アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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シリアスを撃ち抜くおっぱいビンタ!()


Lesson308 周藤良太郎は救いたい 2

 

 

 

「それじゃありょーくん、心して聞いてね」

 

 夜も遅くなってきてそろそろ寝ようかとしていたタイミングだというのに、俺とりんの手元には先ほど淹れてきた暖かいお茶が入った湯呑が。なんかもうとにかく時間がかかる説明をする気がしたのでさっき淹れてきた。

 

「なんかもう既に色々な意味でドキドキしてるんだが……」

 

 わざわざりんがシリアスを禁止にしてまでも話そうとしている内容と、さらにそれを聞いてシリアスになってしまった場合に行われるおっぱいビンタ。その二つが気になりすぎる。一体俺は今から何を聞かされるんだ……!?

 

「それじゃあまず、矢澤ニコの話からするよ。えっと、千鶴から聞いた話だと……」

 

 

 

 

 

 

「……で、千鶴は良太郎が責任感を感じると思って、言い出せなかったんだって」

 

「………………」

 

「んで次は最上静香の話なんだけどー」

 

「チョットタンマ」

 

 他人事のようにあっけらかんと語るりんに待ったをかける。実際りんにとっては他人事なのだろうけど、もう少し、こう、何というか、手心というか……。

 

「りょーくんだって、さっきアタシが散々『やめてー』って言っても話すの止めてくれなかったじゃん」

 

 そう言って「お返しだよー」と舌ベロを突き出すりん。ちくしょう可愛らしい舌しやがって……。

 

 とりあえずお茶を飲んで一息つく。長話になって冷めるのではないかと考えていたが、りんが恐ろしく淡々と語るおかげで全くと言っていいほどお茶は冷めていなかった。まだ湯気すら立っていた。

 

(……ニコちゃん、そんな風に考えちゃったのか)

 

 仲間だと思っていた二人から本番直前になって梯子を外されるという裏切りを受けたニコちゃんは、それでも俺の言葉を信じてステージに立ってくれた。勇気の一歩を踏み出してステージに上がれば、そこでしか見えない景色があり、俺はニコちゃんに一目でいいからその景色を見てもらいたかった。

 

 けれど、俺の言葉を守ろうとしてくれたニコちゃんは、それに気を取られてしまい()()()()()()に目を向けることが出来なかった。立つことが目的ではなく、立つことで見えることが大事なのだと、ニコちゃんは気付くことが出来なかった。

 

(……やっぱりコレは俺のミスだ)

 

 曖昧な言葉にせず、しっかりと俺の口から伝えるべきだった。意図をくみ取ってくれると慢心した俺の責任だ。

 

「………………」

 

「りょーくん……」

 

 手元の湯呑に視線を落とす俺の肩に、りんが優しく手を置いた。

 

 

 

「ビンタいっとく?」

 

「いかないです」

 

 

 

 ヤメロヤメロ素振りするな。大乳を横に揺するな。傍から見ると大変素晴らしい光景なんだろうけど、それが顔面に襲い掛かってくる可能性がある自分には全く喜べない。

 

「これダメ!? これシリアス判定!?」

 

「なんかりょーくんが重い空気感を出したからダメ」

 

 重いのはりんのその胸だろう。パジャマ越しだというのにユサユサ揺れよってからに。

 

「そもそも重い空気というのがなんで分かったんだよ」

 

「それぐらい分かるよ。だってアタシ、ずっとりょーくんのこと見てきたから」

 

「りん……」

 

「表情が変わらないぐらいじゃ、アタシのりょーくんへの愛の妨げにはならないよ……なーんて」

 

 りんはそう言って微笑んだ。

 

 ……情けない話だ。こんなに素晴らしい女性がずっと昔から慕っていてくれていたことに、俺は気付けなかった。彼女からの魂の告白を受けてようやく、俺は『朝比奈りんは周藤良太郎を愛している』ということに気付くことが出来たのだ。

 

 そして彼女はこれから先の人生の苦楽を共にしてくれると誓ってくれて、現にこうして悩みを一人で抱え込みすぎないように……おっぱいビンタをしようとしているのだ。

 

(いややっぱりオカシイだろなんでおっぱいビンタなのさ)

 

 ダメだおっぱいビンタが気になりすぎてシリアスどころかしんみりした空気すら出せなくなってる。

 

 大丈夫か!? コレ本当に大丈夫か!? シリアスな場面で中途半端なギャグ時空をねじ込むと結構読者様からお叱りを受けることあるんだぞ!?

