アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

362 / 556
やっぱり123のアイドル書いてると落ち着くなぁ……。


Lesson238 私、アイドルになりました! 2

 

 

 

「初めて765プロの事務所に……か」

 

 未来ちゃんへのメッセージを送りつつ、俺が初めて765プロへ行ったときのことを思い返す。あの頃はまだ春香ちゃんたちの存在を知らず、りっちゃんがアイドルからプロデューサーに転向したって聞いたから、ただその激励に行っただけだったんだよなぁ。

 

「あれから大体三年……か」

 

「んー? 何が三年なんですかー?」

 

「765プロ、とも仰ってましたね」

 

 俺の呟きを聞こえていたらしく、我が123プロのラウンジのソファーに座って寛いでいた恵美ちゃんと志保ちゃんが反応した。

 

「俺が765プロのみんなと初めて会ってから三年経ったなーって。あの頃のみんなは鳴かず飛ばずの無名アイドルだったんだよねぇ」

 

「……あの765プロが無名、ですか」

 

「そうそう、天下の天海春香と如月千早が街頭でCD手渡し会とかしてたんだよ?」

 

「それ、今やったら大混乱になるんだろーなー」

 

 なんとも言えない表情の志保ちゃんに対し、ケラケラと笑う恵美ちゃん。

 

 恵美ちゃんの言う通り、日本を代表する()()()()()()()と称される『天海春香』と、世界に誇る『蒼の歌姫』と称される『如月千早』が街頭でCDの手渡しなんてしようものなら、交通事故の一つや二つは覚悟しなければならないだろう。……俺だったら? いくら民度が高いと有名な俺のファンでも、控えめに言って流血沙汰が起こるかな。

 

「でも、それは今の恵美ちゃんと志保ちゃんでも同じでしょ」

 

「……そうだといいのですが」

 

「自信持ちなって志保ー。アタシたちもチョー頑張ってるんだからさー」

 

 謙遜の姿勢を崩さない志保ちゃんの肩をポンポンと叩く恵美ちゃん。彼女たちもとうの昔に()()()()()()()の仲間入りを果たしているのだから、突然街頭に立とうものならば大混乱間違いなしである。

 

「ねーまゆ! まゆもそー思うよね?」

 

 恵美ちゃんは振り返り、自身のユニットメンバーであり親友でもあるまゆちゃんに話しかける。

 

「……あ」

 

 

 

 しかし、そこにまゆちゃんの姿はない。

 

 そう、まゆちゃんはもう……いないのだ。

 

 

 

「………………」

 

「……あの、恵美さん……」

 

 先ほどまでの明るい表情が影を潜める恵美ちゃんに、志保ちゃんはどんな言葉をかけるべきか悩み、そして自分自身も言葉を失っていた。

 

「……全部、俺のせいだよ。二人とも気にする必要はないさ」

 

「そんな、リョータローさんの……せいじゃ……」

 

 尻すぼみになっていく恵美ちゃんの言葉が答えだった。

 

 これは俺のせいなのだ。

 

「俺が……」

 

 

 

 ――それじゃあいくよ、まゆ!

 

 ――勝負です! 恵美ちゃん!

 

 ――あっちむいてー……!

 

 ――やっほー、こんにちわー。

 

 ――あっ! 良太郎さぁん!

 

 ――ホイッ!

 

 ――……あ。

 

 

 

「……恵美ちゃんとまゆちゃんが『どっちが失踪中の志希を探しに行くかを決めるあっちむいてホイ対決』をしている最中にラウンジに入ってきたばっかりに……」

 

「あれは……悲しい事故だったね……」

 

「そもそもの原因は失踪した志希さんですし……というか、冷静になって考えると何でわざわざあんなことしてたんでしょうね……」

 

「まゆがたまには別の方法で決めようって言い出したから……」

 

 そう考えるとまゆちゃんにも責任の一端はある気がしてきた。

 

 ちなみに防犯カメラの様子から志希は事務所の外に出ていないようなので、今頃まゆちゃんは涙目になりながら無駄に広い事務所内を駆け回っていることだろう。

 

 先ほどから「志希ちゃあああぁぁぁん!? 何処ですかあああぁぁぁ!?」という涙交じりの叫び声が聞こえてくるが、まゆちゃんは強い子だからきっと大丈夫である。あと十五分ほどで留美さんが志希を迎えに来るので、是非それまでに見つけ出してほしい。

 

「……765プロで思い出しました」

 

 流石にあと五分ぐらいしたら俺も手伝いに行こうかなーとか考えていると、志保ちゃんが膝に乗せていた絵本をパタンと閉じた。

 

