アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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後輩のピンチに、彼女が立ち上がる……!

※また前話をサイレント修正しています。


Lesson251 届け、この想い 2

 

 

 

「今日はー私が所属して初の定期公演!」

 

 まぁ私はまだステージに立てないんだけどね!

 

 しかしそれでも、観客として座席に座っていただけの前回とは違う。アイドルとしてではないが、劇場スタッフの一員としてみんなのお手伝いをするのだ!

 

 えっとー、今日の私が担当するお仕事は、ステージに立つみんなにドリンクとかタオルとかを持っていく仕事! 持ってくよ~どんどんドリンク持ってくよ~! ついでに汗とか私が汗とか拭いちゃおうか! ほら、胸の下の汗とかちゃんと拭かないと汗疹が出来ちゃうっていうし! ……美奈子さんとか、拭き甲斐がありそうだし!

 

 静香ちゃんたちのステージと同じぐらいスタッフとしての仕事を楽しみにしつつ、私は鼻歌交じりに劇場へと歩みを進める。

 

「……それにしても」

 

 赤信号で立ち止まりながら、ポケットからスマホを取り出す。そして普段から利用しているメッセージアプリを起動する。

 

 私からの『今日は頑張ってね!』『今から劇場行くよ! なにか買ってきて欲しいものある!?』というメッセージに対し、静香ちゃんからの反応がない。既読すら付かないことに、何故か違和感を覚えてしまった。

 

「……リハーサルで忙しいんだよね、きっと」

 

 信号が青に変わったので、スマホをポケットに戻して渡り始める。

 

 

 

 頭上には、ライブ日和のとても気持ちのいい青空が広がっていた。

 

 

 

「おはようございまーす! 春日未来、入りまーす!」

 

 まずは今日ステージに立つ先輩方への挨拶をするために、控室へ。

 

「これ皆さんに差し入れです。えへへ、うちのお母さんが持って行けって……」

 

 手提げカバンから包みを取り出そうとして……控室の空気が何か重いことに気が付いた。

 

「……はい、分かりました。出来る限り調整してみます」

 

 琴葉さんが電話をしている。

 

「こちらは大丈夫ですからプロデューサーは静香ちゃんをお願いします」

 

 電話の相手はプロデューサーさん? 静香ちゃんをお願いしますって、どういうこと?

 

「あ、未来ちゃん……」

 

「このみさん、静香ちゃんがどうかしたんですか?」

 

 近くにいたこのみさんに尋ねる。既にステージ衣装に着替えて準備万端のこのみさんは「大丈夫だから、落ち着いて聞いてね」と前置きをしてから、私の問いに対する答えを口にした。

 

 

 

「静香ちゃん、リハ中に高熱で倒れちゃったの」

 

 

 

「……え」

 

「連日居残りで練習してたみたいだし……きっと疲れが出たんだと思うわ」

 

 ……そういえば、ここ最近の静香ちゃん、ずっと練習してるって言ってた。私が一緒に事務所へ行けなかった日も、夜遅く連絡しても『まだ練習中』って返事が返ってきて、それが終わっても『今は予習復習中』って。

 

「気付けなかった私の責任だわ……」

 

 そう言って琴葉さんが顔を伏せる。

 

 ……違う、琴葉さんの責任じゃない。私の責任だ。だって私は()()()()()()のに何も出来なかった。

 

 いつ休んでるんだろうって、無理しちゃダメだよって、思ってただけで口に出せなかった。必死になってる静香ちゃんの邪魔になっちゃわないようにって、それで……。

 

「プロデューサーが病院に連れていって、さっき連絡があったの。このまま一日二日入院になるかもって」

 

「にゅ、入院……!?」

 

 それじゃあ……!

