アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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今度は二週間後のお話。


Episode66 夢から醒めて 2

 

 

 

 ライブから二週間が経った。

 

「二週間か……今回は随分と長い滞在だったな」

 

 ライブのときから我が家に帰って来ていた父さんが再び海の向こうへと戻る日を迎えたため、周藤家揃って空港へと見送りにやって来た。

 

「※なおこの世界では新型コロナウイルスの影響を受けておりません」

 

「いきなりなんだ良太郎……それに滞在って、父さんの本籍はこっちだぞ」

 

「はっはっはっ! 確かに滞在だね。今回は久しぶりにゆっくりとしたバケーション気分を楽しませてもらったよ。寧ろ、母さんと新婚気分かな?」

 

「もーあなたったらー」

 

 ポヤポヤと照れながら父さんの脇腹をツンツンと人差し指で突く母さん。

 

「あぁもう母さんは可愛いなぁ~!」

 

「やぁん!」

 

 そんな母さんの身体をギュッと抱きしめる父さん。正直、家以外ではあまりそういうことをしないでもらいたい。

 

「そんなこと言ってー、本当は初恋の人がイチャイチャしてるのを見たくないだけなんじゃないのー?」

 

 ニヤニヤと笑いながら俺の顔を覗き込んでくる早苗ねーちゃん。

 

「そういうことを言ってるんじゃないんだって」

 

 首を横に振りながら我が両親を指差す。

 

 金髪の中年男性が見た目少女と言っても差し支えの無いうら若き女性を抱きしめているのだ。見た目と身長差の関係でかなり危険な絵面になっているため、結構周りからの視線が痛い。

 

「あれがせめて父と娘の親子の触れ合いぐらいならいいんだけど……」

 

「あの二人は雰囲気的にその言い訳も通じないからな……」

 

 兄貴と揃ってため息を吐く。父さんが海の向こうへと単身赴任する前、家族で出かける度に職務質問をされたことが果たして何回あったことやら……。

 

「確かにお義母さんは小柄な上に見た目が若いからねぇ」

 

「「………………」」

 

「……なに?」

 

 いや、「お前もやろがい!」っていうツッコミ待ちかと思って。

 

「さて、最愛の母さんとのお別れは済ましたから、次は愛する息子たちだな」

 

 母さんとの触れ合いを済ませた父さんは、今度は俺たちに向かって腕を広げた。

 

「幸太郎」

 

「……はいはい」

 

 流石に三十を過ぎているが故に抵抗を覚えつつも、ちゃんと父さんの要望に応えてハグをする兄貴。ポンポンとお互いの背中を二度三度と叩いてから体を離す。

 

「良太郎」

 

「はいよ」

 

 次は勿論俺の番。俺はそれほど恥ずかしいとか抵抗とかそういうのはないが、結局父さんの身長は抜けなかったなぁ……と少々陰鬱な気分になってしまった。ちくせう……やはり身長面は母親の血の方が若干強かったようだ。

 

「はい! コウ君! リョウ君! 次はお母さん!」

 

「「なんでだよ」」

 

 ニコニコ笑顔で腕を広げる母さんを「はいちょっと大人しくしててねー」と制止する。

 

「幸太郎、既に結婚している君にお願いするのも心苦しいが、これからも母さんと良太郎を頼むよ」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

「早苗ちゃんも、よろしくね」

 

「お任せを!」

 

 グッと拳を握りつつ兄貴の腕に抱き着く早苗ねーちゃん。先ほどの父さんと母さんを見てからこの二人を見ると、確かに親子揃って似たような趣味をしていると誤解されてもおかしくなかった。……いや、誤解だよな……?

 

「いやはや、本当に幸太郎はいいお嫁さんを貰ったよ。あとは良太郎も……そろそろ、いい人を紹介してくれたりしないのかな?」

 

「リョウ君、お母さんも楽しみにしてるんだよー?」

 

 ニヤリと笑う父さんとキラキラと目を輝かせる母さん。

 

「……申し訳ないけど、そーいう期待を俺にされても応えられるのは随分先だぜ?」

 

「そう言って早何年になることか……」

 

「アイドルが恋愛厳禁っていうのは分かるけどー、そろそろ気になる女の子ぐらい紹介してくれてもいいんだよー?」

 

 両親揃ってそんなことを言ってくる始末。ほらトップアイドルのプロデューサー兼アイドル事務所の社長さん、言ってやってくださいな。

 

「今さらお前に熱愛報道が流れたところでそれほどダメージにならんだろうな」

 

 誰が俺じゃなくて両親の援護射撃をしろと言った!?

