アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ライブシーン……どこ……どこ……?


Lesson285 天に輝く星の名は 3

 

 

 

「っ!?」

 

「静香ちゃん、どうかしましたか?」

 

「あっ、いえ……今、なんだか、こう、狂戦士チックな声が聞こえたような気がして……」

 

「きょうせんしチック……?」

 

「……重要なことではないので、気にしないでください星梨花さん」

 

「?」

 

 地響きに似た観客の歓声に混ざって、なにやら地(獄)の底から響くような声が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろう。ましてやそれが北沢さんの声に似ていたような気がするなんて、緊張しすぎて幻聴が聞こえたに違いない、うん。

 

「………………」

 

 テントで自分たちの順番を待つ。私たちはまだまだトリを任されるような実力も先陣を切るほどの実力もないので、大体中盤ほどの出番になっていた。だから今から身体を動かすには時間が足りず、かといってすぐにスタンバイするほどの時間に余裕がないわけでもなかった。

 

 だからこうして、パイプ椅子に座りながら天井を見つめて息を整える。

 

「……未来はどうしてるかしら」

 

「未来ちゃん?」

 

「っ!?」

 

 頭の中で考えたつもりが口から出てしまっていたらしく、隣に座る星梨花さんに聞かれてしまい、思わず口を手で押さえてしまった。

 

「ふふっ、静香ちゃん、未来ちゃんの方が気になるんですね」

 

「……はい」

 

 こんな本番直前のタイミングに未来のことを気にしてしまったこと、そしてそれを思わず口にしてしまったこと、さらにそれを聞かれてしまったこと、そんなありとあらゆることが恥ずかしくて思わず顔を伏せてしまった。今凄く顔が熱い。

 

「未来ちゃんは、美也さんや昴さんやエミリーちゃんと一緒に遊園地でしたっけ?」

 

「はい……そう聞いてます」

 

 未来に遊園地の名前を聞いてみて事前に調べてみたのだが、そんなに大きな遊園地ではなかった。きっと観客も多くない小さなステージだろう。ならば心配するようなことは何もない。それでも気になってしまうのは……。

 

(心配、だからじゃない)

 

 私のステージを()()()()()()()()()。ただそれだけの、私の我儘だ。

 

「……あの、星梨花さん」

 

「なんですか?」

 

「星梨花さんは、その……『この人には自分のステージを観てもらいたい』っていう特別な人、いますか?」

 

「特別な人ですか?」

 

 質問してから(なんで私はこんなこと聞いてるの!?)と我に返った。捉えようによってはかなり不躾な質問だし、変な勘ぐりをされてしまうかもしれない。しかし星梨花さんは特に疑問を抱く様子もなく「そうですね~……」と真剣に悩んでいた。

 

「やっぱりファンの皆さんが特別です。でも、個人ということならば――」

 

 

 

 ――私は、冬馬さんに見てもらいたいです。

 

 

 

「……え、えぇ!?」

 

 そして全く予想していなかった名前が出てきたことに驚き、思わず大声が出そうになり咄嗟に口を手で塞いだ。

 

 それは一体どういう意味なのかと聞こうとしたら、爆弾を投げ込んできた張本人は慌てる私を見ながらクスクスと笑っていた。

 

「……もしかして、冗談ですか……?」

 

「いいえ、本当ですよ。今のは静香ちゃんの反応がおかしくって」

 

 と、ということは、今の回答は本当に……!?

 

「そ、それはそういう意味なんですか……!?」

 

「どういう意味でしょうね?」

 

 そう言って再びクスクス笑う星梨花さん。も、弄ばれている……!

 

「そういう静香ちゃんは、やっぱり未来ちゃんに見てもらいたいんですね」

 

「えっ」

 

 しかも私の見てもらいたい人まで断定される始末。ダメだ、このままでは星梨花さんに私の色々なものが蹂躙される……! それはそれでちょっといいかなって思ってしまう私がいる……!

 

「あっ、そろそろ時間ですね」

 

「えっ」

 

 しかし星梨花さんは時間を確認するとサッと立ち上がってしまった。

 

「……そ、そうですね、準備しないと」

 

 私もそれに続いてパイプ椅子から立ち上がる。

 

 なんか色々あったけど、切り替えよう。パチンと強く自分の両頬を叩く。

 

 

 

 ……あぁダメだちょっと気になるぅ~!?

