アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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終わりの始まり、クライマックススタート!


Episode57 We are IDOL!!

 

 

 

『さぁ、行くぜっ!』

 

 

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

 目が覚める。

 

「……えっ、夢オチ!?」

 

 一年以上時間をかけて外伝を書いておいて、こんな終わり方でいいのかと恐怖しながら周りを見回すと、しかしそれが夢ではなかったことを確認できた。

 

 そこは事務所のラウンジ。俺はその片隅で床に座り、壁を背にブランケットをかけただけの状態で寝ていたようだ。周りでは同じようにアイドル組が眠っていた。

 

 床で大の字になって寝ている冬馬や翔太、椅子に座り足を組み綺麗な姿勢を保ったまま首が下がっている北斗さん、ソファーでお互いにもたれかかりながら寝ている恵美ちゃんとまゆちゃん、隣のソファーで志保ちゃんと志希に膝枕した状態で寝息を立てている美優さん。

 

「今回の人生だと、珍しい状況だな……」

 

 仲間の家で宅飲みした翌朝がこんな感じだったと思う。

 

 ……確かスタッフ含めた全員での打ち上げはまた後日ってことになったんだが、「今日ぐらいは大目に見よう」ってことで、事務所に帰って来てから身内だけで先に打ち上げしたんだったな。

 

 成人済みメンバーはしっかりとアルコールが入っていたためかなりの大騒ぎだった。勿論未成年は飲酒していないが、全員場の空気に流されていた感が否めなかった。翔太と恵美ちゃんのダンスバトルも凄かったが、志保ちゃんと美優さんのラップバトルは123プロにおけるベストバウトだと語り継いでいきたい。いやぁ『ライアー・ルージュ』と『モザイクカケラ』をあんな風にアレンジするとは……。

 

「『兵どもが夢の跡』……っと」

 

 多分意味は違うと思う。

 

 スマホのカメラを起動して、その光景をパシャリと一枚。あとで兄貴に検閲してもらってからSNSにでも上げよう。その兄貴の姿はなく、ついでに留美さんの姿も見えない。あの二人は殆ど飲んでいなかったし、きっと早々に事後処理を始めているのだろう。

 

 壁にかけられている時計を見ると、まだ午前三時。アルコールが入ったために随分と変な時間に目が覚めてしまったものである。

 

「……ふぅ」

 

 コテンと頭を後ろの壁に預ける。

 

 真っ先に頭に浮かんだのは「終わったんだなぁ……」という感想だった。

 

 今でも目を瞑れば、まるで昨日のことのようにライブの情景を思い浮かべることが出来る。……いやまぁ、まるでもなにも事実昨日の出来事なのだが。なんだったら六時間ぐらい前の話だから、四半日前の出来事だ。

 

 しかし、そうじゃなかったとしても。

 

 

 

 これから先、俺はあの光景を忘れることはない。

 

 

 

 

 

 

「Beginning of the end……終わりの始まり」

 

 良太郎さんのその言葉だけで、一体何が始まるのかを悟った観客も多かっただろう。

 

 その歓声は観客たち全員の名残惜しさの表れで……それでいて、今日という盛大なお祭りの最後を飾るに相応しい高まりでもあった。

 

『俺たちは! この日を忘れない!』

 

『お前たちへの感謝を忘れない!』

 

『ここまで駆け抜けた苦難の日々!』

 

『ここまで辿り着いた栄光の日々!』

 

『アタシたちはもっと!』

 

『もっともっと!』

 

『もっともっともっと!』

 

『先へ進むから!』

 

『ついてきてください!』

 

 イントロが始まると同時に、次々とセリフを発しながら各々の位置につく良太郎さんたち。そして観客たちはそのイントロに合わせた曲の準備をしようとして……それが()()()()()()()ことに気がついた。

 

 

 

 ――『Days of Glory!!』

 

 

 

 わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 全員から告げられたそれは、今回の感謝祭ライブの名を冠した新曲だった。

 

 

 

『この光景を、なんて表現しようか?』

 

『星の海。光の雨。命の輝き』

 

『他では見れないものが、ここにはある』

 

 冬馬さんと御手洗さんと伊集院さんが、バックステージまでの道を歩きながら歌う。

 

『ここまでの道のりは、なんて表現しようか?』

 

『茨の道。苦難の連続。不安と後悔』

 

『他の道を進んでいればと思ったことは、一度じゃない』

 

 志保さんと志希さんと美優さんが、センターステージに立って歌う。

 

『一人の力じゃここにいない』

 

『君がいるからここにいる』

 

『君が、俺たちをアイドルにしたんだ!』

 

 まゆさんと恵美さんと……良太郎さんが、メインステージで腕を振り上げる。

 

 

 

 ――感謝の言葉を、歌で届ける!

 

 ――感謝の気持ちを、ダンスで魅せる!

 

 ――君たちに、栄光の光を!

 

 

 

 わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 それは、良太郎さんたちからの感謝の歌。()()()()()()に相応しいと称する以外に何があるのだろうか。

 

 私たちの方こそ『ありがとう』と伝えたい。こんなに素敵なステージを、これまでの楽しい時間を、沢山の幸せを私たちは貰ってしまった。この感謝の気持ちは、ステージ上のみんなに対する歓声で応えよう。

 

 少しでも、私たちの感謝の気持ちが届くように、喉の奥から声を絞り出す。きっとこの後アンコールがあるとか、明日のレッスンが大丈夫だろうかとか、もうそんなことを考えている段階は疾うに過ぎ去った。

 

 私も、未央も、卯月も、加蓮も、奈緒も、みんな声を張り上げている。例えここが彼らから直接見えない見切れ席だったとしても、必ずこの想いは届くと信じている。

 

 だって、これは()()()()()()なのだから。

 

 私たちだって、この感謝の気持ちを届けたいのだ。

 

 

 

『Thank you for……!』

 

 

 

 ……あぁ、こんなに楽しい時間を、ありがとう。

 

 

 

 ――My dear!!

 

 

 

 

 

 

(……はぁ……はぁ……はぁ……!)

 

 マイクに拾われないように小さく、それでいて全身に満遍なく酸素を供給できるように深く呼吸をする。

 

 普段から『体力バカ』だとか『持久力オバケ』だとか『嘘つけ疲れない癖に』だとか散々なことを言われる俺であるが、こうして全身全霊をかけてステージに臨めば疲れることぐらいあるのだ。しかし普段は手を抜いているとかそういうことではないのであしからず。

 

 さて、曲が終わり未だに歓声と拍手が鳴り響いている。イヤモニすら貫通してきそうな勢いのその大音量はきっとこちら側から制止しない限り鳴りやまないだろうが、それも想定内。なにせバックステージのジュピター組や、センターステージのケットシー&美優さん組が戻ってくる時間をこれで稼ぐのだ。

 

『ありがとよ、おめぇら』

 

『みんな大好きだよー!』

 

『ホントにありがとうね、子猫ちゃんたち』

 

『皆さん、ありがとうございます』

 

『ありがとねー』

 

『ありがとう、ございます……!』

 

 冬馬たちが観客たちに手を振りながら戻ってくるので、メインステージの俺や恵美ちゃんやまゆちゃんも観客たちに手を振って六人を待つ。

 

『ありがとうございまぁす。……ほら、恵美ちゃんも』

 

『うわぁぁぁん! みんなありがどおおおぉぉぉ!』

 

『感極まるのは分かるけど、もうちょっとアイドルらしく……』

 

 まだアンコールもあるというのに、ダバダバと涙を流す恵美ちゃんと苦笑するまゆちゃんを横目にしつつ、俺は視線を『関係者席』に向ける。

 

