アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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今回からはドルヲタ編!


Lesson339 私たち、ドルヲタアイドルです!

 

 

 

 ――お隣失礼します。

 

 

 

 961プロを離れて以来初となる『Jupiter』のアリーナライブの会場にて、そう一言断りを入れてから彼は俺の隣の席に座った。ジュピターは人気トップアイドルではあるが、それでも圧倒的に女性のファンの方が多いので、自分のことを棚に上げながら(男性が一人で参加するなんて珍しいな)と思った。

 

 だから自分から「今日はよろしくお願いします」と声をかけた。きっとこの人ならば、男性ファンにしては珍しくサイン入りのTシャツで完全武装したこの人ならば、きっと仲良くなれるだろうという確信を胸に。

 

 

 

 

 

 

「へぇー、それがみのりとリョーのファーストコンタクトなんだね!」

 

「うん。そのライブ以降、色々なアイドルの現場で顔を合わせるようになったんだ」

 

 とあるラジオ番組の収録前の待機時間。『Beit』のユニットメンバーであるピエールから『俺とリョー君が知り合ったとき』のことを聞かれ、そのライブ終了後に感極まって一緒に撮った写真を見ながら当時のことを振り返る。

 

「……しかし、この人が『周藤良太郎』だとするとこの写真凄いですね……」

 

「……うん、それは僕もそう思う」

 

 恭二が覗き込んできた僕の手元の写真には、ライブ会場を背に号泣する俺と変わらず無表情なリョー君が肩を組んでいる様子が写っている。リョー君の正体を知った今になって改めて見返してみると、この写真もとんでもないものになってしまった。見るたびに「ひゅっ」と変な声が出てしまうほどだ。

 

 そんな経緯を経て、僕とリョー君はアイドルオタク仲間となった。リョー君経由で色々な意味で()()アイドルオタクとも知り合いになり、少人数のサークル活動みたいなこともした。サークルと言ってもライブの感想を言い合ったり自分の推しを語ったり、そんな感じの緩い活動だ。名称もなく、俺たちはただ単に『集会』と称していた。

 

「それでこっちの写真が、その『集会』のときに撮った写真になるんだけど……」

 

「……あ! このピンク色の髪の子、見たことある!」

 

「確か、えっと……346プロの『夢見りあむ』ちゃんですよね。それにこっちは、765プロの『松田亜利沙』ちゃん」

 

「そう。よく覚えてたね恭二」

 

「……まぁ、アレだけ熱く語られたら……」

 

 まさかアイドルについて熱く語り合った仲間である女の子が二人もアイドルになるなんて、そんな予想は出来るわけがなかった。

 

「こっちの子はアイドルじゃないの?」

 

「うん、一般人だよ」

 

 黒髪ツインテールに眼鏡をかけた少女、結華ちゃん。彼女は俺たち五人の中で唯一の一般人となってしまった。……俺と亜利沙ちゃんとりあむちゃんがアイドルになったことは知っているだろうけど、きっとまだリョー君の正体については知らないはずだ。俺が勝手に話すわけにもいかないから、リョー君が自分で明かすまでは俺も黙っていよう。

 

「ん?」

 

 そんなことを考えながらぼんやりと集合写真を眺めていると、メッセージの受信を告げるポップが画面に表示された。

 

 

 

 ――久しぶりに『集会』、しましょーや。

 

 

 

「っ」

 

 それはリョー君から、アイドルオタク仲間全員に向けて送られたメッセージだった。

 

 

 

 

 

 

 リョーさんは思うのです。

 

「やっぱりこのままりあむちゃんだけ何も知らない方が面白んじゃないかって……」

 

「いやいやいや……」

 

 たまたま近くで仕事をしていたらしいみのりさんを、彼のユニットメンバーである『Beit』の二人と共に夕飯へと誘った。ピエールの希望でやって来たもんじゃ焼き屋さんで、俺は先ほどメッセージで伝えた『集会』についてみのりさんの意見を聞こうと思ったのだが、みのりさんからは呆れたような表情をされてしまった。

 

「ボクやる! ボクひっくり返す!」

 

「待て待てもんじゃ焼きはひっくり返さない……!?」

 

 コナモノが好きだということでテンション高めなピエールのお世話をする恭二を横目に、みのりさんははぁと溜息を吐いた。

 

「というか、りあむちゃんにも話してなかったんだね。俺には話してくれたし亜利沙ちゃんも知ってるみたいだから、アイドルになった人には話してくれてるものだとばかり思ってたよ」

 

「なんかいい感じのタイミングが無くて……」

 

 俺とみのりさんと亜利沙ちゃんとりあむちゃんはアイドルで、結華ちゃんは一般人である。しかしりあむちゃんと結華ちゃんは俺が『周藤良太郎』だということどころか、そもそもアイドルだということを知らない。

 

 だから今回の『集会』の前にこっそりとりあむちゃんに俺が『周藤良太郎』だということを教えてあげようかとも思ったんだけど……。

 

「ほら、りあむちゃんは何も知らずに調子に乗ってるときの方が可愛いし」

 

 実際、以前八事務所合同リモート会議したときにイキって自慢メッセージを送って来たところとか絶妙にイラッとして最高に愚可愛いって感じ。

 

「相変わらず歪な愛情表現だなぁ……」

 

