンドンじゃんじゃん拡散だー!』
わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!???
と、トンデモナイことになったあああぁぁぁ!?
・『NEXT NEWcomer』
シンデレラプロジェクト二期生「辻野あかり」「砂塚あきら」「夢見りあむ」の、所謂新人三人組ユニット。本来はこの三人の固有ユニット名ではないらしいのですが、調べてもこれしかなかったのでそのまま採用させていただきました。
三人の詳細は……まぁ、きっと彼女たちが本格参戦したときにでも。
個人的にはめっちゃ良太郎とりあむを絡ませたい。
・「どーしてぼくたちは事務所にいるのさぁ!?」
無 慈 悲 な 全 敗
なお原作りあむは現地至上主義でしたが、あまりにもチケットが手に入らない良太郎のライブに何度も直面しているためそれが無い設定。
・颯サン
・凪サン
勿論彼女たちもシンデレラプロジェクト二期生。
良太郎となーを絡ませたら、一体どうなることやら……。
・ライブ流出
(シリアスとか)ないです。
・『アイドルトークバトル』
元ネタどこだっけなぁ……?
・麗華参戦!
当然ですよね()
・スマートフォンの使用を解禁
・撮影録音全てを許可
こっちの元ネタというかインスパイア元は、バンドリ7thのRAS。
Tulipからの魔王からのコレである。我ながら落差がヤバい。
ミニゲーム最終戦はトークバトル。そしてそのトーク内容は『皆さんから募集させていただきます』!
詳しくは活動報告でご確認ください! 絶対にここの感想欄には書かないように!
皆さんのコメント、お待ちしておりまーす!