・シアターデイズ その4
「……てなわけで、これがその『北条加蓮ちゃんによってギャル風にコーディネートされた篠宮可憐ちゃん』の写真」
「ふ、ふおおおぉぉぉ!?」
スマホに表示させた画像を見せた途端、亜利沙ちゃんは目を見開き鼻の穴を大きく広げて奇声を発し始めた。まるで現役アイドルとは思えないような反応ではあるが、正直その反応は分からないでもないし、何だったらもうちょっとリアクションが大きくてもおかしくなかったかなとも思った。
「ななな、なんというお宝画像……! 可憐ちゃんの派手な服は、内気な自分の性格を変えたいという意思の表れだとは窺っていましたが、どこか上品さを感じるものばかりでした……! それが、それが……!」
プルプルと震えながら食い入るように画面を見つめる亜利沙ちゃん。そっとスマホを自分の手で持つように促してみると、彼女は震える手で恐る恐るそれを受け取った。多分王様から宝剣を賜る騎士だってもうちょっと恐れ多くないと思う。
「あぁ、なんという! 普段の可憐ちゃんの私服からは考えられないようなミニスカート! 生のおみ足が何ともまぁ眩しいこと! なんてことでしょう! シャツのボタンが二つも開けられてるじゃないですか! 胸元が! 胸元が! あぁなんてこと! なんてことを!」
「その画像、次にスライドしてみ? 北条加蓮ちゃんの手でギャルメイク施された篠宮可憐ちゃんの画像出てくるから」
「あー! いけません! そんな画像を見てしまった日には、私の目が! 私の命が! ダメです私にはまだまだアイドルちゃんたちの晴れ姿を見届けるという義務が! そう義務があるんです! 確かにギャル風になった可憐ちゃんの姿も見たいですが、ここで命を散らすわけには……!」
「はい画像どーん」
「ぴぎゃあああぁぁぁ!!! しゅごいいいいぃぃぃ!!!」
「……大変お見苦しい姿をお見せしました」
「大丈夫だよ」
顔を赤らめて恥ずかしがる亜利沙ちゃんの姿が可愛らしかったので、喉まで上がって来ていた「割と見慣れた醜態だし」という言葉をゴクリと飲み込みつつスマホを返してもらう。
ちなみにこの画像をさらに横にスライドし続けると、何故か可憐ちゃんに対抗しようとしてギャル風の格好をしたりんの自撮り画像が出てくるのだが、流石にそれは『周藤良太郎』としても『遊び人のリョーさん』としても見せるわけにはいかなかった。
「それにしても、わざわざありがとうございます、リョーさん。この画像をありさに見せるためだけに来ていただいて。この際、どのような経緯でリョーさんがこの画像を手に入れたのかなんてことは聞きません! めっちゃ気になりますけど! それはもうめっちゃ気になりますけど!」
だろうね。俺も何も知らなかったらめっちゃ気になってる。
「こちらこそ現役アイドルがわざわざ時間を割いてくれて光栄だよ」
「いやいやそんなそんな」
「いやいやいやなんのなんの」
765プロシアター劇場の裏で、二人の男女が「いやいやいや」と首を振り続ける異様な光景が繰り広げられていた。
「それに亜利沙ちゃんの近況とか聞きたかったしね。どう? 見る側じゃなくて見られる側のアイドルになって」
「……そう、ですね」
事務所の壁に背中を預けながら、亜利沙ちゃんは空を見上げた。
「……ありさがこれまで見てきたアイドルちゃんたちは、まだまだ氷山の一角だったということを思い知りました」
俺もなんとなくその隣で壁にもたれかかりながら空を見上げる。
「頭では理解していたつもりだったんです。アイドルちゃんたちはみんな、ファンからは見えないところで沢山努力をしてるって。ありさたちじゃ考えられないぐらい頑張ってるんだって。……でも、それは想像以上でした」
首を下げた亜利沙ちゃんは、苦笑しながら首を横に振った。
「だからこそ、もっとアイドルちゃんたちを応援したくなりました。そしてそんな
「……そっか」
「リョーさんは知ってたんですか? アイドルがこんなに大変なんだって」
「一応これでも、亜利沙ちゃんと知り合うずっと前からアイドルに携わる仕事をしてる身だからね。ステージに立つ彼ら彼女らをすぐ側でずっと見ていたから、痛いぐらいよく分かるよ」
