アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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深淵はまだ深く。


Lesson301 「やめたくないよ」 3

 

 

 

「やっほーちづたん! おっすおーっす! 元気元気ー? 最近どーよアガッてるー?」

 

『電話の相手を間違えてますわよ』

 

 有無を言わさずブツッと切られた。リダイヤル。

 

「悪い悪い、今までずっとお嬢様キャラを貫いてきたが故にギャルとは無縁の存在だった千鶴には理解しづらい言葉だったな」

 

『は? 意味分かんないし、それぐらいよゆーで分かるっての。舐めんなっつーの』

 

 マジで? ウケる。

 

「てかぶっちゃけどーよ? ほら、この前お願いした件? つーかしずっぴとニコっちの件?」

 

『っ……と、とーぜんっしょ! マジあーしにかかればラクショーよ! とりまニコっちからは話きーといてやったから……』

 

「……千鶴?」

 

『……ニコの話は聞いておきましたわ』

 

「いきなりどうした」

 

『……居間に入って来たお母様に……凄い目で見られて……』

 

「ウケる」

 

 というか自室じゃなくて居間で電話してたのか。それに関してはコチラにノッて来た千鶴にも非があるから、流石に俺だけの責任ではないと主張したい。

 

「ほら、俺も撮影現場で周りに人がいる状況だったから、お相子お相子」

 

『わたくしと貴方とではキャラが違うんですのよ……!?』

 

 お嬢様口調の精肉店の娘がなんかキャラとか言ってるよ。

 

「それで? ニコちゃんどうだった?」

 

 流石に落ち込んでない……とは考えづらい。アレだけスクールアイドルとしてデビューすることを楽しみにしていた子なのだから、それが苦い思い出になってしまったとなると結構凹んでいるのではないかと思う。

 

『……そう、ですわね』

 

 だから千鶴に様子を窺ってもらいたかったのだが、()()()()千鶴からの反応は芳しくなかった。

 

『正直に話すと、あまりよろしくはありませんわ。かなりショックが強かったようで、しばらくスクールアイドルとしての活動は見送りたいと……』

 

「……そっか」

 

 しかし、千鶴の言葉通りだったとしたら完全にスクールアイドルを辞めたわけではなさそうなので少しだけ安心した。

 

『……その、良太郎、ニコのことなのだけど……私……』

 

「大丈夫だよ千鶴。あとは俺がフォローに回るから」

 

『……え』

 

 元々は俺が自分で首を突っ込んだ話だ。ニコちゃんという一人の友人がアイドルとしての道を選んだのだから、俺はその行く末をしっかりと見守りたい。

 

 

 

「そういうのは全部、俺が背負うって決めたから」

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 良太郎との通話を終えて、私は力なく手元のスマホに視線を落したまま動けなかった。

 

「……全部……背負う……」

 

 そう言い切った良太郎の電話の向こうからは、現場の喧騒が少しだけ聞こえてきた。きっと忙しい中、ニコや静香のことが気になって電話をしてきたのだろう。

 

 トップアイドルとして多忙で、人に頼むぐらい動きに制限がされてしまっている状況にも関わらず、良太郎はニコと静香のことを気にしていた。普段から口にしている『アイドルの王様』として、自分のこと以上に周りのことを見ようとしていた。

 

 だからこそ、私は。

 

 

 

「……背負わせられるわけ、ないじゃない……!」

 

 

 

 全てを話すことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「無理……って……」

 

 ニコの口から語られたその言葉に、私は動揺してしまった。いや、そういった類いの言葉が出てくることは予想していた。しかし実際に聞くと心がざわつく。

 

「……諦めるには、早すぎるのではないかしら。ステージで失敗したアイドルなんていくらでも……」

 

「いえ、その……私、今回のステージ自体は失敗だって思ってないんです」

 

「えっ」

 

 思わず顔から血の気が引いた。

 

「ごごごごめんなさい!? 私、気軽に失敗だなんて言って……!?」

 

「あ、いや、こっちこそゴメンナサイ! そうじゃなくて、いやそうじゃなくないんですけど……!?」

 

 しばし両者アワアワと混乱。

 

「そ、それで……失敗だと思っていないのであれば、何故……?」

 

 それで何故アイドルを諦めるという言葉が出てきたのか、私には分からなかった。

 

「……涙声になってブレスの位置は無茶苦茶だったけど、それでも歌詞は間違えませんでした。涙で視界がちょっと悪かったからバミったところからちょっとだけズレちゃいましたけど、大きな振り付けミスもなかったと思ってます」

 

 ニコは自分のステージをそう自己評価した。自分のステージをそれだけ客観的に見ることが出来るなんて、そこらのアイドルでも簡単に出来ることではない。

 

「……でも、歌とダンスが終わって、全部終わって、私……ホッとしちゃったんです。ちゃんと出来たっていう安堵感じゃなくて……」

 

 

 

 ――あぁ、やっと()()()()()()()()()()()って。

 

 

 

「……ニコ……」

 

 ニコは、立ち止まってしまった。

 

「メンバー二人が『矢澤さんのノリについてけない』って、『こんなことにマジになんてなれない』って言って、直前に居なくなって、それでリョウタロウがアドバイスしてくれたから、一人でもステージに立って、頭グチャグチャでも歌って踊って、全部終わって、それで私は『ようやくステージから降りられる』って思っちゃったんです……!」

 

 段々と涙声になっていくニコの両肩に優しく手を添える。その小さな肩が、いつもは妹や弟のことを嬉しそうに話す姉としての大きな肩が、震えていた。

 

「『私は二人とは違う』って、『私は誰より本気だ』って自信満々にステージに立ったくせに、私自身がそのステージを()()()()()にしか思ってなかった……! リョウタロウが悔いを残さないようにって言ってくれたのに、私にはその悔いすら無かった……! 『舐めるんじゃない』とか偉そうなことを言って、私は、私は……!」

