アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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半分以上無駄話(平常運航)


Lesson280 開演! 夏の祭典! 2

 

 

 

「なぁ冬馬」

 

「なんだ」

 

「明日の仕事、お昼には終わらせられないかな?」

 

「三時間番組の収録をどうやって三時間で終わらせるつもりだよ」

 

 明日の予定をスマホで確認しつつ、時間短縮案を冬馬に相談したが返ってきた言葉は『現実を見ろ』という無慈悲なものだった。

 

 ダメかーと諦めつつ事務所のラウンジのソファーにボスリと深く腰を掛ける。

 

「分かった、明日のトロフェスに参加するつもりだったんでしょ」

 

 翔太の言う通り、明日はトロフェス当日だった。ウチの事務所からはケットシーの二人と美優さんが参加することになっているのだが、俺は番組収録の仕事が入っているため参加することが出来なかった。

 

「まだ諦めてなかったのかよお前……」

 

「ヤダヤダー! 俺も夏のアイドルフェスに参加するんだー! アイドルが水鉄砲で撃ってくれる水を浴びながら今年の夏の最後を締めくくるんだー!」

 

「自分で自分を撃ったらいいじゃねぇか」

 

「絵面がロシアンルーレット!」

 

 先日、未来ちゃんから『静香ちゃんと翼がトロフェスのオーディションに合格しました!』というメッセージが送られてきた。相変わらずの情報管理の甘さを注意しつつ素直に祝福したのだが、それと同時に『私は別の仕事が入ってるので、私の分も応援よろしくお願いします!』というリョーさん(おれ)がトロフェスに参加するという前提のメッセージも送られてきたのだ。

 

 しかし先ほども述べたように、残念ながら今回のトロフェスはアイドルとしてもファンとしても不参加。美城さんから直々にオファーも貰っていたのだが、先に別の仕事が入っていたため断らざるを得なかった。

 

「こんなことやってるから『主人公が主人公してない』とか『主人公いらなくね?』とか言われるんだよ」

 

「昔は逆に『トップアイドルの癖にオフ多すぎだろ』って言われてたからバランスが難しい……いや、そもそも何の話だ」

 

 ついでに冬馬たちジュピターも別件の仕事のため、今回123プロからはアイドル側の参加となる三人だけだった。

 

「仕方ない……俺の代わりの応援は志保ちゃんたちにお願いすることにしよう」

 

「寧ろ良太郎君が志保ちゃんたちを応援してあげるべきでは……?」

 

 北斗さんが苦笑するが、今更応援しなくてもあの三人なら心配いらないだろうと思う。

 

「まぁ志保ちゃんに『志希のことくれぐれもよろしく』とはメッセージ送っておこうかな」

 

「そういえば志希ちゃん、美優さんも一緒に今日は志保ちゃんの家なんだって?」

 

「はい。朝早くに留美さんが迎えに行く予定なので、一ヶ所にまとまってる方が都合がいいからって」

 

 最近の志希は八割方周藤家の居候状態になっていて、朝早い仕事の場合は兄貴か俺が車に乗せて直接仕事場に放り投げてくるのだが、今回は俺も兄貴もそれが出来ないためにこういう形になった。というか、なってしまった。

 

「はぁ……心配だ……」

 

「リョータロー君が心配するのはそっちなんだね」

 

「まぁ気持ちは分からんでもない」

 

「志希ちゃんは奔放だからね。でも美優さんも一緒なんだから、流石にそこまで迷惑をかけるなんてこと……」

 

(おとうと)君の性癖を歪めるようなことが起きないといいんだが……」

 

「なんつー心配してんだお前!?」

 

 いやだって、風呂上がりにタオル一枚でうろつくんだぞ志希(アイツ)。服を着ろって注意されてもシャツとパンツだけで「着た」って言うんだぞ志希(アイツ)

 

 一方、美優さんは存在そのものが危険要素の塊だ。彼女の場合はジャージ姿でも青少年の性癖を歪めかねない。三船美優とはそういう概念だと言っても過言ではないだろう。

 

「考えてみろ、姉の友だちの『だらしないズボラなお姉ちゃん』と『おっとり優しいお姉さん』がウチに泊まりに来ているんだ。目覚める要素はいくらでもある」

 

「………………」

 

「そこで黙っちゃうからとーま君、色々とダメなんだと思うよ」

 

 冬馬も思わず無言の肯定をしてしまうほどの事態である。陸君が変な性癖に目覚めたらと思うと心配で心配で……。

 

