アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ここからミリマス編終盤に入っていきます。

※追記
第六章が長すぎたため、ここから新章に分けました。(2022/3/8)


第七章『Thank you!』
Lesson287 雨上がりの虹


 

 

 

 夏休みが終わった新学期。今日も私の朝はいつも通りだ。

 

 朝、目覚まし時計のアラームで起きる。たまに寝坊することもあるけど、最近はそれも少なくなった。疲れていることも多いけど、今日一日起こることに対する楽しみの方が勝ってしまうことの方がもっと多かった。

 

 寝起きの口の中は細菌が多いらしいから、朝ご飯を食べる前に歯を磨く。それからお母さんが用意してくれた朝ご飯を食べて、そこからもう一度歯を磨く余裕は流石にないからうがいで済ませる。

 

 それで自分の部屋に戻ってパジャマから服を着替えて、リュックの中身を確認してから家を出る。

 

 自転車でいつもの登校ルートを走り、その途中のいつものコンビニに寄っていつも飲んでいるパックの牛乳を買うのが、私のいつもの朝のルゥティン……じゃなくてルーティーンだった。

 

「……あっ」

 

 そんないつもの朝に、いつもとは違う光景。それはコンビニの窓に貼られている一枚のポスターで――。

 

 

 

 ――夏フェスのときの静香ちゃんの写真だった。

 

 

 

「うわっ! 静香の写真、ここにも張られとるんやな」

 

「奈緒さん! おはようございます!」

 

「おっす、おはよーさん」

 

 なんとなくぼんやりと静香ちゃんのポスターを眺めていると、いつの間にか背後に奈緒さんがいた。最近知ったことだが、ここのコンビニは奈緒さんの登校ルートでもあったらしい。もしかしたら気付かなかっただけで、以前から彼女とニアミスしていたのかもしれない。

 

「ホンマ奇跡の一枚って感じの写真やな」

 

「私、この写真大好きなんです!」

 

 それは一ヶ月前、夏フェスで静香ちゃんたちの『Cassiopeia』の最後の曲を歌い終わった直後、雨が上がり日が差した瞬間を切り取った写真だった。奇跡的なシチュエーションと、その直前の五人のパフォーマンスも相まってそれが大きな話題となったのだ。

 

「『自分はセンターじゃなかったのに』って言ってず~っと星梨花に対して謝りっぱなしの静香はおもろかったな~」

 

 カラカラと笑う奈緒さん。星梨花さんはニコニコと笑って自分のことのように喜んでいたが、それが余計に静香ちゃんへのプレッシャーになってしまったのかもしれない。

 

「……ホンマ、何が起こるのか分からん。この写真一枚がここまで話題になるなんて、きっとこれがアイドルの世界なんやな」

 

「……そう、ですね」

 

 

 

 

 

 

 ――え、コレうちの先輩なの!? マジで!?

 

 ――超美人じゃん!

 

 

 

(学校でもすっかり有名人だっ)

 

 廊下を歩いていると、静香ちゃんの写真が表紙になっている雑誌を見ながら話をしている生徒を目撃した。静香ちゃんが美人だ美人だと褒めそやされているのを聞くと、思わず私も嬉しくなってしまった。

 

 思わず足取りが軽くなりながら、静香ちゃんの教室へ赴くと入口から中に顔を覗かせる。

 

「静香ちゃーん!」

 

「あ、未来じゃん。静香ならさっき早退したよ」

 

「えー!?」

 

 しかし友人から静香ちゃんの不在を告げられてしまった。

 

「うーん、お昼休みに借りてたCDを返しに行くよって言ってあったのにー……」

 

 放課後仕事があるから学校にいる間にと考えていたのだが思惑が外れてしまった。

 

「ねぇねぇ! やっぱり静香って今忙しいの!? やっぱりあの写真の影響!? 今すっごい話題だもんね!」

 

「え、えへへ、まぁ~ね~!」

 

「なんで未来が自慢げなのよ」

 

 静香ちゃんが褒められると、自然と頬が緩むようになってしまった。やっぱり自分のことの嬉しくなってしまう。

 

「って、静香ちゃんから電話だもしもし!」

 

「反応はやっ」

 

『もしもし未来? ごめんなさい、急に予定が変わっちゃったのよ』

 

