アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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弟妹キャラとの交流に定評のある主人公。


Lesson282 開演! 夏の祭典! 4

 

 

 

『はーい! 改めまして! 765プロのアイドルの春日未来でーす! 私のデビュー曲! 「素敵なミライ」でした! 聞いてくれてありがとー!』

 

 一曲歌い終え、そのままステージの上でMCを始める。ステージそのものは特に大きな問題は無かったと思う。自分のソロ曲だから、という理由でコレはいつも以上に練習したから大丈夫だった。

 

 ただ。

 

 

 

 ――次はアレ乗ろうぜー!

 

 ――えー!? もう無理だってー!

 

 ――やってみせろよ、マフティー!

 

 ――なんとでもなるはずだ!

 

 

 

 相変わらず観客席のお客さん、主に子どもたちはコチラに興味を示してくれなかった。

 

 内心では(うーん……)と苦笑しつつ、とりあえずMCを続行する。

 

『みんなー! アイドルは好きですかー!』

 

「……ふーん」

 

 そんな私の呼びかけに、一人だけ反応してくれる少女がいた。最前列に座って何やら私を()()()()ような視線だったが、とりあえずその子ならば反応してくれそうなので、しゃがみ込んでステージの上から彼女に向かってマイクを向ける。

 

「お嬢ちゃんはどうかなー? アイドル好きですかー?」

 

「……アイドルは好きです。でも貴女はアイドルとしてまだまだです!」

 

 おっと、これは予想外に手厳しい意見が飛び出してきたぞ?

 

「わたしが聞くのは123プロの曲だけです! お姉様も常日頃から『765プロの新人はまだまだね』とおっしゃってます! なのでお姉様がキチンと認められるようなアイドルになったら、しっかりと聞いてあげます!」

 

 ……おや? なんだか発言内容とは裏腹に、この子は明確に()()()()()を聞きに来てくれているような? ……気のせいかな?

 

『へぇ~! いいよね~123プロ! 私も大好きだよ! ねぇねぇ、お名前教えて!?』

 

「……『こころ』です」

 

『可愛い名前だね! ねぇ、こころちゃんは123プロの誰の曲が好き!?』

 

「しいて言うならば、佐久間まゆちゃんの『エヴリデイドリーム』です」

 

『おっ! いいよねぇまゆちゃん! 可愛い曲! それじゃあこころちゃんも一緒に歌おう!』

 

「え?」

 

 私はステージから降りて、こころちゃんの手を引いてステージの上へと招く。そして舞台袖でこちらの様子を窺っていた昴からマイクを貰うと、こころちゃんに手渡した。

 

『はい! 曲は流れないけど、アカペラでもいけるよね?』

 

「……勿論です! 私は完璧に歌えます! 寧ろ貴女こそ、適当な歌詞で誤魔化さないでくださいね!」

 

『……が、頑張るね!』

 

 若干歌詞に不安を覚えつつ、それでも私はこころちゃんと共にアカペラで『エヴリデイドリーム』を歌い始めるのだった。

 

 

 

「えぇ……? おいおい、いいのかよコレ……?」

 

「だ、大丈夫なのですか……!? 未来さん、怒られたりしませんか……!?」

 

「でもでも~。未来ちゃんもあの女の子も、とても楽しそうですよ~?」

 

 

 

 

 

 

 ……なんというか。

 

「そういう手でくるとはなぁ……」

 

 所謂『後方腕組み彼氏面』でステージを見守っていたのだが、観客をステージの上にあげるという手法に出た未来ちゃんには素直に驚かされてしまった。流石にここまで小規模のステージ経験が乏しい俺には出来ない芸当である。

 

「しかしあの女の子、何処かで見たことあるような……?」

 

 黒髪赤目のサイドテールという、なんとなく物足りなさを覚える見た目。ついでに聞き覚えがあるような声。もうちょっと、喉元辺りまで答えが出かかっているもどかしさに頭を悩ませる。

 

 

 

「……え、なにこの状況、なんでこころがステージに立ってるのよ」

 

