アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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久々の本編は千鶴回から!


Lesson254 お母さんとは呼ばないで!

 

 

 

「なるほどね……」

 

 風呂上がり。バスタオルで髪の毛をガシガシと拭きながら、先ほど届いた未来ちゃんからのメッセージに目を通す。かなり興奮していることが理解出来るほどの熱量を持った長文だったが、とりあえず今日の公演に静香ちゃんが出演していなかった理由は分かった。

 

「静香ちゃんが入院か……」

 

 なんとなく美波ちゃんと似たようなタイプだと思ったから、その可能性を考えて未来ちゃんにそんな感じのメッセージを送っておいたのだが、まさかそれがドンピシャで噛み合うとは……予想通り過ぎて予想外というかなんというか……。

 

 とはいえ、心配と言えば心配である。以前ステージの上で固まってしまったときもそうだったが、静香ちゃんはしっかりとフォローをしてあげないと一度のミスを重く引き摺るタイプの子だ。他事務所のアイドルなのでそれは俺の仕事ではないといえばそれまでの話だが、それを抜きにしても知り合いの子が入院したとなれば普通に心配だった。

 

 検査入院らしいから大事ではなさそうだが……ふむ。

 

「入院? シズカって誰ー?」

 

「765劇場の新人ちゃん。今日のステージに立つ予定だったんだけど、ちょっと無理が祟っちゃってリハーサル中に倒れちゃったんだって」

 

「ふーん……まぁ新人にはありがちな話だね。良く知らないけどご愁傷さま」

 

 そう言うとりんはあっという間に興味を失ってしまったらしく、俺のベッドにうつ伏せの姿勢のまま足をパタパタさせながら手元の雑誌に視線を戻してしまった。別にそれが悪いことだと言うつもりはないけれど、もうちょっとこう、先輩アイドルとして後輩アイドルのことに興味持ったりしない……?

 

「あたしは昔からりょーくん以外のアイドルにそれほど興味持ってなかったし、その代わりりょーくんはあたしたち以外のアイドルにも興味津々だから、丁度いいでしょ」

 

 ……もしかしてだけど。

 

「りんさんや、妬いておられるのですか?」

 

「……妬いてないもーん。りょーくんが他のアイドルのことが大好きでも、アタシの方がもっと愛されてるって知ってるもーん」

 

 口ではそう言いつつ、りんはプイッとそっぽを向いてしまった。かわええなぁ。

 

「……それに、()()はこれからのりょーくんにとって大事なことだって知ってるから。りょーくんは本当の意味で()()()()()()()()になるんだもんね」

 

「りん……」

 

 あぁ、本当に俺はとてもいい女性と一緒になれるんだなぁと、心の奥からその幸福を噛みしめる。

 

「ありがとう、りん」

 

「別にそんなことでお礼なんて言われなくていいもーん。それよりりょーくん、早く寝ようよー」

 

 今まで読んでいた雑誌をサイドテーブルに放り投げ、ポンポンと自分の隣を叩くりん。確かにもう遅い時間だから、そろそろ寝るとしよう。

 

 

 

「りんを送ってからね」

 

「あぁぁぁ今日こそ自然な流れで一緒に寝れると思ったのにいいいぃぃぃ!」

 

 

 

 果たしてこのやり取りは何度目になるんだろうかと、車のカギをチャリチャリと回しながらベッドの上でジタバタしているりんのお尻を眺める。ホットパンツの隙間から下着が見えるぞー。

 

「だからそーいうのはちゃんとしかるべきタイミングにしようって決めただろ?」

 

 このやり取りはLesson237にやったばかりなんだから、ちょっとばかりスパンが早い気がする。いやまぁ、一応時系列的には二ヶ月ぐらい経ってるから期間は空いているといえば間違いないんだけど。

 

「胸はちゃんと触ってくれたから、そろそろワンチャン心変わりしてないかなーって思って……」

 

 そりゃその辺りは遠慮しなくていい関係になったんだから、堪能しとかないとなーと思って。大変素晴らしゅうございました、合掌。

 

「りょーくんははやる気持ちとか、ムラムラして堪らないとか、そーいうのないの!?」

 

 言いたいことは分かるけど、もうちょっと言葉選んで?