「良太郎さん、最近よく765プロライブ劇場へ行っているそうですね」

 

「あれ、なんで知ってるの?」

 

「劇場内で大分噂になっているらしいですよ、松田亜利沙さんの知り合いの『遊び人のリョーさん』という謎の人物が」

 

 どうやら順調に噂が広まっている様子である。

 

「……もっとも、このことを教えてくれた可奈は『誰なんだろね!?』と全く気付いた様子がありませんでしたけど」

 

「可奈ちゃんぇ……」

 

「ま、まぁ可奈は純粋だったから……」

 

「ちなみにその場に一緒にいた星梨花が苦笑していたところを見るに、彼女は気付いていましたよ」

 

 恵美ちゃんのフォローをバッサリと切り捨てる志保ちゃん。星梨花ちゃんを引き合いに出すことで友人に容赦なく『アホの子』のレッテルを張ろうとする辺り、名刀もビックリするほどの切れ味である。本当に志保ちゃんは可奈ちゃんと仲がイイナー。

 

 しかしそれだけ『遊び人のリョーさん』が浸透しているとなると、既に千鶴の奴にもバレていると考えるのが妥当だろうか。これからは彼女も劇場内の内通者として動いてもらうことにしよう。

 

「それで、346プロが落ち着いたかと思えば今度はまた765プロですね」

 

「……あ、そっか。またリョータローの気になる子が現れたってこと?」

 

 志保ちゃんの言わんとすることを察した志希が納得した様子で頷いた。

 

「まぁ、気になると言えば気になる……のかな」

 

 元々の目的は『麗華が見つけたアイドルの卵三人がお世話になる予定の劇場に、あらかじめ顔を出しておく』という目的だった。だから初対面となる新人アイドルたちにサプライズの一つや二つ……と考えていたのだが、愉快な子(みらいちゃん)と知り合ってしまったので少々予定を変更したのだ。

 

「三人も気になるだろ? 麗華のアイドル学校で、麗華が見つけて、麗華が指導に回ってるアイドルが、一体どんな子たちなのか」

 

「……そりゃあ、まぁ」

 

「めーっちゃ気になります!」

 

 今はまだ卵も卵。しかし将来的には『東豪寺麗華の秘蔵っ子』とも称される可能性を秘めた原石だ。アイドルとして気にならないやつはいないだろう。ここにはいないが、きっと冬馬たちだって興味を示すはずだ。

 

「私はそこまでー」

 

「志希、お前はもうちょっと興味を持て」

 

 それは未だ学生である彼女たちにとっての重しになるかもしれないが、麗華に見初められた以上それぐらいの覚悟は決めてもらいたい。

 

「まぁ実際、それぐらいのプレッシャーを背負ってるぐらいが丁度いいんだって」

 

 興味? 期待? そんなもの、()()()()昇りつめればジンバブエドルの札束よりも多く背負うことになる。

 

「それに、プレッシャーは多ければ多いほど、後々強みに変わる」

 

 知ってるか?

 

 

 

「プレッシャーっていうデバフは、あるレベルを超えると()()というバフに変わるんだよ」

 

 

 

「「……デバフ? バフ?」」

 

 この単語は知らなかったかー……。

 

 

 

「うえええぇぇぇん……! 見つかりませんんん……」

 

 ガチャリとドアが開き、半ベソのまゆちゃんがラウンジへと入って来た。普段は志保ちゃんや志希に対してお姉ちゃん然としているまゆちゃんだが、こうやってベソかいてヘニャっている姿もこれはこれで可愛い。

 

 よよよと恵美ちゃんの膝に泣きつくまゆちゃんの頭を、恵美ちゃんが優しく撫でる。

 

「志希ちゃん、何処に行ったんですか~……この部屋には来てないですよねぇ~……?」

 

「アハハッ、当たり前じゃん。志希がいたら流石にみんな気付いて……」

 

 ………………。

 

「「「……ん!?」」」

 

 バッと一斉にラウンジ中を見回す俺と恵美ちゃんと志保ちゃん。

 

 当然、志希の姿はない。

 

「? どうしたんですかぁ、いきなり……」

 

「な、なんでもないよ、まゆちゃん!」

 

「ア、アタシたちも志希探すの手伝うよー!」

 

「よ、四人で探せばすぐに見付かりますよ!」

 

 突然協力的になった俺たちに対して、何の疑問も抱かずに「ありがとうございますぅ!」と涙するまゆちゃん。そんな彼女に対して抱いた感情は、きっと恵美ちゃんと志保ちゃんが抱いたそれと全く同じものだという確信があった。

 

 ……いや、マジでゴメン……。

 

 

 

 

 

 

「でへへ~、ごめんなさーい! 一日勘違いしてました!」

 

 まさか明日だったとは思わなかった。きっと今日が楽しみすぎたせいだろう。

 

「ふふっ、未来ちゃんはうっかり屋さんなのね」

 

 よく言われます!

