アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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(二人とも)アイドルの握手会。


Lesson278 アナタに届けたいオモイ 4

 

 

 

「初めてとはいえ、まさかCD渡し忘れるとは……流石未来ちゃん」

 

「それ褒めてんの?」

 

 大絶賛だよ。

 

 さて、未来ちゃんの初々しい一場面を目撃してホッコリとしたところで、俺たちも彼女たちと握手するための列に並ぶことにしよう。

 

「しかし、残念ながら一人一列にしか並べない……と」

 

 混雑緩和のためか、未来ちゃんたちのそれぞれのCDを四枚買ったとしても手渡ししてもらえるのは一人だけらしい。うーむ、無念。

 

「まぁ確かに感染対策は大事だもんな」

 

「ワクチンを接種しても感染対策はしっかりとしなきゃダメですよ」

 

「先輩はともかく、めーぷるさんまで何を言ってるの……」

 

(やっぱり変な人たちは集まるもんなのね)

 

 とりあえず今回は未来ちゃんから「来てください」って言われたから、未来ちゃんのところに並ぼうかな。

 

「ふーん……私は宮尾美也のところに並ぶわ」

 

「それじゃあ私は、エミリーちゃんのところに並んでみようかしら」

 

「……えっ? なに、そういう流れなの? ……まぁいいわ。永吉昴ちゃんのところに並ぼうかしら」

 

 というわけでニコちゃんは美也ちゃんの列へ、楓さんはエミリーちゃんの列へ、奏は昴ちゃんの列へ、俺は未来ちゃんの列へと並ぶことになった。

 

 一人一人と笑顔で握手をし、楽しそうに一言二言会話をする未来ちゃん。ファンの人たちも笑顔で未来ちゃんへ「頑張ってください!」「応援してます!」「大好きです!」と自分の熱意を伝えていて、それに対して未来ちゃんも「でへへ~! ありがとうございます!」とニッコニコだ。

 

 そんな楽しそうな未来ちゃんを静かに見守りながら列に並び、いよいよ俺の番となった。

 

「CDデビューおめでとう、未来ちゃん」

 

「え……えぇ!? リョ、リョーさん!?」

 

 ヒラヒラと手を振りながら目の前に現れた俺に、未来ちゃんは「本当に来てくれたんですか!?」と目を大きく見開いて驚いていた。

 

「是非来てくださいって言ったのは未来ちゃんじゃないか。握手いい?」

 

「勿論ですよ! ありがとうございます!」

 

 差し出した俺の右手を両手で握った未来ちゃんがブンブンと力強く上下に揺する。いつもとは逆の立場のつもりだったのだが、結局いつもと同じような立場での握手になってしまったような気がする。

 

「さっきから見てたけど、楽しそうだね、未来ちゃん」

 

「はい! やっと気付けたんです!」

 

「気付けた?」

 

「はい! 私……『ファンの人に会えるお仕事』が一番好きだって!」

 

 ……へぇ。

 

「CDの収録したり、ラジオに出たり、衣装を着たり、サインを書いたり。アイドルのことをいっぱいやらせてもらったけど……こうやって、目の前のファンが笑ってくれるお仕事が、一番です!」

 

「……例えばステージが大きくなった場合、ファンの笑顔はちょっとだけ遠くなる。こうやって握手をする機会も少し減る。それでも君は(うえ)へと進むのかい?」

 

 屈託なく笑う未来ちゃんに、少しだけ意地悪な質問をしてしまった。

 

 それはかつて、あの春香ちゃんもぶつかった壁とよく似た問題。アイドルを続けていく上では避けて通れぬ道。新人アイドルならばその意味を図り損ねて言い淀むであろうそんな質問に――。

 

 

 

「あ、私、そういうの難しく考えてません!」

 

 

 

 ――未来ちゃんは一切迷う素振りを見せずにそう言い切った。

 

「さっきもちょっとだけ考えちゃったんです、これだけ沢山のCDがちゃんと売れるのかって。でもきっとそういうことは()()()()()()()()()()()って思ったんです」

 

 ずっと握ったままの手から、未来ちゃんが少しだけ力を込めたのが分かった。

 

「そういうことを考える暇があったら、私は一人でも多くの人と手を繋ぎます。一人でも多くの人のために歌います。一人でも多くの人と()()()()()()()

 

