アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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第一章最終話になります。

しかし山無しオチ無しであるのは伏線のみ。
ネタ小説としての自覚がまるで足りていませんね。


Lesson37 Are you ready? 4

 

 

 

「……すっげ」

 

 思わず零れ出たその言葉は、たった一人の少女に対して向けられたものだった。

 

 星井美希。長い金髪と年不相応なプロポーション故に日本人離れした風貌をした僅か中学二年生の少女。

 

 元々才能はあると思っていた。少し気分屋の嫌い(傾向の意味)が見られたが、練習に真面目に取り組む努力家な面も見て取れた。彼女ならいつか開花すると少なからず確信があった。

 

「まさか、こんなに早く開花するとはねぇ……」

 

 歓声。ライブ会場であるドーム全体を覆い尽くす大歓声。それが彼女一人のために注がれていた。

 

 

 

 俺がドームに到着してライブ会場に滑り込んだのは、丁度美希ちゃんが曲の前にMCをしている時だった。

 

『星井美希を召し上がれ、なの!』

 

 その言葉を聞き思わずガタッと席を立とうとし、しかしそもそも席に座ってすらいなかったという自分でもちょっと何言ってるのか分からない状態になったのも束の間。

 

 美希ちゃんが歌い始めた。曲は『Day of the Future』。

 

「……ふむ」

 

 上から目線上等で評価させてもらうと、『優』といったところか。この間の特訓の成果……とは一日しかやってないので流石に言えないが。それでも、俺自身が今の美希ちゃんに期待する最高のパフォーマンスだったと言える。

 

 しかし、俺が驚いたのは歌い終わった後だった。

 

(……ん?)

 

 歌い終わった直後に照明が暗くなり、ステージ中央で待機する美希ちゃんの後ろにステージ両脇から二人(暗くて個人特定不可)が出て来た。

 

 そしてそのままイントロが流れ始めたのだ。

 

(二曲続けて……?)

 

 曲は『マリオネットの心』。バックダンサーとして真ちゃんと響ちゃん(ライトが付いたことにより特定)を据え、再び美希ちゃんがメインボーカルだった。

 

 これには流石に驚いた。ぶっちゃけ今の美希ちゃんにこれだけ振りが激しい曲を二曲続けて歌えるとは思わなかったのだ。

 

 しかし。

 

 

 

 ――また会ってくれますか?

 

 

 

 それは、悲壮に満ちた失恋の曲。恋に苦悩する少女の思いを悲痛な面持ちで歌う美希ちゃん。それはただダンスがキツくてゆがんだ訳ではない、彼女の実力故の表現。俺には決してできない『表情』という領域の話。

 

(……予想外だった)

 

 どうやら俺は美希ちゃんを過小評価していたようだ。

 

 

 

 曲が終わり手を振りながらステージ脇へと帰っていく美希ちゃんに、観客達は黄色とピンクのサイリウムを振りながら歓声を上げる。

 

「こりゃ俺の応援はいらなかったかなぁ……」

 

「そんなことないさ」

 

「ん?」

 

 それはひとり言のつもりだったが、何故か返答があった。

 

 声のした方に振り返ってみると、そこにいたのは様々な色のサイリウムを一度に振っている高木さんだった。

 

「高木さん」

 

「来てくれてありがとう、良太郎君」

 

「いえ、俺も楽しみにしてましたから」

 

 数歩後退し、高木さんと肩を並べるように壁にもたれかかり、高木さんの反対側に並んでいた男性に声をかける。

 

善澤(よしざわ)さんも、お久しぶりです」

 

「久しぶり、良太郎君」

 

 変装状態の俺を認知できるこの人は、芸能記者の善澤さん。見た目何処にでもいそうなおじさんだがその実とても優秀な記者で、新曲発売やミリオン達成の時などで俺も度々お世話になっている人だ。

 

「聞いたよ、何でも今回のライブのために大量の花輪を贈ったそうじゃないか」

 

「……高木さん……」

 

「いやーすまない、思わずね」

 

「……まぁ、アイドルのみんなに言って無けりゃあ――」

 

「そっちにも既に話してしまったよ」

 

