さて、いよいよ俺の番になったわけだ。
それじゃあ……よいこのみんなー! こーんばーんわー!
こーんばーんわー!
いやまぁ最初にやっとくべきものだった気もするけど、周藤良太郎だ。今日は本当にありがとう。
さて、みんながいいコメントしてくれたからには、俺もそれに負けないぐらいいいコメントしたいんだよなぁ……って思ったんだけど、そもそもそう思っちゃった時点でコレ負けてるよね? っていうね?
しかしそうだな……俺の場合、自分の過去とかそういうのは色んなメディアで語りすぎててみんな聞き飽きてるだろうから……これからのことにでもついて話そうと思う。
はい、この前の『アイドルエクストリーム』の中継、見たよって人、手を挙げてー!
はあああぁぁぁい!!!
おぉ、大勢いるね。はいありがとー手ぇ下げていいよー。うん、分かったから……手ぇ下げろって言ってんだろ! サイリウム振ってまでアピールしなくていいから! 分かったから!
あのIEで晴れて優勝して、一応名目上は
てんちーれん姉妹とかエヴァにゃんとか『正直もう名前も呼びたくない女帝様(笑)』とか、世界レベルのアイドルたちと競い合って世界一の称号を手に入れて。けれど、それをアイドルの頂点だと思ったらきっとそれで終わりだ。
例えば、今日の俺と冬馬の新曲のステージを見てみんなはどう思った?
……ステージを比べるっていうのも中々最低なことだとは理解してるが、それでも俺は今日のステージの方が満足できたし、最高の出来だったと思う。
けれど
アイドルのステージっていうのは、常に進化する。今日のステージは昨日のステージよりも素晴らしいものになったかもしれないけど、明日のステージはもっと素晴らしいものになるかもしれない。今日のステージを最高だと思ったときのように、未来のステージを最高だと思う日がきっとくる。
それと同じように、
まぁ色々と言ったけど、要するにこういうことだ。
みんな! 次のステージはもっと凄いから楽しみにしてろよ!
この程度で、まだ満足するんじゃないぞ!
わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!
とまぁそんな宣言で盛り上げたところで悪いんだけど、空気をぶった切らせてもらおうかな。
……俺は、みんなに感謝したい。
さっきみんなで歌った『Days of Glory!!』。この中の歌詞で俺たちは『君がいるからここにいる』『君が、俺たちをアイドルにしたんだ!』って歌わせてもらった。
これは、紛れもなく俺の想いそのものだ。
俺はたまたま歌とダンスが上手かった。自然と魅せ方を理解することが出来た。でも逆に言えばそれだけだった。それ以外に何もない、ただの無表情な男だ。
俺が神様から貰ったこの才能は、ファンのみんなが評価してくれて初めて意味を為すものだった。
だから、今ここにアイドル『周藤良太郎』が立っているのは君たちのおかげだ。
君たちが、俺の歌を好きと言ってくれた。俺のダンスを好きと言ってくれた。
君たちがいなかったら、俺はアイドルにはなれなかった。
アイドルがステージに立つから、ファンが出来るんじゃない。ファンがいるから、俺たちはアイドルになれる。
君たちが『周藤良太郎』をアイドルにしたんだ。
だから、何度でもお礼を言いたい。
本当にありがとう。
君たちがファンになってくれて、俺は幸せだ。
『さてと、名残惜しいが、本当の本当に次で最後だ』
すすり泣く声と最後を惜しむ声が会場に響く。横を見ると、アイドルの何人かも目元を拭っていた。
『最後の曲は、サプライズゲストの魔王エンジェルにも一緒に歌ってもらうぞ』
裏に向かって『ヘイカモーン』と呼びかけると、舞台袖から魔王エンジェルの三人が姿を現した。
『……って、なんでお前たちまで泣いてるんだよ』
『泣いてないわよっ!』
強がる麗華だがガッツリ涙の跡が残っているので、残念ながらその言い分は通らない。
『り゛ょ゛ぉぉぉぐぅぅぅん!』
『……ぐすっ』
一方でりんとともみはガッツリ泣いていた。アイドルだったらステージの上でぐらい涙はもうちょっと我慢しなさい。
『もうちょっと頑張れよお前ら! ホラ最後! アイドルだったらステージの上は笑顔!』
『『一番出来てないお前にゃ言われたくないよっ!』』
麗華と冬馬のツッコミがシンクロして響く。
このやり取りを皮切りに、全員から笑いが零れていつもの調子に戻っていく。
感動や別れを惜しんで泣いてくれるのはいいが、最後はやっぱり笑顔で締めていきたい。
『さぁ、準備はいいか!?』
『『『『『はいっ!』』』』』
おおおぉぉぉおおおぉぉぉっ!!!
