アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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夏フェス編本格スタート!


Lesson283 天に輝く星の名は

 

 

 

『それじゃあみんな、用意はいいー!?』

 

 舞台裏にも聞こえてくる346プロの新田美波さんの声。それが、今回のイベントの開幕を告げる合図(のろし)となった。

 

 

 

『トロピカルサマーフェスティバル、スタート!』

 

 

 

「……つ、ついに始まっちゃった……」

 

「……始まっちゃいましたね」

 

「……緊張してる?」

 

「してないと思います?」

 

 自分たちのテントで、隣に座る紬さんとポツリポツリと言葉を交わす。私たちの出番はまだまだ先なので、しばらくはこうして待機することになるだろう。

 

「静香ちゃーん! 向こうのテントにケータリングあるんだってー! 紬ちゃんも一緒にいこー!?」

 

 そんな私たちとは対照的に平常運転の翼は、キャッキャと笑いながらパイプ椅子に座る私の袖を引っ張って来た。

 

「私はいいわ。お腹もそんなに空いてないし」

 

「うち……いえ、私も遠慮しておきます……」

 

「えー? つまんなーい!」

 

「軽食を食べに行くのにつまるもつまらないもないでしょ……」

 

 そしてそれを断ると、予想通り翼は不満そうに頬を膨らませた。

 

「おっと翼ちゃん、一緒にお茶するオトモをご所望かな~!? それなら特別に、この可愛い茜ちゃんがご一緒してあげてもいいよ~!? いやぁ茜ちゃんってばなんて優しいんだろうな~!」

 

「えっ、茜ちゃんお茶しにいくの? それじゃあ私も一緒に行っちゃおうかな~! ほらほら早く~!」

 

「えっ、ちょっ、麗花ちゃんそんな茜ちゃんが可愛いからってそんな小脇に抱えなくても何処にも行かないというか自分で歩けるから下ろしてほしいというか待って待ってそのスピードで移動しないで机に当たる出口に当たる色々なものに当たるぅぅぅ!?」

 

「「「………………」」」

 

 茜さんがやって来たかと思ったら、流れるように麗華さんに拉致されていってしまった。

 

「ふふっ、本当に麗華さんは茜さんのことが好きなんですね」

 

「えっ、星梨花ちゃん、今の光景を見た感想がそれで本当にいいの?」

 

 ニコニコと笑っている星梨花さんに対してツッコミたい言葉を百合子さんが代弁してくれた。やっぱりこの場で一番肝が据わってるのって、星梨花さんだよなぁ……。

 

「二人が行かないなら、私一人で行こーっと。あっ、ジュリアーノでも誘おっかなー」

 

 そう言いながら翼もスタコラとテントを後にしてしまった。765プロのテントに残されたのは私と紬さん、そして何やら打ち合わせのような話し合いをしている星梨花さんと百合子さん。真壁さんと高山さんとジュリアさんは既にテントからいなかった。

 

「……ふぅ」

 

 なんだか先ほどのやり取りを目にしたおかげか、少しだけ落ち着いた気がする。

 

 そして今から立つステージ以外のことに想いを馳せる余裕も、少しだけ出来た。

 

 

 

(……未来も、きっと今頃頑張ってるわよね)

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、ありがとう!」

 

「ありがとー」

 

「どういたしまして」

 

 ニコニコと満面の笑顔のニコちゃん似の少女B(Aはステージで歌っている子)と若干ポンヤリとした表情のニコちゃん似の少年は、俺が近くの売店で買ってあげたアイスクリームを早速食べ始めた。

 

「……一応、お礼を言ってあげるわ」

 

「なんのなんの」

 

 苦々し気な表情なニコちゃんと共に、ステージから一番離れたベンチに座る。俺から一メートル以上距離を離した上に、自分と反対側に少年と少女を座らせる辺り、不審者対策は完璧でお兄さんも安心だ。

 

「それでその二人と、ステージの女の子は、ニコちゃんの妹と弟ってことでいいのかな?」

 

「……違うって言ってアンタは満足するの?」

 

