アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ミリマス編、最終局面開始!


Lesson311 てづくりのぶどーかん

 

 

 

「良太郎さん! クリスマスですよっ! クリスマスっ!」

 

「どうした急に」

 

 

 

 たまたまテレビ局の廊下で一緒になり隣を歩いていた春香ちゃんが突然叫び出した。

 

「いや、よくよく考えてみたら私、この定型文を一度も使ったことなかったなって思いまして……」

 

「春香、一度も使ったことがないのに定型文っていうのはおかしくないかしら?」

 

 さらにその春香ちゃんの隣を歩く千早ちゃんの疑問も尤もであるが、春香ちゃんの言いたいこともなんとなく分かるような気がした。

 

「確かにね。『こんな設定あったなぁ』とか『こんな設定を作っておけば良かったなぁ』って後悔することはよくあることだよ。かくいう俺も『そういえば先生とか師匠ポジションのキャラを作っておけばよかったなぁ』という後悔の電波を受信することが何度も……」

 

「その話、長くなります?」

 

 

 

 さて、そんなわけで十二月二十四日。持つ者と持たざる者、リア充と非リア充、勝者と敗者の様々な思惑が渦巻くクリスマス、別名『悪夢の聖夜ナイト○アービフォアクリスマス』。実に三年(ななねん)も前に使ったフレーズである。よく覚えてたな俺。

 

 しかしこのフレーズを口にした当時はまだ愛を知らぬ若造だったが、今では最愛の女性が存在する勝者だ。今年のクリスマスは、長年夢見た恋人と二人きりの夜を楽しむことにしよう。

 

 ……そう考えていた時期が俺にもありました。

 

「アイドルにクリスマスなんてあってないようなもんなんだよなぁ……」

 

 思わずため息交じりに漏れ出てしまった俺の言葉に、春香ちゃんは苦笑と共に同意してくれた。

 

「そうですね。私たちも昔はみんなでケーキを持ち寄って事務所に寄ってクリスマスパーティーをしたこともありましたけど、今ではみんな忙しくてそれも出来なくなっちゃいました」

 

「別日に時間を合わせることはあるけど、それでも誰かしらの不参加者は出ちゃうものね」

 

 俺が初めて顔を出した頃はまだまだ駆け出しだった765プロであるが、今ではすっかり人気芸能事務所の代表格である。

 

「それにしても、そうですよね、良太郎さん、今年はりんさんが……」

 

 ポンッと手を叩く春香ちゃん。

 

「現金だとは思うけど、それでも結果的に今まで無視し続けちゃったわけだから、少しでも報いたいんだよ」

 

 我ながら酷い話である。りんは初めて出会った頃からずっと俺のことを想っていてくれていたというのに、俺はそれに一切気付くことが出来ず、彼女の想いを無下にし続けてしまったのだ。

 

 大勢のファンが待つステージと、恋人。その二つを天秤にかけるなんてことをするつもりはないが、それでもそう考えてしまうことは仕方のないことだった。

 

「でも良太郎さんが仕事をお休みしても、りんさんにもお仕事がありますよね?」

 

「そうなんだけどさぁ!」

 

 今はそういうことを言ってるんじゃないの千早ちゃん! 毎回言ってるけど、千早ちゃんは本当に愉快な方向に成長しちゃったなぁ!

 

 そういう理由でクリスマスイブの恋人との逢瀬はお互いの仕事が終わる深夜までお預け。りんが魔王エンジェルとしてイブライブをしている一方、俺は春香ちゃんや千早ちゃんと一緒にイブの特番に出演するのであった。

 

「そういえば律子さんから聞きましたよ。明日の()()、良太郎さんが企画したんですよね?」

 

 まだリハーサルまで時間があるので、休憩がてらちょっとだけのんびり廊下を歩いていたら春香ちゃんがそんな話題を切り出した。

 

「律子さん怒ってましたよ。『こんな年末の忙しいときに余計な仕事を増やすんじゃないわよあのバカ!』って」

 

 ん~? 劇場のプロデューサーさんの話だと、りっちゃんが一番張り切って準備を手伝ってくれたって聞いたんだけどな~? 擬態型(ツンデレ)か~?

 

「でもなんで急にこんな大掛かりな企画を?」

 

「年が明けて落ち着いてからでも良かったのでは?」

 

 二人の疑問も尤もである。

 

 千鶴とプロデューサーさんに提案した日から一ヶ月どころか二週間も経っていない。本来ならばもっと時間をかけて内容を詰めていくところだったが、今回の企画はあくまでも『手段』なのだ。()()()()()()()()三人の少女の笑顔を取り戻そうとする、最低最悪の王様の我儘なのだ。

 

「俺にも色々と考えがあるんだよ、こう見えても」

 

「でもこんな大掛かりなことを黙って進めて、またお兄さんに怒られたんじゃないですか?」

 

「ダメですよ、良太郎さん! こういうことはしっかりと身内と相談してから始めないと!」

 

 どうやら千早ちゃんと春香ちゃんの中では、今回のイベントも俺の独断で行ったことになっているらしい。

 

「えっ……!? しっかりとお兄さんへ事前に説明をしてから……ですか……!?」

 

「そ、そんな……!? 良太郎さんが……!?」

 

 そして兄貴の了承を得ていることを説明したらこのリアクションである。なんてことだ。

 

「なんか、俺イコール突拍子もなく色んなことをするみたいなイメージがこべり付いてしまっているような気がする」

 

 不服の言葉を漏らす俺に対し、苦笑いを浮かべる春香ちゃんとスンッとそっぽを向く千早ちゃん。お世辞でもいいから「そんなことないですよ」と言いたまえ君たち。

 

「でも結局()()()()()()()()わけですから、サプライズには変わりないじゃないですか」

 