 

「でもいいわ、折角来てもらったんだから今日の内に済ませちゃいましょう」

 

 来客用の椅子に座る私の前の机にジュースとお菓子を置いてくれた音無さんは「書類を用意してくるからちょっと待っててね」と言って事務所の奥へと行ってしまった。

 

「ふぅ」

 

 ストローでジュースを一口。

 

「………………」

 

 お菓子をパクリ。

 

「……見学して待ってよっと!」

 

 折角芸能事務所という普段入ることが出来ない建物の中に入ることが出来たのだから、色々と見てみたい! もしかしたらアイドルのサインとか貴重なアイテムとか、そういうのを見れるかもしれない!

 

 まずはこの衝立の向こうから!

 

「……あ、誰かいる」

 

 衝立の向こう、ソファーの上に誰かがいた。

 

 背もたれの方を向いて横になっており、小さく「すぅ……すぅ……」と寝息が聞こえてくる。もしかしなくても寝ているようで、私からは金色の綺麗な長髪しか見えなかった。

 

(……金色の毛虫みたい)

 

 そんな感想を抱きながら「もしかしてこの人もアイドルなのかなー」とその人の顔を覗き込んだ。

 

「……っ!?」

 

 思わず叫び出しそうになった口を咄嗟に抑えることが出来た自分を誰か褒めてほしい。

 

 

 

(ほ、ほ、星井美希ちゃん!?)

 

 

 

 私が知っている数少ないアイドルだった。

 

 ほんの少し期待していたところはあるが、それでもまさか本当にこんな凄いアイドルに出会えるとは思っていなかった。しかもお昼寝中という超絶レアな姿で、だ。

 

(顔ちっちゃーい! 睫毛ながーい!)

 

「むにゃ……」

 

(そんでもっておっぱいデカーい!?)

 

 ゴロンと寝返りをうったことで彼女の豊かな胸部が無防備に揺れた。

 

「こらっ! その手はなに!」

 

「はっ!?」

 

 思わず触ろうとしてしまった自分の右手を左手でペシリと叩き落とす。危ない危ない、まさか同性の私ですら魅了してしまうとは……。

 

 私を止めてくれたのは、先ほどの女の子だった。

 

「全く、さっきの反応といい、まるでリョウタロウ君ね……いや、彼の場合は同じ状況でも精々ガン見する程度か……」

 

 リョウタロウ君……? 765プロの男性アイドル……はいなかったはずだから、スタッフの誰かだろうか。

 

「それより、美希ちゃんは休憩中なんだから邪魔しちゃダメじゃない」

 

 女の子は「めっ!」と人差し指を立てる。

 

 ……うーん、見た目はやはり可愛らしいただの女の子。しかしこの態度、もしかしてやっぱりこの子が……。

 

「あの、一つ聞きたいことがあるんですけど……」

 

「あら? 何かしら? その態度、もしかして私が大人のレディーだってちゃんと理解して――」

 

 

 

「怪しい薬を飲まされて体が子供になっちゃった女性って、貴女のことですか?」

 

「――誰だそんな怪しい噂流した奴はぁ!?」

 

 

 

 すっごくこわかった……。

 

 

 




・123四人娘
今回の時点で
恵美(18) 高3
まゆ(17) 高3
志保(16) 高2
志希(17)となっております。

・そこにまゆちゃんの姿はない。
シリアスかと思った? 残念! 盛大な前フリでした!

・ジンバブエドルの札束
最終的に100兆ジンバブエドルのお札は0.3円ほどの価値にしかならなかったそうです。
なので天井(9万円)するためには3000京ジンバブエドルが必要となります(テストには出ません)

・バフ デバフ
まぁ普通にゲームやってるぐらいじゃこんな単語使わないよね。

・「「「……ん!?」」」
しきにゃんをさがせ。

・金色の毛虫
金髪毛虫と呼ばれていた頃が懐かしい……。

・「こらっ! その手はなに!」
・「はっ!?」
実は半公式的な設定で大乳スキーな未来ちゃん。こいつぁ良太郎と組ませ甲斐がある子だぜ……!



 めぐみぃたち書くのすっごい久しぶりな気がするゾ……。

 ちなみにりょうりんに対するまゆのアレコレはもうちょっと後。別にギスギスとかシリアスにはならないのでご安心を。

 次回はようやく劇場へイクゾー!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。