 うーん、今日はいつにも増して棘が多い気がする。まぁイマイチ素性が分からない相手に自分の身内を近付けたくないっていう気持ちは分からないでもないから、これ以上は踏み込まないでおこうかな。

 

「休みの日に遊園地に連れて来てくれるなんて、優しいお姉ちゃんだね」

 

「うん」

 

「おねえちゃんだいすき!」

 

「……フンだ」

 

 うんうん、仲良きことは良きことかな。

 

「……アンタ、参加しなかったのね」

 

 ステージの上で未来ちゃんと楽しそうにまゆちゃんの『エヴリデイドリーム』を歌っている少女の姿を静かに見守っていると、ニコちゃんの方から話しかけて来てくれた。先ほどのニコちゃんの発言を加味すると、十中八九トロフェスのことを言っているのだろう。

 

「どうしても外せない仕事があってね。こうやってこっちに来れたのも偶然なんだよ」

 

 そもそも未来ちゃんたちがここに来てたこと自体知らなかったし。未来ちゃん、自分の仕事があるからトロフェスには行けないとは言っても、自分がどこで仕事をするのかは伝えてくれなかったからね。

 

「まさか『アイドルヲタのリョーさん』があのトロフェスに不参加なんて、一部の人間が聞いたら仰天するでしょうね」

 

 うーん、ちょっと有名になりすぎたなぁ……。

 

「そういうニコちゃんも参加しなかったんだね。家族サービスを優先したってことかな?」

 

「……それもあるけど……」

 

 ぷいっとそっぽを向いたニコちゃん。遊園地の喧騒があるものの、しっかりと耳を傾けると微かに「お小遣い足りないのよ……」という言葉が聞こえた。あー、なるほどね……。

 

 765シアター劇場は高木さんの『アイドルを身近な存在に』という考えから始まったステージなので、チケットの料金もとても良心的なものになっている。しかしそれでも塵も積もればなんとやら。ニコちゃんの場合はちゃんとCDやファングッズも買っているため、高校生の彼女にとっては相当な出費となっていることだろう。

 

音ノ木坂(おとのきざか)はアルバイト禁止だっけ?」

 

「禁止されてないけど……ちょっと待チナサイ」

 

 何やらニコちゃんの目線が先ほど以上に不審者を見る目になった。

 

「なんでアンタが私の通ってる高校知ってるのよ……!?」

 

「前にライブに制服で参加してたじゃん」

 

 基本的に765の劇場は休日に開かれるので殆ど私服だったが、一度だけ珍しく制服で参加したことがあったのを覚えていた。多分何かしらの学校行事の帰りに寄ったのだろう。

 

「俺の母親の母校の制服だから。『私の母校の制服、とっても可愛くなったの~!』って母さんがパンフレットを見せてくれたのを覚えてたんだよ」

 

「……まぁ、信じてあげるわ」

 

 ありがとう。

 

「それで話は戻るけど、アルバイトだったら今だけいいところを紹介してあげられるけど、興味ある?」

 

「今の言葉で素直に頷く女子高生がいると思う?」

 

「思わない」

 

 全く意識していなかったが、あからさまに怪しいバイトの勧誘の言葉だった。

 

「まぁ気が向いたら早めに連絡してよ。俺の知り合いのお店なんだけど、近々アルバイトの子が抜けるかもしれないらしいからさ」

 

「……まぁ、とりあえず覚えておいてあげる」

 

 それだけでも結構。

 

 さて、ステージに意識を戻すと丁度未来ちゃんとニコちゃんの妹ちゃんAが歌い終わったところだったので、パチパチと拍手を送る。妹ちゃんAもステージでマイクを使って歌うという貴重な体験が出来て大変満足そうだった。

 

「おねえちゃん! わたしも歌いたい!」

 

「え?」

 

 買ってあげたアイスを食べ終えたニコちゃんの妹ちゃんBが、目を輝かせながらニコちゃんの袖を引っ張った。

 

「あのね、わたしね、天海春香ちゃんの『世界で一番がんばってる君に』が歌いたい!」

 

「ここあ、あのね、本当はあのステージに立つのは……」

 

