アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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良太郎はちょっと真面目に考える。


Lesson309 周藤良太郎は救いたい 3

 

 

 

「うーっす……」

 

「おはよーリョータロー君……って、なんか眠そーだね?」

 

「これはまた、随分とお疲れみたいだね」

 

 

 

「あぁ……ちょっと朝方近くまでりんとうまぴょいしてて」

 

「ぶふぅっ!?」

 

 

 

 朝、新年ライブのための打ち合わせをするために123プロの事務所へとやって来たら、何故かいきなり冬馬が盛大にコーヒーを吹き出した。

 

 幸い誰かに悲劇が降りかかることは無かったものの、突然の冬馬の奇行に全員の視線が集まる。

 

「ちょっ、いきなりどーしたんですか冬馬さん!? 大丈夫ですか!?」

 

「汚いですねぇ。ちゃんと自分で拭いてくださいよぉ」

 

 慌てて心配する恵美ちゃんに対し冷ややかな視線のまゆちゃん。相変わらず冬馬に対しては辛口なまゆちゃんである。

 

「良太郎……何言ってんだお前……」

 

「やっぱり二期ラストのうまぴょい伝説は笑いながら涙が出るよな……」

 

「……ちくしょう本当にそのままの意味かよ……それには同意せざるをえねぇ……」

 

 しんみりした空気を吹き飛ばすエンディングテーマに、ガッツリとハマってしまいマックイーンとテイオーのやり取りにグシュグシュと泣き腫らしていたりんも「もーなにこの変な曲ー!」と文句を言いながら楽しそうに「うまぴょいうまぴょい!」と口ずさんでいた。

 

「要するに、りんさんと一緒に朝までアニメ見てたってことね」

 

「仲良しでなによりだけど、目元だけはなんとかしようね」

 

「了解でーす」

 

 北斗さんからも注意されてしまったので、打ち合わせの時間までに目元の隈を隠すためにファンデーションを荷物から取り出した。アイドルの嗜みとして、これぐらいの簡単なメイクは一人で出来る。

 

「あっ、良太郎さぁん、よろしければまゆがお手伝いしますよぉ」

 

「ん……それじゃあお願いしようかな」

 

「はぁい、まゆにお任せあれぇ!」

 

 しかし事務所に備え付けてある卓上鏡を使ってメイクをしようとすると、まゆちゃんが手を挙げてくれた。わざわざ他の人の手を煩わせることもないと思ったが、後輩が手伝いを名乗り出てくれたのにそれを無下にしたくなかったので、折角だから手伝ってもらうことにする。

 

「それじゃあ、失礼します……はっ!?」

 

「ん? どーしたのまゆちゃん」

 

 俺の正面に座ったまゆちゃんが、俺の顔を見るなり急に口を手で覆った。まさか自分では気づけなかった何かが、俺の顔に付いている……?

 

「か、顔がいい……!」

 

「アッハイ」

 

 そんな茶番を挟みつつ、メイクをしてくれるまゆちゃんの己の顔面を委ねる。

 

「……ねぇまゆちゃん、一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

「一つどころかいくらでもどうぞぉ。まゆのスリーサイズですかぁ?」

 

「興味はあるけど今はいいかな……」

 

 事務所の方針としてスリーサイズは公表しているため、それは調べようと思えば調べられることであるというのは余談である。

 

「まゆちゃんが『アイドルになる』って言ったとき、両親はどんな反応をしたのかなって思って」

 

「え? そうですねぇ……」

 

 手を止めたまゆちゃんは「うーん……」と右斜め上に視線を向けた。

 

「……元々私が『周藤良太郎』に憧れてアイドルを目指していたことを知っていたので、快く送り出してくれましたよ」

 

「反対とかはされなかったんだ」

 

「はい。……はい、出来ましたよぉ」

 

「おぉ、ありがとう」

 

 目元だけの簡単なものだったとはいえ、喋りながらでもまゆちゃんのメイクはしっかりと出来ていた。流石である。

 

「それにしても、急にどうしたんですかぁ?」

 

「うん、まぁちょっとね」

 

 ちょっとというか、勿論静香ちゃん関連のことなんだけど。

 

 

 