「ならばもっとよく理解してみるのはいかがですか? リョーさん、結構カッコいいですから、アイドルとしてもやっていけますよ!」
「亜利沙ちゃんみたいな可愛い子にそんなこと言って貰えると、お世辞でも頑張ってみたくなっちゃうなぁ」
いっそのこと『リョーさん』としてもアイドルデビューしてしまおうか。
「そうだ! お返しと言ってはあれですが、ありさが劇場で撮影した765プロのアイドルちゃんのお宝画像の一部をお見せいたしましょう!」
「え、いいの?」
「はい! ありさはリョーさんのことを信じていますので!」
ニッコリととてもいい笑顔でとても嬉しいことを言い切ってくれる亜利沙ちゃん。確かに付き合いは長いけど、こんな胡散臭い男をそこまで信じてくれるなんて……あっ、ちょっと涙が……。
「ちょっとお待ちくださいね~……そうですねぇ、リョーさんほどのお方にお見せするとなると、それ相応のお宝画像を選らばなければ……」
流石にないとは思いつつも(水着の写真とかがいいなー)と少しの期待を胸に抱きつつ、亜利沙ちゃんが画像を選ぶのを待つ。
「……よし! これはどうでしょう! こいつはお宝ですよ! なんとあの朋花ちゃんがプリンを――!」
「亜利沙さ~ん」
「………………」
先ほどから近付いてきていたクリーム色の髪の少女が、亜利沙ちゃんの背後にニコニコとまるで聖母のような慈悲深い笑みを浮かべていた。
「私がプリンを……なんですか~?」
「……え、えっと……」
そんな少女のとても優しい声に亜利沙ちゃんはダラダラと凄い勢いで汗を流していた。大原部長に悪事を見つかった両さんのようである。
「亜利沙さんが一体どんな写真を撮ったのか、私も凄く気になりますね~」
「……い、いえいえ……と、朋花ちゃんにお見せするようなものでは~……」
「亜・利・沙・さん♪」
「すみませんでしたぁぁぁ!」
なんとかこの場を切り抜けようとしていた亜利沙ちゃんだったが、名前を呼ばれた途端に土下座しそうな勢いで深々と頭を下げた。
「うふふっ。次からはちゃ~んと、許可を取ってから撮影してくださいね~」
「イエスマム!」
一応大人として「隠し撮りはダメだよ」と注意する場面なのだろうが、俺も隠し撮りではないものの冬馬たちの着替えを撮影した上にその写真を凛ちゃんたちにあげるということをしている身なので口を噤む。
「貴方もダメですよ~? 軽々しくアイドルのプライベート写真を人に見せるなんて」
「いやはやご尤も」
メソメソと涙を流す亜利沙ちゃんにスマホから画像の消去を命じた少女は、俺に向かって人差し指を立てた。口調では「めっ」と優しく諭すような感じではあるものの、なんというか目ぢからが強く有無を言わせぬ迫力がある。
「申し訳ない。今後は自重するよ……朋花ちゃん」
「うふふっ。物分かりの良い子豚ちゃんは嫌いじゃないですよ~」
素直に謝ると、目ぢからを弱めた
(しかし『子豚ちゃん』か……)
朋花ちゃんは自分のファンのことをそう呼ぶんだっけ? ……そういえばハンガリーの『ドラゴン娘』も自分のファンのことを「子ブタ」呼びしてた気がする。アイツ、少しは他人のために歌うことを覚えただろうか。
「それで、貴方が噂の『遊び人のリョーさん』なるお人ですね~?」
「どういう噂が流れてるのかは分からないけど、劇場の子たちにはよく『遊び人のリョーさん』を名乗っているのは確かだよ」
「色々聞きますよ~? 優しいお兄さんだとか、アイドルに詳しい不審者だとか、よく女の子と一緒にいる不審者だとか」
三分の二が不審者認定である。いやまぁ基本的に自分の素性を話すことが無いし、話した時点で『リョーさん』ではなく『周藤良太郎』になってしまうため、結局のところ『遊び人のリョーさん』はよく分からない男という認識になってしまうのは仕方がないことだった。
「私もどんな人なのかな~と気になっていたところ、亜利沙さんと楽しそうにお話をされているところを見かけたので……こうやっていつでも110番出来るように準備してから話しかけさせていただきました~」
「朋花様、どうかその右手をゆっくりと下に降ろしていただきたい」
