アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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未来ちゃん初ステージ編最終話です。


Lesson253 届け、この想い 4

 

 

 

『今日は調子がいいので、姫の魔法でこのみちゃんの背だって伸ばせそうな気がするのです!』

 

『待ってまつりちゃん! ただでさえセクシーレディーな私がこれ以上セクシーになってしまったら危険(デンジャラス)よ』

 

『略してナンジャラスなのですね』

 

『なんじゃらす!?』

 

『なにはともあれ、ワンツースリーほー!』

 

『あぁ、かけてしまったのね、まつりちゃん! このままでは会場にいるみんなを虜にしてしまう……!』

 

『このみちゃんのご希望に応えてコンパクトになる魔法をかけたので、明日の朝には5cmほど小さくなっているはずなのです』

 

『なんてことをしてくれたのよぉぉぉ!?』

 

 

 

 先ほど見事なステージを披露してくれたこのみさんと徳川まつりちゃんの二人が、今度は軽快なトークを披露していた。

 

「でもまぁ、確かに身長さえ伴っていれば普通にセクシーなお姉様だと思うんだけどなぁ」

 

「はぁ? アンタなに言ってんのよ、このみちゃんはあの身長だからこそセクシーなんじゃない」

 

 結局いつも通り隣の席になったニコちゃんから、まるで十五歳の少女とは思えないような反論を受けてしまった。うん、確かに今のは俺の方が理解(わか)ってなかったから甘んじて受け入れよう。

 

「さてと、次はようやく静香ちゃんと翼ちゃんの番かな」

 

 二人のトークに耳を傾けながらも手元のパンフレットを捲る。

 

 今回二人が歌う『GO MY WAY!!』はよく伊織ちゃんややよいちゃんが歌ってた曲だ。何回か直接見たことも聞いたこともある、ある意味俺にとってもなじみの深い曲だから、それを次世代のアイドルが歌うことが少しだけ感慨深かった。

 

 やがて二人のトークが終わり、ついに静香ちゃんたちの出番が……!

 

 

 

『わぁ~、()()たくさんだねー』

 

 

 

「「……ん?」」

 

 

 

『アレ!? 私の声おっきー! マイクってもう入ってるんですか!?』

 

 

 

「……み、未来ちゃん?」

 

 何故かステージ衣装を身に纏った未来ちゃんが、ステージの上でヘッドセットを付けながらワーキャーと慌てふためいていた。そんな彼女を見ながら隣でケラケラと笑っている翼ちゃん。

 

『……え、わっ、喋った! ……あ、ごめんなさい! はい! 分かりました!』

 

 イヤホンの向こう側に人物と話しているらしい未来ちゃん。どうやらそのやり取りで落ち着いたらしく、翼ちゃんに『もー未来ったらー』と頬を突かれて『でへへ、ごめんなさーい』と笑っていた。

 

 ステージ上であんなことがあって尚も普通に笑っていられる未来ちゃんは、初めて会ったときからずっと思っていたことだが随分と強心臓である。

 

 しかし、である。

 

「……静香ちゃん、いないわね」

 

 隣からそんなニコちゃんの呟きがポツリと聞こえてきた。

 

 未来ちゃんの登場で若干呆気に取られていたが、落ち着いてステージを見るとそこにいるのは未来ちゃんと翼ちゃんだけで()()()()()()()()()のだ。

 

(なるほどね、感じてたトラブルの雰囲気は()()だったか……)

 

 恐らくだが、何かしらのトラブルで静香ちゃんがステージに立てなくなって代役として急遽未来ちゃんが抜擢された……ってところか。

 

 誰か別の子ではなく、ステージ経験が一切ない未来ちゃんが選ばれた辺り、それなりに切羽詰まった状況なのだろう。静香ちゃんの状況も気になる所だが、それは未来ちゃんの様子から大丈夫なんだろうと予想できた。

 

「しかし、未来ちゃんの初ステージが代役か……」

 

「……なに、アンタ、あの新人まで知り合いっていうつもりじゃないわよね?」

 

「さて、どうだろうね」

 

 曲が流れ始め、ついに未来ちゃんと翼ちゃんの二人による『GO MY WAY!!』が始まった。

 

 

 

 ――キツい努力せずに、キラキラになりたいなー。

 

 

 

