Lesson229 新時代、到来
――引退を決意したきっかけはなんだったのでしょうか?
そうですね……一言で言うなら『後進のため』です。
これ以上『周藤良太郎』の存在が他の後輩たちの出番を奪わないように、この業界から身を引こうと決意したんです。
――ファンの方から引退を惜しむ声が殺到していると伺っていますが。
――勿論、後輩の方々からも。
ありがたい話ではあります。
それでも、やはり自分はこの世界に少し長く身を置きすぎてしまいました。ファンの皆さんの暖かい声がとても心地よくて、自分自身この世界がとても楽しかったんです。
なにせ、自分の小さい頃の憧れだったんですから。
――それでも、引退の決意は変わらないと?
はい。
でも、一つだけ誤解しないで欲しいのは、俺はなかったことにしたいわけじゃないんです。
俺にとってもかけがえのないもので、この先の発展を願うからこその決断だと言うことが分かってもらえると幸いです。
――ありがとうございます。
――それでは最後に、ファンの皆様へ一言お願いします。
えっと、皆さん。今まで応援してくれてありがとうございました。
俺がこうして皆さんの前に出てくる機会はこれが最後になりますが、俺は『この世界で戦っていたんだ』という誇りを、この先の人生でかけがえのない宝として胸に抱いて生きていきます。
これからは俺もこの作品の一ファンとして、この作品を愛する一人として、見守らせてください。
覆面ライダー天馬、周藤良太郎でした。
アイドルの引退会見かと思った? 残念! アイドルじゃなくて覆面ライダーでした!
「す、周藤さん……! 今まで……今まで、お、お疲れさまでした!」
「……どぞ」
「ありがとう、二人とも」
今期の『覆面ライダーデク』の主演である覆面ライダーデク役の
「これからの『覆面ライダー』をよろしくね」
「は、はい!」
「……アンタを超えるライダーになってやるよ」
「……期待してる」
『覆面ライダー』からの引退。それは少し前から考えていたことだった。
俺がサブライダーの覆面ライダー天馬として出演させてもらった『覆面ライダー竜』は既に五年前の作品だ。それでも『周藤良太郎』人気も相まって後輩ライダーたちの劇場作品などに何度も客演させてもらった。
しかし、そこでふと思ってしまったのだ。流石に過去作のライダーがいつまでも表に立ち続けるのはいかがなものか、と。
勿論覆面ライダー自体は俺も大好きなので出演することは大歓迎だ。なんならわざわざ毎年ライダー枠として仕事の枠を確保しておくぐらいには力を入れていた仕事と言っても過言ではない。
だが『周藤良太郎』という名前の大きさがネックになってきた。覆面ライダーなどの特撮物は若手俳優たちの登竜門であり、彼らが世間に名前を売る最高の環境だ。そんな作品にいつまでも『周藤良太郎』が出演し続けることによる弊害を考えてしまった。
今更かも知れない。けれど、このまま出演を続けて『覆面ライダー』=『周藤良太郎』という認識が強くなってしまう前に、俺は身を引かなければならない。
故に今回の劇場作品『覆面ライダー天馬』を最後に、覆面ライダー作品からの引退を決めたということだ。
「よっ! お疲れさん!」
今日はそのクランクアップとインタビューと写真撮影。ゲストとして登場してくれた二人からの花束を受け取ると、新たに花束を手にして現れた男が一人。
「城之内!」
『覆面ライダー竜』の主演を務め、その後は俳優から引退してしまった
「久しぶりだな」
「劇場版の撮影以来だな」
となると、四年ぶりになるのか……。
花束を受け取ってからコツンとお互いの拳を合わせる。
「うわぁっ……! か、かっちゃんかっちゃん! ど、ドラゴンだよ! 覆面ライダー竜の城之内克也さん! 俳優引退しちゃってからは一度も芸能界に顔を出してなかったらしいのに! いるよ! すぐそこに本人がいるよ!」
「体揺するんじゃねぇクソナード!」
