アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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心が帰る場所。


Lesson252 届け、この想い 3

 

 

 

「……そうだな、そっちで頼む。それからもう一度、音無さんと代わってくれ。……あぁ、大丈夫。頼りにしてくるからな、琴葉」

 

 ……すぐ側で電話をしているはずのプロデューサーの声が、やけに遠くから聞こえるような気がする。きっとそれだけ、今の私の気持ちがここには存在していないのだろう。

 

(……なんで私、病院(ここ)にいるんだろう)

 

 今日は定期公演の当日だ。私は公演メンバーに選ばれているので、すぐに準備しないと……衣装にも着替えていないし、メイクもしていない。あぁ、そういえば未来が差し入れを持ってくるなんてメッセージを送っていたっけ。まだその返信をしていないが、きっと今なら彼女も劇場についていることだろう。

 

「……静香」

 

「っ」

 

 どうやら電話が終わったらしいプロデューサーに声をかけら、肩がビクリと震える。

 

「あぁ、無理に顔を上げなくてもいいぞ。まだ辛いんだろ?」

 

 辛い……辛い。何が辛いのだろうか。喉? 身体? ……それとも心?

 

 一番辛いのは、私が今劇場にいないことだ。私は、なんでここに……。

 

「ユニット曲だが、代わりに杏奈と未来が出てくれることになったそうだ。だからステージのことは心配せずに、今日はゆっくりと……」

 

「え」

 

 

 

 ……未来が、ステージに?

 

 

 

 

 

 

「おや?」

 

「こんにちわー。……げっ」

 

 ニコちゃんと一緒に物販を覗きに行ったら、見覚えのある店員さんが接客をしていた。なんと劇場アイドルの中では旧知の仲と呼んでも過言ではない、桃子ちゃんパイセンである。

 

「あっ、桃子ちゃん、こんにちは。今日は売り子なんだね」

 

「……ハイ、ソウデスー」

 

 フレンドリーに話しかけたら、露骨に嫌そうな顔をされてしまった。

 

 さらにそんな俺の態度が気にくわなかったらしいニコちゃんまでもが睨んでくる。

 

「なによアンタ、桃子ちゃんに馴れ馴れしいわね」

 

「桃子ちゃんがアイドルになる前からの知り合いだから。ね?」

 

「え? なんのことですかー? 桃子、分かりませーん」

 

「ハハハこやつめ」

 

 普段は絶対に見せないようなキャピルーンというブリッ子ポーズで白を切られてしまった。見ろ、そのせいでニコちゃんから視線が一段と険しいものになってしまったじゃないか。

 

「桃子ちゃーん、ちょっといいー?」

 

 パイセンに声をかけながら、彼女と似たような身長のレディーが劇場の奥からやって来た。今度は元事務員現アイドルというウチの美優さんと似た経歴を持つ馬場このみさんである。

 

「このみさん、こんにちは。今日も遊びに来ましたよ」

 

「……ハイ、ソウナンデスネー」

 

 フレンドリーに話しかけたら、露骨に嫌そうな顔をされてしまった。おっと再放送かな?

 

「アンタ、まさかこのみちゃんも知り合いとかいう妄言吐くつもりじゃないでしょうね」

 

「……このみちゃんさん! 信じてますよ!」

 

「今日はご来場いただき、ありがとうございまぁす!」

 

「お前もかよブルータス!」

 

 実は見てたのではないかと疑うほどにパイセンと全く同じポーズで白を切られてしまった。おかげでニコちゃんからの視線が完全に不審者を見るそれである。

 

 しかし、これはきっと俺が『周藤良太郎』だとバレないように考慮してくれた二人の優しさに違いない。ならば今はその優しさを甘んじて受け入れることにしよう。

 

 ……チクショウ、あとで覚えてろよ。

 

「ったくアンタは本当に……所構わず妄言吐くのは止めておきなさいよ」

 

 ふぅ……という重いため息と共に、ニコちゃんから注意を受けてしまった。まさか六つ年下の少女に説教をされるとは……と思ったが、つい最近九つ年下(なのはちゃん)にお説教されたばかりだったことを思い出した。おかしい……過去を振り返ってみても結構な頻度で年下の女の子に説教をされているような気がする……。

 

「ほら返事」

 

