アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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夏フェス編開始!


Lesson279 開演! 夏の祭典!

 

 

 

「え~ではでは皆様、アイスをお持ちください」

 

 コホンと一つ咳払いをしてから未来は自分のアイスバーを掲げた。それに倣って私も自分のカップアイスを持ち上げ、翼もソフトクリームを……既に食べてるわね。

 

 

 

「346プロダクション主催の夏季ライブイベント『トロピカルサマーフェスティバル』オーディション合格おめでと~!」

 

 

 

 ――かんぱーいっ!

 

 

 

「それにしても、未来の部屋って思ったよりも片付いているのね」

 

「乾杯後の一言目がそれなの!?」

 

 未来は「心外だ!」と言わんばかりにプンスカしているが、普段の彼女の様子から考えると服の一つや二つ脱ぎ散らかしていても不思議ではなかった。

 

「それにしてもさー、もう夏休みが終わるっていうのに、結局殆ど遊べなかったよねー」

 

 あっという間に自分のソフトクリームを食べ終えて物欲しそうな目をこちらに向けてくる翼の言葉に、私は自分のアイスを体で隠しながら「仕方ないじゃない」と相槌を打った。

 

「私と翼はオーディションで、未来はCDデビューで忙しかったんだから」

 

「明日から学校行きたくなーい!」

 

「気持ちは分からないでもないけど、我がまま言わないの」

 

「いいじゃん翼と静香ちゃんは! 合宿なんて楽しそうなことしたんだから!」

 

 再びプンスカと頬を膨らませる未来。

 

「いや、私たちはオーディションに合格するために合宿をしたのであって、別に楽しんできたわけじゃ……」

 

「楽しんできたわけじゃ?」

 

「……えっと……」

 

「楽しんできたわけじゃ?」

 

「……うん……まぁ……楽しくもあったけど」

 

「もー! もー! もー!」

 

 バフバフと自分のクッションを殴りつける未来。

 

「写真送られてくる度に羨ましかったんだからね!? みんなで駄菓子屋に行った写真とか! 海で遊んでる写真とか! 肝試しの写真とか!」

 

「枕投げとかもしたよねー!」

 

「うわぁぁぁんっ!?」

 

 翼の一言によってとどめを刺された未来は、クッションに顔を埋めてオイオイと泣き始めてしまった。羨ましがる気持ちは分からないでもないけど、なにもそこまで泣かなくても……。

 

「決めた! 今日は二人ともウチにお泊りです!」

 

「はぁ!?」

 

「わっ! いいねーそれ!」

 

 ガバッと顔を上げてそんな突拍子もないことを宣言し始めた未来に、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。突然の提案にも関わらず翼はノリノリだが、明日から学校が始まるという話をしたばかりである。

 

「明日早く起きて朝チュンすればいいんだよ!」

 

「貴女は何を言ってるの!?」

 

 

 

 事情聴取して(くわしくきいて)みたところ、どうやらネットで聞きかじった知識として『朝に帰る』という意味で使ったらしい。本当の意味を聞かれたが、自分の口から答えるのが憚られたので適当に「リョーさんに聞いてみるといい」と答えておいた。

 

「ちぇー! 折角三人で()()の上映会でもしようかなーって思ったのに」

 

「ドレ?」

 

「コレ!」

 

 そう言って自分のノートパソコンを操作して私たちに見せてきた画面は、先日行われた『シャイニーフェスタ』のアーカイブ配信の視聴ページだった。

 

「えへへ~! お給料があるから思い切ってノートパソコンを買ってプレミアム会員にもなっちゃいました~! 三日間全ての配信チケット買ったら結構したけど、それでもすっごい良かったよ!」

 

「へぇ、確かにこれを全部見ようとするなら泊りがけでもないと無理ね」

 

 シャイニーフェスタは南の島で三日間行われるアイドルによる音楽の祭典だ。南の島という特殊な環境でのライブのため、現地で参加するのはごく一部の限られたファンだけになってしまう。そのため、このように公式でビューイング配信およびアーカイブ配信を行ってくれていた。