 りんからシリアス禁止を言い渡され、物事を重く考えようとすると首の痛みを思い出してしまうのでシリアスにはなりきれないが、それでも少しぐらい真面目に考える。

 

 昨晩りんから聞かされた静香ちゃんが抱える問題。家庭の事情という中々介入しづらい部分に存在するそれを解決するために必要なことは、何をおいても『最上静香の父親が一体どんな考えを持っているのか』という点である。

 

 ならば『実際に会って話をする』のが手っ取り早いのだが……流石にそれは最終手段。もう少し別の方向からのアプローチを考えるべきだろう。俺まで静香ちゃんのように『時間がない』と焦るわけにもいかない。

 

(そもそも、今必要なことはそこじゃないんだよ)

 

 確かに静香ちゃんの将来のアイドルとしての人生がかかっていることではあるのだが、今一番問題として考えなければいけないことは『静香ちゃんが自分の夢を叶えることに固執しすぎて、未来ちゃんや周りのことが見えなくなっている』ことだ。

 

 静香ちゃんが参加している『ゴールデンエイジ』はオーディション番組であり、明確な順位付けをするものだ。そこで勝つことに固執するあまり、視野狭窄になってしまうアイドルはいくらでも目にしてきた。

 

 一昔前の冬馬がいい例だ。今でこそ大分丸くなったものの、デビューしたての頃のこいつはそれはもうギラギラに尖りきっていたものだ。

 

 

 

「……ったく、朝っぱらから雑巾がけする羽目になるとは……」

 

「いきなりコーヒーを吹き出す冬馬君の自業自得でしょ?」

 

「冬馬、ついでだからそっちも拭いておいてくれないかい?」

 

「はぁ!?」

 

 

 

 ……自分で汚した床をせっせと雑巾で拭いている姿から到底想像出来そうもないが、事実である。

 

 その生き方自体を否定するつもりはない。しかし、それは自分の隣を歩いてくれる人を切り捨てる生き方だ。そんな生き方を、俺は彼女にして欲しくない。

 

(でも、静香ちゃんは、自分を引き止める未来ちゃんの手を振り払ってしまった)

 

 それほどまでに静香ちゃんの意志は強いのだろう。既に彼女は()で動かない。

 

 ……そうか。

 

 

 

「情で動かないなら……」

 

 

 

「へ? どうしましたか?」

 

「あ、ううん、なんでもないよ、まゆちゃん」

 

 隈隠しに協力してくれたまゆちゃんに「ありがとう」とお礼を言うと、彼女は「どういたしましてぇ」とふにゃりと笑った。

 

「よし、みんな揃ってるなー?」

 

 ガチャリとミーティングルームのドアが開いて兄貴が入って来た。その後ろからは留美さんや美優さんといったまだこの部屋にいなかったメンバーもおり、これでようやく123プロの全員が揃った。

 

「それじゃあ打ち合わせを始めていくぞ。新年ライブまで時間も短い。みんな、朝早いが気合いを入れてくれ」

 

「任せろ、気合いを入れるのは得意だ」

 

「お前は二段階ぐらい気合いを抜け」

 

 逆に難しくないか、それ。

 

「……あー良太郎、忘れる前に言っておくことがある」

 

「ん?」

 

()()()()()()()()()、今度こそ一言言え」

 

「……へ?」

 

 突然の兄貴の言葉に周りのみんなは一体何を言い出したのかと困惑しているが、言われた俺も困惑している。いや確かに少々思い付いたことがあるから動く気ではあったけど、なんで兄貴はそれに気付いたんだ……?

 

 その疑問は、次の兄貴の言葉で解決した。

 

「あらかじめ俺へ許可を取りに来たりんちゃんに、後でお礼を言っておけよ」

 

「……分かった」

 

 あぁもう、本当に敵わないな、りんには。

 

 

 

 

 

 

「……そうか、周藤良太郎君にこの話をしたのか」

 

「悪いとは思っていますが、わたくしは謝りませんわ。これが静香と未来にとっての最善だと判断しましたから」

 

「いや……俺もそう思う」

 

 朝比奈りんに全てを話した翌朝、私は劇場でそのことをプロデューサーに全て打ち明けた。ある意味で事務所の恥部とも言えるような出来事ではあるが、それを外部の人間に話したと知ったプロデューサーは寧ろホッとした表情を浮かべた。

