アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ミリマス編初の恋仲○○は彼女から!


番外編54 もし○○と恋仲だったら 22

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「はぁ……」

 

「ん? どないしたん?」

 

 レッスン後、お腹が空いたという奈緒ちゃんのためにチャーハンを作って上げているのだが、思わず出てしまったため息を奈緒ちゃんに聞かれてしまった。

 

「なんか悩みでもあるんか? レッスン中も注意散漫やって何回か注意されとったし」

 

「あはは……ちょっとだけ、ね。はい、お待たせ」

 

「おぉ、ありがとぉ!」

 

 しっかりと手を合わせて「いただきます」をしてから食べ始めた奈緒ちゃんの向かいに座る。よほどお腹が空いていたらしい彼女の食べっぷりを見ていると……少しだけ私を悩ませるそれを嫌でも思い出してしまった。

 

「……私でよかったら相談に乗るで?」

 

 そしてそれを奈緒ちゃんに気付かれてしまったらしい。

 

「でも……」

 

「私らの仲やん、遠慮せんでなんでも話してや」

 

「……ありがとう」

 

 本当は私だけで解決するべき問題だとは思っていた。しかし、やっぱり誰かに聞いてもらうことで何か気付くことがあるかもしれない。

 

「実は良太郎君(こいびと)とのことなの」

 

「っ! ……なんか、あったんか?」

 

「あったというか……なかったというか……」

 

 良太郎君と恋人になって早半年。恋人になってからも良太郎君はいつも通りちょっとだけ意地悪で、けれどそれと同じぐらい優しくて、こんなにも人を好きになれるのかと毎日ずっとドキドキしていて……。

 

 それでも、私の胸の中にはほんの一つまみのモヤモヤが残っていた。

 

 

 

「良太郎君、大きくなってくれないの」

 

 

 

「ごふっ」

 

「ん、大丈夫?」

 

 突然、奈緒ちゃんが咽始めた。

 

 変なところに入ったのか、それとも喉に詰まったのか。どちらにせよ水を渡すことに間違いはないだろうから、水差しからコップに水を灌ぐ。コップを受け取った奈緒ちゃんが勢いよく水を飲み始めたので、どうやら後者だったらしい。

 

「もう、落ち着いて食べないと危ないよ?」

 

「だったら食事中に変なこと言うのやめぇや!」

 

 何故か憤慨した様子の奈緒ちゃんがコップを机に叩きつけるように置く。コップ割れちゃうよ?

 

 というわけで、これが私の目下の悩み。良太郎君が全然私好みのふくよかな体型になってくれない、ということだ。

 

 良太郎君のことが大好きで、今の彼に不服があるわけではない。けれど少しだけ、ほんの少しだけ『これだけ好きなのに、体型がふくよかになったら一体どれだけ好きになってしまうのだろう』と考えてしまったのだ。

 

 勿論、良太郎君はアイドルなので体型を崩すなんてナンセンスなことだ。そのことを私も理解しているのだが……それを抜きにしても、良太郎君は全く太らない。恋人になってから同棲を始めたので、これはチャンスと良太郎君の食事を全て私が作っているのだが、それはもうビックリするぐらい太らないのだ。

 

「た、確かに『遠慮せんでなんでも話してや』っちゅーたのは私やけど……そ、その……よ、夜の話なんて思うわけないやん……」

 

 顔を真っ赤にゴニョゴニョと言葉を濁してしまった奈緒ちゃん。

 

 夜? ……夜ご飯ってことかな?

 

「夜だけじゃなくて朝(ご飯)もなんだけどね」

 

「あ、朝もなんか!?」

 

「そりゃあ勿論! 一緒に暮らしてるわけだし、朝(ご飯)でも大きくなってもらうために頑張ってるんだよ! おかわりだってしてくれるし」

 

「お、おかわり(意味深)……」

 

 奈緒ちゃんは何故か首筋にまで真っ赤になっている。暑いのかな?

