それは、あり得るかもしれない可能性の話。
さて、何故か俺の知らないところでアンチクショウが実装されていたなんていうハプニングはあったものの、無事にこのゲームは正式にリリースされることとなった。
正式名称『
『現実のアイドルを育てて対戦させる』という一風変わったこのゲームは、しかし第三次アイドルブームという追い風を一身に受け止めて快調な滑り出しを見せた。
リリース当初から『周藤良太郎』や『魔王エンジェル』といったトップアイドルの面々が登場することで、世間からは「どうせ良太郎環境でしょ」とか「123と1054以外いる?」みたいな冷ややかな声も多かった。しかし三竦みの相性やユニット編成に必要なコストの関係で『周藤良太郎』一辺倒な環境を回避することに成功した。
少々専門的な話を交えつつ説明すると。
ユニットメンバー全員の『ダンス』ステータス値の合計が高いほど攻撃力が上がる『【Rebellion】我那覇響』の横に高ダンス値の菊地真と舞浜歩の二人を並べる765ダンスパ。
そんな相手のユニットスキルが発動することで持久力が跳ね上がるパッシブスキルを持つ『【尊み限界突破】松田亜利沙』と、彼女と同じ効果の『【現場参戦!】渡辺みのり』、自身が強制退場する代わりに相手一人に永続的なデバフをかけることが出来るアクティブスキルを持つ『【ぼくの勝ちw】夢見りあむ』の三人によるユニットメタビパ。
『魔王エンジェル』のメンバーが一人倒れると発動する『第二の魔王』、二人倒れると発動する『第三の魔王』というパッシブスキルで最後の一人を超強化して全抜きを狙う『魔王エンジェル』統一パ。
そして高コストゆえに他のアイドルとユニットを組むことが出来ないが、ありとあらゆる相手ユニットスキルを無効にして一人一人との純粋な殴り合いに持ち込む『【ただ一人の覇】周藤良太郎』による周藤良太郎単騎パ。
以上の四つが現在のレート戦におけるtier1のユニットである。とはいえtier2以下と比べてもさほど大差がないため、ソーシャルゲームとしてはかなり良環境の部類と言ってもいいだろう。
この辺りのバランス調整が完璧だった制作陣に拍手を送りたい。……まぁコストとか能力値とか、その辺りに関しては俺たちアイドル業界側も結構関わって細かく調整したんだけど。
そしてそんな対戦ゲーム要素とは別に一番注目されているのが、純粋に俺たちアイドルをキャラクターとしてそろえることが出来る点であり、全キャラクターフルボイスの上に凸が進むことで
そんな感じで、世間では空前の『アイマス』ブーム真っ只中である。
「………………」
俺の控室に遊びに来たりあむちゃんが自分のスマホの画面を見つつ頬を引き攣らせる。そんな彼女の表情を横目に見つつ、俺はズズッと緑茶を啜ってからスマホをタップした。
「はい、楓さんのバフを受けた千早ちゃんで攻撃」
俺のスマホの対戦画面に『WIN!』の文字が燦然と輝く。
「対戦ありがとうございましたっと」
「……な、納得がいかあああぁぁぁん!?」
勝敗が決したというのに何故かりあむちゃんは異議を申し立ててきた。
「納得しようがしまいがりあむちゃん負けには変わらないぞ」
「なんでリョーさんの癖に『ド級艦隊パ』じゃないんだよぉ!? 折角それ専用のメタ組んできたっていうのにぃ!?」
「メタを外した責任を対戦相手に求めるんじゃない」
言いがかりも甚だしい。
ちなみにりあむちゃんが言っているド級艦隊パというのは
そんな隠しパラメータを持つアイドルに対して、りあむちゃんのユニットにも組まれていた『【深山幽谷の化身】棟方愛海』が特攻スキルを持っているのだが、生憎彼女はそれ以外の役割が薄い。完全なメタキャラゆえに、メタ対象以外のキャラには滅法弱い。
「まさか『【翠の歌姫】高垣楓』と『【蒼の歌姫】如月千早』によるガチガチのボーカル編成だったなんて……」
「普段から楓さんのファンを公言してるんだから、これぐらい予想出来たでしょ」
「『高垣楓のファン』よりも『おっぱい星人』としての認知が強すぎるんだよなぁ!?」
こら、女の子がおっぱい星人なんて言っちゃいけません。
「それはさておきりあむちゃんや、この対戦が始まる前に言った言葉を覚えているか?」
「っ!? な、なんのことかな~?」
俺からの問いかけに、りあむちゃんは視線を逸らして口笛を吹くなんていうベタなことで誤魔化そうとした。
「安心しなさい、忘れてても大丈夫。その場合は今から『某事務所の某ピンク頭が楽屋に突撃してきた』ってSNSで呟くから」
