今回は一風変わって○○○な良太郎の恋仲○○!
それは、あり得るかもしれない可能性の話。
「……くわぁ」
リビングの炬燵の中で噛み殺しきれなかった欠伸が口から漏れ出る。時刻は午後十一時を過ぎようとしていて、
「りょーちゃん眠いの?」
「眠たいのなら寝たら~?」
そんな俺の欠伸を聞いて投げかけられた声に、俺は「いやいや」と首を横に振る。
「まだまだ宵の口だよ? そんな子ども扱いしてもらっちゃ困るよ」
「子どもでしょ~?」
まぁ世間一般的に言えば
「りょーちゃん、ゆいのお膝どーぞ?」
「わーい!」
ポンポンと叩かれた太ももにふらふら〜っと吸い寄せられる。そのままポスリと仰向けに頭を下ろすと、優しく頭を撫でられるオプション付き。あー、子どもで良かったー!
……あっ、やべっ、ホントに眠くなってきた……美少女アイドルの膝枕で眠れるのは贅沢なことだが、流石にホントに寝るのは……。
「年越し蕎麦出来ましたよ~! ……えっ、なにを羨ましいことを! ……じゃなくて、良太郎君、寝ちゃうんですかぁ?」
「……起きる〜」
「葛藤あったね〜」
うるさい! 葛藤するに決まってるだろ! 美少女アイドルの膝枕なんだぞ!
「また後でしてあげるから、心配すんなってー」
やったぜ!
俺、周藤良太郎がこの世界に転生してから早
なんかジュニアアイドルとしてデビューしたり、転生特典がアイドルとしての才能だったらしく凄い人気を博したり、あれよあれよとトップアイドルになってしまったり、とても濃密な十年間だった。
しかしそれらの出来事も、時の総理大臣である『杉崎鍵』が導入した一夫多妻制のせいでこの世界の人々の恋愛観が若干緩くなっており、僅か十歳にして年上の恋人が三人も出来てしまったことと比べれば大したことではないだろう。
三人とも絵に描いた美少女な上にアイドルという素晴らしい存在故、未だに戸惑うこともあるが……とりあえず今は姉弟のような関係で仲良くやっていた。
「はい、良太郎君。気を付けてねぇ?」
「ありがとー、まゆちゃん」
六つ年上の恋人であるまゆちゃんから年越し蕎麦を受け取って炬燵の中に潜り込むと、そのすぐ隣に七つ年上の恋人である唯ちゃんがピッタリと隣に入り込んできた。
「ふー、ふー。はいりょーちゃん、あーん」
「……いや、甘やかしてくれること自体はとても嬉しいし、あーんしてくれることも嬉しんだけど、お蕎麦はちょっと危ないかなーって」
「あーん」
「……あーん」
肉体的には年上でも精神的には年下の女の子の笑顔に負けたわけではない。
「あー! 唯ちゃんズルいです! 私がお蕎麦茹でたんですよぉ!?」
「アハハッ、ゴメンゴメン! 次はまゆちゃんの番ね!」
「いや、そろそろ普通に食べたいなーって……」
「はい良太郎君! あーん!」
「……あーん」
だから笑顔に負けたわけじゃないんだからな!
「ちょっとー、恋人を一人仲間ハズレっていうのはどーなのさー?」
そんな俺たちのやり取りに、炬燵の対面でうつ伏せに寝転がっていた八つ年上の恋人である志希が体を起こしながらブーブーと抗議の声を上げた。
「我関せずでパソコン弄ってたのは志希だろー」
さっきまで俺からは姿すら見えていないというのにどうしろというのだ。
「志希ちゃんの分もお蕎麦持ってきたから、伸びる前に食べましょう?」
「はーい。その前にちょっとお花摘みー」
折角の比喩表現なんだから堂々と宣言するのはどうなんだと思いつつ、炬燵から抜け出た志希を――。
「「ぶっ」」
――見送ろうとして、その後ろ姿に思わずまゆちゃんと二人揃って口の中のものを吹き出してしまった。
「わっ、志希ちゃんダイターン!」
「ちょっ、おまっ……!?」
「どうして下に何も穿いてないんですかぁ!?」
「え? 炬燵熱かったから。それにパンツ穿いてるから何も穿いてないってことないよ」
「それでも世間一般的に何も穿いてないって言うんですよぉ!」
黒のレースの下着を堂々と晒しながらキョトンと首を傾げる志希に、手にした割り箸が折れるんじゃないかと思うぐらいの力が入っているまゆちゃんが叫ぶ。
「……あー、もしかして、リョータローにはまだちょっと刺激的過ぎたかにゃ~?」
慌てる俺たちを見て、ニヤニヤと笑いながら自身の下着のラインを指でなぞる志希。
「い、い、いいから早く下に何か穿きなさぁぁぁい!?」
「にゃはは~、廊下は寒いから言われなくても穿くよ~」
真っ赤になって怒るまゆちゃんを尻目に、志希は床に脱ぎ捨ててあったホットパンツに足を通してさっさとリビングを出ていってしまった。いや、あの短さのホットパンツだとあってもなくても寒さは変わらないのでは……?