 

「別に気になる女性がいないわけじゃないんだろ?」

 

「……そりゃあな、俺も男だ。気になる大乳の女性ぐらいいるさ」

 

「何故それを限定した」

 

「でも……ゴメン、恋人を作ることは出来ません。今、『周藤良太郎』はアイドルの絶頂期です。この国に起ころうとしているアイドルブームの一端を私は作っています。本当は、大乳への未練はあるけれど……。でも、今はもう少しだけ興味がないフリをします。私の作るこのアイドルブームも、きっといつか、誰かの青春のアイドルを生み出すから……」

 

「よくもまぁそんなネタがポンと思いつくなお前」

 

「興味がないフリ出来てないわよ」

 

「そうか……良太郎には、そんな壮大な夢があったんだな……ぐすっ」

 

「お母さんも、リョウ君のこと応援するからね……ぐすっ」

 

「お義父さんにお義母さん!?」

 

「感受性豊かだなぁ俺の両親は!?」

 

 兄貴は無理だったが、父さんと母さんは誤魔化せたようだ。本当に血が繋がっているのか怪しくなるほどの素直さであるが、きっとこんな両親に育てられたからこそ俺も自分に素直に生きることが出来る人間になったのだろう。

 

「いい話にはまとまらないからね」

 

 早苗ねーちゃんからのジト目のツッコミを貰ったところで閑話休題。

 

「……さて、良太郎。今までもそうだったように、父さんは向こうで君のことを自主的に調べることはしないよ」

 

 コホンと一つ咳ばらいをしてからの父さんのこの発言、捉え方によっては俺に興味がないように思われるかもしれない。

 

「だからこれからも、何もしない父さんの耳に届くような活躍を期待している」

 

 しかしそうじゃない。これは父さんからの期待の形なのだ。

 

「任せなさい。イヤってほど『周藤良太郎』の名前が耳に入るようにしてみせるよ」

 

「その意気だ。是非こちらでの『女帝』の知名度を越えてみせてくれ」

 

「ゴメン前言撤回していい?」

 

 だからアイツと関わるの嫌だって言ってんだろぉ!? 父さん知ってて言ってんな!?

 

「……さて、名残惜しいがそろそろ行くよ」

 

 キャリーケースを取っ手を伸ばしながら一歩下がる父さん。

 

 ……いつものことではあるものの、やはり家族との別れは寂しいものだ。

 

 それでも、俺たち家族は快く父さんを見送る。

 

 例え陳腐で使い古された言葉だったとしても……俺たち家族は、離れていてもいつだって変わらぬ絆で結ばれているのだから。

 

「「「「いってらっしゃい」」」」

 

「あぁ、行ってきます」

 

 

 

 ……初恋が母さんならば、父さんは俺が()()()()()()()()

 

 そんな彼の笑顔は、いつでも俺にとっては眩しかった。

 

 

 

 

 

 

「「………………」」

 

「……春香、あの二人はいつになったら生き返るわけ?」

 

「……か、感謝祭ライブの振り返り公演が決まったら?」

 

「少なくともあと三ヶ月あるじゃない……」

 

 はぁ……と、それはそれはとても重いため息を吐く伊織。確かに感謝祭ライブ後からずっとあぁして溶け切っている二人の姿はそろそろ見飽きたというか……もうちょっとしっかりしてもらいたいというのが本音である。

 

「ほら美希! 真美! いい加減にしゃんとしなさい!」

 

「だってー……」

 

「ライブ終わったばかりでー……」

 

「終わったのはもう二週間も前でしょう!?」

 

 だらけ切っている二人を叱りつける伊織だが、美希と真美は全く動じた様子もなく机に突っ伏したままである。

 

「気持ちは分かるけど二人とも、そろそろ気持ちを切り替えよう?」

 

「「無理ー……」」

 

 私から声をかけても暖簾に腕押しのようだ。

 