「何故かすぐにぼくだって特定されて燃えるやつじゃん! そして何故かリョーさんだけ燃えないやつじゃん!」
元々そちらから『負けた方が言うことを聞く』っていうルールを持ち掛けてきたんだから、ノーリスクでリターンを得ようなんて甘い考えは許しません。
「というか逆に君は俺に何をさせるつもりだったんだよ」
「……ちょっとバズりたくて」
「バズらせてあげるからホラこっちおいで」
「やめてカメラ起動しないでインカメにしないで肩を組んで撮影しようとしないでえええぇぇぇ!?」
普通嫌がるの逆じゃねぇかな。
「い、いや~それにしてもアイマス流行ったね~」
「正直俺もここまでとは思ってなかった」
SNSでアイマスを検索してみると、そこにはお気に入りのアイドルを完凸出来た喜びの報告や対戦相手を求める声やガチャの相談など、今日も様々な人がアイマスを楽しんでいる様子が確認できた。
――うおおおついに【ステキハピネス】天海春香完凸だあああ!
――新しく【はにかみdays】島村卯月軸のCUTEパ組んだから試運転相手求ム。
――ぐぬぬ、このまま【未来飛行】春日未来を追うべきか否か……。
そんなアイマスプレイヤーの中には俺とりあむちゃんのように現役アイドルも多数存在し、なんだったら「いや君最近限定SSRとして登場したばかりだよね?」というプレイアブル側のアイドルもチラホラ。その筆頭が俺なんだけどさ。
「リョーさん、SSR今何種類あったっけ」
「三種類」
ちなみにSR以下を含めると二桁を超える。人気アイドルゆえに新規登場回数も多いのは当然なのだが、個人的には俺よりも他のアイドルの登場回数を増やしてもらいたいところである。具体的には楓さんの新規(実用枠)とりんの新規(趣味枠)。
「リョーさんのSSRそれぞれで派閥が出来ているのも面白いよね」
「まぁ『日本カービィボウル学会』なんてものがあるぐらいなんだから、それぐらいは出来てもおかしくないよなぁ」
『周藤良太郎』のSSRはそれぞれ三種類存在し、それぞれのSSRごとに『もっとも強く運用するにはどのような編成にすればいいのか』を日々研究する派閥が存在する。
ついでに言うとその学会のそれぞれのトップがりんとまゆちゃんと凛ちゃんなのだが、この件に関して踏み込むととてもじゃないけど時間が足りないから割愛しよう。ただ一言どれほどの規模なのかを説明すると、毎年
「今度ついに海外版もリリースされるらしいじゃん。いよいよ世界制覇も夢じゃないね」
「海外版は海外版で新しい事務所も開拓されていくだろうしな」
日本での盛り上がりを知ってこの『アイマス』に一枚噛ませろと真っ先に手を挙げたのは、なんとお隣の国は359プロの華琳だった。正直な話をするとこちらも向こうのアイドルが参加してくれることは大歓迎である。
「これはもう世界の覇権を取るゲームだね、間違いない」
「どーしたりあむちゃん、やたら持ち上げるね」
「いやいやそんな。……ところでこのゲームにキャラクターとして登場した場合、そのアイドルはおいくらぐらい貰えるのかなーって……」
「金銭が目的なら個人的にあげようか? ほ~らこっちおいで~」
「だからカメラやめてえええぇぇぇ!? ……え?」
嫌がって楽屋から飛び出そうとしたりあむちゃんだったが、何故か自分のスマホの画面を見て驚いていた。
「……あれ、リョーさん?」
「どうしたの?」
「……
「え? いや、そんな仕様ないはずだけど」
プレミアムレアはアイドルを動かそうっていう話もあったけど、とりあえず現在実装されたという話は聞いていない。りあむちゃんがダラダラ汗流したりすると面白いと思うんだ。
「ぼくの見間違いかなぁ……今、画面の中の春香ちゃんがぼくに向かって手を振ったように見えたんだけど……」
「なんだそういうアレね」
「そういうアレって言うなよぉ! いや自分でもそういうアレだって思っちゃったけどさぁ!?」
ワーギャーと喚くりあむちゃんを尻目に、まぁオタクならそういう幻覚を見ることあるよねぇと思いつつ自分の画面に目線を落とす。
――その瞬間、パチリと楓さんがウインクをした。
「………………」
「? リョーさん、どうかした?」
「りあむちゃん、俺もそういうアレだった」
「いや知ってるけど」
なんだァ? てめェ……。
……そう、このときの俺たちは、まだ気付いていなかったのだ。
――E-sports正式種目に決定!
