アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ニュージェネのアイドル相談コーナー!


Lesson261 ワタシのミライ 4

 

 

 

「こうやって三人でのんびり歩いて帰るのも、なんだか久しぶりですね!」

 

「そうだね」

 

「最近は私たちもすっかり人気者だからね~!」

 

 レッスンを終えた私たちニュージェネは珍しくその後の予定がなにも無かったので、久しぶりに三人一緒に帰路へついていた。

 

「いやホント、一年前からは考えられないぐらいの人気っぷりじゃない? 我らながら!」

 

「ホントですね……」

 

 近道として運動公園の敷地内を歩きながら、ジュース片手に最近の私たちニュージェネレーションズの話。半年前までながら未央に「あんまり調子に乗ると痛い目をみるよ」というツッコミを入れていたところであるが、今となっては卯月と共に同意せざるを得ない。

 

 あの『シンデレラの舞踏会』から半年が経ち、私たちもようやく『アイドル』だと胸を張れるようになった。

 

「まさか巷では『346プロダクションの新たな顔』とまで呼ばれるようになるなんてね」

 

「あはは……ちょっと恐れ多いですけどね」

 

「でもでも、それだけ期待されてるってことだから、より一層頑張らないとね! それこそピーチフィズやケットシーに負けないぐらい!」

 

 そこで『魔王エンジェル』や『Jupiter』って言わない辺り、わきまえていると言えばいいのか日和っていると言えばいいのか。

 

「はい! これからも頑張りましょう! 未央ちゃん! 凛ちゃん!」

 

「……まぁ、そうだね。ここまで来たんだから、まだまだ行けるところまで行きたいよね」

 

 始めはただ『三人でアイドルを続けられる』だけで良かった。けれど今では『三人でアイドルの高みへ行きたい』と、そう考えている。

 

 『周藤良太郎』を超える……とは流石にちょっと言えないけど。それでも……私も、彼らが活躍する『輝きの向こう側』を覗いてみたかった。

 

「行ける行ける! 今の私たちは、飛ぶ鳥を落とす勢いなんだから!」

 

 そう大声で意気込む未央は――。

 

 

 

 スコーンッ!

 

「あいったぁぁぁ!?」

 

 

 

 ――飛ぶ鳥を落とす勢いで飛んできたテニスボールが頭に直撃してその場に蹲るのだった。

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当にすみませんでした……!」

 

「あーうん、痛かったことには痛かったけど、今はもう平気だからダイジョーブだよ」

 

 テニスボールを未央の頭にジャストヒットしてしまったらしい運動服の少女がペコペコと頭を下げ、それに対して未央は「気にしないで」とヒラヒラと手を振った。

 

「それで……最上静香ちゃん、だっけ」

 

「は、はい。765プロの劇場で……あ、アイドルをさせていただいています」

 

 公園の敷地内とはいえ遊歩道の真ん中にいては邪魔だということで近くのベンチまでやって来た私たちは、そこで運動服の少女の自己紹介を受けた。

 

(765プロダクションの劇場というと、千鶴さんとおんなじところか)

 

 千鶴さんはウチの生花店と同じ商店街にある精肉店の長女。私と合わせて『商店街の二大看板娘』なんて呼ばれ方をしているが……私は恥ずかしいので好きじゃなかった。

 

 そんな千鶴さんから突然「私もアイドルになりましたの」と聞かされたのは……世間がIEで騒ぎ始める直前ぐらい。ちょうどおつかいを頼まれてお店を訪れたときで、ついでに「驚かせたいから良太郎には黙っておいてほしい」とも頼まれてしまった。それから結構経つけれども……そろそろネタバラシはしたのかな?

