アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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三週間……ではなく三ヶ月後のお話。


Episode67 夢から醒めて 3

 

 

 

「ついに、この日が来たね、しまむー」

 

「えぇ、この日が来ましたね、未央ちゃん」

 

 事務所の壁にかけられたカレンダーを見つつ、厳かな雰囲気をかもしだしながらそんなことを言い合う未央と卯月。その背中からは壮大な覚悟というかヤル気というか、そういう意志の強さが感じ取れた。

 

「随分と重々しいね」

 

「そういうしぶりんこそ、本当は気合い入ってるんじゃないの?」

 

 何を言ってるんだか……。

 

「そんなの当たり前じゃん」

 

「お、おぉ……しぶりんの目がマジだ……」

 

「なんて言ったって今日は――」

 

 

 

 ――123プロ感謝祭ライブの振り返り上映会なのだから。

 

 

 

 あの伝説の一夜から、早くも三ヶ月が経った。

 

 全国どころか世界中でLVを開催した感謝祭ライブだが、それでも尚もう一度見たいと渇望する人は大勢いる。そんな人たちのために、LVでの映像に加えて演者による舞台挨拶まで行う欲張りセットがこの振り返り上映会だ。これも全国の映画館などへ生中継される。

 

 そしてそんな振り返り上映会の演者挨拶の現地チケットを……なんと手に入れることが出来たのである!

 

 というのも『当日は関係者チケットあげれなくてゴメン』『その罪滅ぼしっていうわけじゃないんだけど……どうかな?』と良太郎さんが私のためにチケットを一枚融通してくれたのだ。

 

 ちなみに同じような理由で未央と卯月もそれぞれ恵美さんと冬馬さんからチケットを貰っており、加蓮と奈緒は自力で抽選に勝利。本番当日と同じメンバーで舞台挨拶に参加することになった。

 

「いやぁ……ようやく記憶を取り戻すことが出来るんだねぇ……」

 

 未央がしみじみと少年漫画のようなセリフを呟いていたが、言いたいことはよく分かった。

 

 正直に言うと、私もあの感謝祭ライブの記憶が殆ど無い。なんでも『好きという昂った感情を抑えながら見た情報は記憶に残りにくい』らしい。道理で良太郎さんのライブに参加するたびに軽い記憶喪失になっているはずである。

 

 ある程度はセットリストを見ることで思い出すことが出来るが、どんな感じだったのかを鮮明に思い出すことは至難の業だった。

 

「その、恥ずかしながら私もライブのときの記憶が殆ど無くて……」

 

「おっ、しまむーもかい」

 

「冬馬さんがこちらに向かって投げキッスをしてくれたことは覚えてるんですけど……」

 

「島村さんや」

 

 卯月も初めて出会ったときと比べると、随分といい性格になったものである。

 

「投げキッスしてくれたのは良太郎さんでしょ」

 

「渋谷さんや」

 

 ともあれ、これで忘れてしまっていたライブの内容を思い出すことは出来そうだ。

 

「……というか冷静になって考えてみたけど、そもそも私たちが舞台挨拶の会場に行って大丈夫なのかな?」

 

 未央が凄く今更な話をし始めたが、まぁ確かに懸念事項の一つであることには間違いなかった。大勢の人が集まるところにアイドルが集団で参加すること自体が身バレの危険性が高い行為だ。

 

 現に感謝祭ライブ当日の見切れ席で後ろに座っていた少女にも、結局私たちの正体がバレていたようだし。

 

 

 

 ――それじゃあ、また何処かで会おーね、()()()ちゃん。

 

 

 

 確か、妹さんからアマナちゃんと呼ばれてた少女はライブ終了後、感極まりその場から動けずにいた私に向かってそう言い残して去っていった。

 

 その言葉の意味を理解したのは、無事に家へ帰りシャワーを浴び遅い夕飯を食べてベッドに入って泥のように眠って朝になって目覚めて朝食を食べつつ昨日のライブのことを反芻しているときだった。我ながら随分と時間が経ってからである。

 