 

 

「答え来たわ」

 

「は? ……はぁ!?」

 

 ステージに上がった少女とよく似た容姿をした、知り合いの少女が横に立っていた。というか先日のCD手渡し会でも一緒になったニコちゃんだった。

 

「やぁニコちゃん、こんにちは」

 

「ちょ、なんでアンタがここにいるのよ!? トロフェス当日よ!?」

 

 あ、そっちで驚いてるのね。

 

「今日はこの遊園地の近くでたまたまお仕事があったんだよ」

 

 そして昼休みにたまたま近くを歩いていたら風に乗って聞き覚えのある歌声が聞こえたので調べてみたら、765プロのアイドルが来ているという話を聞いて入園してきたというわけだ。

 

「そういうニコちゃんこそ、トロフェス不参加だったんだね」

 

「……色々と事情があるのよ」

 

 その事情というのは、今こうして会話をしている最中もニコちゃんと手を繋いで俺のことを不思議そうに見上げている()()()()()()()()()()男の子と女の子、そしてあのステージ上で歌っている()()()()()()()()()()女の子に関係した事柄なのだろう。

 

 そしてそれはきっと彼女にとってプライベートな内容。ならば俺がそれを尋ねる理由なんて一切なかった。

 

 とりあえず、膝を折って俺は男の子と女の子と視線を合わせる。

 

「こんにちは、二人とも。俺はニコちゃんの知り合いでね、もしよかったらお近づきの印にアイスでもご馳走させてくれないかな?」

 

「二人とも、知らない人から物を貰っちゃダメだからね」

 

 やはり手厳しい。

 

 

 

 

 

 

 今日は346プロダクション主催の合同ライブイベント『トロピカルサマーフェスティバル』の当日である。様々な事務所から様々なアイドルが参加するこのイベントに、123プロからは私と志希さんの『Cait Sith』と美優さんの三人が参加することになっている。

 

 本当は『周藤良太郎』への直々のオファーが来ていたのだが、良太郎さんは別件の仕事。ついでにジュピターの三人もピーチフィズの二人も予定が空いていなかったため、私たちが参加することになった。勿論、参加する以上は私たちも全力でオーディションを受けたし、パフォーマンスに手を抜くつもりはない。

 

 ……それ以上の一ノ瀬志希(ふあんようそ)があるため、別の意味での不安はあるが。というか既に今朝からやらかされていた。現場入りも殆ど遅刻だし、さっさと着替えて準備しないと……。

 

 

 

「き、北沢さん!」

 

 

 

「え?」

 

 しかし自分たちの楽屋へと向かおうとする私の名前を呼ぶ声に足を止めた。

 

 振り返るとそこにはステージ衣装に着替えた一人の少女が立っていて、その手には見覚えのあるハンカチが……。

 

「こ、これ、落としましたよ」

 

「っ!」

 

 やっぱり私のハンカチだった。しかもこれはりっくんが誕生日に選んでくれて、いつも大事なライブの日にはお守り代わりに持ってきている本当に大切なモノ。

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 冷や汗を流しながら少女からハンカチを受け取る。……えっと……。

 

「な、765プロダクション所属、最上静香です! 今日はよろしくお願いします!」

 

 名前が出てこない私に気付いたらしい少女は、そう自己紹介をしつつ頭を下げた。

 

「よろしくお願いします。ごめんなさい、同じステージに立つというのに不勉強でしたね」

 

「そ、そんなことありません! まだ私なんて、北沢さんの耳に届くようなアイドルじゃありませんから!」

 

 ブンブンと黒髪を振り回しながら首を振る最上さん。それはいつか見た、トップアイドルを前にしたときの可奈や星梨花の反応のようで、それを自分がされる立場になったのだと思うと背中にむず痒いものが走ったような気がした。

 

「それじゃあ、今日のステージを楽しみにしてますね」

 

「……えっ!? そ、それはその、こちらこそそれを言わなければいけない立場というか……!?」

 