「言いましたよね? 俺確かに黙っててくださいって言いましたよね? 俺の勘違いとかじゃないですよね?」

 

 黙ってて欲しいって言ったのに何でこんなに筒抜け状態なんだよ。

 

「良太郎君からの贈り物に、みんな喜んでいたよ」

 

「……それが聞けたからまぁ良しとします」

 

 本当は良くないけどね! だって後になって冷静になってみたら一人でウン十万払うとかストーカーみたいじゃねとか思っちゃったし! しかし喜んでくれたなら良し。

 

「どうやら良太郎君は765プロのアイドル達にだいぶご執心のようだね。記事に書いてもいいかな? 周藤良太郎一押しアイドル、って」

 

 俺と高木さんのやり取りに苦笑しつつ、善澤さんはそんなことを聞いてきた。

 

「ご執心ではありますが、流石にそれは勘弁してください」

 

 少し高木さんには悪いとは思うがそう言った類の話は今まで全て伏せてきた。気にし過ぎとか自意識過剰とか言われるかもしれないが、周藤良太郎の名前の影響力は小さくない。『あの周藤良太郎が注目!』とか記事に書かれようものならば、実力云々は置いておいてまず注目されることは間違いなく、個人的に「それズルじゃん!」のような気がするのだ。

 

 そんな個人的事情から、あくまで『周藤良太郎』が765プロのアイドルのファンなのであって『アイドル周藤良太郎』がファンだと公言することを避けて来た。

 

 でもまぁ。

 

「明日にはそんなことを書く必要もなくなると思いますけどね」

 

「……なるほど。良太郎君は、今回のライブをそう評価する訳だね」

 

 善澤さんの目がスッと細くなる。

 

「まだ終わってないライブの評価は出来ませんよ」

 

「ご尤も」

 

 ステージでは、千早ちゃんの『目が逢う瞬間』が始まっていた。

 

 

 

 

 

 

「美希、これ」

 

「……あ、春香……ありがとうなの」

 

 舞台裏。パイプ椅子に座り息も絶え絶えといった様子の美希に携帯酸素ボンベを手渡した。

 

 口元に酸素ボンベを宛がい大きく深呼吸する美希の横に、私も腰を降ろす。

 

「……アイドルって凄いね、春香」

 

 胸に手を当てて、まるでその時の情景を思い出して噛み締めるように美希は言う。

 

「ステージの上から見る景色って、すっごいキラキラで、胸の中がわーって熱くなって……」

 

「……うん」

 

「でもね、まだまだこんなものじゃないんだって」

 

「え?」

 

「りょーたろーさんが言ってたんだ。トップアイドルになると……りょーたろーさん達みたいなアイドルになると、そのキラキラの向こう側が見えるんだって」

 

「キラキラの向こう側……」

 

 呟き、想像し、しかし私には思い描くことが出来なかった。

 

 ステージの上から見える観客席はサイリウムに埋め尽くされ、まるでそこが光の海のようだと私は思った。そこは正しく、美希の言う『キラキラ』な世界。

 

 そんなキラキラの向こう側があるとしたら、果たしてそこはどんな景色なんだろう。

 

「いつか、ミキ達も辿りつけるよね」

 

「美希……」

 

 美希は笑っていた。良太郎さんのことを話す時のような花の咲く笑顔ではなく、好物のお握りを頬張っている時のような満足げな笑顔でもなく。

 

「……うん! 次はいよいよ新曲だよ! 大丈夫?」

 

「もっちろんなの!」

 

 その笑顔は、希望と信頼に満ち溢れた自信の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

「みんな、いい?」

 

「竜宮小町が!」

 

「来るまで!」

 

「私達!」

 

「歌って!」

 

「踊って!」

 

「最後まで!」

 

「力いっぱい!」

 

「頑張るの!」

 

「いくよー!? 765プロ~……!」

 

 

 

 ――ファイトー!!

