アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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久しぶりにリリなの成分マシマシ。


Lesson247 だいっきらい! 2

 

 

 

 昼食を終えて翠屋を後にした俺はそのまま街へと繰り出した。本当だったらそのままテレビ局へと早入りするつもりだったのだが、予定が変わった。

 

 なのはちゃんへ譲渡した『なんでもいうことを聞く権利』が早速使われてしまったのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()と宣言してしまった以上、俺はそれに従わざるを得ない。なのはちゃんの要求を拒否することが出来ない。例えそれが悪魔のような願いだったとしても、寧ろ俺自身が悪魔のようにその願いを叶えなければいけないのだ。

 

 そして俺が叶えなければいけない、なのはちゃんの無慈悲な願いとは――!

 

 

 

「えへへ、良太郎さんと一緒にお出かけって久しぶりだね!」

 

 

 

 ――なのはちゃんとのお出かけ(デート)である。

 

 なんともまぁ可愛らしくいじらしいお願いである。わざわざ『なんでもいうことを聞く権利』なんて大層なものを使わなくても、それぐらいいつでも叶えるというのに……。

 

 さらに今からだと俺の仕事までという時間制限まで付いているからと別日を提案しても「そこまでしてもらわなくても大丈夫だよぉ!」とワタワタと手を振る始末。そこで気を使っちゃう辺りがなのはちゃんホント天使(なのはちゃん)

 

 おう、石を投げたければ投げろ。甘んじて受け入れよう。俺は逃げも隠れもしない。ただし可愛い妹とデートしてる俺は無敵だからダメージ受けないけどな! あっ、恭也はやめろよ!? (とおし)で無敵貫通しようとするんじゃないぞ!?

 

「それにしても、本当にこれで良かったの?」

 

 なのはちゃんが望むのであれば、こんな街中じゃなくてもうちょっと別の場所へ遊びに行っても良かったんだけど。

 

「ううん、これで十分だよ。……良太郎さん、りんさんと恋人になったでしょ?」

 

「うん、お陰様で」

 

「お兄ちゃんにも忍さんがいるし、良太郎さんも……って考えたら、この先、こうやって一緒にお出かけする機会も少なくなっちゃうのかなぁって」

 

「……そう考えてくれることは嬉しいけど、気にしすぎだよ。例え俺や恭也に恋人がいても、この先結婚することになったとしても、なのはちゃんは俺たちの妹なんだから」

 

 だからそんな生意気なこと考えなくていいの。そうなのはちゃんの頭を乱暴にグシャグシャと撫でると、彼女は「うにゃぁ~!?」と悲鳴を上げつつも嫌がる素振りは見せなかった。

 

「それに、美由希ちゃんだっているだろ?」

 

「このタイミングでお姉ちゃんの名前を挙げるのは、それはそれで失礼なような……」

 

 

 

「そういえば、最近だとなのはちゃんも忙しいみたいだね」

 

 ぴょこぴょこと歩くなのはちゃんに歩調を合わせて隣に並びながら「頑張ってるね」と声をかけるとと、彼女は満面の笑みで「うん!」と頷いた。

 

「フェイトちゃんと一緒に頑張った映画がもうすぐ公開だから、今はその宣伝お仕事がいっぱいあるの!」

 

 フェイトちゃん、というのはなのはちゃんが所属している310プロの副社長さんの娘さんである。金髪美少女双子姉妹の妹で、事務所で真っ先に仲良くなったとなのはちゃんが嬉しそうにツーショット写真を見せてくれた。その写真が丁度その映画の撮影中の写真で……。

 

「……あー、うん、あの映画ね。俺も楽しみにしてるよ」

 

 俺の「絶対に観に行くよ」という言葉に、なのはちゃんはさらに嬉しそうに破顔する。

 

 なのはちゃんが言う映画とは、『Little Wish ~lyrical step~』で既にデビューしているアイドル『高町なのは』の映画初出演にして初主演となる特撮映画のことである。

 

 なのはちゃんが魔法少女に変身して各地に散らばってしまった魔力の結晶の欠片を集めながら、フェイトちゃん演じるライバル魔法少女との戦いや友情を描くSFファンタジー。その名も『魔法少女戦記リリカルサーガ~始まりの章~』。