 先ほどまでの満面の笑みではない。けれど、未来ちゃんはしっかりと()()()()()()()()()笑っていた。

 

 

 

「私にはまだ目標がないから、今はとにかく歌いたいんです」

 

 

 

「……そっか」

 

「……あー未来、そろそろ手を離そうか」

 

「あっ」

 

 背後からスッと現れた男性の言葉にハッとなった未来ちゃんが俺の手を離す。ファンではなくアイドル側に()()()が入ってしまった。

 

 しかし随分と入るのが遅いなと思ったら、はがしに入った男性は劇場のプロデューサーで、こっちに視線を向けてとても小さく会釈をした。俺の正体を知っている彼は、どうやら未来ちゃんとの会話を聞いてわざと止めに入らなかったらしい。

 

「お時間を取らせてしまいすみませんでした。それじゃあ未来ちゃん、頑張ってね」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 未来ちゃんに手を振ってから列を離れる。

 

(……『未来』は未だ見えず、か)

 

 

 

 しかし、目の前のファンのことしか考えないと語った未来ちゃんのその目は……それよりももっと先のものが映っているような気がした。

 

 

 

「……なんか、随分と仲良さそうだったわね」

 

 出口へ向かうと、先に昴ちゃんとの握手を終えていたニコちゃんが開口一番そんなことを言ってきた。

 

「前に言わなかったっけ? 未来ちゃんとは知り合いだって」

 

「それは聞いてるけど、なんか違うってことぐらい分かるわよ」

 

 相変わらずニコちゃんはジトっとした目が似合うなぁ。

 

「ひゃ、ひゃぁぁぁっ!?」

 

「え、えええぇぇぇっ!?」

 

「ん?」

 

 さてなんと言い訳したものかと考えていると、なにやら大声ではないけれどしっかりとした悲鳴が聞こえてきた。これはエミリーちゃんと昴ちゃんだ。

 

 よもや不貞なことをしでかした輩が現れたのではあるまいな? もしそうであればただではおかぬ。最近設定として忘れられがちな高町仕込みの戦闘能力をもって暴力的に鎮圧するぞ。

 

「って、あれ?」

 

 しかし何やらそういう雰囲気ではなく、何故かエミリーちゃんと昴ちゃんがそれぞれ感激した様子でファンと握手をしていた。未来ちゃんもそうだったけど普通逆じゃないかと思ったが、その相手が楓さんと奏だったから納得してしまった。

 

 バレたのかバラしたのかは分からないが、二人とも自分と握手をしに来てくれた人がトップアイドルだと気付いて感激してしまったらしい。やっぱり逆だコレ。

 

「……アンタの知り合いだって時点でそんな予感はしてたけど、二人とも只者じゃないみたいね」

 

 ニコちゃんからのジト目が三割増し(当社比)になった。美少女の睨みは絵になるなぁ。

 

 

 

 ……いやホントなんて言い訳したもんか。

 

 

 

 

 

 

「みんな、お疲れ様!」

 

「「「「お疲れ様でした~!」」」」

 

 プロデューサーさんからの労いの言葉に全員で返事をするが、私を含めて誰一人としてその言葉に疲れは見えなかった。

 

「ほら冷たいジュースだ! 好きなの持ってけ!」

 

 プロデューサーさんが手にした袋から、思い思いにジュースを持っていく。

 

「それにしても、握手会すっげー楽しかったな!」

 

「私もまだ興奮が冷めません!」

 

 見るからにテンションが高い昴とエミリーちゃん。言葉は少ないが、美也さんもいつも以上にニコニコとしているような気がした。

 

「それにしてもまさかあの高垣楓さんに来ていただけるなんて……今思い出しても、涙が出そうです……!」

 

「オレもオレも! あの速水奏と握手できるなんて、夢みたい!」

 

 なんでもエミリーちゃんと昴の列にあの高垣楓さんと速水奏さんが並んでいたらしい。

 

「いいなー! 私も楓さんや奏さんと握手してみたかった!」

 

「いや気持ちわかるが逆だろ逆……」

 

 呆れたように笑うプロデューサーさんは「それに未来だって」と言葉を続ける。

 

「まさか知り合いだったとは思わなかったぞ」

 

「え? ……もしかしてリョーさんのことですか?」

 

「ん? あぁ、そうだけど……え、もしかしてお前……」

 

 何故か言葉を詰まらせてこめかみに人差し指を当てるプロデューサーさん。

 