 ……なるほど、翼ちゃんは以前あれだけの大言を臆することなく口にするだけのことはある。美奈子ちゃんたち一期生組には及ばないものの、それでも他の二期生組の中では頭一つ抜き出ていることは間違いない。そこから一歩先に進めるかどうかは、本人のやる気次第だろう。

 

 そして未来ちゃんは……歌もダンスもつたなく若干のミスも見受けられる。まぁ初ステージという点を加味すればギリギリ及第点レベルだろうか。うん、未来ちゃんのパフォーマンス自体には問題ないだろう。

 

 ……それなりの数のアイドルの初ステージというものを見てきたわけだが、その中でも『代役』としての初ステージというのは珍しいパターンに入る。あらかじめその()()()が出来ている状態ならまだしも……。

 

「……元気系の子かなー? あの新人」

 

「ん? そーだね、普通って感じ?」

 

 そんなやり取りが後ろから聞こえてくる。

 

「まぁ、いいんだけどさ。私やっぱり――」

 

 

 

 ――今日は静香の歌が聞きたかったなぁ……。

 

 

 

(……そうじゃないと、それはキツいぞ、未来ちゃん……)

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、千鶴さん」

 

「なんですの?」

 

 今日はアイドルではなく裏方として音響(PA)の仕事に徹しているジュリアが、未来と翼のステージの音響調節をしながら私に話しかけてくる。

 

「あたしは今でもストリートでよく歌うんだけどさ……歌を聴かせたい相手があたしに興味ないときほど『届け!』って、そういう意識を強く持つようにしてるんだ」

 

「……そうですわね。そうしなければ……いえ、そうしたとしても()()()()

 

「あぁ。それを()()()()()からこそ『周藤良太郎』は伝説になった」

 

 それは今なお『伝説の夜』として語り継がれる七年前の出来事。まだ無名同然だった良太郎は音響設備どころかまともな照明すらない夜の公園で、歌とダンスだけで道行く人々を引き留めた。つまり『目当てのアイドルがいないファン』どころの話ではなく、『アイドルそのものに興味を持っていなかった通行人』の心すら掴んでしまったのだ。

 

(……そろそろ未来も余裕が出てくる頃ですわね)

 

 余裕が出ると客席が見えてくる。そうすると、きっと嫌でも目に入ってきてしまうだろう。

 

 

 

 ――『最上静香』の登場を期待していたファンの落胆する姿が。

 

 

 

 

 

 

『未来! もっと前に行こっ!』

 

『わっ!?』

 

 曲の間奏中、翼に手を引かれて私はつんのめりながらもステージの前へ。

 

 すると逆光で見えていなかった観客席のみんなの顔がよく見えるようになって――。

 

『……っ!』

 

 ――笑っていない、寧ろ曇ってしまっている人を見付けてしまった。その中には静香ちゃんのグッズを身に着けている人もいた。

 

(……そっか。みんなも静香ちゃんの歌、聞きたかったんだよね……)

 

 彼ら彼女らの気持ちは痛いぐらいによく分かる。だって私自身、静香ちゃんの歌を聞きたかったのだから。

 

(……静香ちゃん)

 

 私は最上静香じゃない。けれど私は静香ちゃんが抱いていた頑張りも想いも夢も、全部知っている。だから代わりに私が全部全部届ける。

 

(だから)

 

 聞いてほしい。私の――。

 

(行くよ、静香ちゃん)

 

 

 

 ――私たちの歌。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 未来ちゃんと翼ちゃんは無事に歌い終わり、ステージでは既に次の曲の準備が始まっているが、未だにニコちゃんは呆けたまま動かない。

 

「……ねぇ、あの新人の子、名前」

 

「春日未来ちゃん」

 

「……あの子のソロのとき、ステージから風が吹いてきたような気がした」

 

「奇遇だね。俺もそんな気がしたよ」

 

 ニコちゃんは小さく「……名前、覚えとくわ」と呟いた。どうやら未来ちゃんの歌は、ニコちゃんの琴線に触れたらしい。先ほど静香ちゃんの不在を嘆いていた背後のお客さんもなにやら満足そうにしているので、どうやら未来ちゃんのライブはひとまず成功ということでいいだろう。

 

 ……アイドルの先輩として、一応この業界の第一人者として、未来ちゃんのステージを真面目に評価するならば『もうちょっと頑張りましょう』だ。練習不足は勿論のこと、フリを曖昧に覚えているであろうところも見受けられ、そもそも歌詞も一部間違っていた。とりあえず物怖じしない姿勢だけは評価出来る。

