アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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これからの『よろしく』を込めて。


Episode63 Grand finale!! 3

 

 

 

 えっと、恵美ちゃんを飛ばしてまゆちゃんが挨拶したから、ホントーは恵美ちゃんに戻るところだったんだけど……その恵美ちゃんがご覧の有様だから、またまた飛ばしてボクが挨拶することになりましたー。恵美ちゃんは頑張ってオオトリのりょーたろーくんよりも前に挨拶出来るようになっててよー。

 

 というわけで、御手洗翔太だよー! みんなー! 今日はありがとー! 定番だけど……みんなー! 今日は楽しかったー!?

 

 

 

 楽しかったあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 だよねー! 僕も楽しかったー!

 

 あんまりこーいう話すると色んな人に怒られるから黙ってたんだけど、ほら僕たちって一時期活動自粛してた時期あるじゃん?

 

『オメーよくこの場でその話ぶっこめたな!?』

 

 いやー、だってみんな知ってることだし。

 

 正直な話をすると、その自粛期間でも僕たちは「絶対に大舞台に戻ってくる」っていう自信があった。どんな状況からでも、僕たち三人なら絶対に失ったものを取り戻せるっていう自信があった。

 

 でも、まさかその大舞台がこうやって事務所のアイドルみんなでのものになるなんて、全く考えてなかった。いや、僕たちだけのドーム公演もあったよ? でも、他のアイドルとステージ上で共演する機会に恵まれるなんて想像もしてなかったんだ。

 

 ……きっとそれが、以前の僕たちの()()であると同時に()()でもあったんだと思う。

 

 『Jupiter』は僕たち三人だからこそ『Jupiter』だった。昔からずっと『Jupiter』が一番最高のユニットだって疑ったことはないし、それはこれから先も変わらない。

 

 ……でも、三人だけじゃ、それだけだった。それ以外には絶対になれやしなかった。

 

 『輝きの向こう側』があるってわざわざどっかの誰かさんが教えてくれてるんだから、それを目指さないっていうのも面白くないじゃん? 折角アイドルをやってて、こんなに沢山のファンが応援してくれてるんだからさ。

 

 だから……冬馬君だけじゃないよ? 僕だって、りょーたろー君を超えて一番になる夢を諦めてない。

 

 

 

 ……僕が『周藤良太郎』に勝てないなら、他の人には全員無理でしょ?

 

 

 

 例えこの先この言葉で冷やかされることになったとしても、僕はこの言葉を吐き続ける。それが()()()()()()()()だって知ってるからね。

 

 というわけで、今後も『Jupiter』と御手洗翔太の活躍にこうご期待! ってことで!

 

 最後に、あの辺りの貴賓席にいるであろうあの人に向かって……ザマーミロー! ってね!

 

 御手洗翔太でしたー! 今日はホントーにありがとー! みんな大好きだよー!

 

 

 

 

 

 

 チャオ、会場のエンジェルたち。伊集院北斗です。

 

 本当は今日のライブのことについて、無難なことを話すつもりだったんだけど……翔太が随分とハードルを上げてくれたから、俺もちょっとだけ昔のことに触れることにしようかな。俺たちのリーダーのために、可能な限りハードルを上げておいてあげることにするよ。

 

 そうだね……俺がアイドルを始めたきっかけは、たまたま前の事務所の社長にスカウトされたからだった。その頃は私生活で色々とあってね、正直何か気を紛らわすことが出来るものなら何でも良かったんだ。

 

 元々読者モデルをやってて、見てくれはそれなりに自信があったからね。アイドルも似たようなもんだろうって、その頃は高を括ってんだ。今思えば随分な思い上がりだったって少し恥ずかしいよ。

 

 だから……というわけじゃないけど、俺は冬馬や翔太ほどアイドルという存在そのものに執着なんてしてなかったんだ。

 

 俺がアイドルになったときなんて、まさしく『周藤良太郎』の全盛期だった。真面目にアイドルを続けていても、必ずすぐに終着点が来る、遠くない内に限界が来るって、心の何処かで思ってた。だからそれまでの暇潰し……そう思ってたんだ。

 

 あぁ、悲しい声を出さないでくれ、エンジェルたち。勿論今はそんなこと考えてないよ。

 

 最初からずっと高みを目指し続けていた冬馬。最初のきっかけは似ていても全力だった翔太。そんな二人を見守る立場だと勝手に思って、自分ではいつも一歩引いたところで二人を支えようなんて、そんな大それたことを考えてた。