 

「折角()()()()()()()()()()()()()()()んだから、のんびり行こうぜ?」

 

「それは、そうなんだけど……うぅ~……絶対におかしいよ~……何であたしの方が焦らされるの~……?」

 

 焦らしてるつもりはないんだけどなぁ……。

 

 その後もぶーたれながらもちゃんと言うことを聞いて帰り支度をしてくれるりんの姿を可愛いなぁと見守りつつ、そろそろ腹を括らないとなぁ……と一人内心で決心を固めるのだった。

 

 

 

(……もう一回、相談に行っとこーかな……)

 

 

 

 

 

 

「えっと……この病院ですわね」

 

 定期公演を終えた翌日、私は商店街の青果店で購入したリンゴを手にとある病院へとやって来た。目的は勿論、昨日から入院している静香のお見舞いである。

 

 それほど大事ではないという話は聞いているものの、それでもやはり心配はしてしまう。プロデューサーの話を信用していないわけではないが、ちゃんと静香の顔を見ておきたかったのだ。

 

「すみません、先ほど連絡をさせていただいた……」

 

 あらかじめ電話でお見舞いを連絡しておいたので、受付で入院の手続きを済ませて静香の病室へと向かう。

 

「……あら?」

 

 その途中の廊下で、見知った顔を見付けてしまった。それはこんな病院で出会うことになるとは思いもしなかった意外な人物で、一瞬足を止めてしまった。なにやら白衣を着た医者らしき人物と話をしていたので声をかけづらかったが、静香の病室へ行くには彼らのすぐ側を通らなければならない。

 

「……ん? 千鶴?」

 

 どうしたものかという私の悩みは、向こうが私に気付いたことで解消されてしまった。ヒラヒラとこちらに向かって手を振っているので、少々近づきがたいものを感じつつも観念して彼の元へと歩み寄る。

 

 

 

「久しぶり、千鶴」

 

「久しぶりですわ、良太郎」

 

 

 

 私の幼馴染で、弟のような存在。そして日本が誇るトップアイドル『周藤良太郎』。

 

 きっと良太郎は私がアイドルになったことを既に知っているだろうから、これはそういう意味で私がアイドルとなってから初めての邂逅。考えていたよりも、意外とあっさりとしたものになってしまった。

 

「どーしたのこんなところで」

 

「その言葉、そのままお返しします。貴方ほど病院が似合わない人も珍しいと思いますわよ」

 

「失敬な。これでもずっと最前線で走り続けた身だから、結構不調があったりするんだぜ?」

 

「っ、ご、ごめんなさい、軽率な言葉でしたわね……」

 

「最近は特にガチャの調子が悪くてな……」

 

「わたくしの謝罪の言葉を返しなさい」

 

 貴方、真面目なときとそうじゃないときの落差が激しすぎて反応に困るんですのよ!?

 

「ふふふっ……」

 

「っ、お騒がせして申し訳ありません」

 

 良太郎と話をしていたお医者さんがクスクスと笑っていたので、良太郎と一緒になって騒いでしまったことを謝罪する。

 

「いや、随分と良太郎君と仲が良いんだなと思ってね。……もしかして彼女が良太郎君の()()()かい?」

 

「いや、仲は良いですけど幼馴染です」

 

「おや、そうだったのか……失礼、お嬢さん。私は神宮寺(じんぐうじ)寂雷(じゃくらい)。この病院に勤務している医師で、良太郎君の……友人かな?」

 

 そう言って微笑みながらお医者さん……神宮寺先生は、紫がかった長髪を靡かせながら優しく微笑んだ。まるで芸能人のような美形の甘いマスクに(こんなに顔が良い医者もいるんですわね……)と内心で感心してしまった。

 

「友人と言っていただけるのはありがたいですけど、お世話になっている身としては少々恐縮ですね」

 

「少し世間話をしているだけさ。世話などと呼べるようなことは何もしていないよ」

 

「……そうですの」

 

 『医者の世話になる』ということがどういうことなのか……良太郎がはぐらかす以上、深く踏み入るべきことではないと判断してそれ以上は何も聞かなかった。

 

「それで? 結局千鶴はどーしたのさ」

 

「分かりません?」

 

 良太郎も知っている青果店の袋を掲げ、中のリンゴを見せる。顎に手を当てて「んー?」と首を傾げた良太郎は、パチリと指を鳴らした。

 

「イベント周回」

 

「ソーシャルゲームから離れなさい」

 

 ついでにイチイチネタを振るのもやめなさい!