 

 しかしそれ以上にステージ上の未来ちゃんは、あのソロパートのときに見せたその姿は……。

 

(……元々は近い将来麗華の秘蔵っ子たちが来る劇場をあらかじめ見ておこう程度の理由だったけど)

 

 どうやらもう一つ、足を運ぶ理由が増えてしまったようだ。

 

 だから願わくば。

 

 

 

「次は()()()を聞かせてくれ、未来ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 ぐうううぅぅぅ……。

 

「……え、今の凄い音、もしかしてお腹の音?」

 

「……で、でへへ、終わったら急にお腹空いてきちゃって……」

 

 自分でもビックリするぐらい大きくお腹の虫が鳴いてしまい、恥ずかしさに顔が熱くなる。また美奈子さんと千鶴さん、ご飯作ってくれないかなぁ……。

 

「ね! それよりも今日のステージ! すーっごく良くなかった!?」

 

「うん! すごくすーっごく良かったと思う!」

 

「だよねー! 歌詞間違ってたりステップ間違ってたけど凄い良かったよー!」

 

 一瞬「あれ?」とも思ったけど、満面の笑みで抱き着いて来る翼ちゃん改め、翼にそんなことはどうでもよくなってしまった。あっ、でもそろそろ空腹で目が回り始めて……。

 

「未来ちゃん! 初ステージお疲れ様! 頑張ったね!」

 

「ふむぐっ!?」

 

 バンッ! と勢いよく控室のドアが開いて美奈子さんが飛び込んできたかと思うと、一瞬で私の視界と鼻と口が塞がれてしまった。え、これはもしや、美奈子さんのお山!? あの大きなお山が今私の顔面に!?

 

 ……って喜びたいところなんだけど、苦しい! 本当に苦しい! 今は本当にマズいです美奈子さんただでさえ目が回ってるんだからその上酸欠は本当にちょっとあぁいい匂いだし柔らかいしいい気持だけど気分が悪くなってくるしぃぃぃ……!

 

「ちょっ! 美奈子タンマ! それ以上はアカン! 未来痙攣しとる! 手足がグッタリしながらピクピク痙攣しとる!」

 

「え? ……って、きゃぁぁぁ!? ゴメン未来ちゃん大丈夫!?」

 

「……我が人生……一片の悔いなし……」

 

「十四歳が人生に幕を下ろすのは早すぎるわ! しっかりしぃ未来!」

 

「わたし知ってるよ、コレが昇天するってことなんだよね」

 

「言っとる場合かあああぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

「……きっとお腹が空いているだろうと思って差し入れを作ってきてあげましたのに、随分とまぁ騒がしいこと」

 

 まるで嵐のような子ですわね、と苦笑する。

 

「……今回の未来のステージ、成功する自信があったんですの? プロデューサー」

 

 着替え中のアイドルもいるため、控室の中が見えない廊下にいるプロデューサーにそう問いかけると、返って来た答えは「いや、自信はなかったよ」という否定から始まった。

 

「完璧じゃなくてもいいとさえ思ってた。ただこのステージは、未来に新しい景色を見せてくれるって思ったんだ」

 

「……寧ろ新しい景色を見せられたのは、わたくしたちだったかもしれませんわね」

 

 何はともあれ……。

 

「おめでとうございますわ、未来」

 

 

 

 今は、765プロに誕生した新たなアイドルを祝いましょう。

 

 

 




・ナンジャラス
ついさっきまで『オーバーマスター』聞いてましたからね!

・「身長だからこそセクシー」
※諸説あります。

・美奈子さんのお山
舞台裏で良太郎と愛海ちゃんが血涙を流しているようです。



 今日は未来ちゃん頑張ったからね! そのご褒美だよ! ……良太郎は美人の嫁さん貰ったでしょ! 座ってろ!

 次は今回の事後を書きつつ……そろそろ千鶴さんのお話も書いていこうかな?

 ……ただ次回は番外編です!そうです!アレです!(ヒント:日付)



『どうでもいい小話』

 NHKラジオの『アイマス三昧』お疲れ様でした!

 あーあー!24時間アイマス楽曲をずっと流してくれるチャンネルがあったらいいのになー!

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