 

 きっかけがあったとしたら……そうだね、さっきも翔太が少し触れた自粛期間の後の話かな。

 

『オメーもぶっこむのかよ!?』

 

 ははっ、俺たちとは切り離せない事柄だからね。腫物扱いするぐらいなら、自虐ネタとして末永く付き合っていこうじゃないか。

 

 前の事務所を離れ、今の事務所の社長に拾ってもらって、俺たちは新たな環境で再スタートをした。そこで俺たちは初めて……他者と共に作り上げるステージっていうものを知ったんだ。

 

 当たり前だけど、俺たちのステージの裏側には、俺たちを支えてくれるスタッフたちがいる。横には共にステージに立つ仲間がいる。そして……目の前には、こうして手を振るとちゃんと振り返してくれるファンのみんながいる。

 

 それらをちゃんと認識して、俺はやっと『Jupiter』としてここに立っている意味に気付いたんだ。冬馬の足手まといにならないためじゃない。翔太のサポートをするためじゃない。ましてや人生の暇潰しなんかじゃ断じてない。

 

 『Jupiter』の伊集院北斗は、トップアイドルになるために、ここにいたんだ。

 

 普段の俺からしてみたら、こんなに熱いのはガラじゃない。

 

 

 

 でも……やっぱり、()()()()()()……なんてね。

 

 

 

 さて、そろそろ次の人に挨拶を譲ろうかな。

 

 その前に、俺も貴賓室にいるであろうあの人に一言。貴方の見る目、やっぱり間違っていませんでしたよ……ってね。

 

 それじゃあ、また会おうね、エンジェルたち。伊集院北斗でした。

 

 

 

 

 

 

 

 ……ぐすっ、うん、大丈夫、大丈夫だから。もー、泣くのを見こされて目元のメイクが薄くなってる上に防水対策完璧になってるのがすっごい複雑ー……。

 

 あ、あはは、みんなごめんねー! お待たせー! 所恵美でーす!

 

 いやぁ、お見苦しいところをお見せしたようで……コラー誰だー!? いつものことでしょって言った奴ー!? ……リョータローさんとまゆは黙ってて!

 

 もー、おかげで話そうと思ったこと全部頭から飛んじゃったじゃんかー! もういいもん! アタシもアドリブで話す!

 

 ……と、言ってもー……あはは、アタシってば、みんなみたいにドラマチックなバックグラウンドとか持ってないんだよねー。

 

 トークバトルでも言ったけど、アイドルになったきっかけだって街を歩いてたらリョータローさんと社長にスカウトされたからっていう理由で、何か特別な理由があってアイドルを始めたわけじゃない。

 

 勿論、やる以上は全力だし、これまでだって全力、今だって全力!

 

 ……でも、今でもたまーに考えるんだ。アタシよりも可愛い子なんていくらでもいるし、歌やダンスが上手い子だっていくらでもいる。だったら、今こうしてここに立っているのはあたしじゃなくてもよかったんじゃないかなって。

 

 だけどその度に、リョータローさんの曲を聞いて思い直すの。

 

 今をやり直すことなんて出来ない。でも、もしやり直すことが出来たとしたら……それってすっごい幸せなことだよね。

 

 ってことは、今すっごい幸せなアタシは、そのやり直すことが出来た今を生きてるってことと同じなんだよ!

 

 ……あれ!? アタシ今いいこと言ったはずだよ!? なんでクスクス笑われてんの!?

 

『恵美ちゃんはそのままで素敵よぉ』

 

 なんか褒められてる気がしないんだけど!? ……えぇ!? バカっぽいって何!? アホの子っぽいって何さ!? アタシそーいうキャラじゃないでしょ!?

 

 コホン、気を取り直して……。

 

 自己評価が低いってのは、よく言われてたんだけどさ。こーやって応援してくれるファンもいるし……そろそろ自分の評価を改めないといけないかなって。

 

 だからアタシも、ちゃんと言葉にする。

 

 

 

 アタシも目指すよ、『周藤良太郎』みたいなトップアイドルを。

 

 

 

 ……へへーん! どーせみんな、最後はまたアタシがボロ泣きして終わるとか思ってたんでしょー? アタシだって、そんなにいつもいつも泣いてるわけじゃないんだからねー? だから志保も、そーいうツッコミはいいから! 泣いてないから! あんまり言うと別の意味で泣くからね!?