 

 

 

 

 

 

 感謝祭ライブが終了し、その帰りの電車に僕達は揺られていた。

 

「凄かったですねー!!」

 

「うん。流石良太郎さん一押し?」

 

「そうだね。でも愛ちゃん、もう少し声のボリュームを抑えて抑えて」

 

 おっと、と自分の口を自分で塞ぐ愛ちゃんに苦笑する。

 

 しかし、周りの乗客もライブ帰りのお客さんばかりで大声の愛ちゃんを咎めようとする人は一人もおらず、少々マナー違反のような気もするが口々に先ほどのライブの感想を述べ合っていた。

 

 

 

 ――竜宮小町もいいけど、他のアイドルもなかなか良かったな。

 

 ――俺はあの子、センターの天海春香が気に入った!

 

 ――僕は如月千早ちゃんかなぁ。

 

 ――やよいちゃんハァハァ。

 

 ――お巡りさんこいつです。

 

 

 

 それまで765プロダクションの話題と言えば竜宮小町、ごくたまに美希さんの名前を聞く程度だった。しかしこうして他の皆さんの名前を聞くと、まるで自分のことのように嬉しくなってくる。

 

「今度は、あたし達の番ですね!!」

 

「……まずはCDデビューから?」

 

「道のりは険しいねぇ……」

 

 けれど。

 

 いつかは、765プロのような、良太郎さんのような……。

 

 

 

 

 

 

「……もしかして、これかなぁ?」

 

「ん? どうした?」

 

 事務所でのミーティングを終えて最寄り駅までの送迎の車内にて、翔太がスマホを弄りながらポツリと呟いた。

 

「いや、りょーたろーくん、何か用事があるって言ってたでしょ? それで、何かイベントでもあったのかなぁって調べてみたら……これ」

 

 そう言ってこちらに向けて来た画面を俺と北斗が覗きこむ。

 

 そこには『竜宮小町も登場! 765プロダクション初の感謝祭ライブ!』の文字が表示されていた。

 

「765プロ?」

 

「竜宮小町って、所詮あの色物だろ? 歌もダンスも二流の奴らのライブにわざわざ良太郎が行ったって言うのかよ」

 

「でも、この765プロもこの間の大運動会に出場してるんだよね。ほら、りょーたろーくん言ってたじゃん、気になる子達がいるって」

 

「それがこいつらだって言いてーのか?」

 

「絶対そうだとは言い切れないけど、ライブの開始時間と収録の終了予定時間がぴったりだし」

 

「確かにね」

 

「………………」

 

 じっと画面を見る。そこに映っているのは、知名度でも実力でもまだ俺達にも及ばない奴らがこちらに向かって笑顔を向けている画像。

 

「……ふん」

 

 くだらねぇ。

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 自室のベッドの上。買い替えると意気込んだものの結局未だに買い替えれていないガラケーをポチポチと操作しながら美希ちゃんと真美に送るメールを作成する。何故この二人なのかというと、単純に他の人のアドレスを知らないからである。

 

 メールではなく直接お疲れ様を言いに行くという考えもあったのだが、多分みんなお疲れだろうし、今日一日はファンというスタンスを崩さないためにも他のファンと同じようにライブ終了と同時に帰って来た次第である。

 

 ちなみに兄貴は用事があり俺をライブ会場に置いた後すぐに行ってしまい、帰りは普通に電車に乗った。隣の車両に愛ちゃん達876三人組を見かけたような気がしたが、オーラゼロで乗車してたので多分気付かれてないだろう。

 

「『お疲れ様。最初からはちょっと見れなかったけど、凄く良いものを見させてもらったよ』……っと」

 

 765プロ初の感謝祭ライブは、大成功という結果で幕を閉じた。接近していた台風の影響で竜宮小町の到着が遅れるというハプニングがあったらしいのだが、他のアイドルの頑張りのおかげで観客全員の心をしっかりと捉えたようだった。俺? 最初から765ファンだから既に捉えられています。メロメロですよメロメロ。

 

「さて、と」

 

 メールを送信し終え、パタンと携帯電話と閉じる。

 

 今回のライブを期に、765プロは大きく飛躍する。途中からだが最後まで見ていた俺と最初から見ていた善澤さんはそう確信した。個人個人の評価はまた別にしておいて。本来竜宮小町を目的として来た多くのファンの心には765プロのアイドル達が刻まれたはずだ。

 

「とりあえず、おめでとう、だな」

 

 彼女達はようやく殻が破れたといったところか。多くの人々の記憶に刻まれ、彼女達はようやく『アイドル』となった。

 