「いいんじゃないかな」

 

 今にもステージへと走り出しそうな妹ちゃんBを説得しようとするニコちゃんの言葉を途中で遮る。

 

「アンタまで何言って……」

 

「アイドルのお姉さーん、今度はこの子が一緒に歌いたいってー」

 

 ヒラヒラと手を振ってアピールしながらステージ上の未来ちゃんへと声をかける。

 

『おっ! いいですよ……って、えええぇぇぇ!?』

 

「うるせ」

 

 未来ちゃん、驚くのはいいけどせめてマイク下ろして。

 

『なんでリョーさんここにいるの!?』

 

「俺のことはいいから、このお嬢さんがリクエストだって」

 

 妹ちゃんBに「ほら行っておいで」と促すと、彼女はパァッと明るい笑顔になって駆け足でステージへと向かっていった。

 

「ちょっ……はぁ、アンタねぇ……」

 

 妹ちゃんBを追うことを諦めたニコちゃんは、一瞬浮かせた腰を再びベンチに下ろして今日何度目になるか分からないジト目になった。

 

「ごめんごめん。でもホラ、楽しそうだし」

 

 ステージへと辿り着いた妹ちゃんBは、お姉ちゃんと思われる妹ちゃんAや未来ちゃんとステージ上で並ぶと、今度は春香ちゃんの歌をアカペラで歌い始めた。

 

「あーゆーのも、アイドルの形としてはありだと思わない?」

 

「………………」

 

 ニコちゃんは肯定も否定もしなかった。きっと彼女の中にある『アイドルの理想』辺りの思考が色々と巡っているのだろう。

 

(さて)

 

 未来ちゃんの相方であるところの静香ちゃんが出演するトロフェスの方は、一体どうなってるのかな?

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

「お疲れ様です、北沢さん!」

 

「ん、お疲れ様です、新田さん」

 

 トロフェスのオープニングステージを終えて舞台裏に戻ると、同じくオープニングステージで一緒に歌った346プロの新田美波さんが声をかけてきた。

 

 頬を紅潮させ、照れ笑いのような表情を浮かべる新田さん。ステージから降りてきたばかりということでやや汗ばんでいて息も少々荒い。なんというか、同性の私の目から見ても色っぽかった。

 

「ステージに上がる前は言いそびれちゃったんですけど、私、北沢さんと一緒のステージに立つのをとても楽しみにしてたんですっ」

 

「それは、ありがとうございます」

 

 未央さんが教えてくれたが、彼女たちシンデレラプロジェクトのアイドルたちは私のデビューステージを観に来てくれたらしい。そんな彼女に『一緒のステージに立つのを楽しみにしていた』と言われるのは、なんだかむず痒かった。

 

「それに、ちょっとだけ個人的にお会いして聞いてみたいことがあったんです……」

 

「聞いてみたいこと……ですか?」

 

「はい」

 

 そう頷いた新田さんは、頬は紅潮したままだが真剣な表情になった。

 

 一体何を聞かれるのだろうかと、少しだけ背筋を伸ばして――。

 

 

 

「……りょ、良太郎さんに恋人が出来たって、本当なんですか……!?」

 

 

 

 ――小声で尋ねられたその内容に、全身が硬直した。

 

 ど、何処から漏洩したんですかその情報!?

 

 

 




・麗華さんに拉致
茜ちゃん「いやこら拉致だよ!」

・音ノ木坂
どうやらニコちゃんが通っている学校で、リトルマミーの母校でもあるらしい。
一体どんな学校なんだ……?(すっとぼけ)

・『世界で一番がんばってる君に』
実際はカバー曲ですが、この世界では春香の持ち歌に。
きーみのためのアールートー。

・何処から漏洩したんですか
なにやらみなみぃとユニットを組んでそうなキス魔がいましたねぇ?



 今回からが夏フェス編の本番になります。

 ミリマス編も終盤に近付いてますので、そろそろ本格的にラブライブ色も強くしていかないと(ミリマス編とは)。

 ……もしかして第七章入りする可能性も微レ存。

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