 

「そろそろ次の最上静香の話するね? もう日付も変わっちゃうし、サクサクいかないと睡眠時間がどんどん減っちゃう」

 

「やっぱり日を改めてゆっくりと聞くべきだったかなぁ……」

 

 意を決して話を聞くはずだったのに、話の内容とは別のところで心が折れそうになっていた。

 

 

 

 

 

 

「……で、父親との約束に従って、最上静香は来年アイドルを辞めるつもりなんだって」

 

「………………」

 

「そんで千鶴はりょーくんなら何とか出来るじゃないかって思って、こうしてりょーくんに話すことを決めたらしくてー」

 

「本当にチョットタンマ」

 

 他人事のようにあっけらかんと語るりんに再び待ったをかける。だから手心をって言ってるでしょ!?

 

「だから重いんだって……!?」

 

「いい感じだよりょーくん! そのシリアスになり切れない感じ、調子いいね!」

 

「喧しいわ!」

 

 以前にりっちゃんが『本当に時間がない子もいるの』と言っていたのは、どうやらコレのことを言っていたらしい。そしてそのときはりっちゃんも『アンタならあの子の問題を解決できるかもしれないから』って言っていたが……。

 

(……本当に、俺にどうにか出来る問題なのか……)

 

 紛れもない事実として、俺こと『周藤良太郎』はとても強い影響力を持っていると自負している。俺が気に入っていると公言した食べ物や飲み物がプチブームになることなんて日常茶飯事だし、それに対するお礼と称してその商品が企業から送られてくるなんてこともザラである。

 

 だから一言、俺が『最近、最上静香っていう子のことが気になっている』と公言した場合……どうなるかは想像に容易かった。

 

(でも、それで本当にいいのか?)

 

 それだけで本当に解決するのか? その方法で解決していい問題なのか?

 

 俺は静香ちゃんの父親のことを話でしか知らない。どのような男性で、どのような父親なのかを知らない。だから彼が静香ちゃんに課した『アイドルは中学生まで』という条件の真意が知る術がない。

 

 ……アイドルを守るためならば、俺は『アイドルの王様』として自分の影響力でもなんでも使ってみせるという覚悟がある。番組や企画とは別の場面でアイドルに対する『無茶で過度な要求』を無理矢理握り潰したことだって何度もある。

 

 けれどそこは『芸能界』だ。静香ちゃんの問題は()()()()()()

 

 これは静香ちゃんだけじゃなくてニコちゃんもそうだ。アイドルの問題ならばいくらでも干渉する。彼女たちが『輝きの向こう側』を見たいと望んでくれているのであれば、俺はいくらでもこちら側への道標となる。足元の小石を全て取り除くほどの過保護な真似はしないが、それでも彼女たちに降りかかる理不尽な悪意という名の硝煙弾雨から守り抜いてみせる。

 

 でもこれは、きっと()()()()()()()()()()だ。そこは『アイドルの王様』なんて肩書はなんの役にも立たない世界だ。

 

 アイドルじゃない周藤良太郎に、運命を変える力なんて……。

 

 

 

「おりゃあ!」

 

「ぶぼっ!?」

 

 

 

 ――それは、ズドンという強い衝撃だった。

 

 顔面に柔らかいのに重量がある塊が衝突して、そのまま俺の頭を後方へと撃ち抜いた。

 

 

 

 りんのとても素晴らしい大乳による、おっぱいビンタだった。

 

 

 

「りょーくん、アタシ散々シリアス禁止って言ったよね!?」

 

「……待って……大丈夫か……俺の首は、本当に大丈夫か……!?」

 

 プンスコとりんのお叱りの言葉が聞こえてくるがそれどころじゃない。あまりの衝撃の強さに自分の首がもげるイメージが脳裏を過ったほどだ。今でも自分の首が胴体と繋がっているかどうか自信がなかった。

 

 ……首がもげると言えば、昔飛頭蛮(ひとうばん)っていう妖怪になっちゃったパン屋のおじさんがいたっけなぁ。

 

