アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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※寒暖差注意(シリアスとネタ的な意味で)


Lesson260 ワタシのミライ 3

 

 

 

「良太郎、この間はウチのあずささんが世話になったみたいね」

 

「いやいや世話なんて。お酌し甲斐のある飲みっぷりで、こっちも楽しいお酒を飲ませてもらったよ」

 

「……嫌みって知ってる?」

 

「今のりっちゃんの言葉でしょ?」

 

「そうよねアンタに嫌みが効くわけないわよね……! 私が間違ってたわ……!」

 

「自分を卑下するのはよくないな、りっちゃん。なにか悩み事があるなら相談に乗るぞ」

 

「……そうね……先日ウチのアイドルがロケだっていうのに本気で酔っ払ってスタッフや他事務所のアイドルに大変な迷惑がかかったことと、そのアイドルが事務所に帰ってきてから色々と大変だったこととか、その辺りの話を聞いてもらってもいいかしら?」

 

「大丈夫、俺は迷惑になんて思ってないから」

 

「アンタのことは一切考慮しとらんわぁぁぁ!」

 

 そう叫びながら繰り出されたりっちゃんの右ストレートを腹筋で受け止めるところまでが、今回のお話のオープニングアバンである。

 

 

 

「ったく、あれだけ『沢山飲ませないで』って言っといたっていうのに……」

 

「フリかと思って」

 

 視聴者的には酔ったあずささんと楓さんと、ついでにそんな二人を相手にしてアワアワしてる美優さんを期待しているはずなのだから、それに応えるのがアイドルというものである。

 

 そして俺は優しいので『そもそもそれが嫌ならオファーを受けなければ良かったのでは?』というマジレスはしない。きっとりっちゃんも心の奥底ではそれを『美味しい』と感じているに違いない。

 

「現に滅茶苦茶可愛かったぞ、酔いどれあずささん。酔いどれ楓さんと並んで、それはもう行動一つ一つが取れ高の塊」

 

 いやー俺だけ先に見ちゃって悪いなー全然酔わないタチだから完璧に記憶しちゃって悪いなー放送するまでみんなにはお見せできないのが本当に悪いなー。

 

「それで、わざわざそれに対する文句を言うためだけに来たわけじゃないでしょ?」

 

 いくら顔なじみのりっちゃんとはいえ、わざわざテレビ局の楽屋まで文句を言いに来るほど暇ではないだろう。

 

「そうね、アンタを一発殴るのはあくまでも目的の一つよ」

 

 多分それは目的ではなくサブターゲットとかデイリーミッションとかその辺りの言葉の方が適していると思う。

 

「アンタ、最近ウチの劇場周辺によく出没するらしいじゃない」

 

「扱いが完全に不審者のそれ」

 

 『出没』という点もそうだが、『劇場周辺』なんて言葉のチョイスが特に不審者目撃情報の書き方っぽい。

 

「その辺りの話はこの前、千鶴さんから聞いてるわ」

 

 それは説明が省けるからありがたい。正直その辺りのやり取りを何回もやるとそろそろ飽きてくる人もいるだろうから。

 

「未来ちゃんはプライベートでもなんか懐かれてるからね、放っておけないというか無下に出来ないというか」

 

 なのはちゃんが良く出来た素直な妹、凛ちゃんがちょっと生意気な妹とすると、未来ちゃんは少しだけ手のかかるバカわいい妹、という感覚である。

 

 それに、未来ちゃんにはこの間のステージでいいものを見せてもらった礼がある。いつか彼女にも是非()()()()()()()ってやつを見せてあげたいものだ。

 

「あと静香ちゃんは……」

 

 そしてある意味で、彼女の方が未来ちゃんよりも気になっているアイドルだ。

 

「この間も直接会って話したけど……()()()()よね?」

 

 静香ちゃんはこの業界ではよく見かける『何故か人生に焦っている』タイプの人間だ。少し目を離すといつの間にか泥沼に嵌ってしまっていそうな、そんな危うさを静香ちゃんから感じていた。

 

 昔の千早ちゃんや志保ちゃんを見ているような感覚。特に志保ちゃんは俺自身が彼女の考えを歪めてしまい、その罪悪感が未だに胸に燻っている。まさかまた自分が……とまでは流石に考えないが、それでも気になってしまうのだ。