 

「それじゃあ今から見れるだけ見ようよー! 私もコレ見たかったの!」

 

 翼が「見たい見たい」と目を輝かせる。泊りがけは無理だが、今から数ステージぐらいならば観ることが出来るだろう。

 

「どのステージ見る? 個人的にはやっぱり周藤――」

 

「絶・対・に・ヤ・ダ!」

 

「――ダヨネー」

 

 未来の提案を言い切る前に却下した翼。未来もそれを予想していたらしく乾いた笑いを浮かべていた。

 

「いやでも本当に凄かったんだよ! 周藤良太郎さんとジュピターのステージ! ちょっとでもいいから見ようよー! 食わず嫌いせずにさー!」

 

「ヤダー! 何が何でも見ないー! ほくほくめっちゃカッコよかったっていう話も聞いたけど、周藤良太郎が一秒でも映ってるなら絶対に見ないー!」

 

 全力で拒否する翼に「冒頭だけ! 先っちょだけ!」と強引に見せようとする未来。二人に「騒がないの」と注意しつつ、しかし未来がそれだけ周藤良太郎のステージを推す気持ちもなんとなく理解出来た。

 

 周藤良太郎と『Jupiter』の四人によるバンドは三日間全ての公演に出演したのだが、その全てがネットニュースになるほど強く話題となった。楽器を演奏する姿だけでも珍しいというのに、それぞれの持ち歌のバンドアレンジの初披露のオンパレード。中でも『Re:birthday -Shiny Remix-』は、それに関連する単語がいくつもトレンド入りするほどの反響を見せたのだ。

 

「本当に凄かったんだよ! 『Re:birthday(リバース)』も勿論凄かったんだけど、個人的には『Alice or Guilty(アリギル)』で良太郎さんと冬馬さんが二人揃って『Alice……』って言ったところが本当に凄くて! どれぐらい凄かったかっていうとそれにやられた現地の人たちの悲鳴で一時的に歌が全く聞こえなくなっちゃったぐらい!」

 

「とーま君のそれは聞きたいけど周藤良太郎のそれは聞きたくないー!」

 

「頑なね」

 

 アイドルの多くが『いつか周藤良太郎と共演すること』を夢見るというのに、このままアイドルを続けていった先で本当に共演することになったらどうするのだろうか。……いや、そうなるまでに一体どれだけの時間がかかるのか全く想像もつかないけど。

 

「もー。……あっ、そうだ! そういえばリョーさん、なんとこれ現地に行ってたんだって!」

 

「えっ!? あの人現地チケット当たったの!?」

 

「す、凄いわね……」

 

 南の島ということで宿泊費や交通費などの所謂遠征費がとても大きいイベントにも関わらずトンデモナイ倍率になったと噂されるのだが、それを当てるとは……。

 

「それがビックリ! お仕事なんだって! スタッフ側での参加だって!」

 

「えぇ!?」

 

「芸能関係の仕事とは言ってたけど、本当だったの!?」

 

「ホラこれ!」

 

 そう言って未来が見せてくれたスマホの画面を翼と共に覗き込むと、そこには観客が入っていない会場で自撮りをするリョーさんの写真が映っていた。

 

「た、確かにコレは関係者じゃないと撮れない写真ね……ん?」

 

 未来と翼は「凄い凄い!」と大はしゃぎだが、よくよく考えればこの写真は何かがおかしい気がする。

 

 確かに関係者しか撮れない写真ではあるが、ただの設営スタッフや運営スタッフが自分のスマホを持ち込んでこんな写真を撮っていたらかなりの問題行動だ。しかし、彼の背後に映っているスタッフはそれを咎めるような様子はなく、寧ろ一緒になってピースをしている人まで映っている。

 

「……リョーさんって、役職的にはどの辺りの人なのかしら」

 

「前に聞いたら『ちょっと言えないとこ』って言ってた」

 

 ただでさえ怪しかったリョーさんがさらに怪しくなった。

 

「『周藤良太郎さんやジュピターさんのオフショットって撮ってたりしませんか?』って聞いてみよーっと!」

 

「やめなさい!」

 

 なんかもう色々な意味で怖くなってきたから!