「もうっ! 志希ちゃんってば! 良太郎君の目の前で、あ、あんな格好……!」
顔が赤いままプリプリと怒っているまゆちゃんに悪いので、決して『驚きはしたものの正直眼福だった』とは口に出さないでおこう。
「まーまーまゆちゃん、そんなに怒らなくてもいーじゃん? 家の中なんだしさー」
「この際だから言わせてもらいますけど、唯ちゃんも大概ですからねぇ!?」
まゆちゃんを宥めようとした唯ちゃんだったが、その矛先が自分に向いてしまったことに「えー?」と不満げな声を上げた。
「いつも胸元ゆるゆるな服着てぇ! 下着の紐チラチラ見えてるんですよぉ!?」
「それが可愛ーんじゃーん」
両サイドの二人が俺を挟んで言い争いを始めてしまったので、俺は二人の邪魔にならないように身を縮こませて蕎麦を啜りながら、数時間前まで俺が出場していた紅白歌合戦を観る。まだ年齢的に八時以降の出演NGだからなー。アーティストの端くれとしてオオトリを任されてみたいものだが、当分先の話だ……八年は長い。
「りょーちゃんにしか見えないんだから、別に良くない?」
「良くないですぅ! 良太郎君にはまだそういうのは早いんですぅ!」
「えー、そんなことないと思うけどなー? ねー?」
……え、もしかして今、俺に話振った?
視線を左右に振ると、二人ともジッと視線を俺に向けていた。えぇ……コレなんて返答するのが正解なんだろか……。
「……一応俺もオトコノコだから、そーいうの見えるのは嬉しかったりするけど」
「ほらー!」
「ぐぬぬ……!」
ふふんと笑う唯ちゃんと悔しそうなまゆちゃん。最後まで聞いてって。
「こー見えて俺にも独占欲ってものがあるわけだから、普段からそーいうのは気を付けて欲しい」
「「………………」」
あれ、外した? 結構恥ずかしいのを我慢して、俺なりに頑張ってみたんだけど……。
「「……もー! もー! もぉぉぉ!」」
えっ、なになに!? 二人して両側から抱き締めながらその鳴き声みたいな声は何事!? あれか!? 来年は丑年だからか!?
「りょーちゃん、ちっちゃいのにそんなカッコいいこと言ってー! もー! ゆいチューしちゃう! チュー!」
「まゆも! まゆもチューします! チューしちゃいます! ちゅ、チュー!」
「あー! 二人ともまた抜け駆けしてズルいー! シキちゃんもチューするー!」
なんだなんだ!? 確かにまだ子年だけどってそうじゃなくて、今俺蕎麦食べてるから! 一斉に抱き着かれると危なっ、汁っ、零れっ……アッツゥイ!!