 最近大分視力が悪くなっているため、流石に全員一人一人の顔を見分けることは難しいが、それでも大体誰が誰かぐらいは分かる。あのブンブンと手を振っているのが真美と美希ちゃんだろう。その前で同じぐらい全力で手を振っている男女が我が家の父上様と母上様だ。母上様はともかく、父上様はようやくライブに参加してくれたよ全く……。

 

 観客席へと手を振ってから、今度は一人見切れ席へと向かう。

 

 かなり個人的な行動にはなってしまうが、確かこっちに凛ちゃんたちがいたよなーとスクリーンの裏にひょっこりと顔を出すと、モニターに映っていた俺の行動で気が付いたらしい観客たちがより一層大きな歓声を上げた。その中には勿論凛ちゃんたちも含まれており……あんなに声を張り上げてる凛ちゃんも珍しいなぁと思いつつ、ヒラヒラと手を振ってからステージへと戻る。

 

 ステージでは既に俺以外のメンバーが揃っていた。「何をやっていたんだ」という呆れた目や「最後お願いします」という信頼された目、様々な視線を送ってくる()()()()に見守られながら、メインステージの一番前に進み出る。

 

 いつの間のか観客たちの歓声も収まっており、最後の俺の言葉を待ってくれているようだった。

 

『……感謝の気持ちは、散々歌に込めた』

 

 それでも。

 

『今日は、ありがとうございました!』

 

 

 

 ――ありがとうございました!

 

 

 

 俺の言葉に合わせて全員で深々と頭を下げると、再び爆音のような歓声が俺たちの頭上へと降りかかってきた。「ありがとう!」や「楽しかった!」という嬉しい言葉を聞きながら心の中で五秒を数え、ゆっくりと頭を上げる。

 

『みんなありがとー!』

 

『ありがとねー!』

 

 そして全員で手を振りながら、再び中央から開いたメインスクリーンの向こうへと帰っていく。殿を務める俺が軽く投げキッスをしたのを最後に、より一層大きな歓声と共にスクリーンが閉じ切った。

 

 

 

 ……さて、()()()()()()()だ。

 

 

 

 振り返ると、既にそこにアイドルの面々は誰もいなかった。観客たちからは見えないところへと入った瞬間、全員走っていってしまったようだ。かくいう俺も、振り返った瞬間から走り始めており、さらにいうと走りながら()()()()()

 

 ここからが今回のライブでの懸念事項の一つ、演者全員によるアンコールに向けての『早着替え』だ。

 

 俺や冬馬たち男性陣はこうやって走りながら脱ぎ始めることが出来るが、女性陣はそうはいかない……というのは、まぁリハーサルの段階で分かっていたことだ。きっとみんな必死に更衣室へと走っていることだろう。俺も脱ぐことは出来ても衣装はここになく軽い化粧直しもあるため、どのみち更衣室へ行かねばならないのでそれなりのスピードで走る。

 

 ……途中の通路でなんか脱ぎ捨てられた衣装の一部を見かけたが、きっと冬馬たち三人の内の誰かのものだろう。うん、女物のはずがないさ、なんか志希の衣装に似てたような気もするけど気のせい気のせい。……というかスタッフ誰か拾って!

 

 自分の脱いだ衣装は並走するスタッフへと投げ渡しつつ、俺はステージのフィナーレへと向かって走るのだった。

 

 

 




・「……えっ、夢オチ!?」
そんなわけないじゃないか(目逸らし)

・志保ちゃんと美優さんのラップバトル
黒歴史確定。

・『兵どもが夢の跡』
(意味深)

・『Days of Glory!!』
今回の外伝タイトルであり、感謝祭ライブの名前であり、123プロとしての初の全体曲。
実は作者がツイで呟いたデレステの嘘イベントのタイトルでもある。



 ついに始まりました、感謝祭ライブのクライマックスです! どうか最後まで楽しんでいただけると光栄です!

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