 

 

 

 

 

 

「「……あっ」」

 

 ステージ裏の楽屋テント付近を歩いていたら、たまたま星梨花と出くわした。

 

「志保ちゃん! お久しぶりです!」

 

「えぇ、久しぶりね。……他のみんなは元気、なんて聞く必要なかったわね」

 

「勿論ですよ! そちらも恵美さんやまゆさんのご活躍はいつも聞いてます!」

 

 なんとなく、特に用事があったわけでもないけれど、なんとなくお互いに足を止めて少しだけ立ち話をする姿勢になった。

 

「こうして現場で一緒になるのは初めてだったかしら」

 

「そうですね……私たちがこうやって他の大きな現場に出られるようになったのは、つい最近ですから」

 

 そう言いつつ「志保ちゃんはすぐにデビューでしたもんね」と笑う星梨花。彼女に嫌みを言うつもりなんてなかっただろうけど、私は勝手にダメージを受けてしまう。律子さんの誘いを受けず一人だけ123プロのオーディションを受けたことに、未だに自分で勝手に負い目を感じていた。

 

「……覚えてますか? 二年前の夏」

 

「……忘れるわけないわ」

 

 何があろうとも忘れるわけがない。二年前の夏に、私たちの運命が大きく変わったと言っても過言ではないのだから。

 

「私、あの頃からずっと冬馬さんの大ファンなんです」

 

「……ん?」

 

 あれ? 流れ変わった?

 

「レッスンで頑張ってる姿も、ライブで頑張ってる姿も、ずっと冬馬さんに見てもらいたかったんです」

 

「………………」

 

「私の歌とダンスを見て欲しい特別な人。単純ですけど、きっとそういう人がいる方が頑張れるんですよね」

 

「……なんというか色々言いたいことはあるけど……やっぱり真っ先に思いついた感想は『意外』だったわ」

 

「そうですか?」

 

 星梨花はクスリと笑いながら、パチリと小さくウィンクをした。

 

 

 

「アイドルに憧れるのは『女の子』の嗜みですよ?」

 

 

 

 

 

 

「ラブコメの波動を察知」

 

「……いきなり何言ってんのよアンタは」

 

 いや、お約束のアイキャッチ的な。

 

 未来ちゃんたちのステージが終わったのでそろそろお仕事へと戻る俺は、同じくそろそろ帰宅するというニコちゃんたちと共に遊園地の出口へと歩を進めていた。

 

「……あのさ、さっきのアルバイトの話なんだけど」

 

「ん? やっぱり興味ある?」

 

 ニコちゃんはバツが悪そうにしつつもコクリと頷いた。

 

「その、一応家計の足しにもなると思うし……」

 

 ええ子やなぁ……。

 

「それじゃ知り合いのところだから、俺が話しつけておくよ。もし本当に信用が無いっていうんなら、親御さん連れて一回どういうところなのか様子でも見に行く?」

 

「……そこまで本気で信用してないわけじゃないわよ」

 

 嘘、ニコちゃんがデレた……。

 

「お姉様がアルバイトをするんですから、きっとそのお店は『しょばいはんじょう』間違いなしですね!」

 

「まちがいなし!」

 

「なしー」

 

 妹ちゃんA&Bwith弟くんの方が何やらノリノリだった。

 

「それで? 結局どんなバイトなのよ」

 

 そういえば言ってなかったね。

 

「俺が昔から馴染みにしてるお店でね、実はそこの看板娘が現役のアイドルで……ん?」

 

「えっ、ちょっと今アイドルって言った!?」

 

 スンスンと周りの匂いを嗅ぐ。

 

「……一雨来そうだね」

 

「名前まで教えろとは言わないからせめてどの事務所かぐらい……え、雨?」

 

「うん、雨」

 

 志希から教わった『土の匂い』。確かペトリコールとゲオスミン。

 

「……多分、トロフェスの会場も降るだろうな」

 

 夏フェスで雨というと、去年のことを思い出す。俺と冬馬と恵美ちゃんとまゆちゃんの四人で、凛ちゃんたちニュージェネのステージを観に行ったんだっけ。そんでもって雨に降られて、雨宿りしてるところでたまたま加蓮ちゃんと再会して……。

 

「………………」

 

「どうしたのよ」

 

「いや、あれからまだ一年しか経ってないのかと思って……」

 

 月日の流れが早かったり早くなかったりしろ。

 

 

 

 ……さて、静香ちゃんたちはどうなるかな?