 ……しかし、()()()()()()()()っていうことは……もしかして、彼女もアイドルだったり? ……良太郎さんじゃあるまいし、そんなに簡単にアイドルと遭遇するはずもないか。

 

 閑話休題。

 

「でも身バレの危険があるからなんてつまらない理由で舞台挨拶の参加を見送るの?」

 

「それはないかな」

 

「ないですね」

 

 私の問いかけに未央と卯月は躊躇なく首を横に振った。だよね、私もそうだし。

 

「というわけで、良太郎さんから必勝の身バレ防止策なんてものを貰ってきました」

 

「え、なにそれ!?」

 

「そんなものあるんですか!?」

 

 ゴソゴソと鞄を漁る私に期待の眼差しを向ける二人。えっと、確かこの辺りに……。

 

「あったあった」

 

「……メガネ?」

 

「うん、伊達メガネ」

 

 そう、それは一見なんの変哲もない伊達メガネ。

 

「なんでも346プロに生息している妖精さんにおまじないをかけてもらったおかげで、これをかけるだけで身バレしなくなるんだって」

 

「なにその不思議アイテム!? むしろ秘密道具!?」

 

「346プロって妖精さんがいるですか!?」

 

 確かにツッコミどころは沢山あるし私も散々良太郎さんにしたが、これが意外と馬鹿に出来なかった。

 

「『嘘だと思うなら試してみるといいよ』って良太郎さんが言うもんだから、実際に私も試してみたんだけど……」

 

 あまりにも自信満々に言うもんだから、街中で人通りが多くさらに私の写真広告の目の前という圧倒的に身バレしやすそうな場所で、良太郎さんと二人でそれなりに騒がしくしながら自撮りを行ってきたのだが……。

 

「ビックリするぐらいバレなかった」

 

「へ、へぇ」

 

「そうなんですね~」

 

 そのときに撮った写真を見せながら二人に説明すると、卯月は素直に感心した様子だったが何故か未央の反応がイマイチ乏しかった。

 

(……仲良さそうに二人顔を近づけた状態のツーショットを見せられた私は、どんなリアクションをするのが正解なんだろうか……)

 

(ふふっ、良太郎さんと一緒に写真撮れて、凛ちゃん嬉しそうです!)

 

「というわけで効果は実証済みだから」

 

 二人に伊達メガネを渡す。全部で五つ貰っているから、あとは加蓮と奈緒にも渡さないと。

 

「ありがとうございます!」

 

「ありがとう……結局、その妖精さんっていうのは……?」

 

「さぁ?」

 

 元々サンタや吸血鬼がいるっていう噂が流れている事務所なんだし、妖精が増えたところで今更だろう。

 

 さて、振り返り公演の前に一仕事終えることにしよう。

 

 

 

 

 

 

「というわけで振り返り公演なわけだ」

 

「誰に対する説明なんですか」

 

「そりゃあもう、これをご覧の紳士諸君にだよ」

 

「淑女は居ないんですか……?」

 

 こんな小説に女性読者がいるわけないだろいい加減にしろ!

 

 さて、振り返り公演と同時に行われる演者による舞台挨拶。流石に123プロの全員での参加は色々と無理があったので、今回は俺・翔太・志保ちゃん・美優さんという四人が参加することになった。

 

「へぇ、ここから下が見えるよーになってるんだ」

 

「お客さん、集まってますね……」

 

 今回の会場は都内某所の劇場であり、現在俺たちは観客席を眼下に望むVIPルームに通されていた。今日はまずここで他のみんなと共に振り返り公演を鑑賞した後、下のステージに降りてライブの振り返りトークをするという流れになっている。

 

「いやぁ今日の振り返り公演、すっごい楽しみにしてたんだよ!」

 

「良太郎さんも出演していた側の人間じゃないですか」

 

「だって当日は自分の出番もあるからみんなのステージをゆっくり観てる暇はなかったし、今日まで一度も映像を見る機会もなかったし」

 

「僕も楽しみにしてたよ」

 

「その……私も……」

 

 俺の意見に賛同してくれた翔太と美優さん。

 

