アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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レジェンドアイドル登場回(仮面ライダー的なアレ)


Lesson274 灼熱の特訓! の巻 4

 

 

 

 次の日も、勿論レッスンという名の特訓は続く。

 

 

 

「くっ……!」

 

 昨晩、一緒に頑張ろうと言葉を交わした紬さんと共に、私も必死に他の三人の動きについていこうと必死に歯を食いしばる。勿論、気持ちだけで飛躍的に動きが良くなるわけもないが、それでも少しでも変われるように全力を振り絞る。

 

「静香ちゃん! 動きに自信がなくてもキョロキョロしちゃダメです! しっかりと意識はお客さんに!」

 

「はっ、はい!」

 

「紬ちゃんもっと飛んで! 茜ちゃんたちは体の小ささを動きでカバー!」

 

「くっ、はい!」

 

 そんな私たちの気持ちを汲んでくれたのか、星梨花さんも茜さんも昨日よりも私たちへの要求がより厳しいものになっていく。オーディションに合格するために、高みを目指すために……そしてなにより、トップアイドルになるために。

 

 ……それでも。

 

「ほらほら二人とも~! そんなもんじゃないでしょ~!?」

 

「「も、勿論です!」」

 

 やっぱり、壁は大きかった。

 

 

 

 

 

 

「「………………はぁ」」

 

 思わず口からこぼれ出たため息が、偶然紬さんのそれと重なってしまった。

 

 休憩時間になり、私と紬さんは運動場の裏の階段に並んで座っていた。今日も予報通りの真夏日となってしまったが、日陰の上に風の通りも良かったので運動場の中よりは涼しかった。

 

「……分かっていましたが、気持ちだけでは上手くなりませんね」

 

「それでなったら、みんなトップアイドルですからね」

 

 ややネガティブな発言になってしまうが、それもまた事実だった。

 

 気持ちだけで上手くはならない。ましてや一日二日でダンスが向上するならば、わざわざこうしてレッスンなんてしない。

 

 それでも、やっぱり優秀な人たちに囲まれてしまうと、どうしても自信は少しずつ削れてしまうのだ。

 

「……伊吹さんも、綺羅さんも、凄かったですね」

 

 ポツリと紬さんが呟く。同じ運動場の中でレッスンをしているので、他のユニットのレッスンは意識しなくても目に入ってしまう。

 

 そして意識しなかったとしても、目に入った瞬間に意識を持っていかれてしまうのが、その二人のダンスだった。

 

 翼とツバサさん、同じ名前の二人は、同じように人々の目を引き寄せる魅力に溢れていた。

 

 翼が見ているこちらが楽しくなるようなパフォーマンスであるのに対し、ツバサさんは自然とその先を見たくなるようなパフォーマンス。今を楽しませる翼と、その先を楽しませるツバサさん。今回の合宿のメンバーにおいて、抜きんでて優秀なのはやっぱりこの二人だった。

 

「あれが私たちの目標……って、胸を張ることが出来れば良かったんですけどね」

 

 随分のネガティブな発言だとは自分でも分かっている。けれど、流石にそんな風に楽天的(みらいのよう)なことを考えられるほど、私はアイドルという存在に対して盲目的になりきれなかった。

 

「……やっぱり、無理なんでしょうか」

 

 そう言った紬さんが膝を抱えて顔を俯かせる。

 

「プロデューサーに声をかけられたからなんて簡単な理由で上京して、トップアイドルになるなんて分不相応な夢を見て……」

 

 紬さんの声が涙で震えている。

 

「そんなこと……」

 

「やっぱり……うちじゃ、ダメなんだ……」

 

 

 

「そ、そんなこと言っちゃダメだよ……!」

 

「自分のことをダメって言っちゃうことが、一番ダメなんだよ!」

 

 

 

「「っ!?」」

 

 突然聞こえてきた声に、私と紬さんはバッと顔を上げた。今の泣き言のような会話を聞かれてしまったことに対する焦りと、聞き覚えの無い声に一体誰がという疑問に満ちた私の視線の先に立っていたのは――。

 

 

 

「……きゃ、キャンディーアイランド……!?」

 

 

 

 ――346プロのアイドルだった。

 

 

 

 

 

 

(なーんか妙なことになったぞー)

 

 それは智絵里ちゃんが「仕事の帰りに以前合宿でお世話になった民宿へ挨拶に行こう」と言い出したことがきっかけだった。

 

 本来ならば移動日の今日は帰るだけの予定だったのだが、その提案に他の人たちが賛成してしまったため、こうしてあの長い石段を登る羽目になってしまった。

 

