アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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123プロ五人娘最後の一人!


番外編52 もし○○と恋仲だったら 20

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「「「かんぱーい!」」」

 

「か、かんぱーい……」

 

 

 

 ワンテンポ遅れてしまったが、瑞樹さん、心さん、楓さんの掛け声に合わせて自身のコップを掲げる。あの、皆さんの大ジョッキって二キロぐらいあるって聞いたことがあるんですけど、どうしてそんなに軽々と持ち上げられるんですか……?

 

「「「……ぷはーっ!」」」

 

 そしてそのまま一気にビールを半分以上飲み干すお三方。凄いというか、純粋に少し引いてしまった。

 

「今日はありがとうね、美優ちゃん」

 

「いえ、こちらこそありがとうございました……」

 

 瑞樹さんの言葉にペコリと頭を下げる。

 

 今日は346プロの川島瑞樹さん、佐藤心さん、高垣楓さんの三人とお仕事をご一緒させていただき、そのプチ打ち上げという名目で飲み会のお誘いを受けた。というわけで彼女たちに誘われるがまま『しんでれら』という名の居酒屋にやってきた。

 

「いやぁそれにしても、あの美優ちゃんが123プロのアイドルになったって聞いたときはすっごい驚いたけど……今ではすっかり、トップアイドルの一員だな☆」

 

 口元に付いた泡を拭いながら空になったジョッキを机に置く心さん。心さんは高校のときの同級生だったので、なんとなく背中がむず痒いものがあった。……というか、もう飲んだんですか……!? 私、まだ一口しか飲んでないんですけど……!?

 

「そんな、私なんか、良太郎君たちに比べたらまだまだ……」

 

「その比較の対象に『周藤良太郎』が挙がる時点で相当アレだってこと、自覚してるか?」

 

「うふふ、流石『静謐の歌姫』ね」

 

「や、やめてください……!」

 

 その呼び方自体まだ自分自身で受け入れられていないというのに、よりにもよって『翠の歌姫』にそう呼ばれるのは色々な意味で耐えられない……!

 

「まぁまぁ、美優ちゃんが可愛いからってあまり弄りすぎないようにね」

 

「「は~い!」」

 

 瑞樹さんが助け舟を出してくれた。……いい人たちだということは今日の撮影で十分理解したのだが、それでもこの先お酒が入ることでどうなることか……。

 

「でも、本当に今日の美優ちゃん凄かったわ。楓ちゃんの後であれだけ堂々と歌えるアイドルなんて早々いないわよ?」

 

 冷ややっこを箸で切り分けながら、興味に満ち溢れた目で私を見てくる瑞樹さん。

 

「そうそう、本番前は顔真っ青で本当に大丈夫なのかって心配しちゃったけど、いざカメラが回り始めたらまるで別人だったぞ☆」

 

「とてもカッコよくてお綺麗でしたよ」

 

 同じような目の心さんに、どうぞとお酌をしてくれる楓さん。ようやく半分飲んだ私のコップが再び最初の状態に戻ってしまった。

 

「ありがとうございます……その、やはり大勢の人に見られるということに、どうしても慣れなくて……」

 

「……こう言っちゃ失礼かもしれないけど、それでどうしてアイドルになろうって思ったの?」

 

「……えっと……」

 

 瑞樹さんからのごもっともすぎる質問に、ツイッと視線が横に逸れる。

 

「……その、こんなことを言っては失礼だとは思っているんですが……わ、私も本当は、アイドルになるつもりはなかったんです……」

 

 私は大学の先輩である周藤幸太郎さんと同級生の和久井留美さんに声をかけられて、事務員として123プロダクションに入社した。あの『周藤良太郎』とそのプロデューサーが立ち上げた事務所という、よくよく考えたらその時点でトンデモないところに入社したものである。

 

 それでもお世話になった先輩のため、ついでに大成功間違いなしの宝船とも呼べる就職口という魅力には抗えず、私は意を決してそこに就職した。

 

 始めは『周藤良太郎』や『Jupiter』といったトップアイドルに会うだけでも緊張して身体が固まってしまったものだが、誇張抜きで明るく気さくな職場だったため、いつしか居心地の良さを感じるようになった。

 

 私には人前に出るような度胸がない。それでも事務員として、このアイドルとして輝く人たちを裏から支えることが出来る。それがとても誇らしかった。

 

 

 

 そして気が付けば、私もそんなアイドルになっていた。

 

 

 

「「どうしてそうなった!?」」

 

「あらあら」

 

 大変驚かれているが、本当に自分でもビックリするぐらい突然だったのだ。

 