アイドルと観客全員からの返事を受け、俺が人差し指を頭上に掲げると最後の曲が流れ始めた。
今度こそ、これで最後。
今日という日のグランドフィナーレ。
『これで今日は最後だけど!』
『まだまだ俺たちは終わらねぇ!』
『明日も明後日も!』
『ずっとずっとその先も!』
『アタシたちのライブは終わらない!』
『地球の全てが私たちのステージ!』
『貴方たちが望んでくれるならば!』
『あたしたちはいつだってアイドルだから!』
『さよならは言いません!』
『『『『『また次のステージで会おうぜ!』』』』
『LIVE E@rth days!!』
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
気が付けば、息も絶え絶えに俺はステージ裏の階段を降りていた。
背後からは大歓声が響き続けており、それはしばらく納まりそうにない。曲が終わった直後からずっと叫び続けているというのに、元気なものだ。
通り過ぎるスタッフたちが揃って「お疲れ様でした!」と声をかけてくる。全員揃いも揃って涙声になっていた。どうにもウチのスタッフたちは涙腺が緩いようだ。
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
先ほどから息が全く整う気配を見せない。体力的には問題ないはずなのに、脳が酸素を欲し続けて肺を酷使し続けている。
今日はいつも以上に疲れているような気がする……というか、多分疲れている。全力を出していること自体はいつものことなのだが、今日はその全力以上の力を出せたということか。
……いや、違う。全力以上を
いつもよりもおぼつかない足取りでステージ裏の通路を進む。俺よりも先にステージから降りたみんなの姿が見えないが、恐らく待機場所にいるのだろう。
ひぃこらと重い足を動かしながら、ようやく待機場所へと辿り着いた。
ワイワイと賑やかな声が聞こえてくるところから察するに、全員で今回のライブの成功を喜びあっているところなのだろう。きっと恵美ちゃんとまゆちゃん辺りが抱き合って胸元が大変素晴らしいことになっているだろうから、是非網膜に焼き付けたいところだ。
「みんなー俺もまーぜーてー!」
「良太郎さあああぁぁぁん!」
「ごっふ」
待機場所に顔を出した途端、腹部に何かが勢いよく突っ込んできた。体力がレッドゾーンに入っている今の状況で、持ちこたえることが出来たのが奇跡である。
この遠慮のなさは志希か恵美ちゃん辺りかなーとか思って視線を下げると、そこにはそのどちらでもない黒髪の少女がいた。
「どうしたの志保ちゃん?」
「……良太郎さん!」
ガバッと勢いよく顔を上げる志保ちゃん。その両眼からは大粒の涙がボロボロと零れ落ちていた。
「……あ、ありがとうございましたっ!」
「……それはこっちのセリフだよ。みんながいたから今回のライブは成功したんだ。だから俺だけじゃなくて――」
「だとしても!