 

「ニコ、ちょっと落ち着いて……」

 

「結局私もおんなじだったんです……ステージの前に逃げたか後に逃げたかっていうだけの違いなんです……! ステージに上がる直前に『あんな奴ら』って思った私自身が『あんな奴ら』だったんです……!」

 

「落ち着きなさい、ニコ!」

 

 少しでもニコの震えが止まるように、ギュッと彼女の体を抱きしめる。商店街故に周りの視線が少々気になりもしたが、今はそんなことを考えている余裕はなかった。

 

「貴女の考えていることは分かりましたわ……それとアイドルを諦めることは違いますわ」

 

 きっとニコは裏切られたショックとステージから解放された安堵感で色々な感情がゴチャゴチャになっている。これはきっと彼女の本心なんかじゃない。

 

「今は何も考えずに落ち着きなさい。落ち着いてから、またゆっくりと考えればいいですわ」

 

「………………」

 

 腕の中のニコは無言のまま、コクリとも頷かなかった。

 

「……最後に一つだけ聞かせてくださいまし。こんな考えだからアイドルにふさわしくないとかそういうことを全て無視したとしたら……貴女は本当に、アイドルをやめたいって思っていますの?」

 

 少しだけ強引な私のその質問に、ニコはか細い声で答えてくれた。

 

 

 

「……やめたくないです……」

 

 

 

 ――でも、私じゃダメなんです。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 思わずため息を吐きながら、私は自分のベッドに倒れ込む。

 

 口でどうこう言いつつも、やっぱりニコは良太郎のことを信頼していたんだ。だからこそ良太郎のアドバイスに従い『悔いが残らないように』ステージに立ち、しかしその言葉の意味を『ただの義務感』で終わらせてしまったと、そう感じてしまった。

 

 だから今のニコの胸中にある思いは、きっと『罪悪感』だ。

 

「………………」

 

 きっとニコにそのつもりはなく、良太郎にだって非はない。けれどこれをこのまま伝えてしまっては……。

 

(良太郎はきっと……自分の責任だと思いますわね……)

 

 良太郎のアドバイスが間違っていたとは思わない。ステージに立つための最初の一歩というものは本当に大切なものだ。だから良太郎はそのきっかけとなるように、ニコへの『まずはステージに立つ』というアドバイスをしたのだろう。

 

 だが結果として、この言葉がニコに対する枷となってしまった。

 

 ……別に、アドバイスの言葉が裏目に出てしまうことなんて、ありふれたものだ。きっと同じアドバイスで上手くいく子だっているはずだ。しかし、たまたま今回のニコには当てはまらなかった。きっとそれだけの話。

 

 けれど、きっと良太郎がこれを知ったら……。

 

「………………」

 

 

 

 ――別に、俺に構う必要ねーよ。

 

 ――これは全部俺の問題だ。

 

 ――兄貴と自分を見比べて勝手に腐ってる俺自身の問題だ。

 

 ――だから千鶴。

 

 

 

 ――お前には関係ない。

 

 

 

(……あの良太郎が頼ってくれた。私を頼ってくれた)

 

 色んなものを一人で背負って、ずっと背負って、押し潰される直前になっても結局自分では何も言わなかった良太郎が、自分が抱えようとしていたことを私に任せてくれたんだ。

 

 私は、あんなに冷たい目の良太郎を二度と見たくない。

 

(……私が何とかしてみせる)

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「あら、どうしたんですか良太郎君、じっとスマホを見つめて」

 

「あ、いえ……」

 

 どうやらボーっとしていたらしい。現在収録中の歌番組の共演者である楓さんから指摘されて、ようやく俺は千鶴との通話を終えたスマホを鞄にしまった。

 

「あっ、もしかして、噂の恋人さんからのお電話でしたか?」

 

「違いますし、その噂の出所って楓さんでしょう……」

 

 キラキラと期待に目を輝かせる楓さん。相変わらずこのお姉さんは俺の恋愛事情に関して興味津々らしい。

 

「いつかちゃんと紹介してくださいね? あの周藤良太郎のハートを射止めた女の子が誰なのか、とても気になってるんですから」

 

「……まぁ、いつかはしますよ、紹介」

 

「はい! お願いしますね! 良太郎君にかかってるんですから!」

 

「……ん?」

 

 俺にかかってる……?

 

「……楓さん」

 

「はい、なんですか?」

 

 

 

「オッズは?」

 

「一番人気は当然……あ」

 

 

 

 やっぱり346のお姉様方で賭けてやがるな!?

 

「絶対にしばらく公表は差し控えます」

 

「えー私の『菊理媛(くくりひめ)』はお預けですかー?」

 

 賭けてるもんがガチだな!?

 

 

 




・「俺が背負うって決めたから」
バッドエンドルート進行中。

・ステージから降りられる
アニメではステージに立てなかったニコちゃん。
しかし、立てたからと言ってそれが良い結果に繋がるわけではなかった。

・冷たい目の良太郎
昔から今のような性格というわけではなかった。

・色んなものを一人で背負って
志保のときもニュージェネのときも、良太郎は基本的に一人で背負う。

・『菊理媛』
なんか五万円とかするらしい。



 千鶴は背負うと決めたものの、彼女はまだ一人残っていることを忘れている。

 深淵はすぐそこに迫っている。



『どうでもいい小話』

 本編重すぎてやってられない人向けの適当な話題()

 最近の作者がハマったもの↓



・遊戯王マスターデュエル

 時間足りねぇ!!



・その着せ替え人形は恋をする

 久しぶりに紙の漫画まとめ買いしたわ……。

 コレは神……アニメは間違いなく今季覇権……。
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