「志保ちゃんが聞いたら『余計なお世話です』って言って怒るだろーね」

 

 閑話休題(まーそれはそれとして)

 

「志希がいないおかげで今日の我が家は平和だ。ついでにりんもいなけりゃ早苗ねーちゃんもいない」

 

 そのため先ほどからリトルマミーが「寂しいから早く帰ってきてー!」と泣き顔のスタンプをポコポコと連打していた。流石に煩いからミュートにしているが、やること終えたら早々に帰宅することにしよう。

 

「しれっと朝比奈のいる状態がデフォルトになってるとか、親父さん泣いてるぞとか、何処からツッコミゃいいんだ……」

 

「あれ? 早苗さんもいないの?」

 

「え? ()()()()()だろ」

 

 ……ん?

 

 

 

「あれ? 早苗ねーちゃん、今()()()で実家に帰ってるって聞いてない?」

 

「「「初耳だよっ!?」」」

 

 

 

「兄貴が言ったもんだとばかり思ってた」

 

「オメェら兄弟はよぉ……!?」

 

 頭が痛そうに眉間を人差し指で押さえる冬馬。

 

 どうやら開示していなかった情報なので今さら明かすが、なんと結婚三年目で早苗ねーちゃんが身籠ったのである。

 

「えー!? もー! そーいうことは早く言ってよー! おめでとー!」

 

「おめでとう良太郎君。ついに叔父さんだね」

 

「……まぁ、おめでとうよ」

 

「ありがとう。よければ二人にも言ってあげてほしい」

 

 これから一番大変なのは、兄貴と早苗ねーちゃんだから。

 

「予定日とか決まってるのかい?」

 

「大体十月って話」

 

 つまり早苗ねーちゃんが最後に登場したLesson250の頃には目立っていなかっただけで、既にお腹は大きくなり始めていたのである。……だから後付けじゃねーぞ!? ちゃんと予定されてる展開だからな!?

 

「そうかー、社長もお父さんになるんだねー」

 

「俺は社長と歳が近いから、少し不思議な気分だよ」

 

「北斗さんのご予定は?」

 

「確実に良太郎君よりは遅いよ」

 

 微笑みながら肩を竦める北斗さん。果たして相手がいるのかいないのか……。

 

「そんなわけだ。今後早苗ねーちゃんの方で何かあった場合、兄貴が急遽早苗ねーちゃんの実家まで飛んでくことになるから、そのときは三人にも色々とフォローを頼みたい」

 

「もっちろん!」

 

「任せてくれ」

 

「……いいけど、普通それもっと早い段階で社長の方から言われることじゃねぇの?」

 

 俺も兄貴も、重要なところで何かしらのヘマをやらかすのは多分母親譲りの血だと思う。

 

 さて、それじゃあそろそろやることやって、本格的に帰宅準備を……。

 

「ん?」

 

 恵美ちゃんからメッセージだ。なになに……。

 

 

 

 ――志希と美優さんが羨ましかったので!

 

 ――まゆと一緒に、アタシたちも志保の家にお泊りでーす!

 

 

 

「りっくぅぅぅん!?」

 

 普通に羨ましかった。

 

 

 

 

 

 

 ついに、この日がやって来てしまった。

 

 

 

 ――『トロピカルサマーフェスティバル』入場列最後尾はこちらになりまーす!

 

 ――入場券を一人一枚ずつお持ちになってゆっくりとお進みくださーい!

 

 

 

 入場口からスタッフさんたちのそんな声が聞こえてくる。それに重なるようにガヤガヤと観客たちの声も聞こえてくる。

 

「……すー……はー……」

 

 765プロに宛がわれた控室のテント。胸に手を置き、ゆっくりと深呼吸。必要以上に高鳴ってしまっている心臓の音を少しでも抑えようと、何度も何度も深呼吸をする。

 

「……すー……はー……」

 

 ついに今日が本番。私たちの新ユニットの公式の場でのお披露目。星梨花さんや麗花さんからセンターの座を明け渡されてしまった私の、初めてのステージ。失敗は出来ない。だから緊張を取り除こうと、何度も深呼吸をする。

 

「……すー……はー……」

 

「………………」

 

「すーはーすーはーすーはーすーはーすーはーすーはー」

 

「待って待ってやりすぎやりすぎ!」

 

 ガシッと背後から百合子さんに肩を掴まれた。

 

「放してください百合子さん! 私は一回でも多く深呼吸をしないといけないんです!」

 

「手段と目的が入れ替わってるよ!? 落ち着いて!」

 