 

「冗談はさておき、お見舞いだよな。……もしかして、最上静香ちゃんが入院してるのってこの病院だったのか?」

 

「……その察しの良さを最初から見せていただけませんこと?」

 

 そうすればこの数行全部省けましたわよ。

 

「丁度良かった。俺も静香ちゃんのことが気になってたんだよ」

 

 言外に「俺も一緒に行っていいか」と尋ねてくる良太郎。どうして静香が入院していることを知っているのかなど、色々と聞きたいことはあったが、彼女のことを心配していることは嘘ではないだろう。一緒に病室へと向かうこと自体は勿論構わないのだが……。

 

「貴方の用事はもう終わったんですの?」

 

「あぁ、大丈夫。それじゃあ神宮寺先生」

 

「えぇ、またいつでも来てください。話ぐらいならばいつでも聞きますよ」

 

 神宮寺先生は「それでは、お元気で」と言い残して行ってしまった。その背中に向かって良太郎と共に頭を下げつつ、チラリと良太郎に視線を向ける。

 

「……貴方の交友関係の広さは知っていましたが、まさかお医者さんとも仲が良いとは思いませんでしたわ」

 

「士郎さんの昔の友人らしくてね、その関係で知り合ったんだよ」

 

 それはそれで珍しい繋がりだと思っていると、院内放送が頭上から聞こえてきた。

 

 

 

 ――神宮寺先生、整形外科へとお越しください。

 

 

 

「……整形外科の先生でしたのね」

 

 

 

 ――神宮寺先生、小児科へとお越しください。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 ――神宮寺先生、泌尿器科へとお越しください。

 

 

 

「……良太郎、神宮寺先生の専科はなんですの?」

 

「そんだけ凄い先生ってことなんでしょ」

 

 だからといってこの引っ張りだこ具合は一体……。

 

「ほら、静香ちゃんのお見舞いに行くんだろ? 俺もこの後用事があるんだから、手早く済ませようぜ」

 

「……色々と言いたいことや聞きたいことはありますが、分かりましたわ」

 

 今度は良太郎を伴いつつ、改めて静香の病室へと向かう。

 

「そういえば言い忘れてた」

 

「なんですの?」

 

 

 

「アイドルデビュー、おめでとう」

 

 

 

 ……本当は、良太郎の知らない間にアイドルデビューをして大々的に驚かせるつもりだったのですが、その計画もオジャンですわね。

 

 とはいえ。

 

「……ありがとうございますわ」

 

 こうして良太郎から()()()()()()に立ったことを祝福されるのも、悪くなかった。

 

 

 




・ヤキモチりんちゃん
メインヒロインだから定期的にイチャイチャさせないと(使命感)

・「胸はちゃんと触ってくれたから」
わっふるわっふる。

・神宮寺寂雷
『ヒプノシスマイク』の登場人物で、チーム『麻天狼』のリーダーな35歳。
正体的なアレコレは士郎の知り合いという点で察していただけると。

・「イベント周回」
リンゴを齧りつつ頑張りましょう!

・「神宮寺先生の専科はなんですの?」
アニメで色んなところから呼ばれてたけど、何処なんだろう……。



 久しぶりの本編です。原作通りの流れに沿いつつ、千鶴メインのお話になっていきます。

 そして突然のヒプノシスマイクからのクロスキャラ。先日友人夫婦に二人がかりで布教された結果がコレだよ! 元々チートな雰囲気のお医者さんキャラ探してたから丁度良かった。作者の気まぐれで隣人が独歩と一二三になる可能性もありますが、大目に見てね☆



『どうでもいい小話』

 ニューイヤーライブお疲れ様でした! いやぁ……配信ではあったけど久しぶりのライブ凄い楽しかった……。

 いつか現地でみんなと一緒にうんコールが出来ますように!

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