アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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アイル編スタート!


Lesson263 Aisle for AISLE

 

 

 

「そうだ、馬主になろう」

 

「頼むからせめて脈絡のある一言から始めてくれ」

 

「いやな、俺も一応収入的には日本のセレブの仲間の一人のわけだから、ここらで一つセレブらしいことをしてみようかなぁと」

 

「それ絶対お前が現在進行形でやってるアプリゲーの影響だろ」

 

「差せ! 差せぇぇぇ!!」

 

「人の話を聞け……オイオイそこから差すのか!?」

 

「強いぞ流石だゴールドシップ!」

 

「納得のキャラ選!」

 

 そんな本編と全く関係ない冬馬との無駄話から、今回のお話もスタートである。

 

 

 

 未来ちゃんと静香ちゃんの些細なすれ違いはどうやら間もなく解消できたらしく、未来ちゃんから「仲直り出来ました!」という報告が静香ちゃんとのツーショット写真と共に送られてきた。二人とも目が少し赤く泣いていたらしいが、それでも二人が仲良さそうに笑っていたため、一応円満に解決したらしいことが分かってホッとした。

 

 というやり取りが、大体一週間前の出来事である。

 

 その間に凛ちゃんから『遊び人のリョーさん』のことで問い詰められたり、また変なことをするつもりじゃないだろうなと疑われたり、ついでに劇場へ行くなら今度私も連れていけと強請られたり、この辺りの話はまた後日。

 

「やっぱりこうやって後進の子たちが成長する様を見るっていうのは、何度経験してもいいもんだな」

 

「アイドルのことなんだろうが、ゲームのライブシーン見ながらだと全く別の意味に聞こえるぞ」

 

 冬馬から「いい加減にスマホを置け」と言われたので、素直に従う。

 

「ったく、真面目にやれ。本番まで三ヶ月もねぇんだぞ」

 

「はいはい」

 

 冬馬に促されてスマホをギターに持ち替える。

 

 夏休みに開催されるアイドルによるバンドの祭典まで残り三ヶ月。今回はジュピターと一緒に四人でバンド参加をするため、こうしてお互いの隙間時間を使って音合わせの真っ最中だった。ちなみに冬馬はベースで俺と一緒にダブルボーカル。北斗さんがキーボードで翔太がドラムである。

 

「そういえば聞いたか? 今年の765プロは前回とは別のメンバーで参加だってさ」

 

「ふーん」

 

 まるで興味がなさそうな反応だが、コイツが本当に興味なかった場合はハッキリと「興味ない」と切り捨てるからな。興味ないわけではないらしいので、このままこの話題を続行する。興味無さそうでも続けるけど。

 

 さて二年前は三つのバンドで参加をした765プロ。しかし今回はお互いのスケジュール的にそのバンドを再結成することが出来なかったため、新たなメンバーで参加するらしい。

 

「特に美希ちゃんと響ちゃんと貴音ちゃんは『フェアリー』がついに全国ツアーらしいから、バンドの練習してる暇ないんだろうね」

 

「ヤメロ俺たちが暇みたいだろ」

 

 当然俺も冬馬も暇というわけではない。だからこそこうして時間の隙間を見付けてわざわざちょっとずつ音合わせをしているのである。

 

「お前もそろそろフラフラすんのやめろよ。忙しいんだから、少しぐらい落ち着いてこっちの仕事に専念しろって」

 

「ちゃんと仕事には穴開けてないんだから、それ以外のことは自由にさせてくれよ」

 

 そうじゃないとお話が進まないでしょ。誰が語り部やるのよ。

 

「……お前さっき、()()っつったな」

 

「ん?」

 

 

 

「まさか()()()()()()()じゃねぇだろーな」

 

 

 

「……そう凄むなって」

 

 ジャランと適当に弦をかき鳴らすが、冬馬からの厳しい視線は揺るがなかった。

 

「そんな大層なもんじゃねぇよ。俺の趣味ってなんだと思う?」

 

「……アイドル」

 