 

「俺がなんとかしなきゃいけない問題だって言うのに、周藤君が関わってくれると知って少しだけホッとしてしまった……プロデューサー失格だな」

 

「それを言うのであれば、全てを丸投げにしようとしたわたくしの方の責任ですわ」

 

 良太郎ならばきっと。まるで子どもがヒーローに全てを託すかのように、私は良太郎へと問題を投げ出してしまった。

 

「だけど『それじゃあ後は任せておけば一件落着』などと、考えるわけありませんわよね?」

 

「勿論だ。静香も未来も、ウチの劇場の大事なアイドルだ。ファンを笑顔にするアイドルの笑顔を守るのが俺の仕事だ」

 

 プロデューサーはハッキリとそう言い切った。

 

「ですが、実際どうすればいいのかしら」

 

 静香と彼女の父親との約束の件ではなく、今は静香と未来の二人のことを考える。

 

「静香は『武道館でライブがしたい』。未来は『静香と一緒にライブがしたい』」

 

「静香も本心では未来とのライブを望んでいるはずなんだけどな……」

 

 そもそも静香も今回のライブが終わったらすぐにアイドルを辞めるわけではない。だから後日改めて二人のステージを用意することは不可能ではないはずなのだ。

 

 しかし、今こうして二人が仲違いしている状況ではその関係の修復が間に合わなくなるのではないかと考えてしまう。

 

 だからせめて、二人が納得する形で今回のライブに臨むことが出来ればいいのだけど……。

 

 するとそのとき、私のスマホがメッセージの着信を告げた。

 

「……良太郎?」

 

 画面に表示されたメッセージの送り相手は良太郎。

 

 まさか一晩で解決策が……!? という淡い期待と共にメッセージアプリを起動する。

 

『突然悪いんだけど、劇場のプロデューサーさんの連絡先教えてくれないか?』

 

「良太郎君、なんて?」

 

「……貴方の連絡先を知りたがってますわ」

 

「え? 俺の? なんで?」

 

「それは分かりかねますが……」

 

 二人揃って首を傾げつつ、とりあえずメッセージを返す。

 

『プロデューサーなら今私の隣にいますわよ』

 

 その返信に既読マークが付いたかと思うと、即座に良太郎から電話がかかって来た。

 

「はい、おはようございますわ」

 

『おはようちづたん。突然悪いな』

 

 悪いと思うのであればその呼び方を止めなさい。思わず通話を終了しそうになったじゃありませんの。

 

「……いきなり電話をかけてきたってことは」

 

『あぁ。ちょっとプロデューサーさんと話をさせてもらいたくてな』

 

 そうだろうなと思いつつ、通話をスピーカーモードにする。

 

「おはよう良太郎君」

 

『あっ、おはようございます。ウチの千鶴がいつもお世話に……』

 

「そういうのいいですからさっさと用件を言いなさいな」

 

『だってシリアスになりすぎるとおっぱいビンタが……』

 

「「おっぱいビンタ!?」」

 

 突然訳の分からない単語が飛び出してきてプロデューサーと二人で驚愕する。

 

『朝早いですし、早速用件から入りますね』

 

「なら謎の単語で混乱を招くのはやめていただけないかしら……!?」

 

 しかしこうして朝早くから電話をかけてきたということは、きっと何か思い付いたことがあるということなのだろう。

 

 そう考えて、プロデューサーと二人で真面目に聞く姿勢を整えて――。

 

 

 

『プロデューサーさん、ウマ娘のアニメって観たことあります?』

 

「「……は?」」

 

 

 

 ――結局、良太郎が何を言いたいのか分からずに再び二人で首を傾げる羽目になった。

 

 

 




・「りんとうまぴょいしてて」
・二期ラストのうまぴょい伝説
あれがいいんだよ……。

・『だってシリアスになりすぎるとおっぱいビンタが……』
若干トラウマになっている模様。

・『ウマ娘のアニメって観たことあります?』
どうした急に。



 シリアスにならない真面目な話。なんかめぐまゆコンビ登場させたの凄い久しぶりなような気がする……。

 多くは語らず、次回へ。
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