「……おっ、もう返信来た。反応早い。ちょっと二人ともーこれ聞いてー」

 

 そんな二人に、誰かと連絡を取っていた響ちゃんが自身のスマホを向けた。

 

「なにさー……」

 

「リョータローさんの応援メッセージなら聞いてあげるのー……」

 

「『あんまりダラけてちゃダメだぞ、メッ』とかいうのだったらやる気出すー……」

 

「あ、それいいのー……」

 

 

 

『ライブの余韻に浸ってくれてるのはありがたいけど、ちゃんと切り替えなきゃメッ、だぞ』

 

 

 

「「……!!??」」

 

 ガバッと、それはもう電光石火と言わざるを得ない超反応を見せて身体を起こす美希と真美。残像が見えて風切り音が聞こえるって、一体どんなスピードなんだか……。

 

「い、今のりょーにぃの声だよね!? そーだよね!?」

 

「ワンモア! ワンモアプリーズなの!」

 

 距離を詰めてあわよくばスマホを奪い取ろうと腕を伸ばす二人を、響ちゃんはヒラリと躱す。身体能力の高い美希と真美ではあるが、それでも流石に響ちゃんには敵わない様子だった。

 

「二人がダラけてるって良太郎さんに伝えたらボイスメッセージで送ってくれたんだ」

 

「よくやったわ響」

 

 話を聞きつけた律子さんがニヤリと暗い笑みを浮かべながら現れた。

 

「二人とも、今のボイスメッセージが欲しかったら仕事中だけじゃなくて事務所でもちゃんとしなさい」

 

「えーっ!?」

 

「ひ、ひびきん……!?」

 

「元々そのつもりだったからな」

 

 期待するような目で響ちゃんを見るも、そうは問屋が卸さなかった。

 

「横暴なの!」

 

「りっちゃんのケチ!」

 

「なんとでも言いなさい」

 

「ヒロインなりそこねメガネ!」

 

「好ポジションにいたにも関わらずツッコミ役に収まっちゃった残念キャラ!」

 

「んだとコラアアアァァァ!?」

 

 アイドル事務所の光景とは思えないような取っ組み合いの喧嘩が始まりそうだったので、伊織と響と一緒にその場を離脱する。

 

「全く……あぁでもしないとヤル気が出ないなんて信じらんない」

 

「あはは……でも二人の気持ちも分かるよ。本当に凄かったもんね……」

 

「ライブビューイングで見てた自分たちでもアレだけ衝撃的だったんだから、現地は本当に凄かったんだろうなぁ……」

 

 目を瞑りしみじみと感嘆の息を吐く響ちゃんに、伊織が「フンッ」と鼻を鳴らす。

 

「いつまでファン気分でいるつもりなのよ! アイドルなら『あのライブを超える!』っていう意気込みを持ちなさいよ!」

 

「……確かに、そうだね」

 

「ははっ、ホントーだな」

 

 響ちゃんと顔を見合わせて笑う。確かにそれが、良太郎さんが一番望んでいることだ。

 

「……なんだかんだ言って、一番良太郎さんのことを理解してるのって伊織なのかもね」

 

「は、はぁ!? そんなわけないでしょ変なこと言わないで!」

 

「またまたー、照れるなって」

 

「そうじゃなくて、そういうことを言うと……!」

 

 

 

「一体誰が!?」

 

「りょーにぃのことを一番理解してるってぇぇぇ!?」

 

「ホラ変なのがこっちに来たあああぁぁぁ!?」

 

 

 

 ……なんかホラー映画のようなオチになってしまった。

 

 

 




・新型コロナウイルスの影響
番外編でその辺りのネタも面白そう。動画ネタとか。

・「ゴメン、恋人を作ることは出来ません」
地図に残る仕事。大○建設。

・だからアイツと関わるの嫌だって言ってんだろぉ!?
いい加減に次話ぐらいで登場させます。

・「ヒロインなりそこねメガネ!」
いや、普通ならばメインヒロイン筆頭ぐらいのやり取りをしているはずなのに……。



 親父殿の帰還。周藤一家勢揃いしていると良太郎もほどよくツッコミに回るから書いてて面白かった(小並感)

 次は……三週間後ぐらいのお話かな?(曖昧)

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