幼馴染同士だという後輩ライダー二人が仲良さそうに戯れているのをチラリと横目で見てから、視線を城之内へと戻す。
「今日はわざわざこのために来てくれたのか?」
「おうよ! 一緒に財団Rの陰謀を食い止めた仲間の、華々しい引退だからな! 俺が祝わなきゃ誰が祝うってんだよ!」
そう言いながら城之内はバシンバシンと背中を叩いてくる。痛い痛い、スキンシップならもうちょい弱めで頼む。
「しっかし、あのデビューしたての新人アイドルだった周藤が、今ではとんでもないアイドルになったもんだな!」
「いや、一応あの頃もそれなりに騒がれてた人気アイドルだったんだけど」
自分で言うのもなんだが、例の『始まりの夜』の一件で覆面ライダー俳優として抜擢されたときからかなりの知名度だったと自負している。
「お前ぐらいだぞ、そんなこと言うの」
「いやぁ、相変わらずアイドルっていうもんには疎くてな!」
だーっはっは! と笑う城之内。
一先ず、覆面ライダー竜と覆面ライダー天馬の五年ぶりの再会ということでそのまま写真撮影へ。
お互いに握手をしながらカメラに目線を向けつつ、ポソポソと会話を続ける。
「今は
「おっ! 俺も中々名の知られたプレイヤーになったもんだな!」
『根っからのギャンブラー』とか『博打野郎』とか『カードゲームだからって運ゲーも大概にしろ』とか『運に根性と気合いを持ち出すんじゃない』とか散々な言われようだったのは黙っておくが、多分知られたところで気にしないんだろうなぁ。
「しかしギャンブラーとディーラーのカップルとは、お似合いな二人だよ全く」
「へ? カップルって誰のことだ?」
「お前マジか……!?」
一昔前の恭也みたいなことを言い出した城之内に驚愕する。お前、アレだけ
「カップルといやぁ、お前こそどうなんだよ?」
「俺?」
「アイドルとはいえ、好きな女の一人や二人いるだろ?」
城之内はニヤニヤとゲスい笑みを浮かべながらそんなことを尋ねてくる。現在進行形で写真撮影をしているというのにその表情は如何なものかと思われるかもしれないが、『覆面ライダー竜』の作中でも似たような表情を浮かべていたのである意味お馴染みの表情だった。
「ほれほれ、一緒に世界を救った仲なんだから、教えてくれてもいいじゃねぇかよ~」
握手をしたまま反対の肩をゴツゴツとぶつけてくる城之内。
「……あぁ、いるぞ」
「へ?」
「好きな人」
「……え」
「はい、撮影終わりー」
そろそろ次の現場があるため、俺はここまでである
「ちょっ、お前!? 今俺にしか聞こえないような小声でとんでもないこと言いやがったな!?」
「さて、なんのことやら」
詰め寄って肩を掴んでこようとする城之内をヒラリと避け、さっさと現場を後にする。
あートップアイドルは忙しいなー。
「おい待て周藤!」
「あ、あの! 城之内さん! さ、サインお願いできますか!?」
「……おう、いいぜ。そっちのお前はいらねぇのか?」
「………………」
「あ、これかっちゃんの分の色紙なので、こっちもお願いします」
「クソナードオオオォォォ!」
世界一のアイドルを決める史上最大の大舞台『アイドルエクストリーム』の激闘から、早くも二ヶ月が経とうとしていた。
二週間という長期間におよぶ異例のコンテストの様子は世界中に配信され、多くの人々に影響を及ぼした。特に日本ではその影響が大きく、社会現象にまでなってしまった。
『日高舞』が巻き起こした第一次アイドルブーム、彼女の引退と共に訪れたアイドル冬の時代を終わらせた『周藤良太郎』の第二次アイドルブームに続く、新たなるアイドルの波。
すなわち、第三次アイドルブームの到来である。
第二次アイドルブームから間を置かずにやってきたこの新たな波は、多くの芸能事務所とアイドルたち、さらにアイドルが立つためのステージや劇場を生み出した。誰もが気軽に『アイドル』という職業を目指すことが出来る風潮は賛否両論あるが、俺自身はそれが悪いことだとは思っていない。
アイドルは偶像であり星でもある。その数だけ夢と可能性があるのだ。