「………………」
「……リョータロー、寝ちゃった?」
「大人しくなっちゃったねー」
「ふふっ、可愛らしい寝顔ですねぇ」
意識はまだ起きているが、十歳の子どもボディーはまゆちゃんの膝枕の快楽に抗うことが出来ずすっかり休息モードに移行してしまい、そんな彼女たちの言葉に反応することが出来なかった。本当は年越しの瞬間まで起きているつもりだったのだが、それも難しそうだ。
「……ねーねー、まゆちゃん」
すぐ近くから唯ちゃんの声。どうやら俺の顔を覗き込んでいるらしい。
「なんですかぁ?」
「……ゆい、ちゃんとりょーちゃんのこと、好きだからね」
「……へ?」
唯ちゃんの言っていることの意味がよく分からず、思わず俺も内心でまゆちゃんと同じように呆けてしまった。
「まゆちゃんみたいに真剣じゃなくて不真面目みたいに思われてるかもしれないけど……ゆいも本気でりょーちゃんのこと好きだから。……一番りょーちゃんのことが好きなまゆちゃんには、ちゃんと言っとこーって思ったの」
「唯ちゃん……」
「……あたしも。色んなことにコロコロ興味が移ることは自覚してるけど……リョータローだけはこれから先、ずっとずーっと大好きなままでいるから。まー、まゆちゃんには負けちゃうかもしれないけどねー」
「志希ちゃんまで……」
……別に、二人からの好意を疑っているわけじゃない。それでも心の何処かで俺は『結局このまま姉弟のような関係が続く』のではないか、そんなことを考えたことがなかったとは言い切れなかった。
トップアイドルと持て囃されていても、所詮たった十歳の子どもだ。唯ちゃんや志希、そしてまゆちゃんのようなとてもいい子たちが、このまま俺の恋人でいてくれる確証なんて何処にもなくて……。
「……ダメですよぉ、そんな嘘ついちゃ」
そんな二人の言葉を、まゆちゃんはバッサリと切り捨てた。
「……っ! う、嘘じゃないよ!」
「そうやって断定されると、流石のシキちゃんも傷付くんだけどー……」
「いいえ、嘘です。だって――」
――二人とも、まゆと同じぐらい良太郎君のことを愛してるって。
――ちゃーんと分かってるんですからね。
「「……まゆちゃん……」」
「うふふっ、同じ男の子を愛してしまった人同士、誤魔化しても無駄ですよぉ」
目を瞑っているが故に、俺の視界には映らない。けれど今のまゆちゃんは、きっととても優しい笑顔を浮かべているに違いなかった。
「だから来年も、これから先もずっと……同じ良太郎君の恋人として、よろしくお願いしますねぇ。唯ちゃん、志希ちゃん」
「……うんっ! よろしく、まゆちゃん!」
「にゃはは、よろしくね~」
(……そうだよな)
俺はもう、彼女たちからの『愛』を疑わない。十歳だからだとか、年が離れているからだとか、そういうことはもう考えない。
今の俺に出来る限り、そしてこれから先の未来の全てを持って。
三人の愛する女性を、幸せにしてみせると、ここに誓おう。
「………………」
「あれ?」
「りょーちゃん?」
「起きちゃいましたかぁ?」
瞼が重くて上がらない、口も重くて開かない。それでも、今の俺の気持ちを彼女たちに伝えようと必死に両手を伸ばすと、誰かの頬に触れた。それがまゆちゃんなのか、唯ちゃんなのか、志希なのか、流石にそれだけでは分からない。けれどそれは俺の愛する女性の顔であることには間違いがなく……。
――精一杯の力で引き寄せて、口づけをした。
「「「っ!?」」」
他の二人にもしたいけど、今の俺にはこれが限界。
何やら騒ぎ始めた三人の声を子守歌に、俺の意識はまどろみの中へと溶けていった。
あぁ、きっと。
来年も素敵な年になる。
「………………」
どうやら今年もまた、何やら幸せで不思議な夢を見たようだ。内容はイマイチ覚えてないけど。
「……まだ寝れるな」
今年もよろしくお願いします。
・周藤良太郎(10)
史上初! なんと十歳のショタ良太郎!
九歳でアイドルデビューして、そのまま一気に階段を駆け上がった設定。
上手く取り繕っているが、内心では普通に美少女三人に囲まれてドキドキしている。
・佐久間まゆ(16)
ショタ良太郎の恋仲その1。良妻担当。
良太郎への好意の向け方が殆ど変わってないので、結構危ない感じ。
しかし他の恋人がいることにより自然と良き妻のようなポジションに。
・大槻唯(17)
ショタ良太郎の恋仲その2。ギャル担当。
ポジション的には姉の友人枠みたいな感じ。
ある意味で三人の恋人の中での常識人枠でもある。
・一ノ瀬志希(18)
ショタ良太郎の恋仲その3。セクシー担当。
出会い方に色々あったらしくため口を使われているが、ポジション的には憧れのお姉さん枠。
恋人ではあるが年下の男の子でもあるため羞恥心は薄い。
・黒のレース
しきにゃんは黒(断言)
実はちゃんと良太郎を意識して下着を選んでいるという裏話。
・八時以降の出演NG
十三歳未満は八時、十八歳未満は十時みたいですね。
新年恒例の一夫多妻恋仲○○特別編。今年はなんと良太郎ショタ化というさらに特別バージョンでお送りしました。これはこれで新鮮で、書いてて楽しかった。
(アイ転こそこそ噂話。実は唯ちゃんじゃない別のアイドルで七割ほど書きあがっていたけど、デレステで唯ちゃんの新規SSRが来たからそのお迎え祈願を込めて急遽書き直したらしいぞ)
さて、次回こそミリマス編の本編に戻っていきます! 主な登場人物は、ようやくスポットが当たる良妻賢母な彼女です!
それでは来週、シンデレラニューイヤーライブ後の更新でお会いしましょう!