「……あの人が誰だか知ってるのか?」

 

「知ってるもなにも、だからあの人が『遊び人のリョーさん』ですって。プロデューサーさんも聞いたことあるでしょ?」

 

 なんだかんだで劇場内で話題に上がることが多いので、プロデューサーさんも名前ぐらいは聞いたことあるはずだ。

 

「……あぁ、聞いたことあるよ。……聞いたことあるけど、まさか()()()だとは思わないんだよなぁ……」

 

「「「「?」」」」

 

 何故か頭を抱えてしまったプロデューサーさんに四人で首を傾げる。もしかしてプロデューサーさんもリョーさんと知り合いだったのかな?

 

「まぁいい、その話は置いておこう。後でこのみさんや千鶴辺りを集めて話を聞く」

 

 なんでその二人の名前が?

 

「さて、一仕事終えたばかりのお前たちに早速次の仕事の話だ」

 

「っ!?」

 

「えっ!?」

 

「本当ですか、仕掛け人様!?」

 

「あらあら~」

 

 プロデューサーさんからの言葉に全員が身構える。

 

「今回のデビュー曲を引っ提げての外部ライブだ! 遊園地のステージだからそれほど大きくないが、今のお前たちならばちょうどいい大きさの筈だ」

 

「ライブ!」

 

 早速訪れたお客さんの前に立つお仕事に、一気に気分が高まっていくのを感じた。

 

「……ただこのライブの日程が、ちょうど夏フェスの日と被るんだ」

 

「……えっ」

 

 夏フェス。今まさに静香ちゃんがオーディションに向けての合宿をしているステージ。そのライブと同日ということは、当然彼女のステージを見ることが出来ないというわけで……。

 

「……みんなも静香たちのステージを見たいだろう。けれど、きっとこのステージはお前たちのいい経験になる。だから……」

 

 

 

「参加します!」

 

 

 

「っ!」

 

「未来……」

 

「未来ちゃん……」

 

「……あら~」

 

 真っ先に、私は真っ直ぐ真上に手を伸ばした。

 

「私、リョーさんにも言ったんですけど……今すっごく歌いたいんです!」

 

 静香ちゃんのステージが見れないことが残念じゃないと言えば嘘になる。

 

 だけど、静香ちゃんは夏フェスという目標に向かって頑張っている。

 

 だから。

 

 

 

「私の目標は、とりあえず『今を頑張る』です!」

 

 

 

「……へへっ、勿論オレも参加するぞ!」

 

「私も、共に参ります!」

 

「四人で頑張りましょうね~」

 

 昴とエミリーちゃんと美也さんも手を挙げる。この場にいる四人全員が、そのライブへ参加する意思を表明した。

 

「……そうか。なら決まりだ! お前たちもみんなに負けないぐらいのライブにするんだ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

 

(……静香ちゃん)

 

 

 

 私も、頑張るから。

 

 

 




・感染対策
定期的にこの小説更新当時のことを入れておく。

・春香ちゃんもぶつかった壁とよく似た問題
人気が出れば出るほど、離れていくものもある。

・俺の正体を知っている彼
番外編47でも示唆していましたが、劇場プロデューサーとは既に知り合っています。

・高町仕込みの戦闘能力
使いどころ皆無。いやあったらあったで問題だけど。



 というわけで握手会編でした。ちなみにミステリアスアイズが抜擢された理由は完全に作者の趣味です。趣味です(念押し)趣味です(鋼の意思)

 次回からは未来の遊園地ライブと静香の夏フェスを同時進行していく形になると思います。いつも以上にごっちゃになる可能性があるんで、みんな頑張って(読者任せ)

 ただ次回更新は番外編です。たまにはアイ転らしくアイマス色が薄目なお話にしてみます。……アイ転らしくとは?



『どうでもよくない小話』

 デレ10th千葉公演に楓さんを超える超絶SSRとなるふみふみの参加が発表されましたね。マジでビビりました。

 個人的には彼女をライブで観る機会は最初で最後だと思ってますので、担当の方々は頑張ってください。応援してます。



『ほんとにどうでもいい小話』

(作者、R18のデレマス二次新作書き始めたらしいっすよ)

(投稿してるの別サイトらしいっすよ)

(気になる人はツイッター辺りから探してみるといいっすよ)

(おねショタものらしいっすよ)

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