 視線だけで「志保ちゃんは違うの?」と尋ねてみると、志保ちゃんは「うっ」と言葉を詰まらせてツイッと視線を逸らしてしまった。

 

「志保ちゃんも楽しみにしててくれたようで楽しみだ」

 

「た、楽しみというか……その……」

 

 視線を逸らしたまま言葉を詰まらせる志保ちゃん。

 

「……寧ろ、怖いというか……」

 

「何が、怖いんですか……?」

 

「その……ステージの上で昂って、何か変なことしてなかったかなぁ、とか……」

 

「っ、そ、それは……」

 

 志保ちゃんの言葉に美優さんも顔を青褪める。

 

「二人とも、そこまで変なことはしてなかったと思うけどなぁ」

 

 寧ろ最後のステージ裏での一場面の方が色々とあっただろうけど……まぁ、その辺りは今日映されることはないから大丈夫だろう。

 

「それにしても……三ヶ月かぁ」

 

 スタッフが用意してくれたコーヒーに口を付けながら、しみじみと呟く。

 

「光陰矢の如し。まさしくこのことだね」

 

「しばらくは何処に行っても『ライブ凄かったです!』っていう感想ばかりでしたね」

 

「元々多かったお仕事が、さらに増えたような気がします……」

 

 四人でライブ後のあれこれを振り返る。

 

 一週間ぐらいは何処のメディアでも感謝祭ライブの話題で持ちきりであり、一ヶ月もすれば流石に落ちいたものの、セトリを一曲ずつ振り返っていくコラムを未だに連載している雑誌も存在したりする。

 

 そして注目は感謝祭ライブだけでなく、当然出演者である俺たちそのものにも向くことになる。元々仕事が多かった俺やジュピター、ピーチフィズはともかく、ケットシーの二人と美優さんの仕事も爆発的に増えた。少数精鋭な芸能事務所とはいえ、所属アイドル全員がここまで注目されるのも珍しい……と言いたいところだが、そういう点で言うならば765プロに一日の長があるかもしれない。

 

 そんな風にあまりにも話題に上がりすぎることで他のアイドルたちの活動に支障を来すのではないかという懸念事項もあったが、意外なことにそちらはそれほど大きな影響がなかった。寧ろアイドルもファンも『123プロが盛り上げてくれたのだから!』とより一層それぞれのアイドル活動やファン活動を勤しむようになったように見受けられる。

 

 ……それはまさしく、俺が目指していた形の一つだったため、思わず目頭が熱くなってしまったことは内緒である。

 

 そんな風に123プロダクションの感謝祭ライブが関係各所に与えた影響はとても大きく……そして俺たち自身にも大きな影響を与えたのだが。

 

「っと、そろそろ上映会の始まりだな」

 

「いつの間にポップコーンとコーラを用意したんですか」

 

「完全に観客気分……」

 

「あ、リョータロー君、僕にもちょーだい」

 

 それはまぁ、後にしよう。

 

 徐々に暗くなっていく劇場に期待を膨らませながら、俺は背もたれに大きく背中を預けた。

 

 

 

「あっ、振り返り公演を体験したい人は、今からEpsode29辺りに戻って読み返すといいよ」

 

「文量あるから結構苦行だよね、それ」

 

 

 




・振り返り公演
普通のライブだとこういうのないかもしれないけど、基本的にアイマスライブ基準。

・『その罪滅ぼしっていうわけじゃないんだけど』
形は違えど、ようやく現地チケットを確保。やったね凛ちゃん!

・記憶喪失
俺も早く名古屋と大阪の記憶を取り戻したい……。

・「冬馬さんがこちらに向かって投げキッスをしてくれたことは覚えてるんですけど……」
アイ転インストール完了済み。

・妹さんからアマナちゃんと呼ばれてた少女
こちらの正体はバレたものの、向こうのことは結局分からなかった模様。

・妖精のメガネ
なんかゼルダの伝説にありそうそうな名前になった。

・女性読者
いたら逆にビビる。



 次回、振り返り公演の舞台挨拶です。

 そして今度こそ正真正銘、外伝最終話です。
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