 

「残念だけど……今日のライブに静香ちゃんは出られないわ」

 

「そ、そんな……!」

 

 咄嗟に口を開いた私が一体何を言おうと思ったのか、私にも分からない。

 

 『あんなに頑張ってたのに』『私も病院に』『どうにか出来ないんですか』

 

 きっとそんなどうしようもない言葉が口をついて出ようとして……。

 

 

 

「切り替えますわよ」

 

 

 

 それは遮ったのは、厳しくも優しいお母さんのような声だった。

 

「千鶴さん……」

 

「少し休めばきっとよくなります。今のわたくしたちに出来ることは、そんな静香が必死になって成功させようとしたこの定期公演を完遂すること。これを失敗したとなっては、静香に合わせる顔がありませんわ」

 

 パンパンッと二度手を叩いた千鶴さんに全員が注視する。

 

「……千鶴さんの言う通りですね。今はライブをどうやってカバーするかを考えましょう」

 

 まだ少々顔が青いままの琴葉さんの一言に、全員が()()()()()()()動き出した。

 

「それじゃあまずはセットリストを見直しましょう」

 

 このみさんが持ってきたノートパソコンを手近な机の上で開く。

 

「ソロと全体曲以外の静香ちゃんの曲は『Marionetteは眠らない』と『GO MY WAY!!』の二曲ね。歌の順番を考えると……昴ちゃん、マリオネットいける?」

 

「おおおオレが!? マリオネット!?」

 

 このみさんから話を振られて「無理無理無理!」と必死に首を横に振っているのは……えっと、確か一番最初に事務所へ来たときに野球をしてた永吉(ながよし)(すばる)ちゃん……だっけ。

 

「そ、そうだ! 亜利沙、前にカラオケでノリノリで歌ってたよな!?」

 

「ほわぁ!? ありさ!? イヤイヤイヤあれはコールを覚えていただけで、歌うとなるとまた別問題というか、あまりにもコールをし過ぎた結果本来の歌詞を忘れてしまっているというか!」

 

「忘れてんのかよっ!」

 

 亜利沙さんと何やらワチャワチャしているが、要するに二人は歌えないらしい。

 

「このみさん、わたくしが……」

 

「千鶴ちゃんはダメよ。次の準備が間に合わなくなる」

 

 どうしたものかと頭を悩ませる千鶴さんとこのみさん。他のみんなもいつどんな風にセットリストが変わっても動けるように準備を進めている。

 

(私も、何か……)

 

 そんな私の後ろから、声が聞こえてきた。

 

 

 

「……マリオネットなら、出来るよ」

 

 

 

 振り返ると、そこには藍色の髪の少女が眠そうな目で立っていた。

 

「杏奈!? 貴女、今日はお休みじゃ……!?」

 

「忘れ物、取りに来た。……でも、何かあったみたいだから、こっちに顔出したの」

 

 千鶴さんが問いかけると、少女は手にした携帯ゲーム機を見せるように掲げた。

 

 ……えっと、思い出した! 確か私たちシアター二期生組の先輩、シアター一期生組の望月杏奈ちゃん!

 

「それより杏奈ちゃん! マリオネット出来るってホント!?」

 

 このみさんに詰め寄られて杏奈ちゃんはコクリと頷いた。

 

「でも貴女、来たばっかりだし、アップもなにも……」

 

「大丈夫」

 

 たった一言。そのたった一言で、このみさんは言葉を止めた。それは、まだ杏奈ちゃんのことをよく分かっていない私にも簡単に理解できるぐらい、()()()()()()()()声だった。

 

 凄い……! 私と同じぐらいの背格好なのに、ものすごい先輩アイドルオーラが……!

 

 

 

(杏奈ちゃん、本当に大丈夫?)

 

(マリオネット、難しいやろ?)

 

(…………うん、大丈夫だよ、美奈子さん、奈緒さん)

 

(かなり不安になる間があったんやけど)

 

(……昨日やってたゲームに、こういう先輩が助けにくるシチュエーションが……)

 

(……それに影響されちゃったってこと?)

 

(百合子やないやから……)

 

(そんな百合子さんは、同じくオフで自宅でゴロゴロしてるって)

 

(杏奈やないんやから……!)