 

 ……うん、俺もあらすじを読んでて途中から「ん?」ってなった。そしてタイトルを聞いてん「んん?」ってなった。さらに公開されたスチルでなのはちゃんとフェイトちゃんが魔法の杖で鍔迫り合いをしている場面を見て「んんん?」ってなった。

 

「良太郎さんの覆面ライダー観てたから、アクションもバッチリだよ!」

 

 うん、参考にしてもらえたのは光栄なことなんだけど、アイドル的には歌とかダンスとか演技とか、その辺りを参考にしてもらいたかった。一番最初になのはちゃんが参考にしてくれた俺の要素がアクションって……特撮とはいえ魔法少女モノの参考になるアクションって……いや、御神の剣を参考にしたって言われなかっただけマシなのだろうか。

 

 しかしツッコミどころは多いものの、これがまた普通に面白そうで興味が尽きないのだ。俺よりもそちら方面に特化している荒木先生や菜々ちゃんや奈緒ちゃん(ミシロのすがた)が口を揃えて「この春の覇権映画!」と豪語しているのだから、間違いはないだろう。

 

 どうやら三部作構成らしいので、何処かで俺も出演出来ないものか。……エキストラで潜り込むという手があるな、うん。

 

「それじゃあ、これはなのはちゃんの映画大成功の前祝だね」

 

「えへへ、そう言ってくれるの嬉しいな」

 

 大成功祝いは後日310プロや翠屋で盛大にやるだろうから、これは本当に個人的な前祝だ。そのときは減給だろうが何だろうがポケットマネー絞り出して盛大にやっちゃるけんのぅ……!

 

「それじゃあ、ささやかながら……まずはクレープなどいかがでしょうか、姫」

 

「うむ、よきにはからえー」

 

 なのはちゃんの「良きに計らえ」いただきましたー!

 

 というわけで、まずはデートの定番とも呼べる食べ歩きの王様、クレープを買いに。生憎この世界だとタピオカはそれほど流行らなかったんだよね。あることにはあるんだけどさ。

 

 ここでわざわざクレープを提案したのは気まぐれではなく、今なのはちゃんと歩いているこの通りの先に、以前りんや唯ちゃんと一緒に訪れたクレープ屋があるのだ。他の女の子とのデートで利用したお店をまた使うのかとか思わないでもないが、レストランならいざ知らずクレープ屋ぐらい許してほしい。

 

「おっ、あったあった」

 

 半年ぶりぐらいにやって来たクレープ屋。しかし店先には先客らしき女の子がいたので、彼女の後ろに並んで……。

 

 

 

「アイスの試食、ひとくちどう?」

 

「え、いいの~? 本当に~? あ、でもわたしチョコよりもストロベリーチーズが食べたいかも~! それとレモンシャーベットにー、あとあとハニークッキーに~」

 

「えっ……え?」

 

 

 

 #ひとくち #とは。

 

 いやはや、店員のお兄さんカッコよく声かけたのに逆にタジタジだよ。まさか試食を申し出たら複数のフレーバーのリクエストが飛んでくるとは思いもしなかったのだろう。

 

 

 

「……ダメぇ?」

 

 

 

 うっわ、すっごい甘くて可愛い声。まだ後姿で女の子の顔は見えていないが、これは間違いなく美少女の風格。店員のお兄さんも「しょうがないなぁ~」みたいにデレッデレになっている。

 

 ……おいおい、普通にディッシャー(アイス掬うやつ)使い始めちゃったよ。そのままコーンにアイス乗せちゃったよ。しかも三段重ね。これはもはや試食ではなく実食である。

 

「き、気前がいいお店なんだね……」

 

 これにはなのはちゃんも苦笑い。うん、流石にこれと同じことをしてほしいとは言わないが、俺たちのときも多少の気前の良さを見せてもらいたいものである。

 

「はい、ど~ぞ」

 

「ありがと~! 優しいお兄さんで良かった!」

 

「次は買ってね~」

 

 次は本当にあるのかなぁ……と思いつつ、カウンターから離れようとする少女を避けて前に出ようとして――。

 