 

「………………」

 

「多分りっちゃんは、その理由を知ってるんだよね」

 

 俺の問いかけに対して、りっちゃんは眼鏡を押し上げながら無言で首肯した。

 

 何も言わないってことは、多分俺が聞かない方がいいことか、それともりっちゃんの口から話すわけにはいかないことか。どちらにせよ、無理に聞き出すことは出来そうにない。

 

「……ねぇ、良太郎」

 

「ん?」

 

 不意にりっちゃんに名前を呼ばれ、その声色がいつもと違うことに首を傾げる。それはいつもの気軽なものではなく、かといって重いものでもなく。何かを悲しむような、そんな彼女にしては珍しい声。

 

「アンタは昔からアイドルで、今もアイドルで、これからもアイドルで。そうあり続けたアンタを否定したいわけでも非難したいわけでも、糾弾したいわけでもない」

 

 「でもね、良太郎」とりっちゃんは力なく首を横に振った。

 

 

 

 ――本当に()()()()()子もいるの。

 

 

 

「………………」

 

「静香は頭がいいわ。今自分が置かれている状況をちゃんと把握していて、そしてその覚悟をしっかりと決めてからウチの事務所の扉を叩いた。ちょっとずつ経験を積んで足場を固めて……それが()()()()()、それでも()()()()()()と知っているからこそ、あの子は焦ってるんだと思う」

 

 ……そうか。

 

「そうだよな……」

 

 ずっとアイドルで居続けると、居続けたいと、死ぬまで俺はアイドルなんだと、そう考え続けていた俺は、そんな単純なことを失念していたようだ。

 

「悪い、りっちゃん」

 

 言い訳するつもりはないが、俺は『輝きの向こう側』に居すぎたのかもしれない。

 

「この件に関しては、アンタは何も悪くないわ。でも、本気であの子が自分の問題と向き合って、それでも苦しむようなことがあれば……そのときはアンタが力を貸してあげて。アンタなら、あの子の問題を解決できるかもしれないから」

 

「勿論」

 

 俺に出来ることがあるなら何でもするさ。

 

 

 

「ん? 今、何でもって」

 

「えっ、りっちゃんがそれ言うの?」

 

「わ、私だってシリアスに耐え切れないことぐらいあるわよ!」

 

 

 

「ん?」

 

 りっちゃんの捨て身のシリアスブレイクのおかげで空気が和んだところで、スマホが机の上でPUIPUIと鳴き始めた。

 

「……何その音」

 

「最近流行ってるから」

 

 全く俺を含めて人類は愚かだぜ……っと、どうやら未来ちゃんからの電話らしい。

 

 りっちゃんにスマホを振って確認を取ると、彼女は「また今度でいいわ」と言って楽屋を後にしてしまった。どうやら話したかったことは全て話せなかったようだ。

 

 はてさて、バカわいい妹っぽい子がいきなり電話をかけてきた理由はなんだろうかなっと。

 

「はいはいこちらアイドル電話相談センター、担当リョーさんが承り――」

 

 

 

『静香ちゃんに嫌われたかもぉぉぉ!!!』

 

 

 

 鼓膜ないなった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……! はぁ……!」

 

 大きくラケットを振りかぶる。強く打たれたテニスボールは練習用の壁に飛んでいき、そして跳ね返ってくる。その跳ね返って来たボールに、私は再びラケットを叩きつける。

 

 それは、紛れもなくやつあたりだった。

 

 

 

 ――ねぇ! 静香ちゃん!

 

 ――静香ちゃんも一緒にやろーよ!

 

 

 

 それはあの日、文化祭の委員長からお昼のステージをゲストとして任された未来から投げかけられた言葉だった。

 

 

 

 ――私、一番静香ちゃんと歌いたいの!

 

 ――だからお願い!

 

 

 

 彼女のその言葉は、きっと嘘偽りなかった。屈託のないいつもの笑顔で私の腕を軽く引っ張ってくる彼女を……。

 

 

 

 ――やらないってば。

 

 

 

 ……私は力任せに振り払った。

 

 

 

 ――未来はいいわよね、そうやって好きなことして。

 

 ――でも私は違う。

 

 ――何でもできるわけじゃない。好きにやらせてもらえない。

 

 ――私には時間がないの。立ち止まってる場合じゃないの。

 

 ――なのに、なのに……!