 

(誠に遺憾である……)

 

 

 

 杏奈ちゃんと同じく一期生組の美奈子さんと奈緒さんが何やらお話をしている。すっごい真剣な表情で、彼女たちがいるだけでなんとかなるのではないかと思ってしまうぐらいで。静香ちゃんがいない不安が少しだけ安らいだような気がした。

 

「よし、これでマリオネットはクリア。問題は『GO MY WAY!!』ね……カバー曲だから誰も練習してないし」

 

「私か美奈子だったらいけるで」

 

「……順番を入れ換えたらいけるかしら……」

 

 奈緒さんの提案に色々と試行錯誤をしているらしいこのみさんだが、どうにもまとまらないらしくグヌヌと唸っていた。

 

「やっぱり厳しいわね……カバー曲は今日の目玉だから残念だけど、ここは飛ばして……」

 

 そんなこのみさんの発言を聞いて「えー?」と不満の声を上げたのは、先ほどから飴を舐めながら傍観していた翼ちゃんだった。

 

「わたし一人でも歌えるよ?」

 

「翼ちゃん、気持ちは分かるけどダンスもボーカルもユニットのレッスンしかしてないでしょ?」

 

「えー? ダメですかー?」

 

 琴葉さんに諭されるも、尚も不満そうな翼ちゃん。

 

「でもでも、こうその場のノリでバーッとぉ……」

 

 そのとき、翼ちゃんと目が合った。

 

「……ねぇねぇ! 確か未来ちゃんだったよね!」

 

「え? は、はい」

 

「静香ちゃんから聞いてるよー? 静香ちゃんの自主練に付き合って、一緒に『GO MY WAY!!』練習してたんでしょ?」

 

 翼ちゃんは「だったらさ」とニッコリと笑顔を浮かべた。

 

 

 

「未来ちゃんが代わりにステージに出ちゃおーよ」

 

 

 

「……はい?」

 

「『はい』だね、言質取った! 決まり!」

 

 ぎゅーっと手を強く握り締められ、そこで私はようやく我に返った。

 

「ご、ごめんなさい! そうじゃなくて! わ、私まだ新入社員のぺーぺー見習いだから本番は……!」

 

「えー歌いたくないの? 折角練習したのに?」

 

「………………」

 

 歌いたくないといえば、嘘になる。ステージに立って歌ってみたいとは、事務所に入ってからずっと思っていたことだ。でも、まだその勇気が……。

 

「大丈夫大丈夫、ステージに立つなんて簡単だから!」

 

「………………」

 

 結局、私は小さくコクリと頷いた。

 

「大丈夫? 未来ちゃん」

 

「……やって、みたいです」

 

 琴葉さんからの確認の問いかけに、今度はしっかりと自分の言葉で肯定した。

 

 私は、ステージに立ってみたい。

 

「……分かったわ! プロデューサーと相談してみる!」

 

「わたくしは衣装の準備を。多分、エミリーのサイズが合うと思いますわ」

 

「よっしゃ! 気合い入れていくで!」

 

「みんな! ご飯は食べたね! まだの人はすぐに用意するよ!」

 

「美奈子、ステイ」

 

 みんなが一斉に動き出す中、私は「メイクしてあげるー!」と翼ちゃんに手を引かれてメイク室へと向かうのだった。

 

 

 

(……静香ちゃん……!)

 

 

 

 

 

 

「……ふむ」

 

「ん? どーしたのよ」

 

「いや、俺ぐらいアイドルに精通してくると、現場の雰囲気で何かがあったことを察知することが出来るんだよ」

 

「ウソクサ」

 

「四文字で片付けられてしまった……」

 

 

 




・胸の下の汗とかちゃんと拭かないと
落ち着きを見せる良太郎に対し荒ぶる未来ちゃん。

・「静香ちゃん、リハ中に高熱で倒れちゃったの」
伝統芸能(ボソッ

・厳しくも優しいお母さんのような声
原作改変その1。千鶴さんマジお母さん。

・永吉昴
『アイドルマスターミリオンライブ』の登場キャラ。
ボーイッシュ野球少女な15歳。事務所で野球をしてはいけません。
野球関連だから、たぶんそのうちユッキと絡ませるかなぁ。

・「……マリオネットなら、出来るよ」
原作改変その2。カッコよく杏奈登場!
アイ転時空では16歳の先輩お姉ちゃんで、オフ状態でも少々頑張れます。



 うん、まぁいつものだよね。

 本当にアイマス世界では定番というか伝統芸能というか……うん、様式美だね!



『どうでもよくない小話』

 全事務所合同のアプリ『ポップリンクス』の話題を挙げようと思ったけど、それどころじゃなかった。

 約一年ぶりの、デレマスライブ開催決定じゃあああぁぁぁい!!!

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