「うん大丈夫だよ! 夜は遅くなるの?」

 

『えぇ。今日は劇場にも寄る予定が無いから、CDは明日でもいい?』

 

「勿論だよ! お仕事頑張ってね!」

 

『ふふっ、ありがとう、頑張るわ。……それじゃあ、また明日』

 

「うん! 明日劇場でね!」

 

 ちょっとだけ名残惜しいけど静香ちゃんとの通話を終了する。

 

「……なんというか、新婚奥様の電話を聞いた気分」

 

「ん? 何?」

 

「なんにも」

 

「? ……えへへ」

 

 何故か乾いた笑みを浮かべている友人に首を傾げつつ、それでも明日久しぶりに静香ちゃんに会えるという事実に、私は思わず笑みを浮かべてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

「……うふふっ」

 

「ご機嫌だな静香。未来と話せたのがそんなに嬉しかったのか?」

 

「っ!? 何言ってるのプロデューサー変なこと言わないでください!」

 

「スマンスマン。でも新婚さんみたいなやり取りだったぞ」

 

「え……そ、そうですか? そんな風に聞こえましたか? 本当に?」

 

「おっとその反応はちょっと予想外だぞ?」

 

 

 

 

 

 

「ホント、何が起こるのか分からないから面白いね、この業界は」

 

 先ほど買ってきたばかりのアイドル誌の表紙を眺めながらポツリと呟く。そこに映っているのは、つい先日の夏フェスで撮影された静香ちゃんの写真である。

 

 俺は直接観に行けてないので現地参加という名の出演者側だった志保ちゃんや美優さんに話を聞いたのだが、二人とも『最上静香がMVP』という意見で一致していた。元々伸び代があるんじゃないかと思っていたが、予想よりも開花が早かった。

 

 そしてこの雨上がりで水も滴るイイ女な静香ちゃんの写真。元々ネット記事に掲載されていた一枚だったのだが、これが元々美少女だった静香ちゃんが超絶美人さんに見える神がかったこの奇跡の一枚。思わず「おぉ……」という感嘆の声を漏らしてしまい、一緒にネット記事を覗いていたりんに脇腹を小突かれしまったぐらいだ。

 

 そんな静香ちゃんの写真が世間で大反響を呼んでおり、ネットを中心に静香ちゃんの人気が急上昇中だった。

 

「感慨深いなぁ。あの初めてのソロステージで緊張しすぎた結果、MCの開口一番に『今日はありがとうございました!』って言っちゃった子が、こんなに有名になっちゃうんだから」

 

「それは何? そのステージを見ることが出来なかった私に対するマウントなの?」

 

 同意を求めて投げかけた言葉が、意図せずニコちゃんを傷付ける言葉になってしまったらしい。めっちゃ睨まれてる。

 

「その喧嘩買ってやるから、アンタも代わりに何か買っていきなさいよ」

 

「まぁ元からそのつもりだったんだけどさ」

 

 そういえば言いそびれていたがあった。

 

 

 

「割烹着と三角巾似合ってるよ」

 

「……それも喧嘩売ってる?」

 

「俺は一体何を言えば褒め言葉として認識してもらえるんだ……?」

 

 『二階堂精肉店』でアルバイト中のニコちゃんに睨まれながら、俺は首を傾げた。

 

 

 

 というわけで、俺がニコちゃんに紹介したアルバイト先は千鶴の実家である二階堂精肉店だった。千鶴がアイドルを始めてお店に出る機会が少なくなり、その代わりに雇ったアルバイトの子も諸事情により辞めることになったので新しい子を探している……という話をおじさんから聞いていたのだ。

 

「……正直なことを言うと、アイドルが看板娘っていう話を聞いて勝手に喫茶店とか花屋とかを想像してたわ」

 

 まぁ確かにアイドルが看板娘の翠屋(きっさてん)渋谷生花店(おはなやさん)も知ってるけど、そっちはアルバイト募集してなかったんだよね。

 

「でもなんとなくだけど、ニコちゃんこっちの方が良かったでしょ」

 

「………………」

 

 ニコちゃんは無言で目線を逸らした。やっぱり自分でもお洒落な喫茶店のウェイトレスよりも精肉店の店員さんの方が性に合ってると分かっているらしい。

 

