アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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今回のメインの静香ちゃん不在ってマ?


Lesson284 天に輝く星の名は 2

 

 

 

「ねーちゃん、覆面ライダーの曲歌えんの?」

 

「あー、まぁな。たまに見てるし」

 

「じゃあアレは歌えるか!? 電光刑事バン!」

 

「寧ろお前歌えんの……!? それオレが生まれるより前の覆面ライダーの前身番組だろ……!?」

 

 

 

「それでは僭越ながら歌わせていただきます……346プロ村上巴さんで『おんなの道は星の道』!」

 

「よっ! 待ってました!」

 

「ウチは家内ともども、巴ちゃんの大ファンでねぇ」

 

 

 

「もー! 私、静香ちゃんの応援に行って言ったのに! どーして来ちゃうんですかリョーさん!」

 

「ゴメンゴメン、どうしても外せない仕事があったんだよ」

 

 まさか出演アイドルから直々に観に来たことに文句を言われるとは思わなかった。

 

「というか、いくらステージが圧倒的フリースタイルになったからって客席に座ってお喋りはどうなの?」

 

「えー? でも美也さんも、おじいちゃんおばあちゃんと一緒になって席で手ぇ叩いてますし、大丈夫ですよ」

 

 だからって隣に座って雑談に興じるのは身近なアイドル過ぎない?

 

「あっ! そっちの貴女は前にリョーさんの隣に座ってた人ですね!」

 

「っ!?」

 

 未来ちゃんが俺の向こう側に座っているニコちゃんに声をかけると、新人とはいえ正真正銘のアイドルに直接声をかけられたニコちゃんはビクリと肩を震わせた。

 

「今日もステージ観に来てくれてありがとうございます!」

 

「あ、いや、その……こ、これからも頑張ってください」

 

「はい!」

 

 目を逸らしながら若干どもるニコちゃん。典型的なアイドルを前にしたオタクムーブです本当にありがとうございます。アイドルに認知されてよかったね。

 

「しかもまさかこの子のお姉ちゃんだったなんて! 一緒にステージを盛り上げてくれてありがとうね!」

 

「……まぁまぁ楽しかったです。でももっと精進してくださいね!」

 

「アハハッ、はーい」

 

 先ほどステージ上で歌っていた妹ちゃんAもすっかり上機嫌になってこちらに戻って来ていた。これ以上失礼な発言をしないか、ニコちゃんがハラハラしているのがちょっと面白かった。

 

「それにしてもステージに観客を上げて一緒に歌うとは、流石に俺も思いつかなかったよ」

 

「でへへ~! 私も特に何か思い付きがあったわけじゃないんですけど、きっとステージの上に立って歌えば誰だって楽しいって思ったんです!」

 

「未来ちゃんらしい考え方だなぁ」

 

 女子中学生の純真な考え方が眩しすぎる。

 

「あっ! そうだ、貴女もステージに立ってみない?」

 

「えっ」

 

「そうですよお姉様! 是非お姉様のステージを見せてください! ここがアイドルとしての第一歩にしてしまいましょう!」

 

「えっ」

 

 突然の未来ちゃんからの提案に面食らい、そして妹ちゃんAからの援護射撃に固まるニコちゃん。そういえば俺もニコちゃんの歌は聞いたことないから、ちょっと聞いてみたい。

 

「って、えっ!? 貴女もアイドル目指してるの!? もしかしてウチの劇場に来たいって考えてたりする!?」

 

「えっ!? え、えっと……その……」

 

 そして妹ちゃんAの発言を聞いて目を輝かせた未来ちゃんに詰め寄られて仰け反るニコちゃん。普段の様子とは違いたじたじな感じのニコちゃんがただただ面白い。

 

「私はー……そのー……す、スクールアイドルから目指してみようかなー……なんて……」

 

「スクールアイドル!? あ~それもいいね~! なんかこう、青春って感じで!」

 

 私の学校にもアイドル部があったらなぁ~と悔しそうな表情を浮かべる未来ちゃん。

 