「……はい、分かりました」

 

 しかしそれはそれとして、ニコちゃんのお姉ちゃん感が尋常じゃない。確か歳の離れた妹と弟がいるって話を聞いたが、きっとそのせいだろう。

 

 さて、色々とあったが物販での買い物(サイリウムの買い足しエトセトラ)も終わったことだし、そろそろ自分の席で開演を待つことにしよう。

 

「ありがとうございました。今日も()()()()()ステージを楽しみにしてます」

 

「……はい、楽しみにしていてください」

 

 一瞬、パイセンの眉がピクリと動いたのを見逃さなかった。どうやら先ほど感じたトラブルの雰囲気は間違っていなかったらしい。

 

(……とはいえ、今回は本当に部外者だからなぁ)

 

 346のときも部外者といえば部外者だったが、あのときは一応クローネの指導役という名目があったから介入することが出来た。しかし今の俺は『アイドル好きのリョーさん』でしかないため、本当に何も出来ない。

 

(……ダメだな、ちょっと思考が過保護になってる)

 

 心配だからといって過保護になっても、それが彼女たちのためになるとは限らない。そもそも俺に何とか出来るタイプのトラブルじゃない可能性だってあるのだから『解決してあげたい』なんていう傲慢な考えは捨てよう。

 

 彼女たちは『765プロのアイドル』だ。きっと大丈夫だろう。

 

 ニコちゃんに「だから変なこと言うんじゃないの!」と怒られながら、物販を後にするのだった。

 

(……まぁ、急なトラブルでパニックになってるかもしれないし、未来ちゃんぐらいにはメッセージを送っておいてあげてもいいかな。どうせ彼女はステージに立つわけじゃないだろうし、うん)

 

 

 

 

 

 

『ゆっくり流れる雲の先』

 

『たくさんの夢を描いては』

 

『まだ全てが未来形だった日々』

 

 

 

「………………」

 

 ステージの上では美奈子さんと昴ちゃん、そしてすっごいウネウネした金髪の女の子……篠宮(しのみや)可憐(かれん)ちゃんが『ココロがかえる場所』を披露していて、私はそれをステージの脇から眺めていた。

 

 ほんの少しだけ静香ちゃんが病院から戻ってくることを期待したが、そんな奇跡は起こらなかった。そして今日ステージに上るはずだった静香ちゃんが不在のまま、今日の公演は始まってしまった。

 

 

 

『それは今だから分かる』

 

『かけがえない宝石みたいな永遠で』

 

 

 

 ステージ衣装に身を包み、メイクをして、既にステージに立つだけとなった私。未だにステージに立つという実感が湧かず、まるで現実ではないような感覚でボンヤリと曲を聞きながら……あの夜の静香ちゃんとの会話を思い出していた。

 

 それは、初めて翼ちゃんと会った、あのレッスンの日の夜のこと。

 

 

 

 

 

 

「いや~凄かったねぇ、翼ちゃん」

 

「……そうね。お世辞にも完璧なんて言えないけど、少なくとも昼から練習してた私よりずっとうまかったわ」

 

 唇を尖らせながら「……悔しいけど」と付け足した静香ちゃんがちょっと可愛くて、思わずクスリと笑ってしまった。

 

「でも今日は楽しかった! やっぱり歌って踊るのって楽しいね!」

 

「貴女は何をやってもそればっかりじゃない」

 

「そんなことないよー。それに、静香ちゃんだって同じでしょ?」

 

「私?」

 

 キョトンとする静香ちゃんに「うん!」と頷く。

 

「だってこんなにアイドル頑張れるんだもん」

 

「……私は、最初に屋上で言ったでしょ」

 

 

 

 ――夢だから。

 

 

 

「……私ね、アイドルになりたいの」

 

 それは初めて静香ちゃんと出会った屋上で聞いた、彼女の夢。

 

「ただのアイドルじゃないわよ? みんなに愛されるような、誰からも認められるような、そんなアイドルになりたいの」

 

 夜空を見上げ、月に向かって手を伸ばしながら、静香ちゃんは笑顔を浮かべて――。

 

 

 

 

 

 

『胸の奥のポケットから今日も勇気をくれる』

 

『うれしい時、悲しい時』

 

『心が帰る大事な場所』

 

 

 

 ――それで、いつか武道館いっぱいのファンの前で歌うの。

 

 

 

『キミはどんなふうに笑っていたのかな』

 

『会いたいな』

 

 

 

「……静香ちゃん」

 

「未来ちゃん! もうすぐ出番だよ……あれ? どーしたの? もしかしてお腹痛い?」

 

「翼ちゃん……私、私……」

 

 

 

 ――やっぱり出るの辞めたい……!