少しずつ。
――空前のアイマスブーム!
少しずつ……。
――アイマスプレイヤーが政界へ!
世界が。
――アイマスは国民の権利であり義務。
変貌していることに。
――アイマスは世界を変える。
『ついに異次元転送装置の扉が開いた! これで様々な次元のアイドルたちがこの世界で一つとなる!』
「な、なんだってー!?」
「急になに!? アンタ誰!?」
『フハハハハッ! コレで世界は私のものだ!』
「そんなこと、させてたまるか! りあむちゃんが相手になってやる!」
「ぼくっ!? そこはリョーさんが行く場面じゃないの!?」
『いいだろう、かかってくるがいい!』
「お前もいいだろうじゃないんだよぉ! っていうか本当にアンタ誰だよぉ!?」
『アイドル! ミュージックスタート!』
「ぼくの知らない掛け声!?」
そして始まる異次元戦争! 世界の命運は『アイマス』バトルに……りあむちゃんの手に託された!
『フハハハハッ! キサマのような弱小アイドルがこの私の「【異世界の覇王】周藤良太郎」「【異世界の魔王】朝比奈りん」「【異世界の帝王】●●玲音」の三王編成に勝てるわけないのだ!』
「おいあんなアイドル編成組むやつに負けるんじゃねぇぞ」
「仲間からの圧の方が怖いいいぃぃぃ!?」
――大丈夫だよ、りあむちゃん!
「……へ?」
――りあむちゃんが組んだアイドル編成なんだから!
――自信を持ってください!
「……げ、ゲームのアイドルが、春香ちゃんと卯月ちゃんと未来ちゃんが実体化したあああぁぁぁ!? なんか急すぎる展開だと思ったらコレ、ホビーアニメでよく見るやつうううぅぅぅ!?」
『アイドルマスター デイズオブグローリー! ~時空を超えた超アイドルバトル~』
俺たちの戦いは、これからだ!
「お願いだから誰か説明して!?」
・『THE IDOLM@STER Days of Glory!』
いずれ公式で使われそうだけど、それまでデイズオブグローリーはオリジナルだと言い張り続ける。
・765ダンスパ
・ユニットメタビパ
・『魔王エンジェル』統一パ
・周藤良太郎単騎パ
もうコレポケモンなのか遊戯王なのかわかんねぇな?
・深山幽谷の化身
咲って今どうなってるんだろうか。
・日本カービィボウル学会
他にはドクターマリオ医学会とかポケモンスナップ学会とか。
・アイドルの絵が動く
・りあむちゃんがダラダラ汗流したり
プレミアムカット本当に笑った。
・なんだァ? てめェ……
独歩、キレた!
・ホビーアニメ
おもちゃやゲームで世界征服は常識。
Q これなに?
A さぁ?
いつも以上に悪ふざけした結果こんなことになってしまった。本当に申し訳ありませんでした。ポケモンは好きです。遊戯王は……うん()
そして余談ですが本日無事に今作が九周年を迎えてしまいました。九年も続いてますこの小説。週刊連載を九年続けたことはそろそろ自慢させてもらいたい。
このまま目指せ十周年……と言いたいところですが、どう考えても今の八章が一年以内に終わるわけがないので確定イベントです。とはいえ心折れないように頑張ります。
これからもどうぞ、アイ転をよろしくお願いします。
『どうでもいい小話』
コンステ二日間お疲れさまでした。サプライズゲストが強すぎた……。