 周藤先輩と留美さんに「ちょっと手伝ってほしいことがある」とスタジオに呼び出され、「こういう衣装、少しは興味ない?」という留美さんの口車に乗せられ、いつの間にか宣材写真を撮ることになり……。

 

「……何処かでおかしいって思わなかったの?」

 

「『試しにこの曲歌ってみない?』『ほら、今なら録音ブース空いてるからアイドル気分で』って収録をさせられたときは、流石におかしいと思いました……」

 

「それは流石に遅すぎじゃない!?」

 

 そのとき歌った曲が私のデビュー曲となる『Last Kiss』だった。ここまで来てしまっては既に私の逃げ場は無くなっており、そのままあれよあれよとアイドルデビューをすることになってしまったのだ。

 

「……でも」

 

 それまで黙っておつまみを食べていた楓さんが小首を傾げた。

 

「アイドルになったこと……後悔してるわけじゃ、ないんですよね?」

 

「……勿論です」

 

 人前は未だに慣れない。ステージに立つ直前は手も足も震えるし、鏡で見る自分の顔はいつも青褪めている。観客が多いときは、酷くなるとえずいたりもする。

 

 それでも。

 

「ステージの上から見える光景が……()()()()()()()へ向けて自分の歌を歌うのが……とても好きなんです」

 

「……うふふ、私もです」

 

 普段のクールな笑みではなく、花が咲くような楓さん。それに釣られるように、私の口元も自然に持ち上がっていた。

 

「……なんというか、『歌姫』同士だと気が合うのかしらね?」

 

「きっとはぁとたちとは見えてる世界が違うだろーな☆」

 

「っ、だ、だからそういうのじゃなくて……」

 

 そんな私たちを見ながら微笑ましげな表情を浮かべる瑞樹さんと心さんに、慌てて首と手を横に振る。

 

 ただ必死に歌っていただけなのに、いつの間にか『静謐の歌姫』なんて呼ばれ方をしているのかが本当に訳が分からなかった。

 

 それもきっと、良太郎君が――。

 

 

 

 ――いやぁ、最近の美優さん凄いですよね。

 

 ――きっと歌なら俺も敵わないかもしれません。

 

 ――祝え! ここに新たなる『歌姫』が誕生した!

 

 ――なんつって。

 

 

 

 ――なんてことをテレビで口にしたせいである。あの『周藤良太郎』がそんなことを発言してしまえば、当然世間は大きく取り上げるに決まっていた。そして気が付けば『静謐の歌姫』なんて大層な呼ばれ方をするようになってしまったのだ。

 

 別にそれ自体に文句を言いたいわけではないのだが、それでもこう、なんというか、もうちょっと何かなかったのかというか……。

 

「でもいいじゃない、『静謐の歌姫』。凄く清楚な感じで」

 

「そう呼ばれるの嫌なの?」

 

「嫌っていうわけじゃないんですけど……」

 

 心さんの問いかけにコップに口を付けながら頷くと、彼女はニヤリと口元を歪めた。

 

 

 

「そうだよな~折角()()()()がそう呼んでくれるんだもんな~☆」

 

 

 

「ぶっふ!」

 

 我ながらアイドルとして人にお聞かせ出来ないような音と共に、口の中のものを吹き出してしまった。

 

「にゃ、にゃにを言って……!?」

 

「「「ふっふっふ~」」」

 

 見ると、心さんだけじゃなくて瑞樹さんと楓さんまでニヤニヤと笑っていた。

 

「それで隠せてると思ったら大間違いよ~美優ちゃん」

 

「話してるときも、()()()()に限って目が違ったぞ☆」

 

「名前が出る度に口元が緩んでましたよ~」

 

「だ、だから何を……!?」

 

 

 

「周藤良太郎君、好きなんでしょ?」

 

 

 

「ひゅっ」

 

 それは肺から空気が抜け出る音だった。

 

「大丈夫、隠さなくても分かってるぞ☆」

 

「そもそも、いつもお財布からツーショット写真がチラチラ見えてたわよ」

 

「仲良さそうに映ってますよね~」

 

「っ!?」

 

 今は見えていないと分かっていても、思わずお財布が入ったカバンの口を手で押さえてしまった。

 

「正直、今時写真を財布の中に入れておくのもどうかと思うけど、そういうことしちゃう辺りが美優ちゃん可愛いわ」

 

「はぁとたちだから良かったけど、今後はちゃんと気付かれないようにしろよ☆」

 

「………………はい」

 

 顔から火が出るというのはまさにこのことだろう。耳どころか首筋まで熱くなっているのを感じた。

 

