アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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意味深なタイトル。


Lesson258 ワタシのミライ

  

 

 

 ――こんにちは、未来。

 

 ――えぇ、体は大丈夫よ。

 

 ――……未来、ありがとう。

 

 ――何って、私の代わりにステージに立ってくれたお礼よ。

 

 ――そして……ステージデビューおめでとう。

 

 ――これから一緒に頑張っていきましょう。

 

 

 

(……よし! これね!)

 

 脳内シミュレーションの結果に満足した私は、うんと内心で力強く頷いた。

 

 定期公演が行われた週末が明けた月曜日。昨日退院したばかりとはいえ、殆ど回復した私は通常通り授業を受け、放課後になると未来の教室へとやって来た。目的は勿論、彼女にお礼を言うためだ。

 

 昨日まではずっと「迷惑をかけてごめんなさい」と謝るつもりだったが、お見舞いに来てくれた星梨花さんの「『ごめんなさい』よりも『ありがとう』の方が嬉しい」という言葉に少しだけ考えを改めた。

 

 申し訳ないという気持ちは薄れていないが、それでも私は未来に『ありがとう』という感謝の言葉と『おめでとう』という祝福の言葉を伝えたいと思ったのだ。

 

(だって未来は、私にとって……)

 

 ガラリという教室のドアが開く音に顔を上げる。どうやら未来のクラスのホームルームが終わったようだ。先に自分のクラスのホームルームが終わって廊下で待っていた私は、背にしていた廊下の壁から離れる。

 

 しかしちょうどそのタイミングでスカートのポケットの中のスマホが震えた。取り出してみると母親からの着信だった。一瞬未来が来てしまうのではないかと躊躇してしまったが、()()が脳裏を過り無視することが出来なかった。

 

 チラリと教室のドアを一瞥してから、私は通話をするためにその場から離れるのだった。

 

 

 

「よし! 静香ちゃんの教室にいこーっと! 昨日退院したって言ってたから、今日は来てるよね!」

 

 

 

「もしもし、お母さん? ……今? まだ学校だけど。……大丈夫、今日は劇場には行かない。明後日まではまっすぐ帰ってちゃんと休むわ。……お父さんとの()()だもの」

 

 最後に「だからちゃんと帰るって!」と語気を強めてから通話を終了する。電話の内容は予想していた通り『まだ退院したばかりなのだからまっすぐに帰ってきなさい』と確認というか念押しをするものだった。

 

(……仕方ない)

 

 今未来と会ってしまうと、話が長くなってしまう予感がある。きっと未来はステージでのことを事細かに話そうとするだろうし、私もそんな未来の話をゆっくりと聞きたかった。明日ならばきっと今日よりも時間を取ることが出来るだろう。

 

 少しだけ後ろ髪を引かれる思いを胸に抱きつつ、私は未来の教室に背を向けて昇降口へと向かうのであった。

 

 

 

「えっ!? 静香ちゃん、もう帰っちゃったの!? 学校には来てたんだよね!?」

 

「うん、なんか急いでたみたいだよ」

 

「そっか……ありがと」

 

 

 

 

 

 

 ――千鶴さんから話は聞いてるわ。

 

 ――翼に誘われてステージに立ったんですって。

 

 ――ふふっ、きっと大変だったんでしょうね。

 

 ――でも、楽しかった……でしょう?

 

 ――そう思えたのであれば、貴女も立派なアイドルよ。

 

 

 

(……なんていうのは、流石にカッコつけすぎかな……)

 

 翌日も放課後になると私は未来の教室へと向かった。今日は昨日よりもホームルームが遅くなってしまったが、それでも流石にまだ未来も帰ってはいないだろう。

 

 今日はあらかじめ母親から『学校で少しだけ友だちとお喋りしてから帰る』という旨を説明してあるので、早く帰って来いという催促の電話がかかってくることはない。今度こそ、未来とステージの話を……。

 

「……え、居残り?」

 

「そーそー」

 

 一向に教室から未来が出てこないので彼女のクラスの友人に事情を聞いてみると、返って来た答えはそんな情けないものだった。

 

「未来の奴、英語の授業で宿題忘れと居眠りでバカのコンボ決めちゃってさ」

 

 ぐうの音も出ないの程のバカのコンボだった。何故よりにもよって厳しいことで有名な英語教師の授業でそれをしてしまったのか……。

 

「何か伝言ある?」

 

「……いや、また明日にするわ」

 

 まさか未来の方の都合が合わないとは思っていなかった……仕方がない。また明日出直すことにしよう。

 

「わざわざありがとうね」

 

「なんのなんの。また明日の委員会でね」

 

 ……ん?

 

()()()?」

 

「あれ? 忘れてたの? 最上さんにしては珍しいじゃん」

 

 ……すっかり忘れていた。私はクラス委員長で、明日は委員会の日だった。

 

 委員会はいつも一時間ほど時間がかかる。しかも最近では直近に控えている文化祭の話し合いという普段より時間がかかる内容だ。きっとそれが終わることには未来も帰ってしまうことだろう。どうやら今日だけでなく、明日も未来には会えそうになかった。

 

 教えてくれてありがとうと友人にお礼を言いつつ、私は未来の教室を後にした。

 

(……でも)

 

 今日と明日はダメでも、明後日はようやく劇場へと行ける日だ。そこでならゆっくりと話すことが出来るだろう。

 

 そう前向きに考えて、私は無理やり足取りを軽くしながら帰宅するのだった。

 

 

 

 

 

 

未来ちゃん

 

最近静香ちゃんと

会えてないんですぅぅぅ!

