アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ニュージェネレーションズよりもニュージェネレーションな三人組。


Lesson281 開演! 夏の祭典! 3

 

 

 

「大変申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」

 

 

 

 それはまるでお手本のような土下座だった。いやお手本にしてまで土下座をする機会は来てほしくないけど。

 

「ウチの駄乳がご迷惑をおかけしました」

 

「駄乳!? 今あきらちゃん、駄乳って言った!?」

 

「言いました。ただでさえ目障りなのに人様に危害を加える駄乳は駄乳以外の何物でもないデス」

 

「うわぁぁぁん!? これがぼくの唯一の取り柄なのにぃぃぃ!」

 

 先ほどは何が起こったのかよく理解出来ていなかったが、どうやら私は765プロのテントから出た途端にこの土下座しているピンク髪の女性の胸にぶつかって弾き飛ばされたらしい。

 

「凄かったんだよー! 静香ちゃん、まるで漫画みたいにバイーンッて跳ね返って来たんだもん!」

 

 そう興奮気味に語る翼。翼も結構大きいが、このピンク髪の人はそれ以上だった。

 

「え、えっと、私は大丈夫ですから」

 

「本当にご迷惑おかけしました……」

 

 茶髪ロングの少女がペコペコと頭を下げ、その頭頂部のリンゴのようなアホ毛が揺れる。

 

 えっと、ここにいるということはこの三人もアイドルということで間違いないだろう。

 

「私、765プロの最上静香です。今日はよろしくお願いします」

 

「同じく、伊吹翼でーす!」

 

 翼と共に挨拶をすると、ピンク髪の人を責めていた黒髪ツインテールの少女とリンゴアホ毛の少女もハッとした様子で挨拶を返してくれた。

 

「えっと、346プロの砂塚あきらデス」

 

「お、同じく辻野あかりです!」

 

「そしてコレが同じく夢見りあむデス」

 

「コレって言うなよぉ……」

 

 先ほどからずっと地面に突っ伏したままのピンク髪の人が滂沱の涙を流す。あの、本当に気にしてないのでそろそろ立ち上がっていただけるとありがたいのですが……。

 

「全く、本当に気を付けてくださいよ、りあむサン。只でさえ新参者の自分たちがフェスに参加出来たこと自体が奇跡みたいなものなんデスから」

 

「だからキョロキョロ周りを見ながら歩くのは危ないって言ったじゃないですか」

 

「うぅ……年下の女の子二人から正論で叱られてるよぉ……やむ……」

 

「えっ」

 

 砂塚さんが口にした『新参者』というワードが気になった。

 

「あの、実は私たちも今回が始めての大きなステージなんです」

 

「そうだったんデスか?」

 

「それじゃあ私たち、新人仲間ですね!」

 

 辻野さんが「わーい!」と明るく笑う。……頭頂部のリンゴのようなアホ毛がピコピコと動いたような気がしたが、きっと気のせいだろう。

 

「お二人は同じユニットなんデスか?」

 

「いえ、私たちは別々のユニットです。三人はもしかして……」

 

「はい! ユニット名募集中です!」

 

「……え?」

 

 辻野さんの言葉の意味が分からずに呆けてしまったが、きっとこれは彼女なりの冗談なのだろう。こんなステージ本番を数時間後に控えている状況でユニット名が決まっていないユニットなんているわけがなかった。

 

「それで、ユニット名は……」

 

「……あー、最上サン、実は()()がユニット名なんです……」

 

「……え?」

 

 今度は砂塚さんの言葉の意味が分からず呆けてしまったが、スッと夢見さんから差し出された今回のフェスのパンフレットを受け取る。そういえば自分のことで精一杯で、他の参加者リストを含めてその辺りを全然確認していなかったっけ。

 

 そして346プロからの出演アイドルのリストを眺めると……。

 

「えっ!? 本当に『#ユニット名募集中』っていうユニット名なんですか!?」

 

「はい……」

 

 何故そのような『とりあえず付けておいた名前をそのまま採用してしまった』みたいなユニット名になってしまったのだろうか……流石にそれは……。

 

 

 

 

 

 

「「ハーックション!」」

 

「ん? なんだなんだ、みくとりーな、二人して仲良くクシャミなんてして」

 

「夏風邪には気を付けてくださいね?」

 