「よし、それじゃあ今日はその辺りを根掘り葉掘り聞いていこうかしら」

 

「えっ……?」

 

「ほらほら、飲んで白状しちゃえ☆」

 

「えっ……!?」

 

「うふふ、ちゃんと話してくれるまで、楓さんは返(で)さんわよぉ~」

 

「えぇっ……!?」

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 本日の収録を終え、さぁ帰ろうと自分の車に乗り込んだと同時にスマホが着信を告げた。

 

「美優……?」

 

 一体全体、こんな時間にどうしたのだろうかと内心で首を傾げつつ通話ボタンを押す。

 

「もしもし、どうしたんだ?」

 

『りょーたろーくんは、わらしのこと、あいしてますか!?』

 

 その第一声だけで酔っていることを理解した。

 

(ふむ……)

 

 一体全体どうしてこんな状況になっているのかを考える。

 

 確か、今日は川島瑞樹さん、佐藤心さん、高垣楓さんと一緒に仕事をして、そのまま食事をしてくるという連絡があったはずだ。時間的にはまだその食事が続いていてもおかしくない。というか、その食事の席でお酒を飲んで酔っ払ったというのが自然の流れだろう。そしてそうなると、今この電話の向こう側には美優だけじゃなくて、その三人もいるはずだ。

 

 そんな状況でこんな電話がかかってきたということは……。

 

(……バレたか)

 

 俺と美優の関係を隠していなかったと言えば嘘になる。お互いに現役のアイドルの身として、しばらくは秘密にしておくつもりだった。それでもずっと隠し続けるわけではなく、いつかは世間に公表して()()()()()()()とも考えていたが……美優さんや、少々バレるのが早すぎやしませんか?

 

『りょーたろーくーん……ろーなんですかぁ~? あいしてくれないんですか~?』

 

 美優の声に少々泣きが混ざり始めた。少々聞こえる息遣い的に、多分三人とも聞き耳を立てていることだろう。

 

 ならばいっそのこと、その三人にも聞かせるつもりの言葉を選ぶとしよう。

 

「……あぁ、勿論愛してるよ」

 

 初めて会った時、俺は美優が()()()()()()ことを知っていた。そんな彼女の心の隙間を付け込んでしまったようで心苦しくもあったが……それ以上に、俺は三船美優という女性の涙を見たくなかった。

 

「俺は貴女が好きだった人の代わりにはなれない。でも周藤良太郎として貴女を愛し、貴女を幸せに出来るという自信がある」

 

 それを自惚れだとは思わない。俺が世界一のアイドルになったのは、きっと彼女のためだと言い切れる。

 

「俺の全てを捧げても、周藤良太郎は三船美優を全力で愛そう」

 

 だから。

 

 

 

「だから美優、お前の愛を俺にくれ」

 

『……はい。わたしのあい……あなたに、ささげます』

 

 

 

「……というわけだから、これを聞いているであろうお三方、内密にお願いしますねー」

 

「「「っ!?」」」

 

 息を飲む音とバタバタと離れていく音が聞こえた。

 

「……あんまり飲みすぎるなよ、美優」

 

『……はい、良太郎君』

 

 

 

「……バレてたみたいね……」

 

「す、すっげぇ惚気聞かされたな……」

 

「こ、こっちが照れちゃいますね……」

 

 

 




・周藤良太郎(21)
全略(※ここの説明枠もういらないよね?)
時系列的にはIE終了後の第六章開始直後ぐらい。
相手が相手のため、結構真面目にお付き合いをしている。

・三船美優(27)
若い燕を手に入れたような形だが、実際には良太郎が落とした形。
年下の男の子に呼び捨てにされて少々キュンとしている模様。
なんか既に『嫁』の貫禄が出ているような気がする。

・瑞樹さん、心さん、楓さん
当初普通に『川島片桐高垣』トリオで書いていて「ちげぇ早苗ねーちゃんはいない」と気付いて慌ててしゅがはを登板。

・『しんでれら』
なんでデレマス編が終わってからの方が出番が多いのか……。

・『静謐の歌姫』
本当は美優さんのイメージカラーを使おうと思ったのですが『浅葱の歌姫』ってなんか字面がアレだったので……。

・祝え!
この先も延々使われ続けそうなウォズさん。



 というわけで123プロ三人娘最後の一人、美優さんの恋仲○○でした。事務員としてでも事務所に引き入れておいてよかった……。

 次回は本編……ではなく、また番外編です。

 何故って? 作者は()()がシンデレラになると信じてますので。

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