アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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いきなり盛り上がりに欠ける舞台裏。


Episode58 We are IDOL!! 2

 

 

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 大声を出しすぎて大きく荒れた息を整える。曲中のコールや歓声は勿論、去り際の良太郎さんたちに向かって声援を送りすぎたため、若干喉が痛くうっすら血の味がしたような気がした。

 

 少々冷静になりつつある頭が「それはアイドルとしてどうなのか」と問いかけてくるが、そのときはそんなことを考える余裕なんて一切なかった。

 

 全て無意識の行動だった。気が付けば声を出していた。気が付けばペンライトを振っていた。気が付けばサイリウムを折っていた。曲が始まった瞬間、『周藤良太郎』が……否、123プロのアイドル全員が作り出した()()に私は飲み込まれていたのだ。

 

(……『Days of Glory!!』……栄光の日々)

 

 確かに、彼らはその表現が相応しいほどの躍進をし、現在の日本のアイドルの頂点に君臨している。嘘偽りない輝かしい栄光を彼らは突き進んできた。そこに至るまでの苦難や困難は想像に容易いが、しかしそれら全てを包み込んでしまうほどの()()

 

 紛れもなく、彼らは私たちを()()へと導いてくれる光だった。

 

「……けほっ」

 

「ちょっと唯、大丈夫?」

 

「だ、ダイジョーブダイジョーブ! 後で喉飴舐めるから!」

 

「つまり大丈夫じゃないでしょ、それは……」

 

 コンコンと咳き込む唯ちゃんを心配する奏ちゃん。彼女も私と同じように、無意識的に声を張り上げていたのだろう。

 

「明後日のボイスレッスンが怖いわ……」

 

「大丈夫です! 私なんか三日後に収録ですから!」

 

 それのどこに大丈夫の要素があるのかと思いつつかな子ちゃんを見ると、興奮冷めやらぬ表情で若干目が据わっていた。どうやら私以上に()()()()()しまったらしい。きっと私たち以外にも、先ほどまでの空気に当てられてしまった人たちが多いことだろう。

 

 早くもアンコールが起こり始めている会場を眺めつつ……早いと思いつつ私もこっそりと「アンコール」と小さく声を出し始めた。

 

 

 

 

 

 

(パクパク)

 

「何を言っているのか全く分からないけど、大体何が言いたいのかは分かるわ」

 

 滂沱の涙を流しつつ口をパクパクとさせながら何かを訴えている亜利沙ちゃん。どうやら先ほどの曲中に歓声を上げすぎたせいで声が枯れてしまったらしい。

 

 アイドルとしてそれはどうなのかと思わないでもないが、それだけ全力になる気持ちだけは痛いぐらいに分かった。何せ、この私ですら少々喉が痛いぐらい声を出してしまったのだから。アナウンサー時代は全くなかったが、アイドルになってからというもののアイドルのライブに参加する機会に恵まれるようになった。それでもここまでの声を出して応援をすることはなかった。

 

「ケホッ……本当に凄かったわね……」

 

 元アナウンサーの身としては恥ずかしいことに、それ以上の感想が全く思い浮かばなかった。

 

(パクパク)

 

「同意してくれるのは嬉しいけど、落ち着いてちょうだい」

 

 先ほどまでまるで悲鳴のような歓声を上げ続けたというのに、全く疲れた様子も見せずに目を輝かせている亜利沙ちゃん。きっと彼女の喉が正常だったならば、それはもう見事な長セリフを息継ぎ無しで披露してくれたことだろう。

 

 さて、周りでは既にアンコールが始まっていた。あれだけ素晴らしいステージを目の当たりにして未だに満足することが出来ず……というわけではないだろうが、それでも皆がアンコールに先ほど以上のステージを期待しているのだろう。

 

 アンコールならば一体どんなステージになるのだろうか、と。

 

 なにせ、まだ今日は()()()が披露されていないのだから。

 

(パクパク)

 

「え? ……『早すぎるアンコールはあまり推奨できない』?」

 

 口パクと身振り手振りで亜利沙ちゃんが言いたいことを読み取ると、なんでも『今のこの時間は演者がアンコールのための準備時間なのだから、気持ちは分かるが少し間を置くべきだ』とのこと。

 

「『早すぎるとこちらも疲れてアンコールの声が小さくなる』……まぁ、そうね」

 

 亜利沙ちゃんが訴えたいことも分かる。それでも、きっとみんなこの昂りは抑えられそうにないのだろう。

 

 まだ観たい。もっと聞きたい。この瞬間(とき)がずっと続けばいいのに。

 

 願っても叶わないと分かっていても、少しでも想いが天に届くように、みんなは声を張り上げているのだろう。

 

(パクパク)

 

「『届け先が間違ってる』? 『天じゃなくて123プロの皆さん』? ……ふふっ、えぇ、そうね」

 

 今この瞬間、この場所にいる私たちは天ではなく、紛れもなく彼らに祝福されているのだから。

 

「さて、それじゃあ私もそろそろ……なに?」

 

 アンコールに参加しようかとペンライトのスイッチを入れ直すと、亜利沙ちゃんがクイッと袖を引いてきた。

 

(パクパク)

 

「『もしかしてこれで最後になるかもしれないから、言っておきたいことがある』? アンコールの後でも……『ライブ後は放心しているだろうから』?」

 

(パクパク)

 

「『もしくはこれが私の遺言になるかもしれないから』って……」

 

 それはそれで心配になることではあるのだが……それでも、亜利沙ちゃんが真剣な表情でわざわざ言葉にしたいというのであれば、私はそれを聞いてあげよう。

 

「……川島瑞樹さん」

 

「はい」

 

 

 

「『Gaze and Gaze』、とてもいい曲でした……!」

 