 

 

 

 ――どうして……!

 

 

 

「……うわあああぁぁぁ!」

 

 叫びながら、力任せにラケットを振り回す。

 

 違う、私はこんなことを言いたかったわけじゃないかった。未来にこんなことを言いたくなかった。でも気が付いたときには口にしてしまっていた。

 

(私は、私は……!)

 

 せめてこのお腹の奥底で蠢く黒い感情を発散させようと、テニスの練習場へとやって来たというのに、ラケットを振る度にそのときのことがリフレインされてしまう。

 

(違う、違う、違う……!)

 

 私は、未来に、未来に……!

 

「っ、しまっ……!?」

 

 力任せにラケットを振り続けた代償に、ついにボールはあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。ボールは練習場のフェンスを大きく飛び越え、近くの公園の遊歩道へと向かい――。

 

 

 

 スコーンッ!

 

「あいったぁぁぁ!?」

 

 

 

 ――そんな若い女性の声に、私は血の気が引くのを感じた。

 

(人に、当たって……!?)

 

 ラケットを放り投げて慌ててそちらへと駆け出す。

 

 声が聞こえてきた方へと走っていくと、そこには三人の制服姿の女性がいて、その中の一人が道の真ん中に座り込んでいた。きっと彼女たちだと声をかけようとして――。

 

 

 

「いったぁぁぁ……!? え、大丈夫!? 私の頭取れてない!?」

 

「辛うじて」

 

「辛うじて!? えっ!? 何!? 首の皮一枚で繋がってるとかそういう感じ!?」

 

「それにしても凄い気持ちのいい音がしたよね……私ちょっと感動しちゃった」

 

「しぶりんは感動する前に私の心配してもらってもいいかなぁ!?」

 

「だ、大丈夫ですか未央ちゃん!? 頭は大丈夫ですか!? 頭はおかしくなってないですか!?」

 

「しまむーは心配してくれるのはいいけど言い方ぁ!」

 

 

 

 ……なんか一瞬「大丈夫そうかなー」とか思っちゃったけど、そうじゃないと首を振る。

 

「あ、あの、すみませんでした!」

 

「あー大丈夫大丈夫。でも気を付けてね」

 

「それしぶりんが言っちゃうの……いや別にいいんだけどね……」

 

 蹲っているセミロングの茶髪の女性の代わりに、黒髪ロングの女性が「はいこれ」とテニスボールを手渡してくれた。

 

「……ん? しぶりん……? 未央ちゃん……? しまむー?」

 

「「「あっ」」」

 

 何やら聞き覚えのある呼び方に、よくよく見れば見覚えのある姿。寧ろ見覚えがあるという表現の仕方が失礼なぐらいに、彼女たちは有名人だった。

 

 

 

「にゅ、ニュージェネレーションズ……!?」

 

 

 

「……うん、まぁ」

 

「そうだよねー……」

 

「バレますよね……」

 

 

 




・酔いどれあずささん
・酔いどれ楓さん
俺も見たいぞ!(ただの願望)

・良く出来た素直な妹
・ちょっと生意気な妹
・少しだけ手のかかるバカわいい妹
美由希「あの」

・そんな単純なことを失念していた
久しぶりの良太郎反省ポイント

・「ん? 今、何でもって」
りっちゃん渾身のシリアスブレイクがコレである。

・PUIPUI
凄い勢いで流行っててビックリ。



 ネタとシリアスが行ったり来たり、まるで現実世界の寒暖差みたいだぁ……(最近暖かくなりましたね、という挨拶)

 志保がいなかったりちょっとした差がありやや原作よりも険悪ムードですが、ここでニュージェネの登場です! 未来は良太郎が相手をしますので、静香はニュージェネの三人にお任せします!

 勿論この三人になった理由も……?



・どうでもいい小話

 年明けてからの作者のガチャ事情

ミリシタ 志保→恵美のSSRコンボ
デレステ 唯→楓のSSRコンボ
ポプマス 唯&恵美同時実装

 運営が俺を仕留めに来ている……!

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