 

「リョーさんも言ってたけど、シャイニーフェスタって会場に屋台とか色々出てたんだって。いいなー縁日みたいでー」

 

「それだったらトロフェス(トロピカルサマーフェスティバルの略)でも出るわよ。食べ歩きしながら野外ステージを自由に行き来きるんだから、これも縁日みたいなものじゃない」

 

「面白そうだよねー!」

 

 ニコニコと「わたし絶対チョコバナナ食べるー!」と宣言する翼。確かに新人である私たちは出番が終わったら基本的にフリーになるけれど、最初から屋台を満喫するつもりでいないでちょうだい……。

 

「勿論未来もトロフェスには来るのよね?」

 

「わたしと静香ちゃんのステージが終わったら待ち合わせして遊ぼーよ!」

 

「……それなんだけど」

 

 きっと未来ならば悩むことなく「行くっ! 遊ぶっ!」と諸手を挙げると思っていたのだが、その返事は全く予想していないものだった。

 

「えっと、実は……その日、別の仕事が入ったんだ」

 

「……え」

 

「え~!? 折角のフェスなのに~!?」

 

 翼も不満そうにブーブーと唇を尖らせていた。

 

「その……外せない仕事なの? 未来にも、私たちのステージを見て欲しいから……」

 

「……ライブなんだ! エミリーちゃんや昴たちと遊園地で!」

 

 私の問いかけに対して、未来は誇らしげな表情でそう言った。

 

「静香ちゃんや翼が出演するフェスみたいな大きなステージじゃないけど……私も、アイドル頑張りたいから」

 

「未来……」

 

「この前の握手会でファンの人たちと直接会って思ったんだ……『今は一人でも多くのファンの前で、一度でも多く歌いたい』って」

 

 自分で自分の言葉に照れくさくなったのか、未来は「でへへ」と笑いながら抱えていた熊のぬいぐるみの手足を動かして弄ぶ。

 

「まだアイドルの目標とかそーいうのはよく分かんないし、静香ちゃんたちのステージだって本当は見に行きたいんだけど……今はとにかく歌いたいんだ」

 

「……そうなのね」

 

 私も本当のことを言えば、未来に来て欲しい。私たちが……私が頑張った集大成として、掴み取ったこのステージを見に来て欲しい。

 

 でも、それが未来の選択なら……未来が進むべきアイドルとしての『未来』だと言うのならば、私もそれを応援しよう。

 

「未来は未来のステージで、翼と私はフェスのステージで、それぞれ出し切りましょう」

 

 私が右手を前に出すと、ほぼ同じタイミングで未来と翼も右手を前に出した。三人とも考えていることは一緒だったらしく、顔を見合わせてクスリと笑ってしまった。

 

 夏休みは今日で終わる。

 

 

 

 けれど、私たちの夏の本番は、これからだ。

 

 

 

 

 

 

「あっ、リョーさんから返信来た……え゛」

 

 え、なにその声は。

 

「……え、えっとね……」

 

「う、うん」

 

「……楽屋らしきところで、湯呑片手にピースサインしてる周藤良太郎さんの写真が……」

 

「「「………………」」」

 

 周藤良太郎に興味が無いはずの翼も交えて大騒ぎになってしまった。

 

 リョーさんへの疑惑が、さらに深まった……。

 

 

 




・『トロピカルサマーフェスティバル』
作者のネーミングセンスが問われるシリーズリターンズ。

・『シャイニーフェスタ』
相変わらずの主人公のライブは全カットの方向性。
外伝で散々やったからええやろ?()

・『ちょっと言えないとこ』
サマウォより。理一さん、マジでどこ所属なんだろ。

・リョーさんがさらに怪しくなった。
この人、愉快犯だからすぐにこういうことする。



 というわけで始まりました夏フェス編ですが、未来ちゃんは自分のライブへ出演するため不参加です。恐らく同時進行になりますが、果たして良太郎はどちらへ出没するのか……。
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