「そう、()()()()だ」

 

 トップアイドルであると同時に俺自身も『アイドルオタク』。俺自身がアイドルとして輝くのと同じぐらい、他のアイドルが輝いてくれることが嬉しく、そしてその過程を見守ることが楽しいのだ。

 

「……育成ゲームでもやってるつもりか?」

 

「なに? 今日の冬馬、棘多めじゃない?」

 

 そんなに俺がトレーナー業にハマっていることが気に入らなかったか。

 

「捉え方によっちゃそう見えるかもしれん。……でも悪いな、冬馬」

 

 

 

 ――俺は()()を見てるんだよ。

 

 

 

「……人を視野狭窄みたいに言いやがって」

 

「そこまで言ってねぇって。でも、お前もそろそろそーいうことを考えた方がいいんじゃねぇか?」

 

「ウルセェ。そーいうのはオメェを超えてからって決めてるんだよ」

 

 ここで優しい俺は「それじゃあ一生無理じゃねぇか」とは言わない。そして優しい故に冬馬の将来を心配してあげるのである。

 

 

 

「すぐにとは言わないけど、お前も春香ちゃんか卯月ちゃんかを考えておけよ」

 

「ごふっ」

 

 

 

 冬馬のベースの弦がブチッと千切れた。オイオイ危ないな、怪我してないか?

 

「……本当に何の話をしてるんだぁ……テメェはぁ……」

 

 さて、なんの話をしてるんだろうなー?

 

「ホラホラ、時間が無いんだからさっさと弦を張り替えろって」

 

「その無い時間を無駄に浪費しようとしてるのはテメェだろうがっ!」

 

 そう叫びつつ慣れた様子で手際よく弦を張り替える冬馬を尻目に、俺は再び適当に弦をかき鳴らすのだった。

 

 

 

 

 

 

「『フェアリー』の新アルバム発売&全国ツアー決定……かぁ……!」

 

「メンバーは美希さんと貴音さんと響さん! やっぱりすごいよねこの三人!」

 

「すっごい可愛いしすっごく綺麗だしすっごくカッコいいもんなぁ」

 

「プロモ見た!? ダンスが最高にクールなんだよ!」

 

「はいはい皆さん! テレビに注目! ちょうどCMやってますよCM!」

 

 劇場は今、『フェアリー』の話題で持ちきりだった。

 

 あの『竜宮小町』と共に765プロを代表するユニットである彼女たちは、つい先日告知PVを公開してから世間の注目を浴び続けていた。

 

「私たちもさっきおっきい広告見てきたもんね、静香ちゃん!」

 

「えぇ……本当に綺麗だったわね」

 

 当然私や未来もその話題に興味がないわけがなかった。未来は純粋に凄いアイドルとして、私はそれに加えてアイドルの大先輩の大舞台が何か勉強にならないかと、とにかく彼女たちのことが気になって仕方がなかった。

 

「ところで静香ちゃん、ツアーって何? 旅行?」

 

「……それを知らずに盛り上がっていたのね、貴女」

 

 未来らしいと言えば未来らしいが。

 

「色んな場所で順番にライブをすることをツアーっていうの。同じ場所で何回もライブをするより、色んな場所でライブをした方がより多くの人に聞いてもらえるじゃない?」

 

「あぁ、なるほど!」

 

「ちなみにありさは全公演&全日程に参加する予定です!」

 

 私と未来の会話を聞いていた亜利沙さんが、両手にサイリウムを構えながらドヤ顔で話に入って来た。……もしかしてそのサイリウム、たった数秒流れたCMのためだけに折ったんですか……?