 

 

 

 

 

「どうしようかと色々話し合ったんデスけど、結局決まらなかったんデス」

 

「それでりあむさんが『いっそのことファンの人に決めてもらおうよ』って提案したんですけど……」

 

「そしたらPサマ……プロデューサーがユニット名欄に書いておいた『#ユニット名募集中』の文字をそのままユニット名だと勘違いしちゃったらしくて……」

 

 ず、随分とユーモアに溢れたプロデューサーなのね……。

 

 

 

 

 

 

「……クシュ」

 

「あら? プロデューサーさん、風邪かしら?」

 

「お嬢様、お離れください。オマエはさっさとマスクをして風邪薬を飲んで来い」

 

 

 

 

 

 

「で、でもこれはこれで気に入ってるんだよ! ね!?」

 

「まぁ……なんだかんだ言ってインパクトは抜群デスからね」

 

「一度聴いたら忘れないって評判なんです!」

 

 私も忘れることはないと思うは……三人の印象も合わせて。

 

「お二人のユニットはなんていう名前なんですか?」

 

「私のユニットは『Over the limit』っていうんだ~」

 

「か、カッコいいんご!」

 

(……んご?)

 

 今回の翼のユニット名に目を輝かせる辻野さんの不思議な語尾に内心で首を傾げる。何かを言い間違えたのかな……?

 

「最上さんはなんてユニットなんですか?」

 

「私のユニットは――」

 

 

 

「ま、間に合いましたっ……!」

 

「にゃはは~! ギリギリだったね~!」

 

「貴女はもうちょっと反省する姿勢を見せてください……!」

 

 

 

「――っ!?」

 

 突然聞こえたその声に、私は思わず言葉と動きを止めてしまった。いや、止めたのは私だけじゃない。翼や砂塚さんや辻野さんや夢見さんも、その場にいた全員が思わず動きを止めた。

 

 その声は『アイドル』ならば知らない人はいない、そんな声。

 

「……あ、あああ、あきらちゃんあかりちゃん、ちょっとぼくの頬抓って貰っていい?」

 

「……お望みとあれば」

 

「全力で……」

 

「あだだだだだっ!? ちょっとって言ったよね!? ちょっと抓ってって言ったよね!? 全力でなんて一言も言ってないよね!?」

 

 夢見さんたち三人が何やら愉快そうなことをしていたが、そんなことを気にしてる余裕はなかった。

 

 三船美優。一ノ瀬志希。……そして北沢志保。

 

 かのトップアイドル『周藤良太郎』の超一流アイドルプロダクション『123プロダクション』に所属するトップアイドルが、そこにいた。

 

 どうやらたった今到着したばかりらしく、入りの時間としては遅い。何やら息を切らしているところを見ると急いできたらしいが、何かしらのトラブルに巻き込まれたのだろか……?

 

 

 

「はぁ……良太郎さんが『志希には気を付けろ』って口を酸っぱくして言っていた理由が今更ながら実感しました」

 

「えー? 私のせいー? 急いで支度しようとしたのを止めたのは志保ちゃんじゃーん」

 

「そりゃ止めますよ!? 素っ裸で脱衣所から出ようとしたんだから止めるに決まってるじゃないですか!?」

 

「別に見られて困るようなものは何もないのにー」

 

「誰も貴女のことなんて配慮してません! りっくんの教育に悪いって言ってるんです!」

 

「し、志保ちゃん、声が大きいから少し落ち着いて……!」

 

「でも昨日の晩、恵美ちゃんが弟君に『一緒にお風呂入る?』とか言ってたよ」

 

「……あんにゃろう……!」

 

「志保ちゃん!?」

 

 

 

 ……聞こえてくる内容的には、それほど大事ではなさそうだった。というかかなり俗っぽい……?