「そうじゃないと意味ないからね。いい意味でも悪い意味でも、これは『罠』みたいなものだから」

 

「「罠?」」

 

 春香ちゃんと千早ちゃんが揃って首を傾げる。

 

 『サプライズ』というのは殆ど『ドッキリ』と同義であり、それは『罠』と同じなのだ。

 

「明日は俺も仕事で自由に動けない。だから自分が動かなくてもいいように罠を張った」

 

 二人の少女の願いを叶え、一人の少女を罠にかける。

 

 今頃、千鶴がその罠に一人の少女を誘い出してくれていることだろう。

 

「「?」」

 

 やっぱり俺が何を言いたいのか分からなかったらしく、二人は再び首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

「ニコ、突然ですが明日のご予定を聞いてもいいかしら?」

 

「明日……ですか?」

 

 その日、ウチでバイトをしている時間を狙って早めに帰宅した私は、エプロンを身に着けたままのニコにそんな質問を投げかけた。

 

「妹たちに『クリスマスケーキが食べたい!』とせがまれましたので、明日の昼間は一緒にケーキ作りをして、夜にママ……母が帰って来てから一緒に小さなクリスマスパーティーですね」

 

 ニコから返って来た答えは、概ねこちらが想像していたようなものだった。

 

 あまり深くは聞いていないものの、ニコの家は母子家庭。まだ小さな妹や弟のためにニコが家事をしていることは知っているし、家族仲がとても良いことも知っていた。故にニコが料理を作って、家族でクリスマスパーティーをすることも予想できた。

 

「そう。もし時間があったらでいいのだけど、妹さんたちを連れて商店街に来てはいかがかしら?」

 

「何かあるんですか?」

 

「……ここだけの話ですわ」

 

 少しだけ周りを気にするフリをしてから声を潜める。実際、余りニコ以外に聞かれると面倒になることなので、殆どフリではないのだけれど。

 

「ちょっとしたサプライズステージがありますの」

 

「えっ」

 

 私の言葉に目を見開いて驚くニコ。二階堂千鶴(わたくし)がそれを口にしたことで、きっと彼女の脳裏には()()()()()()が過ったことだろう。

 

「だ、誰が来るんですか……!?」

 

「それは教えられませんわ。サプライズステージですし。そもそもわたくしも詳細は聞いていませんわ」

 

 わざとらしくすっとぼけると、ニコは分かりやすく眉をひそめて「ぐぬぬ……」と唸った。

 

 元々ニコは、明日行われるクリスマスの定例ライブを金銭面を理由にして断念した。そんなタイミングで聞いてしまったサプライズステージ。ニコほどではないにしろ妹たちもアイドルが好きだというので、間違いなく彼女は来るだろう。

 

(……まるで罠に嵌めているようで、心が痛いですわ……)

 

 彼女に対して害をなそうとしているわけではない。良太郎が企画した今回のコレは、静香のためであり、未来のためであり、そしてニコのためでもあるのだ。

 

 しかしそれが本当に『ニコを救える』かどうか、私はまだ自信がない。もしかしたら逆効果ではという不安もある。

 

 けれど良太郎は、これで『ニコに大切なことを思い出してもらう』と言っていた。

 

(……わたくしは、良太郎を信じますわ)

 

 まるで何も思いつかなかった私ではなく、りんと共に全てを背負うと決意した良太郎を信じよう。

 

「それで、いかがですの?」

 

「……多分妹たちも来たがると思いますので」

 

 どうやら来てくれるようだ。自分の役目を真っ当出来たことに内心でホッと胸を撫で下ろす。

 

「……千鶴さん、もしかしてりょーさんから何か言われました?」

 

「っ!?」

 

 しかしニコが発したそんな言葉に撫で下ろした胸がドキリと大きく跳ね上がった。

 

「どどどどうしましたの急に!?」

 

 そんな状態で無理やり声を出したのが間違いだった。どれだけ鈍感な人でも動揺していることが分かるような反応になってしまった。

 

「……なんとなく、そんな気がしたんです。アイツ、実はアイドルの業界でそれなりに凄い奴なんですよね?」

 

「……えぇ、そうですわ」

 

 随分と察しの良い子だ。しかしこの口ぶりから察するに、どうやら流石に『周藤良太郎』にまでは結びつけることが出来ていないらしい。……尤も、よっぽどのことがない限りは『アイドル好きのりょーさん』と『周藤良太郎』を結びつけることは出来ないだろうが。

 

「アイツが何を考えているのか分かりませんが……それでも、私のことを心配してくれていることだけは、なんとなく分かりました」

 

「……えぇ。いつもの態度で分かりづらいでしょうけど、凄く心配していましたわ」

 

 良太郎は、そういう奴なのだ。

 

 

 

「そうですね。つい先日SNSで『おっぱいビンタ怖い』なんて呟いてましたけど、一応心配してくれているんですよね」

 

 本当に何やってんだアイツ。擁護した私まで巻き込まれ事故みたいになってしまったじゃないか。

 

 自分の役目を果たせたものの、それとは別にまた一つ良太郎を殴る理由が出来てしまった。

 

 

 

 明日は、クリスマスだ。

 

 

 




・「良太郎さん! クリスマスですよっ! クリスマスっ!」
確か掲示板回でしか使ってなかったと思う……。

・『悪夢の聖夜ナイト○アービフォアクリスマス』
あの千早の事件があった辺りのお話。

・そう考えていた時期が俺にもありました。
ボクシングに蹴り技はありまぁす!

・擬態型か~?
あのダークな世界観すこ。



 本編に戻って来まして、ついにミリマス編の佳境を迎えます。とはいえ作者のペースだとまだまだ当分続きますので、お付き合いしていただけたら幸いです!
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