「わっ!?」

 

「っ!」

 

 ――振り返ろうとしてよろけた少女がなのはちゃんに向かって倒れそうになったので、咄嗟になのはちゃんをかばうために前に出た。

 

 そのまま少女を支えることが出来れば良かったのだが、見ず知らずの女の子の体に触れることを躊躇している間に彼女の体が俺にぶつかり……。

 

「きゃっ」

 

 手にしていたアイスが、俺の上着にベタリと付いてしまった。

 

「あぁ!? アイスが~!?」

 

 真っ先にアイスの心配をする辺り、とりあえず怪我とかはなさそうなのでそこは一安心。

 

「って、そうじゃなくて、ごめんなさいお兄さん!」

 

「あぁうん、大丈夫。次からは周りに気を付けてね? なのはちゃんも大丈夫?」

 

「うん、大丈夫なの」

 

「その、上着……」

 

 アイスを手に満面の笑みだった少女の表情は、打って変わってシュンとした子犬のような表情になってしまった。

 

「いいよいいよ。脱いで手で持って歩けば気にならないから」

 

 今日は少々暖かいので上着を一枚脱いでも肌寒いということはない。後でテレビ局のクリーニングにお願いすれば、撮影が終わることには何とかなっているだろう。

 

 さて、上着はいいとして……落ち込みつつ地面に落ちたアイスをチラチラと気にしている少女の姿に内心で苦笑しつつ、店員さんに声をかける。

 

「すみません。今のアイス、俺の上着が食べちゃったのでもう一個。今度は俺がお金払いますんで」

 

「「えっ」」

 

 店員さんと少女の声が重なる。

 

 デート中とはいえ、これぐらいはいいよね? と視線をなのはちゃんに向けると、苦笑しつつも優しい目をしていた。

 

「わ、わかりました……あっ! 貴方は!?」

 

 頷きかけた店員さんは俺の姿を見て声を上げた。

 

 

 

「ゴーヤクレープの人!」

 

「ちょっと待った」

 

 

 

 確かに、俺は二度このお店でゴーヤクレープを注文しているが、だからと言ってたった二回で『ゴーヤクレープの人』認定されるのは些か納得がいかない。

 

「ゴーヤクレープ頼む人、貴方ぐらいですよ」

 

「そんなもんさっさとメニューから外しちまえ!」

 

 いや、二回も注文してる俺がそんなもんなんて言うのもどうかと思うけど!

 

「えっと、それでご注文は、先ほどと同じアイスと……?」

 

 なのはちゃんは壁にかけられたメニューとにらめっこしているようなので、先に俺の注文を済ませておこう。

 

 

 

「……ゴーヤクレープで」

 

「貴方ならそれを注文すると信じていました!」

 

 

 

 チクショウ! ここで違うの注文したら負けた気がするんだよ!

 

 

 

「そこで乗っちゃう辺りが良太郎さんだよねぇ……」

 

「……なんか、面白そーなお兄さんだね!」

 

 

 




・なのはちゃんとのお出かけである。
石投げ祭り会場はコチラ。

・徹
雑に説明すると、衝撃で内部を攻撃する技。

・「美由希ちゃんだっているだろ?」
だってギャルゲヒロインを安易に主人公以外でカップリングすると過激派が……(言い訳)

・『Little Wish ~lyrical step~』
『リリカルなのは』無印のED。

・『魔法少女戦記リリカルサーガ~始まりの章~』
要するに『リリカルなのは』無印本編。

・奈緒ちゃん(ミシロのすがた)
「そこに三匹のナオがおるじゃろ?」
ナオ(ミシロのすがた)
ナオ(ナムコのすがた)
ナオ(サイコーのすがた)

・「……ダメぇ?」
こんなおねだりされて断れる奴おりゅ?(漫画を読みつつ)

・「俺の上着が食べちゃったので」
覇気を習得してる少女が凄い定期。いや、スモーカーさんは意識して煙になってないだけだからきっと……。

・ゴーヤクレープ
おかしい……一発ネタだったはずなのに、どうして初登場から六年も経っているのに使い続けているんだ……?



 彼女は一体ダレナンダー(棒)

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