 そうしてやって来た民宿『わかさ』。去年杏たちが合宿で利用したこの民宿は、なんと今年も別事務所のアイドルが合宿に利用している真っ只中らしい。旅館の入り口には『765プロ劇場ご一行様』の文字が。どうやらあの有名な765プロのようだ。

 

 はてさてどんなアイドルが合宿をしているのかと興味を持ってしまった他の子たちに引き摺られるように運動場に近付くと、そこには絶賛お悩み中らしい様子の女の子が二人。その子たちの会話が偶然耳に入ってしまったのだが……。

 

「み、346プロの、緒方智絵里さんと、三村かな子さん……!?」

 

「それに、双葉杏さん……!?」

 

 あ、別に杏のことは無視していいよー、特に会話に参加するつもりはないから。

 

「ご、ごめんなさい、お話を盗み聞きするつもりは、なかったんです……」

 

「でも少しだけ気になっちゃって……」

 

 どうやら二人は、青白い髪の子の「うちじゃダメなんだ」という言葉が気になってしまったらしい。

 

「え、えっとね、私もね、自分のこと、ダメだって思ったこと、いっぱいあるの」

 

「私も仕事で失敗しちゃって、すっごく落ち込んだことあるの。でもね、そのときアイドルの先輩が教えてくれたの」

 

 それは、以前二人から聞いた話。インタビューの仕事のときに失敗をして落ち込んでいたところを、偶然出会った765プロの萩原雪歩さんが励ましてくれたらしい。どんな偶然だ。……いや、そんな二人がこうして落ち込んでいる後輩アイドルの元へ現れたのも凄い偶然なんだけどさ。

 

「……自分で自分をダメって言うことが、ダメ……」

 

「うん……だって、自分のことをダメって言っちゃったら……それは自分を支えてくれるみんなのことも、ダメって言っちゃうことだから……」

 

「………………」

 

 智絵里ちゃんの言葉に思うことがあったらしい青白い髪の少女改め白石紬さんは、スッと視線を下げた。その表情は未だに悩みが晴れたようには到底見えず、まだ自分の中の何かと葛藤しているようにも見えて――。

 

 

 

「けどまー、ダメならダメでもいいと思うんだけどねー」

 

 

 

 ――先ほどの言葉とは裏腹に、思わず口を挟んでしまった。

 

「「っ!?」」

 

「あ、杏ちゃん……!?」

 

「ちょ、ちょっと……!?」

 

「えー、だってそーじゃん?」

 

 四人とも「何を言い出すんだ」と言わんばかりの表情だが、杏的にはダメ=終わりみたいな考え方はどうかと思う。

 

「『今しかない』『今回しかない』『これがダメだったら終わり』なんて考えで、本当に上手くいくと思う? そーいう背水の陣的な精神が通用するのは薩摩武士か八月三十一日に慌てて宿題やる小学生ぐらいだよ」

 

「……え、杏ちゃん違ったの?」

 

「杏は初日に終わらせるタイプ」

 

「「「「初日!?」」」」

 

 そんな例えを出した杏も悪いかもしれないけど、折角人がやる気になって一杯喋ってるんだからもうちょっと違うところをしっかり聞いてほしい。

 

「本当に()()()()()()()()()()()、終わってから『あーダメだったー』って後悔すればいいじゃん。悪いけど杏、ゲームオーバーするまではリセットボタンに手を付けないタイプだから」

 

「……杏ちゃん、すっごくカッコいいこと言ってるけど……」

 

「普段のあんまり真面目じゃない態度は、どうして……」

 

 理由考えるの面倒くさいから映画版ジャイアンっていうことにしておいて。

 

 

 

「……そうだね。ダメって言って落ち込むのは、本当に全部終わってからでも出来るもんね」

 

 

 

 おっ、電話してた『青色』が来た。

 

 

 

 

 

 

「り、凛さん……!」

 

 杏さんたちの後ろからやって来たのは、例の未来との一件でお世話になったニュージェネの渋谷凛さんだった。

 

「久しぶり、静香。それに……紬も」

 

「えっ」

 

 まさか紬さんも渋谷さんと知り合っていたのかとそちらに目を向けると、彼女は渋谷さんを見ながら口をパクパクとさせていた。

 

「あ、あ、貴女は、やっぱり、あのときの……!?」

 

「ゴメンね、あのときはプライベートだったからさ。……次に会うのはステージの上かなって思ってたけど、もう少し早かったね」

 

 渋谷さんはクスッと微笑んだ。

 

「杏の言う通り、まだダメだって諦めるには早いんじゃない? まだオーディションも受けてないどころか、合宿すら終わってないんでしょ?」

 

「それは……」

 

 渋谷さんの言う通りだった。私たちのスキルアップ、レベルアップのための合宿をしているのだから、合宿が終わってすらいないのに諦めるのは間違っている。

 