 

「そりゃあ少しやりすぎかなぁって思うこともあるけど……全然大きくならないから私もムキになっちゃって、お昼も私の(お弁当)を食べてもらったりしてるんだけど……」

 

「あ、朝だけやのぉて昼まで……!? っちゅーことは……も、もも、もしかして、外でしとるんか……!?」

 

「外? ……あぁ、うん、外で(外食)することもあるよ。仕事柄、お互いにそういう機会も多いし」

 

「ししし仕事柄!? え、なにどういうこと!?」

 

「でもやっぱり、家で二人でゆっくりっていうのがいいよね。お互いにあーんって食べさせあったりして」

 

「あーんって……あーんって……そ、そこまでやっても、大きくならへんもんなの?」

 

 ちょっとだけ興味ありげにそんなことを尋ねてくる奈緒ちゃん。おっ、奈緒ちゃんもふくよか系男子に興味がおあり?

 

「うん。だからどうしたらいいかなーって」

 

 結局のところ、良太郎君が太りづらい体質ということに加えて彼が普段からレッスンやトレーニングでかなりカロリーを消費していることが原因だろう。つまりそれを上回るカロリーを彼に与えることが出来ればいいのだけど……。

 

「……その、噂だと……ウナギとか、すっぽんとか、ええって聞くけど……」

 

「へぇ?」

 

 ウナギにすっぽんかぁ……私は聞いたことなかったけど、折角だし試してみるのもいいかも。流石にウナギもすっぽんも捌いたことないから、お店に頼ることになるかなぁ。

 

「あっ、そうだ、よかったら今晩奈緒ちゃんもどう?」

 

「なんでやねんっ!」

 

 折角だから一緒に晩御飯でもどうだろうかと誘ったら、何故か思いっきり怒られた。

 

「なんで! そこで私を誘うんや!」

 

「え、奈緒ちゃん嫌いだった?」

 

「なっ!? ……す、好きとか嫌いとか、そーいう問題ちゃうやろ!」

 

 うーん、ウナギやすっぽんの気分じゃないかったのかな。

 

「ったく……まぁ、その……二人ともアイドルなんやから、ほどほどにせなアカンで?」

 

「それは勿論だよ」

 

 良太郎君はアイドルで、私もアイドル。今はまだまだステージの上に立っていたい。

 

「本格的に(良太郎君を大きく)するのは、お互いに引退してからかな」

 

「……それはそれで、気ぃ長い話やな」

 

 そうかもしれない。けれど、私はずっと良太郎君と一緒になると心に決めている。ならばどれだけ時間がかかろうが関係ない。

 

「私はいくらでも待てるよ。だって、良太郎君のことが大好きだもん」

 

「……あーはいはい、ご馳走様でしたっと」

 

 いつの間にかチャーハンを食べ終えていたらしく、スプーンを置いた奈緒ちゃんは手を合わせた。

 

「はい、お粗末様でした。あ、いいよ洗い物は後で私がまとめて……」

 

「作ってもろてそないなことまでさせられんて。後は私が全部やっとくから、アンタはさっさと愛しの彼氏さんのところへ……」

 

「ここにいましたのね美奈子」

 

 給湯室へやって来た千鶴さんは、私の顔を見るなり呆れたような表情を浮かべた。

 

「あ、お疲れ様です、千鶴さん。千鶴さんも何か食べます?」

 

「結構ですわ。……そんなことより美奈子、貴女少しは加減したらどうですの?」

 

「え?」

 

「良太郎が『そろそろキツい』ってボヤいていましたわ」

 

「……あ、あはは……」

 

 どうやら良太郎君の小姑とでも呼ぶべき相手の耳に入ってしまったらしく、思わず乾いた笑みを浮かべてしまった。

 

「貴女の好みは理解していますが、それを良太郎に強要するのは些か問題ですわよ」

 

「いやぁ、初めはちょっとした出来心だったんですけど、良太郎君が思いの他手強かったから少しムキになっちゃって……」

 

「まぁ、良太郎は昔からずっと変わりませんが……それでもいずれ彼の伴侶となる以上、それをしっかりと管理するのも貴女の仕事ですわよ」

 

「はい、お義母さん……」

 

「色々と間違った方向にランクアップするのやめてくださる!?」

 

「ちょちょちょ、ちょい待ちぃ! りょ、良太郎さん、千鶴に相談したんか!?」

 

 いずれあのとても可愛らしいお義母様よりも義母っぽい存在になるであろう千鶴さんからのお叱りの言葉にしゅんとしていると、慌てた様子の奈緒ちゃんが詰め寄って来た。

 

「え? えぇ、良太郎にしてはかなり深刻そうにしてましたので」

 