 

 

 

「って、そんなことをしている場合じゃありませんでした。ホラ志希さん、急いで準備しますよ! 今日は一秒たりとも失踪なんてさせませんからね!」

 

「くくくっ……その程度で志希ちゃんを制御しようなんて笑止千万……! 必ずや抜き出てみせようじゃないか……!」

 

「一ノ瀬ぇっ!」

 

「だから志保ちゃん!?」

 

 

 

 そんなよく分からない会話をしながら移動を始めた123プロの三人だったが、北沢さんの鞄からハンカチが滑り落ちた。北沢さんはそれに気付いていない。

 

 そして気が付いたときには、私は声をかけていた。

 

 

 

「き、北沢さん!」

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、未来」

 

「……なに? 昴」

 

「……本当にここが、オレたちの歌うステージなんだよな?」

 

「……うん」

 

 昴が何を言いたいのか、手に取るように分かった。

 

 何せ、今こうして私たちが立っているステージは……。

 

 

 

 ――次アレ乗りたーい!

 

 ――ギャハハハハー!

 

 ――はい! アルトじゃ~ないと!

 

 ――それさっきの芸人さんの真似ー?

 

 ――面白くな~い!

 

 

 

 ……なんというか、全くもって『アイドルのファン』のためのステージとは呼び難いものだった。

 

「お客って、子どもばっかりじゃん!」

 

「そんなことありませんよ~。ほら、お母様方とお婆様方もいらっしゃいますし~」

 

「そーいうこと言ってんじゃないの!」

 

 ほんわかと後方に手を振る美也さんに昴が反論する。

 

 これは『小さな遊園地』のステージというか、小さな『遊園地のステージ』というか……。劇場よりもお客さんとの距離が近いと言えば聞こえはいいが、流石に完全フリースペースのようなステージだとは思っていなかった。

 

「あー! 今あいつオレって言ったー! 男だ男ー!」

 

「オレは女だ!」

 

「外人いるガイジンー! なんか英語喋ってー!」

 

「えっ!? いえ、その、私は大和撫子として舞台の上では礼儀正しい日本語を……!?」

 

 観客席にいる子どもたちからのヤジですらない言葉に、昴とエミリーちゃんが四苦八苦している。

 

「………………」

 

 ……私が立つステージは、大体劇場のものだった。そこはいつだって『私たちを観に来てくれるファン』の人がいて、私に興味がなかったとしても、そこに座っていれば間違いなく聞いてくれた。

 

 けれど今、それとは全く違うステージに私は立っていた。観客席に座っている人たちは文字通り()()()()()()()。他のことで遊んでいる子どもたちは勿論、談笑しているお母さん方も、私たちが歌い出したとしてもこちらに意識を向けてくれることはないだろう。

 

 ……でも。

 

「これはどうしましょうね~? 未来ちゃん」

 

「大丈夫です!」

 

 美也さんからの問いかけに、私はそう言い切った。

 

 

 

「私、とりあえず歌ってみます!」

 

 

 

「え、歌うって……この雰囲気で?」

 

「だ、大丈夫なのですか……?」

 

 昴とエミリーちゃんが不安そうな顔をしているが、私は笑顔で「平気です!」と返す。

 

 

 

 ――未来は未来のステージで。

 

 ――翼と私はフェスのステージで。

 

 ――それぞれ出し切りましょう。

 

 

 

 ……だって今頃、静香ちゃんと翼も頑張ってるから。

 

 

 

 

 

 

 ……なんか風に乗って聞き覚えのある声が聞こえてきたかと思ったら。

 

「まさかここだったとはなぁ……」

 

 

 




・#ユニット名募集中
外伝での先行登場から(多分大体)二年の時を経て、ようやく本編登場!
外伝の頃は『ネクストニューカマー』だったけど、やっぱりこっちのユニット名がしっくり来すぎてしまった。

・『とりあえず付けておいた名前をそのまま採用してしまった』
アスタリスクパイセンちーっす!

・ユーモアに溢れたプロデューサー
???「いえ、夢見さんと砂塚さんならば、その……そういうユニット名を付けてもおかしくないかな、と……」

・『Over the limit』
翼・百合子・紗代子・瑞樹・ジュリアの五人ユニットを、オリジナルで命名。
まさかこの五人にユニット名付いてないとは思わなかったゾ……。

・アルトじゃ~ないと!
多分どこかの社長さんが趣味で芸人やってる。傍らには美人秘書。



 ようやく本編にてユニ募登場です。実はシンデレラガールズ『オリジナル三期編』があって、そのメインキャラが新人組七人だったりするのですが、選ばれたのはミリオンライブ編でした。補完する話はいつか書きたい。

 最後、誰かさんが重役出勤したところで次回に続く。

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