 

 

 

「だって、だって、この曲もステージも、本当は静香ちゃんのものだったのに……!」

 

 振り付けや歌詞の確認をしていても、脳裏を過るのは必死に練習していた静香ちゃんの姿だった。

 

「あんなに頑張ってた静香ちゃんが歌えないなんて……」

 

 ダメだよ……私には歌えないよ……。

 

「私、やっぱり今から病院に――!」

 

 

 

「はい、スマホ」

 

 

 

「――わぁっ!?」

 

 振り返った目の前に杏奈ちゃんが立っていたので、思わず大きく仰け反ってしまった。

 

「な、なになに!?」

 

「メッセージ来てたよ」

 

「えっ」

 

 杏奈ちゃんが手にしていたのは私のスマホだった。

 

 受け取って画面の電源を付けると、そこには二件のメッセージを受信したことを告げる通知が。先に来ていたメッセージは、なんとリョーさんからだった。

 

 

 

 ――今日は未来ちゃんがアイドルになって初の公演だね。

 

 ――ステージには立たないって言ってたけど、おにーさんから一言だけ。

 

 ――もし何かトラブルがあっても、焦らないで。

 

 ――焦っている仲間がいたら、傍にいてあげて。

 

 ――アイドルの世界っていうのは、一人じゃない。

 

 ――仲間がいる、スタッフがいる、お客さんがいる。

 

 ――例え()()()()()()()()()()()()

 

 ――心のすぐ傍に、大事な人はきっといるから大丈夫だって。

 

 ――そう、教えてあげて。

 

 

 

「リョーさん……」

 

 彼が今の私の状況を知っているはずがない。だからきっと偶然なのだろうが……今の状況にピッタリすぎるアドバイスに、思わずクスリと笑ってしまった。

 

「リョーさん、まるでアイドルの先輩みたい」

 

 そんな私の呟きに何故か杏奈ちゃんがピクリと肩を振るわせたが、気にせず次のメッセージを開く。

 

「って、静香ちゃん……!?」

 

 

 

 ――ごめんなさい。私のせいで、迷惑をかけちゃったわね。

 

 

 

 そんなことない。迷惑なんて思ってない。

 

 

 

 ――でも未来が私の代わりにステージに立ってくれるって聞いて少しホッとしてるの。

 

 

 

 えっ。

 

 

 

 ――頑張って。

 

 ――未来なら出来るわ。

 

 

 

「……静香ちゃん……」

 

 ポツリと彼女の名前を呟きながら涙で滲む目を拭おうとして「メイク落ちちゃうよ」と杏奈ちゃんが代わりにハンカチで優しく目元を拭いてくれた。

 

「……未来ちゃん。ステージどうする? やめる?」

 

 翼ちゃんは「それとも……」と言いながら、ニッコリと笑っている。それは最初から私の答えが分かっている表情だった。

 

 

 

「……私、歌うよ!」

 

 

 




・劇場プロデューサー
初セリフ。勿論ゲッサン版Pです。詳細はもうちょっとしっかり登場してからです。
……つまり説明は多分終盤ですね()

・桃子ちゃんパイセン
久々の登場。当然既に劇場入りしてます。
芸能キャリア的に言えば、多分劇場で一番上なんだよね。

・ニコちゃんのお姉ちゃん感
嫁はりんだが、実は姉属性に弱かったりする良太郎であった。

・篠宮可憐
『アイドルマスターミリオンライブ』の登場キャラ。
オドオド系ハスハス型バインバインタイプな16歳。B90!?
色々な意味で良太郎と鉢合わせると大変なことになりそうな子。
代わりに志希にゃんと鉢合わせさせよう(提案)



 良太郎のアドバイスがピンポイントすぎる? 勘だよ(適当)

 次回、未来ちゃんオンステージ!
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