「その、本職のアイドルの人からしてみたら、お遊びみたいなものかもしれませんけど……」

 

「そんなことあるわけないよっ!」

 

 珍しくネガティブなニコちゃんに、未来ちゃんは拳を握りしめながら熱弁する。

 

「アイドルに本職もお遊びもないよ! アイドルになりたいって思ったのなら、それは全部本気なんだよ!」

 

「……全部、本気」

 

「ですよね!? リョーさん!?」

 

「……あ、うん、そうだね」

 

 まさかそこで勢いよく俺に振ってくるとは思わなかったから少し面食らってしまった。一応リョーさん、ただのアイドルマニアの設定なんですけど。

 

「私もまだまだ新人だから、一緒に頑張ろうね!」

 

「……あ、ありがとうございます」

 

 ニッコリと花の咲くような笑顔を浮かべる未来ちゃんに、ニコちゃんも少しだけくすぐったそうに笑みを浮かべた。

 

 うんうん、いい場面だ。いい場面なんだけど……。

 

 

 

「未来ちゃん、こちらのニコちゃん、実は高校一年生なんだよね」

 

「……年上だったの!?」

 

 

 

 まぁ気付かないよね。ニコちゃん、色々とサイズが控えめだし。

 

 何故か何も言葉にしていない俺だけがニコちゃんに殴られた。

 

 

 

 

 

 

 ――こんにちは、美波。

 

 ――あら奏ちゃん、こんにちは。どうしたの? なんだか楽しそうね?

 

 ――うふふ、分かっちゃう? ちょっとだけ面白い話を耳にしたのよ。

 

 ――あら、どんな話なの?

 

 ――あの『周藤良太郎』に恋人がいるっていう話よ。

 

 ――へぇ……え?

 

 ――本人が言ってたから間違いなさそうよ。

 

 

 

 ――……えっ?

 

 

 

 

 

 

「……っていう話を奏ちゃんから聞きまして……」

 

「そ、そうですか……」

 

 舞台裏で突然新田さんからブッ込まれた衝撃発言に愕然としつつ、それを知ってしまった経緯を詳しく聞いてみると、どうやら大元の原因は良太郎さん本人のやらかしのようだった。

 

(私たちが必死になって隠してあげてるっていうのに……!)

 

 『周藤良太郎』の恋人。その情報は現在のアイドル業界においての『核兵器』と呼んでも差し支えないだろう。今更『周藤良太郎』の人気が()()()()()()()で揺らぐとは思わないが、それでも関係各所が大混乱するのが目に見えていた。社長は「日経平均株価が下がる」と冗談交じりに言っていたが、目がマジだったので多分ガチ。

 

 そしてその恋人の正体と()()()()()()()()()()を知っている私たち一部の人間は『核兵器のスイッチ』を持たされてしまっている状況なのだ。正直こんなもの投げ捨ててしまいたかったが、それをするためには志希さんのオクスリを飲んで記憶を消す以外の方法が存在しないため出来なかった。

 

「いや~美波ちゃんも知っちゃったんだね~」

 

「きゃっ」

 

 多分誤魔化すことは無理だよなぁなんてことを考えていると、私たちと共にオープニングステージに(珍しくずっと)立っていた志希さんが新田さんの背後から肩に手を置いた。

 

「知ってしまったからにはタダじゃおかないよ~?」

 

「え、えぇ!? そ、それって……!?」

 

「あたしが開発したこのオクスリを飲んでもらおうかな~。大丈夫、苦しくないよ」

 

「苦しくないこと以外には何が起きるオクスリなんですかそれは!?」

 

「志希さんステイ!」

 

 胸の谷間から取り出したケースから一粒のカプセルを摘まみ上げた志希さんを、全力で新田さんから引き剥がす。記憶が消える程度で済めばいいが、それ以上の何かが起こりそうで怖かった。そして『記憶が消える程度』なんて思ってしまった自分の考え方も怖かった。完全に毒されてる。

 

「薬物なのに毒されてるってね!」

 

「やかましい!」

 