「いってて……りん、確かに今のでネガティブな考えが吹き飛んだからありがたいと言えばありがたいんだけど、流石に今回のコレは無理だって……シリアスにならざるを得ないって……」

 

 千鶴に頼られたからには応えたい。頼ってきたのが千鶴以外だったとしても、きっと俺は同じことを考えた。

 

 ただ今回のコレは少々厄介すぎる。決してギャグ描写で解決が許されるような案件ではない。

 

 今回のコレは、二人のアイドルとしての生命の危機なのだ。

 

「だとしても、だよ」

 

 しかし、それでもりんは頑なに首を横に振った。

 

「アタシだって、話を聞いて可哀そうだと思ったし、なんとかしてあげられるならなんとかしてあげたいとも思った。でもアタシにとって、それは()()()()()()()()()()なんてことにはならないの」

 

 それは聞きようによっては、全てを無下にするような発言だった。

 

 ……でも、違う。

 

 

 

「だって、そうしないとりょーくんがりょーくん自身を大事にしてくれないから」

 

 ――本当に全てを無下にしているのは、俺自身だった。

 

 

 

「りょーくんがしたいこと、人助けでもなんでも、アタシも一緒だから。りょーくんがりょーくんを大事にしてくれない分、アタシがりょーくんを大事にする。りょーくんが必要以上に自分を追い込まないように、今みたいにぶん殴ってでも目を覚まさせる」

 

 りんは俺の目を覗き込みながら「アタシがIEの前夜に言ったこと、忘れてないよね?」と尋ねてきた。

 

「……忘れるわけないよ」

 

 それは熱烈な愛の告白。

 

 

 

 ――例え()()()()()()()()()殺してでもっ!

 

 ――アタシは()()()()()愛してみせるっ!

 

 

 

 そう怒鳴られて()()()()()()ことも。

 

 

 

 ――だから、お願い……!

 

 ――……死ぬなんて言わないでよぉ……!

 

 

 

 そう泣かれてしまったことも。

 

 

 

「……そうだったな」

 

 

 

 あの日、俺は【周藤良太郎】として生きると決めた。

 

 これ以上、俺を愛してくれる女性を泣かせないと決めた。

 

 

 

「ありがとう、りん」

 

「りょーくん……」

 

 りんの肩に手を置くと、涙目になっていた彼女はそっと目を瞑った。

 

 そのまま少し唇を突き出してくる彼女に、俺は――。

 

 

 

「よっしゃ! そんじゃ気分転換にアニメでも観るか!」

 

「……え、えええぇぇぇえええぇぇぇ!?」

 

 

 

 ――盛大に遺恨返しをするのだった。

 

「りょーくん流石にそれは酷いよ!?」

 

「シリアスはダメって言ったのはりんですー俺は悪くありませんー」

 

「もー! もー! いじめっこ! 本当にりょーくんいじめっこ!」

 

 再びボコスカとクッションで殴ってくるりんを宥めつつ、気分転換として本当にアニメを見始めるのだった。

 

 

 

「とりあえず目に入ったウマ娘だな」

 

「ふんだ! アタシは知らないもん!」

 

 

 

 結局二人して観た

 

 体力が30回復した。

 

 「夜更かし気味」になってしまった。

 

 

 




・「ビンタいっとく?」
シリアスインターセプト!

・『無茶で過度な要求』
寝具用品のイメージキャラクターかな?(すっとぼけ)

・俺の頭を後方へと撃ち抜いた。
おっぱいビンタとは名ばかりのヘビィ級右ストレート。

・飛頭蛮
東方でいうところのばんきっき。
ぬ~べ~だと一般人のおじさんが先祖返りして首が(文字通り)飛んでった。

・熱烈な愛の告白
王子様の目を覚まさせるのは、いつだってお姫様の渾身の愛の拳。

・「夜更かし気味」になってしまった。
最近は修正入ってかからなくなったなぁ。



 シリアスとギャグの温度差でメドローアになりそう()

 とりあえずこれでようやく良太郎も、現状発生している問題を把握しました。次回からは解決策を探していくパートになっていきます。

 そんで最後が何か最終回チックなアレが見え隠れしましたが、別に大したことないんで今は気にしないで()
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