「だ、だからってそんなプライベートなことを……!?」

 

「プライベート? ……まぁ確かに、食生活もプライベートと言えばプライベートでしょうが」

 

「………………なんて?」

 

「だから、食生活と。『美味しいから大丈夫でも量に限度はある』と言っていましたわ」

 

「………………」

 

「……奈緒ちゃん?」

 

「……っ~~~!!!」

 

 

 

 

 

 

「なんで奈緒ちゃん、俺の顔を見るなり『紛らわしいねんこのバカップルウウウゥゥゥ!』って怒鳴りながら腹パンしてきたんだろう」

 

 雨が降って来たから劇場まで車で美奈子を迎えに行ったら、何故か顔を真っ赤にした奈緒ちゃんが襲い掛かって来た。『顔以外に向けられた女の子の拳は避けるべからず』という父上様の教えに従い避けずに甘んじて受け入れたが、的確に鳩尾に入ったのでかなり痛かった。

 

「あ、あはは……ちょっと色々あってね」

 

 エプロンを付けて食事の準備をしながら苦笑する美奈子。

 

 お互いに家を出て同棲を始めて以来、ずっと美奈子が食事を作ってくれている。彼女の作る料理は本当に美味しくて、母上様の料理にも劣らない第二の家庭の味になりつつあるのだが……いかんせん量が多い。

 

 どうやら美奈子は俺の体型を自分好みふくよかなものに変えたいらしいのだが、こちとら()()で体型が変わらず運動量も少なくないトップアイドルの身。なんとか彼女からの猛攻(カロリー)を凌いできたが、純粋に食事の度に腹が苦しくなるのはなんとかしたい。

 

 ……と、思っていたのだが。

 

「……あれ? 今日はなんというか……」

 

 食卓に並べられた料理は、いつもの美奈子が作るそれよりも目に見えて少なかった。

 

「うん、ちょっと控えめにしてみたよ」

 

 どうやら俺がポロッと千鶴に零してしまった愚痴が美奈子の耳に入ってしまったらしい。

 

「悪いな。一応これでもアイドルをやっている身としては、惚れた女のためとはいえそう易々と体型を変えるわけにはいかないんだ」

 

 何せ髪型や髪色変えるだけでも色々言われる可能性がある業界だから。とはいえ、前世よりも今世は髪色がカラフルだからピンと来ないかもしれないが。

 

「ううん、大丈夫。だって、体型とかそんなことよりも――」

 

 エプロンを外した美奈子は、()()()()()()()()()腰を下ろした。

 

 

 

「――私が一番好きなのは()()()()()君そのものだから」

 

 

 

「……ありがとう、美奈子」

 

 コテンと肩に頭を乗せてきた美奈子の手を、ぎゅっと握り締めた。

 

「それに……良太郎君に()()()()()()私にも責任があるだろうしね」

 

 彼女の声に僅かな艶が混じったことを感じ取った。そして食卓に並べられたウナギの蒲焼きやすっぽん鍋……つまりはまぁ、そういうことなのだろう。

 

 それじゃあ美奈子のご期待に応えて、この言葉を使うことにしよう。

 

 

 

「……今日は寝かせてやらないぞ?」

 

 

 

「あ、でも明日の朝ご飯の仕込みまでには起きたいかな」

 

 もー、そーゆーとこ大好き。

 

 

 




・周藤良太郎(21)
本編で恋人出来たにも関わらず番外編では別のアイドルとくっ付くふてぇ野郎。(なお作者の都合)
全編奈緒ちゃんに持っていかれてしまったため今回影が薄いゾ……。

・佐竹美奈子(21)
実は良太郎と同い年の千鶴に続くいいお嫁さんになれる系アイドル。
年齢が近い故に頻繁に食事やら飲み会やらに行っている内にどんどん親しくなって……というくっ付き方が一番似合いそうな気がする。

・「良太郎君、大きくなってくれないの」
あんじゃっしゅ。良太郎をおっきくする(意味深)
好きな男性を自分色に染めたいなんて、美奈子は積極的だなぁ(満腹)



 なんか良太郎があんまり良太郎してない気がしますが、美奈子との恋仲○○でした。やはり心の奥ではりんへの遠慮があるというのか……!?

 次回、本編に戻りつつアイ転らしいクロスを……!

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