 思わず志希さんの頭頂部にチョップしてしまった。

 

「でもでも~、それが広まるとみんな困るでしょ?」

 

「それも困りますけど、今ここで一人の人間が記憶喪失になる方が困ります」

 

「私、記憶喪失にさせられるところだったの!?」

 

「ダイジョーブダイジョーブ、ちょっと身体が縮むぐらい」

 

「それなら……まぁ」

 

「それならまぁ!?」

 

 『周藤良太郎の恋人』というキーワードこそ大きく声に出していないものの、それでも少々騒ぎすぎてしまった。周りからの視線と次のステージのための準備もあるため、こそこそと新田さんと志希さんと共に移動を開始する。

 

「えっと……新田さん、一つ聞きたいんですけど、その話はどれぐらい広まってますか?」

 

「奏ちゃんと楓さんが面白そうに話しまわってたから、多分346の事務所の殆どの人が一度は耳にしてると思うわ。でも『周藤良太郎の恋人』の噂自体は……なんというかある種の人気コンテンツみたいなものだから……」

 

「まぁ……そうですね」

 

 有名人の恋人の噂なんてものは週刊誌の定番ネタのようなものだ。それは当然ながら『周藤良太郎』にも当てはまり、しかし彼の場合はプライベートをパパラッチされることが一切存在しなかったために基本的に何の裏取りもされていない話ばかり。私を含む123プロの女性陣も全員一度は『周藤良太郎の恋人』として記事が書かれたぐらいで、訓練されたりょーいん患者の方々は基本的に本気にしない。

 

 しかし、今回は噂の出所が出所だ。

 

「新田さんが思わず私に確認したくなるぐらい、その噂を『もしかして』と思ったんですね」

 

「うん。あの二人が無意味な噂話をするとは思わなかったし……特に奏ちゃんは良太郎さんの高校の後輩らしいし」

 

「う~ん……」

 

 今までは荒唐無稽なホラ話だったのが、信憑性のある話にまで昇華されてしまっている。流石に業界が混乱するような広め方をするような人たちではないと信じたいが……。

 

「でもまー、時間の問題なんじゃないかなー」

 

 隣を歩きながら黙って私たちの話を聞いていた志希さんが、人差し指を顎に当てた。

 

「いずれはバレることだし、リョータローもいつかはバラすつもりでしょ? なら今のうちにその下地を作っておくことも大事なんじゃないかなー?」

 

「……それは」

 

 そうなのかもしれない。

 

 でもきっと、それは今じゃない。

 

「……新田さん、このことは」

 

「……うん、大丈夫。ごめんなさい、変なことを聞いてしまって」

 

 新田さんが理解のある方で助かった。

 

「それで……その、もう一つだけ聞きたいんだけど」

 

「なんですか?」

 

 

 

「……一ノ瀬さん、何処?」

 

 

 

「………………」

 

 立ち止まってゆっくりと周りを見渡す。志希さんは、いない。

 

「……ふー……」

 

 どうやら逆にわざと話しかけることで『しっかりと意識を向けている』と思わせてから、その隙を突いたらしい。なんとも手の込んだやり方である。

 

 

 

「……■■■■■■■■■っっっ!!!」

 

 

 

「北沢さんっ!?」

 

 

 




・電光刑事バン
Lesson173以来のシンフォギアネタ。

・『おんなの道は星の道』
下手なコール曲よりもライブで楽しい曲。
「お嬢ぉぉぉ!」
「よっ! ニッポンイチ!」

・「日経平均株価が下がる」
※参考資料『第五回佐久間流周藤良太郎学~周藤良太郎のウインクがもたらす株式への影響~』

・「ちょっと身体が縮むぐらい」
しきにゃんは子どもの遊び心に大人の身体だね!(オヤジ)

・「……■■■■■■■■■っっっ!!!」
北沢志保 クラス:バーサーカー



 繋ぎ回。ついでに世間に対する『良太郎の恋人』という存在の考え方的なアレコレ。

 次回はちゃんとライブシーン……のはず。

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