「だから落ち着くために深呼吸をしてるじゃないですか!?」

 

「静香ちゃあああぁぁぁん!?」

 

 

 

「こんなときに余計なご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます……」

 

「うん、私は大丈夫だから……」

 

 深々と頭を下げて百合子さんに謝罪する。こんな大事なときに先輩に迷惑をかけて私は何をやっているんだか……。

 

 しかし不幸中の幸いと言っていいのか、先ほどよりは肩の力が抜けたような気がする。

 

「……お客さん、きっといっぱいですよね」

 

「……うん、そうだね」

 

 百合子さんは言葉を選ばずに肯定してくれた。どう取り繕ったところでそれは揺るぎない事実だから。

 

「でもやることは同じだよ、静香ちゃん。私たちはステージに立つだけ。それは今まで劇場に立ってたときと何も変わらないよ」

 

「……はい」

 

 本当にそうなのだろうか。

 

 いや、先輩の言うことを否定するつもりじゃない。でも……。

 

(……今頃未来も、ステージを頑張ってるのよね)

 

 彼女もまた自分の『未来』へと向かって頑張っている。それなのに、私は()()()()()のステージで本当にいいのだろか。

 

「……静香ちゃん、また肩に力が入っちゃってますよ」

 

「うひゃっ!?」

 

 背後から優しく肩を揉まれて、思わず変な声が出てしまった。

 

「せ、星梨花さん……!?」

 

 振り返ると、そこには私と同じように既にステージ衣装に着替え済みの星梨花さんが、いつもと変わらない笑みを浮かべていた。

 

「どうでしょう? 少しテントを出て歩いてきてはいかがですか?」

 

「え?」

 

「テントを出れば、他の事務所のアイドルの方もいらっしゃいます。彼女たちはライバルである以前に『共演者』です。少しお話してみると、気分が変わるかもしれませんよ?」

 

 それはそれで緊張感が増しそうというか……。

 

「翼ちゃーん! 静香ちゃんが一緒にお散歩に行きたいそうでーす!」

 

「星梨花さん!?」

 

「えっ!? ホントー!? やったー静香ちゃんの方から誘ってくれるなんて嬉しー!」

 

 わざわざ翼を召喚する辺り、星梨花さんの『絶対にテントから外に出す』という強い意志を感じる……!?

 

「私もちょっと外に出たいと思ってたんだー! ホラホラいこー!」

 

「ちょ、ちょっと翼!?」

 

 

 

「……ちょっと強引じゃなかった?」

 

「良太郎さんならこんな感じかなーって思ったんだけど……」

 

「否定できない……」

 

 

 

「自分で歩くから押さないでって……!?」

 

 翼に背中を押されるようにしてテントから外に出る。その瞬間、眩しい太陽に光が目に飛び込んできて、一瞬視界が真っ白になり――。

 

 

 

 ばいんっ

 

 

 

 ――何かにぶつかって、逆に跳ね飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

「えっ!? なになになにっ!? 何が起きたの!?」

 

「ひ、人が飛んだんご!?」

 

「#交通事故

 #天然のエアバッグ

 #チッ」

 

 

 

 

 

 

おまけ『翔太「はいチーズ」』

 

 

 

「そういえばこの前送った写真、あんなので良かったの?」

 

「両手映ってれば自撮りには見えないだろうし」

 

「?」

 

 

 




・良太郎不参加
なんで主人公がこんなに動かしづらいアイドルなんだろ……(作品全否定)

・陸君
実は初登場自体はLesson65だからかなりの古参キャラっていう。

・陸君の性癖を歪めるようなことが
志希・美優・恵美・まゆがお泊りに来た北沢家。ヤバい(迫真)

・まーそれはそれとして。
まー↑それ↑は↓それ↑と↑して↓ \ワカルマーン/

・早苗ねーちゃん産休中
実は第六章開始時には妊娠四ヶ月でした。

・なぞのさんにんぐみ
一体何を募集中なんだ……?

・おまけ『翔太「はいチーズ」』
(でもあんなにダサいポーズを選ぶ必要は……?)



 無駄話ばかりでしたが、一番のトピックとしては早苗さんの懐妊です。第一子誕生! メインストーリーではないサイドストーリー的なお話になりますので次に登場するときは既に母親になってます。

 そしてついに始まった夏フェスで、静香はとあるアイドルたちに遭遇します。なんか最近どこかの高校の制服着て「簡単なんだよこんなのw」とか煽ってそうだなぁ?

 というわけで次回に続く。

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