 私の言葉に最上さんはさらに慌てふためくが、そんなことはない。これは分不相応ながらも世間ではついに『トップアイドル』と称されるようになってしまった私だからこそ、彼女に言わなければいけないことがあった。

 

 

 

()()()()()()()ようなステージを期待していますね」

 

 

 

「っ……!」

 

 最上さんの目つきがキツくなるほどの、それは明確な挑発の言葉。ただ普通にステージに立つだけでは()()()()()()()という圧倒的な上から目線。

 

 ……私はきっと、良太郎さんや恵美さんのように力強い言葉や、春香さんやまゆさんのように優しい言葉で他のアイドルを導くようなことは出来ない。だから私はこっちのやり方を、天ヶ瀬さんのように燃え上がらせる言葉を選ぶ。

 

 今はもう、ただのアイドルで居続けるわけじゃない。

 

 まだまだ『周藤良太郎』や『魔王エンジェル』という壁は高く、『Jupiter』や『Peach Fizz』にも届かないようなアイドルだけど。

 

 

 

 ……私だって、アイドルの先輩なんだから。

 

 

 

 

 

 

「……っ、かはぁ!? 息! 息止まってた! 呼吸忘れてた! やっべぇ! 北沢志保ちゃんヤベェ! 本物のトップアイドルオーラまじぱねぇ! 超自慢したい! SNSでめっちゃ自慢したい! 呟いていいかな!?」

 

「絶対にダメデス」

 

「この前、プロデューサーさんからしばらく自粛するように言われたばかりじゃないですか……」

 

 

 

 346の三人がそんなやり取りをする中、私は先ほどからずっと北沢さんが去っていった方に視線を向けたまま動けずにいた。

 

「……静香ちゃん?」

 

 普段と様子が違うことに気付いたらしい翼が、珍しく声色を抑えつつ私の顔を覗き込んできた。

 

「……翼、私ね」

 

「? うん」

 

「正直、今の今まで浮かれてたの」

 

 緊張で身体が震えるほどではあったけど、それとは別に心は何処か浮かれていた。

 

「あぁ、私は()()()()()()()()()()()って」

 

 でも、それはただの思い上がりだった。

 

 私は必死の思いでオーディションを受けて、そして合格して今回のステージに立つことになった。だから私はここを一つの『ゴール』だと思っていた。しかし北沢さんの言葉が、私に大事なことを思い出させてくれた。

 

 

 

「ここは『スタート』なんだ」

 

 

 

 そう、ここがアイドル『最上静香』の本当のスタート。劇場という巣から飛び立ち、『アイドルの世界』へと飛び込むためのスタートライン。私というアイドルをファンの記憶に刻み込むためのステージ。それがここなんだ。

 

 先日のジュリアさんとの一件で、翼は自分だけの『翼』がどういうものなのかに気付き始めた。未来も自分が進むべき『未来』へ向かっている。

 

 なら私は……じゃない。そうじゃない。そんなことを考えている場合じゃない。そんなことを考えている暇も器用さも私は持ち合わせていない。

 

 

 

「歌うんだ。全力で」

 

 

 

 迷うのも。悩むのも。不安になるのも。

 

 全部、ステージの後だ。

 

 

 




・やってみせろよ、マフティー!
鳴らない言葉を(ry
『はちみー冬優子マフティー構文』とかいう奇才の産物。

・こころちゃん
なにやら誰かに似ている少女。果たして誰の妹なんだ……?

・良太郎はここにいた。
トロフェスは無理でも、こっちぐらいには参加させとかないと……。

・志保と静香
原作ではそれぞれ14歳の同い年でしたが、アイ転の志保は16歳の上にアイドルとしても先輩なのでこういう関係性になっております。



 漫画の『ジュピター好きのあーちゃん』の代わりに謎の少女こころちゃんが登場しました。果たして一体彼女の正体は……!?(特に重要ではない)

 そして当然のように四話で収まらなかったため、この際なので次話を夏フェス本番編とします。(多分)感謝祭ライブ編以来のしっかりとしたライブのお話じゃーい!

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