 

「えっ、全部!? 全部同じライブじゃないの!?」

 

「ノゥッ! ライブとは水物っ! 会場によってセトリや演出は微妙に変化し、例え同じだったとしても全く同じライブというものはこの世に一つとして存在しません! 後日円盤として発売されても初日がダイジェスト版になってしまったりすることもあるので、こればかりは現地でしっかりと見届けなければいけないのです!」

 

「へー……静香ちゃん、私たちも観に行こうよ!」

 

 どうやら亜利沙さんのダイレクトマーケティングが成功したらしく、元々未来にあったライブへの興味がさらに増したらしい。

 

「そうね。勉強にもなるし、プロデューサーに席を貰えるか頼んでみましょうか」

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

 そんな私の提案に亜利沙さんからの『ちょっと待った』コールがかかった。

 

「いいですか静香ちゃん、関係者席は邪道です」

 

 亜利沙さんの顔とフォントが怖い。

 

「まずはチケットの申し込み! 抽選結果を待つドキドキ感! 例えそのチケットサイトで過去何度辛酸を舐めさせられようとも、決して感謝の気持ちを忘れてはいけません!  信じていれば救われるのです!」

 

 先日「イー○ラスゥァア゛ー!」という叫び声が聞こえたような気もしたが、きっと亜利沙さんの声によく似た誰かだったのだろう。

 

「そして神席が当たった際の高揚感! そう! ここからライブは始まっているのです!」

 

「ハズレ席だった場合は?」

 

「リピートアフタミー! 『現地ならば勝ち組』!」

 

 要するにプラス思考ということでいいいのだろうか。

 

「ライブ会場への移動手段の確認! 遠征ならば宿の確保! シングルの部屋は早々に埋まってしまうので、ありさは友人と一緒にダブルの部屋を予約します! 安いですし!」

 

 普段から一緒に各地のライブに参加している『ミツミネさん』というアイドルオタクの友人がいるという話は何度か聞いたことがあった。

 

「そしてライブ当日! 隣のお客さんと盛り上がるアイドルトーク! ライブに参加する方々は皆いい人なので、少々愛想に欠ける静香ちゃんでもすぐに仲良くなれますよ!」

 

「余計なお世話です」

 

 余計ついでに無粋な考えをするならば、周りがいい人なのは亜利沙さんが美少女だから優しくされているという理由もある気がする。

 

「泣き! 笑い! ファンとアイドル、会場全体が一体になる瞬間! 全てが揃ってライブなのです!」

 

 ……イチイチ大げさではあるが、亜利沙さんの言いたいことはなんとなく分かる。私だってアイドルのライブに参加するのは好きだ。私も一度だけ大きな会場でのライブに参加したことはあるが、あの独特の雰囲気と高揚感は現地でしか味わえない。

 

 とはいえ。

 

「だから……だから、ありさは……! 関係者席には頼りたくないのです……! ありさはアイドルである前に……一人のファンでいたいのです……! 例えそれが悪魔の誘惑であったとしても……せめてありさだけは、唇を噛みしめてでも耐えなければいけないのです……!」

 

 必死すぎる亜利沙さんの姿を見ていると逆に引いてしまった。こちらのダイレクトマーケティングはどうやら失敗のようである。

 

「……私たちはプロデューサーに頼みましょう」

 

「? うん」

 

 

 

「ちなみに『周藤良太郎』さんのライブだったら?」

 

「手段は選びません」

 

「目が血走っている……」

 

 

 




・「そうだ、馬主になろう」
ウマ娘面白すぎてダメだったよ……。

・「強いぞ流石だゴールドシップ!」
絶対良太郎と気が合うであろうウマ娘。
ちなみに作者未育成である。

・ライブとは水物
画面に映らないところで面白いことやエモいことしてる演者も多いからね。

・「イー○ラスゥァア゛ー!」
ありさぴぴっく。
ぶっちゃけ作者は仲間内でチケット相席共有とかやってたから、絶対に参加したかった現地逃したことないから……。

・ミツミネさん
シャニマス編始まる前に本人は登場すると思う。



 アイル編なのに翼が登場しておりませんが、仕様です。



『どうでもいい小話』

 すっかりウマ娘にハマって更新作業中の生放送で一番の推しであるメジロマックイーンの新衣装星3の実装が発表されて変な声を上げていたのは何処の朝霞りょーうま?

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