 

 そんなことを考えていると、じっと最上さんの目を見ていた卯月が「……あの、最上さん」と話しかけた。

 

「は、はい」

 

「何かお悩みですか?」

 

「えっ」

 

「なんだかそんな気がして……」

 

 「違っていたらすみません」と言いつつ、卯月の言い方は半ば確信しているようだった。

 

「そ、そんな風に見えましたか……?」

 

「はい……なんとなく」

 

「私にも見えたよ。いやーウチの事務所にも色々と悩んでる子が多くてさー、そーいう雰囲気はなんとなく分かるようになっちゃったよ」

 

 ウンウンと頷きながら卯月の言葉に同意する未央。

 

「そうだね、悩んでた筆頭の未央」

 

「ダメですよ凛ちゃん、未央ちゃんにも色々あったんですから」

 

「しぶりんとしまむーにそれを言われたくはない」

 

 私たちは『色々とお騒がせしましたトリオ』だから全員『お前が言うな』状態だった。

 

「まぁそんなことはさておいて……どうかな、もがみん。私たちで良かったら相談に乗るよ?」

 

「い、いえ、そんな、皆さんのお手を煩わせるようなことは……も、もがみん?」

 

 突然の未央からの提案と『もがみん』呼びに困惑する最上さん。

 

 いきなり何を言い出すのかという意味を込めて未央に視線を向けると、彼女は「だってさ」と肩を竦めた。

 

「私たちもようやく()()()()()()()として胸を張れるようになってきたわけですよ」

 

 確かに今では『シンデレラプロジェクト』では二期生が活動している。美波やみくを中心にしてその子たちのレッスンを見てあげたりしているから、先輩という表現で間違いないだろう。

 

「少し前の私たちだったら自分たちのことで精一杯で、人の相談に乗るどころの話じゃなかったじゃん?」

 

「……まぁね」

 

 私がトライアドプリムスとして活動すると決めたとき。

 

 未央がソロ活動を始めると宣言したとき。

 

 卯月が一人で養成所に戻ってしまったとき。

 

 その都度、私たちはプロデューサーや良太郎さんたちに話を聞いてもらった。ときに優しく慰められて、ときに激しく叱咤されて、そうやって周りの人たちに支えられながら私たちは今ここにいる。

 

「だからさ、今度は私たちの番だよ」

 

「……そうだね」

 

 良太郎さんは、いつも私たちのことを気にかけてくれた。それは妹のような存在だからとか、そういうことじゃなくて……いつだって彼は『アイドルの味方』だったから。悩んでいるアイドルや困っているアイドルに手を差し伸ばして来た彼に助けられたからこそ、今度は私たちが同じように次の世代のアイドルの力になる番だ。

 

「というわけで、もがみん! おねーさんたちにドーンと悩みをぶつけてみるといいよ!」

 

「島村卯月、頑張って相談に乗りますね!」

 

「え、えっと……」

 

 キラキラとした表情で身を乗り出してくる未央と卯月に、最上さんは困った様子でチラチラとこちらを見てきた。

 

「……言いづらいことなら無理に言わなくてもいいよ。でも、もし私たちに話して少しでも気が晴れるようなことなら話してほしいかな。アイドルの先輩として、貴女の力になりたいんだ」

 

「………………」

 

 最上さんは視線を逸らして迷う素振りを見せた。いくら私たちが名前を知っているアイドルだからとはいえ、自分の悩みを話すことに抵抗があるのは仕方がないことだろう。

 

「……聞いて、いただいてもいいですか?」

 

「「「……勿論!」」」

 

 だから、それでもなお話してみるという最上さんの決断が嬉しくて、私たちは勢い込んで頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

「――ということが、ありまして……」

 

 今人気急上昇中の『new generations』の三人に一体私は何を話しているのだろうかと、頭の片隅の冷静な私が問いかける。今日初めて言葉を交わした先輩アイドルに、他事務所といえど憧れているアイドル相手に、本当に私は何を話しているのだろか。

 

 悩み事があるなら話してほしいと持ち掛けてきたのは相手だが、それでもこんなドロドロとした感情を口にするなんて、私はどうかしているのではないだろうか。

 

 ……それでも私の口は、自分でもビックリするぐらい全てを吐き出していた。

 

 きっと心の何処かで誰かに話したいと、そう考えていたのかもしれない。

 

「……酷いですよね、私……同じ劇場の仲間に向かって、こんな――」

 

 

 

「分かる!」

 

「分かります!」

 

 

 

「――えっ」

 

 顔を上げると、本田さんと島村さんが凄い勢いで頷いていた。

 