「おっ、凛ちゃんたちだ」
次の現場が近かったため徒歩にて移動中、見上げた看板にニュージェネの新曲リリースの告知のポスターが大きく貼られていた。
変装の眼鏡を少しズラしながら見上げたそれは、既に彼女たちがトップアイドルに片足を踏み入れたことを感じさせる。
「………………」
「よろしくお願いしまーす!」
ほんの少しだけ感傷に浸っていた俺の意識を引き戻したのは、そんな少女の声だった。
いつもの流れならばここで知り合いの少女たちが登場する場面だが、残念ながらそれは見知らぬ少女たちだった。
「今度ステージがありまーす!」
「是非見に来てくださーい!」
道行く人たちのチラシを手渡しているのは、学校の制服姿の少女たち。
ちょうど進行方向なので、俺もそのまま彼女たちからチラシを受け取る。その際、軽く「頑張ってね」と声をかけるとパァッと明るい笑顔で「「「ありがとうございます!」」」と頭を下げられてしまった。当然俺の正体に気付いたわけではないだろうから、こうして声をかけられたことが純粋に嬉しかったのだろう。
再びチラシを配り始めた少女たちの声を背中で聞きながら、視線をそのチラシに落とす。とても手作り感溢れて贔屓目に見てもプロの仕事ではないそれには、とあるアイドルのステージの告知が記載されていた。
そのとあるアイドル、というのが今回の第三次アイドルブームの最も大きな特徴と言っても過言ではない存在。
――スクールアイドル。
簡単に言えば『部活動としてのアイドル』である彼女たちは、悪い言い方をすれば地下アイドルよりもさらにアマチュアで、良い言い方をすれば誰もが気軽に志すことが出来るアイドルだ。
アイドルの部活という存在を学校が認めるほどのアイドルブームということだろうが、正直にいうとここまで来るとは想像していなかったのが本音である。これまでも前世よりもアイドルというものが浸透している世界だとは常々思っていたのだが、まさか部活にまで発展するとは思いもしなかった。
しかし、俺が想像すらしていなかったそれを、ずっと前から予想し行動していた奴がいたことも事実だった。
「……『UTX学園』芸能科アイドルコース……ねぇ」
ホント、経営者としても一流なんだよなぁ……
・覆面ライダーからの引退
以前「流石に過去ライダーなのに表に出すぎでは?」みたいな指摘を受けて「確かに!」と納得してしまった。
・緑谷出久
・爆豪勝己
『僕のヒーローアカデミア』の登場キャラ。この世界ではライダー好きな高校生で、スタント志望の俳優の卵みたいな感じ。
ちなみに覆面ライダー爆轟は誤字ったらそれっぽかったからそのまま起用。轟君? はて……?
・城之内克也
『遊戯王』の登場キャラ。この世界では元俳優の現プロゲーマー。
覆面ライダー竜の変身者と考えた結果、なんとなくイメージにぴったりだった。
もしかして→ロード・オブ・ザ・レッド
・M&W
遊戯王作中内のカードゲーム名を覚えている人が果たして何人いることやら。
・孔雀舞
『遊戯王』の登場キャラ。
この世界ではディーラーで(多分)城之内の恋人(仮)
・「好きな人」
(´3`)~♪
・スクールアイドル
『ラブライブ』に登場するキーワード。要するにアイドルの部活動。
・UTX学園
こちらも『ラブライブ』に登場する学校。
この世界ではその存在に麗華が深く関わっているが、詳しくは次回。
いよいよ始まりましたミリマス編です! ……ミリマス編です!(再確認)
……おっかしいなぁ……なんでこんなラブライブ編の冒頭みたいな感じになってるんだろう……。
ミリマス編は漫画を元にストーリーを考えていたのですが、そのままだと少々内容的に物足りないかなぁと考えたため、少々設定というかお話を盛ろうとした結果こうなりました。
なのであくまでエッセンス程度のラブライブ要素になりますので、そちらを期待されている方には申し訳ありません。
しばらくは今回のような説明回が続きますが、もう少しお付き合いください!