既に110のダイヤルが入力されており後は発信ボタンを押すだけとなった状態のスマホに右手の人差し指を近付ける朋花様に向かって腰を折る。警察関係者に知り合いが多いとはいえ、それとこれとは別問題である。
「どうしましょうか~……それでは、一つだけ聞かせてほしいことがあるのですけど~」
「何なりとお聞きください」
「……貴方は何者ですか?」
「………………」
「ただの遊び人ではないということは百も承知です。貴方の眼は『子豚ちゃん』たちや『天空騎士団』の皆様のそれとは違います」
……多分朋花ちゃんの親衛隊のことだろうけど、騎士団とはまた大層な。
「私たちアイドルのことを一番に考えていることも認めてあげましょう。……だからこそ、貴方が誰なのか分からない」
「……
どんな質問が飛んでくるのかと思いきや、これは予想外だった。なんというか「キャッチボールしよう」と言って投げられたボールをキャッチする直前にそれが砲丸だと気付いてしまった気分。気軽に受け取ったら肩が外れそう。
……まさか星梨花ちゃんと同い年の十五歳の女の子からこんな質問をされるとは、自他ともに認める『聖母』の眼は確かだったということか。
唐突に始まったシリアスな雰囲気に目を白黒させている亜利沙ちゃんを一瞥してから、俺は肩を竦めた。
「
「……なるほど、そういうことですか」
「……えっ。……え? と、朋花ちゃん、今ので分かったんですか?」
「はい、勿論ですよ~」
言いたいことが伝わったらしい朋花ちゃんが納得の表情を浮かべる一方で、先ほどから俺たちの会話を聞いているだけだった亜利沙ちゃんには当然のように伝わっていなかった。
「今の回答で満足してもらえた?」
「はい。でも怪しいことには変わりありませんから、気を付けてくださいね~」
それは反論の余地もない。
「ご忠告ありがとうね、朋花ちゃん」
「いえ~。それでは、私はこれで~」
ペコリと軽く会釈をして離れる朋花ちゃん。色々とこちらに気を遣ってくれた彼女のために、俺はその背中へ声をかけた。
「ありがとうね。今度朋花ちゃんが
「……っ」
朋花ちゃんの足が止まった。
「……亜~利~沙~さ~ん?」
「いやいやいや!? ありさじゃありませんよ!? なんでリョーさんがそれを!?」
どうやら先ほど亜利沙ちゃんが見せてくれようとしたお宝画像っていうのはそのことらしい。
「ゴメンね、朋花ちゃん。俺の知り合いは
つまりはそういうことである。
「………………」
ん? あっ、ちょっ、朋花ちゃん、そのスマホはなにを……!?
そんなのんびりとした
・ギャル可憐
各自想像で補いましょう。
・ギャルりん
各自想像で補いましょうpart2。
・大原部長に悪事を見つかった両さん
リョウさん同士のシンパシー。
・天空橋朋花
『アイドルマスターミリオンライブ』の登場キャラ。
聖母型カリスマ系な15歳。
中の人がマジでハイスペック美女なことで有名。……いやマジで。
・冬馬たちの着替えを撮影
Lesson155参照。
・ハンガリーの『ドラゴン娘』
多分親戚に裁縫の得意なイケおじがいる。
・「……貴方は何者ですか?」
同じく『カリスマ』持ちとして気付くことがあったらしい。
・「ご想像にお任せするよ」
訳:君の想像している通りだよ。
聖母朋花様回でした。作者の中では朋花様は高ランクカリスマ持ちのイメージだったためにこうなりました。
※なお草案の段階では346の時子様も初登場させる予定だったのですが、どう考えてもとっちらかりそうだったので没に。
というわけで、短編のような本編でした。色々と書けて楽しかったです。
次回からは普通の本編に戻ります。戻りますが……色々と大変なことになりそう。
『どうでもいい小話』
先日11/29を持ちましてアイ転は八周年を迎えることが出来ました。
今回は記念短編を用意できずに申し訳ありません。
ここまで長く週刊連載を続けていられるのは、ひとえに感想や評価で暖かい応援をしてくださる皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
アイドルマスターのコンテンツが続く限りアイ転を続けていく所存ですので、これからもどうかよろしくお願いします。