 つまり、ようやくここがスタート地点だ。

 

 これまでの彼女達は、何処からも目を向けられていなかった。それはいい意味でも悪い意味でもだ。

 

 名が売れると言うことは、それだけ多くの人々の様々な思惑を持った視線に晒されるということだ。以前の大運動会でのそれは全くの序の口。未遂で終わったものの、本当にただの嫌がらせだ。本物の悪意というものは、その昔、俺や魔王エンジェルの三人が体験したような……。

 

 

 

 ――だからこそ、私達が守ってあげないといけないのよ。

 

 ――権力なんていうくだらない大人の都合から、キラキラと輝く子供たちの夢を守るのが、私達『大人』の役目よ。

 

 

 

 思い出すのは、以前の舞さんとの会話。

 

 生まれたばかりの雛である彼女たちを守るのが役目だと言うのならば。

 

「……まぁ、頑張りましょうか」

 

 

 

 ――覚悟はいいか(アーユーレディ)

 

 

 

俺は出来てる(アイムレディ)

 

 

 

 なんてな。

 

 

 

 

 

 

 アイドルの世界に転生したようです。

 

 第一章『READY!!』 了

 

 

 

 

 

 




・ガタッと席を立とうとし
どんな感じだったかは「外人四コマ」で検索。

・善澤さん
今後重要になってくるであろうキャラ。
貴重な第三者視点でアイドルたちを見る存在。

・「それズルじゃん!」
第二話というかなりの初期段階での名言ということでゼアルの「出た! シャークさんのマジックコンボだ!」を彷彿とさせますね。
類義語としては「インチキ効果もいい加減にしろ!」「まるで意味がわからんぞ!」など。

・お巡りさんこいつです。
気を付けてください。ほら、あなたの後ろにも……手錠を手にした国家権力の狗が!(キャー)
なおこの直前のセリフに関しては今さらなので触れません。

・歌もダンスも二流の奴ら
コミカライズ版での冬馬君の発言。人気急上昇中ではありますが、まぁ現段階で良太郎や魔王エンジェルに近い彼らからすればこのぐらいの評価に疑問は無いかと。

・「覚悟はいいか?」「俺は出来てる」
良太郎「『人気を保つ』『後輩も守る』。「両方」やらなくっちゃあならないってのが「トップアイドル」の辛いところだな」
本文を書くために見直したアニマスで、OPの冒頭部を何度も聞いているうちに思いついた。
文法や翻訳云々に関してのマジレスは受け付けておりません。ニュアンスですニュアンス。



 とりあえず様式美として。



 勝ったっ! 第一部完!

良太郎「ほーお、それで次回からは誰がこの周藤良太郎の代わりをつとめるんだ?」

 いつからお前が主人公だと錯覚していた……?

良太郎「なん……だと……!?」

※応援しかしてないですが紛れもなく主人公です。主人公も良太郎のままです。



 というわけで第一章、別名「アニメ一期編」終了です。

 書き始めたのが十一月だったので、大体半年かけて一章がようやく終わりました。劇場版編は遠いお……。

 まぁ作品自体に何かしらの変化があるわけではなく、二章からもこれまで通り良太郎の適当なアイドル生活を描くだけの自称ネタ小説です。中途半端なネタ成分シリアス成分が入り混じっておりますが、どうかこれからもよろしくしていただけたら幸いです。

 今後の活動予定ですが、これからも毎週火曜日の深夜零時更新を目途に週一で更新していくつもりです。

 ただ来週は諸事情+作者取材(笑)のため本編更新の予定はありません。ストックにある番外編や嘘予告など何かしらの更新はしたいと思います。

 第二章の更新は二週間後になると思いますが、それまでどうぞお待ちください。

 それでは。






 それは、変わった日々と変わらない思い。



「目指せ! トップアイドル!」



 それは、変わった日常と変わらない決意。



「それじゃあ教えちゃおうかな」



「俺が『アイドルを始めるきっかけ』でも『アイドルを続ける理由』でもなく」



 ――周藤良太郎が『アイドルになろうと決意』した話を。



 アイドルの世界に転生したようです。

 第二章『CHANGE!!!!』

 coming soon…


 

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