「『頑張れ』っていう言葉は、アンタたちにとっての重荷になっちゃうかもしれないから言わない。だからその代わりに、私がずっとずっと憧れてるトップアイドルの言葉をあげる」

 

 そう言うと、渋谷さんは私と紬さんの手を取った。

 

 

 

 ――輝くステージの上で、待ってるから。

 

 

 

 

 

 

「……カッコよかったですね」

 

「ですね……」

 

 『レッスン頑張ってね』と言い残し、渋谷さんたちは去っていった。あの長い階段を下っていく姿が見えなくなってから、紬さんと共に大きく息を吐く。それはため息とはまた違う、心の中にあった何かを大きく吐き出すためのものだった。

 

「……気は楽になりました?」

 

「いえ全く」

 

 予想していなかった回答をハッキリと言い切った紬さんに、思わずその場からずり落ちそうになってしまった。

 

「でも……この感情を抱いたまま……もうちょっと頑張ってみようって、思いました」

 

「……そうですね」

 

 紬さんと共に立ち上がる。

 

 私たちの合宿は、まだ始まったばかりだった。

 

「それじゃあレッスン、にいいいぃぃぃ!?」

 

「つ、紬さん一体どうしまし、たあああぁぁぁ!?」

 

 振り返り、二人揃って変な声を上げてしまった。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 そこには、目を瞑り静かに涙を流しながら手を合わせるツバサさんの姿があった。

 

「つ、ツバサさん!? いつからそこに……!?」

 

「……悪いとは思ってたけど、二人だけで話してるときから……声かけようと思ったら、思いがけずトンデモない場面に遭遇しちゃって……黙って壁になってた……」

 

 壁になるとは一体……。

 

「いやーそれにしても凄いね二人とも! まさかあの渋谷凛さんと知り合いだったなんて! 羨ましい!」

 

 あの魔王エンジェルから直々にレッスンを受けている貴女がそれを言っちゃうんですか……?

 

「何処で知り合ったの?」

 

「私は、その、こちらに上京してくるときに、彼女のお兄さんと一緒に街中で声をかけられて……」

 

「いまなんていった」

 

「え?」

 

「今、なんて、言った」

 

 えっ、なんでツバサさん、いきなり目がマジになったんですか?

 

「そ、その……渋谷さんが、お兄さんと一緒にいるところを……」

 

「お兄さんっ!」

 

 もうツバサさんが何に反応しているのかが全く分からず、思わず紬さんと二人で恐怖に震える。

 

「渋谷凛にっ! 兄弟姉妹はいないのっ!」

 

「え、で、でもあのとき確かに、自分の兄だと……」

 

「そう! でも渋谷凛には! 自分で『兄のように慕っている』と公言している一人のアイドルがいる!」

 

「え、そ、そうなんですか?」

 

「そう! ……つまり彼女は、プライベートでそんな彼とお忍びデートをしていたということで……!」

 

「え、だ、誰なんですか?」

 

「うっひょおおおぉぉぉ! これは早急に亜利沙ちゃんに教えてあげないとぉぉぉ!」

 

「なんなん!?」

 

 今までに見たことが無いような満面の笑みで、ツバサさんは走り去っていってしまった。

 

「………………」

 

「……え、えっと……レッスン……」

 

「……戻りましょうか……」

 

 なんか微妙な空気になりつつも、私と紬さんは運動場の中へと戻る。

 

 不思議なことに、今なら先ほどよりも動けそうな気がした。

 

 

 

 

 

 

「「はぁ……」」

 

「どうしたのさ、二人揃って」

 

「頑張って、萩原さんみたいなこと言おうって、頑張ったんだけど……」

 

「やっぱり、私たちにはまだ早かったのかなぁ……」

 

「そんなことないと思うけど」

 

「そーそー。最初なんにもしようとしなかった杏よりマシだって」

 

「「なんでやねん!」」

 

「今何でツッコまれたの!?」

 

 

 




・「自分のことをダメって言っちゃうことが、一番ダメなんだよ!」
受け継がれる雪歩の系譜。

・CIwith凛ちゃん
まさかの組み合わせ。予想できた人はいたかな?

・どうした杏!?
アイ転の杏は結構働き者というか、お姉さん属性マシマシ。

・どうしたツバサ!?
アイ転のツバサは作者の中でアグネスデジタル(ウマ娘)になってきました。
大体あんな感じ。



 合宿編というかつむつむ編でした。原作の志保とはまた違う感じの静香のライバル的な感じになってくれればなーと思っています。

 そして恒例のレジェンド枠。智絵里とかな子はレジェンドレベルが少し足りなかったため、いいところを凛と杏に持っていかれてしまいました。また今度頑張れ。

 あ、合宿自体はもうちょっと続きます()

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