 

 

 

 

 

 

「「………………」」

 

 ステージ裏を歩いていた私と紬さんが階段の前で足を止める。この階段から紬さんはステージに上がり、少し先の階段から私がステージに上がることになっている。

 

 ついに私たちの出番が来てしまったのだ。

 

「……いよいよですね」

 

「……はい」

 

 これから共にステージに立つ仲間である紬さんに、本番直前になんと声をかけようかと口ごもる。こういうとき、私の口は自然と動いてはくれなかった。かける言葉が見つからないならば、私もさっさとスタンバイへと向かうべきなのだが……。

 

「……()()()()

 

「……えっ」

 

 紬さんに名前を呼ばれ顔を上げて、そして『最上さん』ではなく『静香さん』と呼ばれたことに気が付いた。

 

 

 

「今日は()()()()()

 

 

 

「………………」

 

 歓声が大きくなる。きっと私たちの二つ前のアイドルのステージが終わったのだろう。私たちもそろそろ準備を終えなければいけない。

 

「……私もです」

 

 だから一言だけ。「頑張りましょう」でも「良いステージにしましょう」でもない。そんな言葉じゃない。今の私が紬さんにかけるべき言葉は。

 

 

 

「私も()()()()()

 

 

 

 コツンと拳を合わせてから、私は自分の持ち場へと着いた。

 

「……ふぅ」

 

 ゆっくりと息を吐く。目を閉じて集中する私の耳に、観客の歓声が届く。ビリビリという振動となって、彼らの放つ熱気がここまで届いて来る。

 

「………………」

 

 紬さん。星梨花さん。麗花さん。茜さん。そして私。

 

 この五人による、初ステージ。今日という日を迎えるために頑張って来たユニット。

 

 

 

 ――残念ながら、私たちはまだトップアイドルじゃありません。

 

 

 

 それはこのユニットを結成するに辺り、ユニットリーダーである星梨花さんがそんなことを言っていた。

 

 

 

 ――でも私たちはそのすぐ側にいます。

 

 ――夜空の一番上で輝く北極星ではないけれど。

 

 ――私たちは間違いなく輝く星たちになれます。なります。

 

 ――だから、私たちのユニットの名前は……。

 

 

 

「………………」

 

 目を開く。前のグループのステージが終わった。

 

 出番だ。階段に足をかける。

 

 一歩を、踏み出す。

 

「私たちは」

 

 私たちの名前は……!

 

 

 

『『『『『Cassiopeia(カシオペア)!』』』』』

 

 

 




・星梨花のおはなし
ちょっと触れただけでずっと投げっぱなしだったから、ここらで決着。
彼女は何処までも『ファン』以上にはなれなかった。

・星梨花に弄ばれる静香
年齢が逆転しているアイ転だからこそ起こった現象。

・ニコちゃんのアルバイト先
・看板娘が現役のアイドル
元々一ヶ所を想定してたけど、感想で言われてあと二ヶ所があったことに気付いた。
何処にするかはギリギリまで悩むことにする。

・あれから一年
リアルだと四年半。相変わらず進むのが遅ぇなこの小説……。

・『Cassiopeia』
静香・星梨花・紬・麗花・茜のオリジナルユニット。
カシオペア座は北極星を探す指標ともなる『五つの星』から形成された星座。



 というわけで色々とありましたが、ついに静香たちのユニット名の登場です。ネーミングセンスに関しては相変わらず目を瞑っていただきたい。

 星梨花の冬馬に対するアレコレは、まぁ実はこんなこともあったんだよって話です。ちょくちょくそれっぽい話はしていましたが、これ以上は発展しません。

 彼女はアイ転において『一線を超えない選択をし続けた佐久間まゆ』みたいな存在です。



 色々ととっちらかったお話になってしまいましたが、次回こそライブシーン。

 そして第六章最終話(仮)です。

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