16:10

 

 

 

 

 そんな嘆きのメッセージが未来ちゃんから届いたのは、静香ちゃんのお見舞いへ行った日の翌々日、つまり未来ちゃんの初ステージの日から三日後のことだった。

 

 普段ならば多忙な身ゆえに早々に返信することは難しいのだが、たまたまロケバスでの移動時間だったために軽くメッセージを返す。

 

 

 

 

既読

16:32

いきなりどーしたの?

 

こないだの初ステージのこととか16:33

 

今度は一緒にステージに立とうねとか16:34

 

そーいうのを話したいんですけど16:35

 

なんかタイミングが合わなくて……16:35

 

既読

16:37

メッセージとかじゃダメなの?

 

既読

16:37

……っていうのは流石に無粋かな

 

むわく?16:39

 

既読

16:41

ぶすいって読むんだよ

 

 

 

 

 ちくしょう、不意打ちだったからちょっと笑ってしまった。

 

 

 

 

やっぱり直接話したいです16:44

 

既読

16:46

まぁそうだよね

 

既読

16:47

となると夜寝る前の電話とかもダメか

 

その手がありました!16:49

 

 

 

 

「それでいいのかよっ!」

 

「? 良太郎君、どうかしたの?」

 

「あぁいえ。なんでもないですよ、あずささん」

 

 思わず声に出してツッコミを入れてしまったところ、停車中ということもあって前の座席に座っていたあずささんが振り返って顔を出して来た。

 

「しいて言うなら、そちらの事務所の若い子のお悩み相談中といったところですかね」

 

 相談というよりも寧ろ愚痴を聞いているだけのような気もするが。

 

「ウチの事務所……?」

 

「『周藤良太郎』君に悩みを聞いてもらえるなんて、凄い幸せな子なんですね」

 

 首を傾げるあずささんの隣に座っていた楓さんもひょっこりと顔を出して来た。美人二人が前の座席から顔を覗かせているという、なんとも素晴らしい絶景が目の前に広がっていた。しかも三浦あずさと高垣楓のツーショットなのだから、出るとこに出れば数万円の値が付きそうな光景である。

 

「いえ、相手は俺が『周藤良太郎』だとは知りませんよ」

 

「まぁ、なんだかワクワクする状況ですね」

 

 そう言って目を輝かせる楓さん。付き合いが長くなり分かったことだが、この人結構悪戯好きというか、子どもっぽいというか、それでいて基本的にはクールな大人のお姉様なのだから本当にズルい。

 

「お二人とも、信号が変わりますから……」

 

「「はーい!」」

 

 通路を挟んで反対側の席に座っていた美優さんからのやんわりとした注意に、お姉様二人は元気よく返事をして座席に座り直した。

 

「今更ウチの事務所で、良太郎君のことを知らない子なんていたかしら~?」

 

 どうやらあずささんはそれが気になっているようだ。

 

「勿論オールスター組にはいないですよ。新キャラ加入とかそーいうのがなければ」

 

「なんですか、その新キャラって……」

 

 美優さんから訝し気な目で見られてしまった。

 

 なんというか……こう、近い将来765プロの関係者の知り合いから新しいアイドルが生まれそうな、そんな予感が……。

 

「全ては五月二十七日に分かるかもしれません!」

 

「もう過ぎてますけど……!?」

 

 最近、作中内時系列がイマイチ適当なんだよなぁ……多分春以上夏未満ぐらい……?

 

「……あっ! もしかして劇場の新人さん?」

 

 どうやらずっと考えていたらしいあずささんが、ようやく答えに辿り着きポンと手を叩いた。

 

「そっか、可奈ちゃんたちよりも後に入って来た子には、まだ会ってないものね~」

 

 まぁその中にもかなりの数の知り合いが紛れ込んでいたわけなんだけど。

 

「どう? 新人ちゃんたちの中に、良太郎君のお眼鏡にかないそうな子はいた?」

 

「さぁ、どうでしょうね?」

 

 軽くはぐらかしてそろそろこの会話を終わらせることにする。どうやら目的地まで目と鼻の先のようだ。

 

「それじゃあ、今日はよろしくお願いします、あずささん、楓さん、美優さん」

 

「はぁい、よろしくお願いしますね、良太郎君」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「よ、よろしくよろしくお願いします……え、えっと……」

 

 あずささんと楓さんがにこやかに挨拶を返してくれた一方で、美優さんは何処か浮かない表情だった。これから収録だっていうのに、そんな表情じゃファンのみんなが喜んでくれませんよ?

 

「も、勿論お仕事ですから、頑張りますけど……」

 

「けど?」

 

 

 

「……お願いですから皆さん、ほどほどにしてください……!」

 

 

 

「えぇ!」

 

「勿論!」

 

「任せてください!」

 

 

 

 夕方から夜まで()()()()()()()という、人によっては天国にも地獄にもなりえそうな今回のロケ番組。笑い上戸(あずささん)ウワバミ(かえでさん)ザル(おれ)の気持ちの良い返事に、美優さんは無言のまま両手で顔を覆うのだった。

 

 

 




・某メッセージアプリ画面
二度とやらないとか言いつつ『かえでさんといっしょ』の方で毎月やってたから慣れた。

・楓さん久しぶりの登場
名前だけはちょいちょい出てたけど、本編登場っていつぶりなんだろうか……。

・あずさ&楓&美優
梯子酒ではないけれど、番外編ラストのアレみたいな奴。
頑張れ美優さん! 貴女が唯一の良心だ!

・近い将来765プロの関係者の知り合いから新しいアイドル
まだ名前は明かさないけど、最近紹介された15歳でB88のあの子だよ!
15歳でB88!?



 怪しげなタイトルですが、未来と静香の文化祭編になっております。

 恐らくそれほど大きな変化というか進展は……が、頑張ってアイ転らしくします!

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