「いらっしゃい良太郎君。いやぁニコちゃん紹介してくれてありがとうね」

 

「どうもおじさん」

 

 別のお客さんの接客をしていたおじさんがこちらにやって来た。

 

「ニコちゃん、新しい看板娘も可愛いって商店街ですっかり有名だよ」

 

「千鶴とはまた別ベクトルで可愛いですからね」

 

「オイ今何処見ていった? ん? 私の目を見て言ってみなさい?」

 

 割烹着を見ただけだよ(すっとぼけ)

 

「それで、今日もいつもの大口注文でいいのかな?」

 

「はい、三十個ほどお願いします」

 

「毎度御贔屓にどうも。直ぐに準備するから待っててくれ」

 

 今回の注文も差し入れ用のコロッケである。

 

「………………」

 

「ん? なに?」

 

 店の奥へと入っていったおじさんの背中を見送っていると、何やらニコちゃんからの視線を感じた。

 

「アンタ、()()()()()()っていう名前だったのね」

 

「……うん、実はそうなんだよ」

 

 そういえばニコちゃんの前ではずっと『リョーさん』で通してあったっけ。その辺りの口止めをおじさんにするのをすっかり忘れていた。後でまたちょっとだけ話をしておいた方がいいかもしれない。

 

「あのトップアイドルと同じ名前とか、名前負けもいいところね」

 

「一応同い年だけど比べるのは勘弁してもらっていいかな」

 

 本当は比べるも何も同一人物なんだけどね!

 

「……ホント、アンタって不思議な生き物よね」

 

「せめて人間って言ってほしいなぁ」

 

「アイドルの知識があって、業界の裏側の事情にも詳しくて、あの二階堂千鶴の幼馴染で、それ以外にも色々とアイドルの知り合いが多くて……」

 

 確かにそうやって羅列されると『アイドル好きのリョーさん』は謎多き人物である。

 

「………………」

 

「……なに?」

 

 美少女にジッと見つめられるのはイヤじゃないけど、せめてもうちょっとだけ目元を柔らかい感じにしてくれるとお兄さん嬉しいんだけどなぁ。睨まれるのもそれはそれで悪くないけど。

 

「……あのさ」

 

「うん」

 

 

 

「……年内にデビューしてみせるわ」

 

 

 

「……え?」

 

 カウンターに肘を突いてそっぽを向いたニコちゃんがポツリと零したその言葉に、思わず驚きの声が漏れてしまった。

 

「デビューって……スクールアイドルだよね」

 

「……そうよ」

 

 一応確認してみるが返って来たのは肯定の言葉。

 

 どうやらニコちゃんもアイドルの道を歩く決意を決めたらしい。

 

「ソロ? それともユニット?」

 

「ユニット。……一応二人見つかったのよ」

 

「やったじゃないか! おめでとう!」

 

 思わず少しだけ声が大きくなってしまったが、()()の決断を喜ばないはずがなかった。

 

「曲は? 振り付けは? 衣装は?」

 

「何にも決まってないわよ悪かったわね!」

 

 いきなり色々と聞きすぎて怒られてしまった。

 

 まぁ何にせよ。

 

 

 

「頑張ってニコちゃん。デビューステージは是非呼んでね」

 

「ぜ~ったいに呼んでやんない!」

 

 そう言ってニコちゃんはベーッと舌ベロを突き出した。

 

 

 




・ルゥティン
「よろしゅーこー!」

・『自分はセンターじゃなかったのに』
じゃあなんで写真撮られたのかとかは、まぁ色々と大人の事情的なアレコレで勘弁してください(目逸らし)

・「おっとその反応はちょっと予想外だぞ?」
なにがもんだいですか?(すっとぼけ)

・ニコちゃん@二階堂精肉店アルバイト
実は最初は翠屋の予定だったけど、感想で言われて「確かに肉屋の方が似合ってるな!」ということでこうなった。すまんなニコちゃん。

・年内デビュー
がんばれニコちゃん!(ヒント:無印ラブライブ第五話)



 しっているか える アイてんのさくしゃは「最終的にはヤサシイセカイになるからそれまでは原作よりも闇が深くていいよね!」とか かんがえている

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