 

 全く……それじゃ、最後に改めて!

 

 みんなー! 今日はめっちゃ、めーっちゃ楽しかった!

 

 次のライブでまた会おうね! 所恵美でしたー!

 

 

 

 

 

 

 天ヶ瀬冬馬だ。……そうだな、俺は今日のことを少しだけ話させてもらう。

 

 俺が良太郎と歌った新曲……あぁ、俺の『Per aspera』と良太郎の『Ad astra』だ。

 

 タイトルは英語じゃなくてラテン語。結構有名な格言だから、この中にも知ってる奴がいるだろ。『困難を克服して栄光を獲得する』もしくは『困難を乗り越えて星のように輝く』。意訳すると『痛みなくして得るものなし』、所謂『No pain,no gain』ってやつだ。

 

 これは俺と良太郎が同時に別々の曲を歌うっていう珍しい形になってるんだが……実は俺たちは一回も曲合わせをしていなかった。この一回も、というのは文字通りの意味で皆無だったってことで、リハでもゲネでも俺と良太郎が同時に歌うことはなかった。

 

 随分と無謀なことをしたと思ってるが、それでもちゃんと形になっていただろ?

 

 ……俺はこの曲で、初めて『周藤良太郎』の目の前に立てたと思っている。

 

 思い上がりや自惚れじゃなくて、ようやくそこに辿り着けたんだっていう自信がある。

 

 俺がアイドルを始めたきっかけも、続けている理由も、目指すべき場所も、全部『周藤良太郎』だ。だから前の事務所だとそれ以外のことを考える余裕が全くなくて、周りのことが何にも見えてなかった。

 

『結局冬馬君もその話してるじゃん』

 

 うっせぇ。

 

 ……今の事務所に来ても、それは変わってねぇ。でも周りを見る余裕が出来た。周りを見て、俺はようやく『天ヶ瀬冬馬』の背中を押してくれる人の存在を、ちゃんと理解することが出来たんだ。

 

 ファンのみんなだけじゃねぇ。『周藤良太郎』を超えるなんていう無茶を応援してくれる人や、それを成し遂げることが出来ると信じてくれる人もいた。

 

 ……何より、()()()()()()()()()()()って思えたんだ。

 

 きっと、俺がここにこれたのは俺の力だけじゃねぇ。お前らが、俺をここに押し上げてくれたんだよ。

 

 ……だからって、ここで礼を言うようなタマじゃねぇ。俺の背中を押してくれる人は、最初からそんなこと望んじゃいねぇだろ?

 

 だから、俺は代わりにこう言わせてもらう。

 

 

 

 ……『周藤良太郎』には決して見せることが出来ねぇもんを、俺が見せてやるよ!

 

 

 

 『魔王エンジェル』でもねぇ、『女帝』でも『福音』でも『三美姫』でも、誰でもねぇ!

 

 『天ヶ瀬冬馬』にしか見せることが出来ないもんだ! テメェら覚悟してろよ!

 

 以上! 天ヶ瀬冬馬! 今日はありがとよっ!

 

 

 

 ……さぁ、オオトリ任せたぜこの野郎。

 

 

 

『……あいよ』

 

 

 




・御手洗翔太
数少ない123プロの悪戯っ子タイプ。良太郎と組み合わせることで、書いてて楽しい悪ガキ兄弟と化す。
本編でこれまで掘り下げることが出来なかったことが、今更になって悔やまれる……。

・伊集院北斗
123プロの頼れるお兄さん。良太郎に重要な助言をする役割として大変お世話になりました。
翔太同様、もうちょっと掘り下げてあげればよかった……。

・所恵美
一人称としての主人公もしっかりとこなしてくれる超絶有能ギャル。いや、ホントこの子がいなかったら第三章は成り立たなかったよ……。
アイ転を書き始めたことによって一番作者内の株が上がったアイドル。ミリオンライブで彼女を見付けることが出来たことが、何よりの幸運だったと思う。

・天ヶ瀬冬馬
良太郎を際立たせる存在であると同時に、良太郎には出来なかったことを全てこなしてくれたアイ転の『主人公』。良太郎はラスボス。
頑張れ冬馬! 負けるな冬馬! これからも頼むぞ冬馬!



 次回、感謝祭ライブ閉幕。

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