「………………ありがとう、巴ちゃんも喜ぶわ」

 

 

 

 自分で遺言になるかもしれないと言っておいて最期の言葉がそれでいいのかとも思わなかったが、亜利沙ちゃんはとても言い切った顔をしていたので、よしとしよう。

 

 

 

 

 

 

「……はいっ! 伊集院さんのメイク一丁あがりー!」

 

「こっちも御手洗君上がったよー!」

 

「天ヶ瀬さんまだー!?」

 

 まるでお昼時のファミレスの厨房のような光景ではあるが、生憎ここは男性用更衣室である。

 

 俺よりも先に更衣室に入った冬馬たちは、あらかじめ待機していたスタッフたちの手によるメイクと衣装替えが行われていた。衣装替えを済ませ、我ら123プロお抱えメイクの熟練された業によりあっという間にメイク直しが終わり、これでアンコールのためのステージへ立つ準備が整った。

 

「はい天ヶ瀬さんも上がりー!」

 

「三番テーブル持ってってー!」

 

「三番テーブル何処だよ」

 

 基本的にノリがよいメイクさんたちの掛け合いにツッコミを入れつつ、自分の頬を軽く叩きながら「よし」と気合いを入れる冬馬。

 

「良太郎、先に行くぞ」

 

「あぁ、俺は女性陣の支度が整ってからだからな」

 

 リハーサルのときに決めた段取り通り、支度が早いジュピターがまずステージに上がり、次の準備に時間がかかる女性陣が順次登場、最後に俺が登場するという順番だ。

 

「………………」

 

 しかし入口で北斗さんと翔太が待っているというのに、何故か冬馬は黙って突っ立っている。全く時間に余裕がないというわけでもないが、それでも早く行動した方がいいことは冬馬も理解しているはずだ。

 

「どうした?」

 

「……この曲が、お前にとって大事なものだってことは、承知してるつもりだ」

 

 どうやら、今から()()()()()()()()()曲のことについてらしい。

 

「だから、その……」

 

 珍しく歯切れが悪いが、ここは茶化さずメイクをされながら大人しく言葉を待つ。

 

 

 

「……全力で、歌わせてもらう」

 

 

 

 言い逃げするかのように、それだけを言って冬馬は足早に、入口で待っていた北斗さんと翔太すらも置き去りにして行ってしまった。

 

「……今のを要約すると」

 

「しなくても分かるって」

 

 『Per aspera』『Ad astra』のときもそうだったが、今日は随分と素直だなぁと内心で苦笑する。これは後で今日あったアレコレを思い返して逆ギレされるパターンだ。それはそれで楽しみである。

 

「というか、お前たちもホラ、さっさと準備しろって」

 

「分かってるよー」

 

「けど、冬馬が素直になったのに、俺たちが言わないっていうのも癪だからね」

 

 早く冬馬とステージに立ってこいと促すが、何故か翔太と北斗さんが俺に体を真っ直ぐ向けて背筋を伸ばした。

 

 

 

「……周藤良太郎さん」

 

「貴方の大切な歌、僕たちも大切に歌わせていただきます」

 

 

 

 しっかりと首の裏側が見えるほど真っ直ぐ深く頭を下げる二人。

 

「……あぁ、俺も後で追いかける。それまでしっかり頼んだぞ」

 

「「はいっ!」」

 

 ニカッと爽やかな笑みを浮かべ、二人は足早に更衣室を去っていった。

 

「……はぁ、ちょっとだけ調子が狂うな」

 

「普段はぞんざいに扱われてるから、丁重に扱われるのに慣れてないんでしょ?」

 

「そんなわけないだろ俺ってばトップアイドルだからそれはもう何処に行っても特別待遇だから」

 

「声震えてるわよ」

 

 いや本当にそれなりの扱いは受けてるから……と言い訳しつつ、振り返るとそこにはヅカヅカと更衣室に入ってくる魔王三人娘の姿があった。

 

「おっと、アイドルの生着替え現場は安くないぞ?」

 

「アンタもう着替え終わってるでしょ」

 

「りん、お財布しまって」

 

「がっかり……」

 

 何故かともみに窘められたりんが残念そうな表情をしていた。

 

「……お前たちも、準備は終わってるんだな」

 

「当たり前よ」

 

 魔王エンジェルの三人は最後の曲にも参加してもらう予定なので、三人ともメイクも衣装も準備万端の状態になっていた。

 

「アタシとしては、次の曲も一緒に歌いたかったんだけどなー?」

 

 ぷーっと可愛らしく頬を膨らませながら顔を覗き込んでくるりん。

 

「ここから先、そんな機会はいくらでもあるさ」

 

 りんのツインテールの先を指で弄びながら「なんならお前らのライブにゲスト出演したときにでも歌うか」と提案する。

 

「……やっぱり、アンタ変わったわね」

 

「そうか?」

 

「……自分で気付けてないのなら、私からは何も言わないわ」

 

 俺も知らない何かを麗華は知っているということなのだろうか……?

 

「りん、俺変わった?」

 

「んー? いつも通りカッコいいよ?」

 

「ありがと。りんも可愛いぞ」

 

「いひひっ、知ってる~」

 

 

 

「……はぁ、能天気なところは変わらないわね」

 

「二人が幸せそうで私は満足」

 

 

 




・「明後日のボイスレッスンが怖いわ……」
後日編の内容が決まった。

・あの曲
忘れていなければ分かるはずのあの曲。

・早すぎるアンコール
個人的にはちょっとだけ時間を置いてからアンコールしたい派。

・「『Gaze and Gaze』、とてもいい曲でした……!」
あの額コツンからの照れ笑いヤヴァかった……。



 準備だから盛り上がらないのは当然である(すみませんでした)

 大丈夫、次回は女子側の更衣室だから……!
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