叫ぶようにそう言いながら、額を俺の肩に押し付ける志保ちゃん。
「例え貴方が『ファンのおかげでアイドルになれた』と考えていたとしても! 私は『貴方のおかげでアイドルになれた』んです! 今日のライブが成功したのは、貴方のおかげです!」
だから! と顔を上げないまま志保ちゃんは叫んだ。
「ありがとうございました!」
「……志保ちゃん」
「私だってそうです! ありがとうございました、良太郎さん!」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました、良太郎君……!」
他のアイドルも俺に向かって頭を下げる。アイドルだけじゃなく、メイクやカメラマンといったスタッフまでもが次々と頭を下げていく。
「……下げんぞ」
「……下げないわよ」
「寧ろホッとしてる」
唯一頭を下げていない冬馬と麗華の安心感たるや。
「……その礼はありがたく受け取るよ。でも今はそんなことしてる場合じゃねぇだろ?」
志保ちゃんの頭をそっと撫でてから手を叩いて全員の頭を上げさせる。
「はいはいアイドル集合! カメラさんたちも仕事して!」
未だにグスグスと涙を流す123のアイドルたちを集めて円陣を組む。魔王の三人はちょっとだけ待っててもらう。
「ほら最後なんだからちゃんと締めるぞ!」
全員で円陣の中心に向かって手のひらを下にして向ける。
「……あっ、そういえばかけ声決めてなかったな」
「「「「「だあああぁぁぁっ!?」」」」」
その場にいた全員が膝から崩れ落ちた。普段はそんなキャラじゃないはずの麗華や冬馬や北斗さんまでしっかりと倒れた辺り、全員の本気で崩れ落ちたらしい。
「お前っ! お前っ!? お前えええぇぇぇっ!?」
「どーどー」
語彙が完全に消失してしまった冬馬を宥める。
「……よしっ! 折角の機会だから、結構な大口叩いてみようぜ」
パッと思いついたかけ声を全員に伝える。
「これはこれは……」
「でも123プロらしいんじゃない?」
「はい、私たちはいつもそのつもりでステージに立ってますから」
「でもこれ本来はライブ前にやるべきじゃ……」
「しー、どうせ忘れてたんだから黙っておきなって」
色々言われているが、気にせず再び円陣を組む。
今度こそ、本当に最後。
「翔太!」
「……うん!」
「北斗さん!」
「あぁ」
「美優さん!」
「はい……!」
「志希!」
「はーい!」
「志保ちゃん!」
「……はいっ!」
「恵美ちゃん!」
「はい!」
「まゆちゃん!」
「はぁい!」
「冬馬!」
「……あぁ」
「今日のライブ! みんなの力で成功した!」
「この先の未来は分からないけど!」
「この瞬間は間違いなく、俺たちが『最強のアイドル』!」
「だから胸張って宣言するぞ!」
――天上天下っっっ!!!
――123独占っっっ!!!
『123production PREMIUM LIVE -Days of Glory!!-』
アイドル史に『伝説』と語り継がれる一夜の夢が、幕を閉じた。
・アイドルエクストリーム
世界一のアイドルを決める世界最大のコンテスト。良太郎の他、世界中の『輝きの向こう側』のアイドルが集い競った。
・『正直もう名前も呼びたくない女帝様(笑)』
良太郎が圧倒的に苦手とする女性第二弾(第一弾は華琳)
詳しくはまだ語らないが、まぁ色々とあった。
・『LIVE E@rth days!!』
読み方は『ライブアースデイズ』。『Re:birthday』のアナザーソング。アンサーソングの登場はまた別の機会。
約四年前に感想欄に書いていただいた曲名を使わせていただきました。
ずっと使いたかった……!
・周藤良太郎
本作の主人公兼ラスボス。あんまり転生オリ主っぽくない転生オリ主。
本当は勘違いキャラにするつもりが、いつの間にかヒャッハータイプの無表情型ラスボス系主人公になった。ドウイウコトナノ。
今回のお話の中で良太郎に言ってもらったセリフは作者の言葉でもあります。
書き始めた当初は、良太郎はただテンションが高いだけのオリジナルキャラクターでした。
しかし書き続けるにつれて良太郎をちゃんとアイドルとして見てくださる方も増え、中には『良太郎のファン』や『りょーいん患者』を自称してくださる方も現れました。
烏滸がましいかもしれませんが、自分の中では良太郎は本物のアイドルです。そう思えるようになったのは、ひとえに読者の皆さんのおかげです。
この場を借りて、お礼の言葉を述べさせていただきます。
本当にありがとうございました。
この小説も良太郎のように図々しく居座り続けますが、これからもどうぞよろしくお願いします。
次回からは外伝エピローグ的な後日談編です!