「その焦る気持ち分かるよ~! ウチのユニットメンバーの青色もさ~別プロジェクトの別ユニットに抜擢されちゃって~」

 

「そのユニットでのステージがそれはもうカッコよくて……このまま私たち取り残されちゃうのかって心配になっちゃいましたよね……」

 

「ちょっと待て」

 

 しみじみと語る本田さんと島村さんの背後に忍び寄っていた渋谷さんが、二人の後頭部をガシッと掴んだ。

 

「それ関係で色々とやらかした二人には色々と言われたくないんだけど……!? 特に卯月……!?」

 

「「イタタタタ!? 力込めないで!?」」」

 

 ……ただじゃれついているようにしか見えないが、本当にこの仲良さそうな三人にもそんな薄暗い感情を抱くような出来事があったというのだろうか……?

 

「もがみんが落ち込んじゃう気持ちは分かるよ。でも友だちだから、仲間だからこそ、そういう感情は湧くんだよ」

 

「仲間だから、こそ……」

 

「そう。負けたくない。置いて行かれたくない。不満や嫉妬は……その子が、もがみんの『ライバル』だからだよ。……だから私も焦って、何か出来ることをしようとして、結果二人を余計に不安にさせちゃったんだけど」

 

 ……ライバル……。

 

「最上さんの事情は分かりませんが、早く何か結果を残さないといけないと焦る気持ちもそうです」

 

「はい……私には時間が……」

 

「でも、私たちに本当に必要なことは()()()()()じゃなくて……自分のことを応援してくれる()()()()()()、なんです。……それを忘れちゃったせいで、私も色んな人に怒られちゃいました」

 

 ……ファンのため……。

 

 

 

 ――歌ってるときの静香ちゃん、すっごいカッコよかった!

 

 

 

 初めてアイドルのステージを見た未来は、私に向かってそう言ってくれた。

 

 ことあるごとに、彼女は私の歌がカッコよくて好きだと褒めてくれた。

 

 ライバルだから。ファンのために。

 

 本田さんと島村さんが教えてくれたその二つの言葉が、私の頭の中でグルグルと渦巻いている。

 

「……なんか、私が何か言う前にその必要はなくなっちゃったみたいだね」

 

「えっ」

 

「さっきよりだいぶマシな顔になったよ」

 

 渋谷さんに言われ、分かるはずもないのに思わず自分の顔をペタペタと触ってしまった。

 

「もう見えてるはずだよ……アンタだけの、たった一つの譲れない想い(たいせつなことば)が」

 

 

 

(今しぶりん、多分頭の中ですっごいルビ振ったよね)

 

(はい、私もそんな気がします)

 

 

 

「こーやって力を込めると痛いって良太郎さんが教えてくれてー」

 

「「アイタタタタタッ!?」」

 

 

 

 ……凄くいい言葉を聞いたはずなんだけど、先ほどからずっと渋谷さんが本田さんと島村さんの後頭部を掴んだままだったから……なんだかなぁ……。

 

(……私の、想い……)

 

 まだはっきりとした言葉には出来ないけれど、それでも先ほどまでずっと抱き続けていた未来への罪悪感という名の顔を合わせたくないという感情は薄れていて。

 

 

 

 早く未来に会いたいと、そう思った。

 

 

 




・一年前からは考えられないぐらいの人気っぷり
原作でもそうだけど、この世界は一年での人気の上り方は凄まじいと思う。

・『商店街の二大看板娘』
番外編14以来……のはず。
たまに質問がありますが、凛と千鶴は昔から面識があります。
ついでに言うとこの商店街と翠屋は離れている設定なので、初登場時の凛ちゃんが翠屋を知らなかったわけです。

・『色々とお騒がせしましたトリオ』
良太郎というかアイ転の空気に着実に毒されている三人なのであった。

・やらかし先生@未央&卯月
こじつけっぽいけど、大体のやらかし案件ってアイドルの誰かが先にやらかしてるんだよなぁ……。



 ニュージェネのお陰で漫画よりも早めの決着が着きそうな雰囲気になっております。

 さて一方で良太郎はどんな話を未来ちゃんとしているのか……。

 (ぶっちゃけ想定外だった)五話目に続きます。

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