 今までの『集会』での俺とりあむちゃんのやり取りを思い出したらしいみのりさんは、ウーロン茶のグラスを傾けながら苦笑していた。

 

「出来たよ! ハイ! これリョーとみのりの分!」

 

「おっ、ありがとうピエール」

 

「ありがとうね」

 

 どうやらもんじゃ焼きが焼きあがっていた上にピエールが取り分けてくれたらしく、お礼を言ってお皿を受け取る。

 

「それでお話少ししか聞いてなかったんだけど、ダメだよー仲間外れにしちゃ! そのりあむちゃんもお友達なんでしょ!」

 

 どうやら俺たちの会話を耳にしていたらしいピエールからメッと叱られてしまった。相変わらず年下から怒られることが多い我が人生である。

 

「お友達ではあるんだけどねー」

 

 モグモグともんじゃ焼きを咀嚼しつつ、もしりあむちゃんに俺が『周藤良太郎』であることを明かしたらどうなるかを脳内でシミュレーションしてみる。

 

 

 

 ――実は俺『周藤良太郎』だったんだよ。

 

 ――え? いやいやいきなり何を言い出して……。

 

 ――はい帽子と眼鏡キャストオフ。

 

 ――オロロロロロッ!?

 

 

 

「間違いなく口からもんじゃだよね」

 

「もんじゃ食べてるこのタイミングでそういうこと言うのヤメない!?」

 

「口からもんじゃ? どういう意味?」

 

「ピエール、それは知らなくてもいい表現方法だから……」

 

 りあむちゃんが実際にオオナズチするかしないかはともかく、彼女の命が軽く危機に晒される可能性は高いと考えている。

 

「りあむちゃんの生物的な意味でも社会的な意味でも命に関わる問題だからなぁ」

 

「それは……まぁ、確かに」

 

「その夢見りあむって子のことはよく知らないんですけど……難儀過ぎません?」

 

「「俺もそう思う」」

 

「えぇ……?」

 

 俺とみのりさんが声を揃えて同意すると、恭二は若干引いていた。

 

「どうすればりあむちゃんの命を危険に晒さずに俺の正体を明かせるんだろうか……」

 

 そもそもなんでこんなことに頭を悩ませなければいけないのだろうか……。

 

「恭二はどう思う?」

 

「え、そこで俺に話振るんすか……?」

 

 仲間外れはいけないって、さっきピエールに言われたし。

 

「えっと……そうっすね……」

 

 戸惑いながらも何か答えようと必死に悩んでくれる恭二。こんな雑なパスをしっかりと受けてくれる辺り、根っからの善人である。

 

「……いきなり『周藤良太郎』だということを明かすとビックリしすぎてしまうというのであれば……やっぱり、夢見さんに自分で気付いてもらうように仕向けるのがいいんじゃないですかね?」

 

「……なるほどね」

 

 冷たい水の中に入るのは心臓に負担がかかるから爪先から少しずつ慣らしていこう、というアレだな。

 

「いいかもしれん」

 

「でも具体的にはどうするの?」

 

()()()()

 

「「「匂わせる?」」」

 

「例えば……」

 

 一応個室を利用させてもらっているとはいえ外食中なので眼鏡をかけている。この眼鏡を半分ぐらいズラして……。

 

「はい三人とも、入って入ってー」

 

「え、え?」

 

「わーい! ピース!」

 

「……?」

 

 三人と一緒に自分を画面内に収め、インカメラを使って自分たちをパシャリ。

 

「はい、これで『アイドルになったみのりさんに頼んで一緒に撮影してもらった写真』の出来上がり」

 

 これを『絶対に流出するんじゃねぇぞ!』と前置きをしてから、グループへメッセージと共に送信する。

 

 

 

 ――アイドルになったみのりさんと一緒に食事会!

 

 ――羨ましかろ? ピエールと恭二も一緒なの羨ましかろ?

 

 

 

「こうやって眼鏡をズラして認識疎外を弱めた状態で一緒に映ることによって、りあむちゃんに『アレ、リョーさんってまさか』と思わせる作戦なのだよ」

 

「「そもそも認識疎外って何?」」

 

 今更その説明いる? いや二人からしたら初耳なんだろうけどさ。

 

「あ、反応来た」

 

 

 

 ――あ゛あ゛あ゛リョーさんズルいです!

 

 ――リョーさん次の集会で覚えておけよ! 目にもの見せてやる!

 

 ――いいなーいいなーリョーさんいいなー!

 

 

 

 うーん予想通りの反応。りあむちゃん以外の二人も釣れたけど、予想していた効果は薄そうである。

 

「というか、亜利沙ちゃんから普通に反応があったことにちょっと驚き」

 

「え? 亜利沙ちゃんと何かあったの?」

 

「あったかないかで言えば、あったんだけど……」

 

 しかし喧嘩したとか意見が食い違ったとかそういうトラブルがあったわけではない。

 

「俺が『周藤良太郎』だって正体を明かしてから、少々余所余所しくなっちゃってて……」

 

 今でもアイドルヲタとしてもアイドルとしても、現場で会えば仲良く話すので壁を感じるとまでは言わない。しかしふと気付くといつもより一歩距離が離れているのだ。

 

「今回の集会は、その辺りも少しだけ踏み込んでお話したいなーとも思ってたりするの」

 

「……なんというか大変だね、リョー君。……()()と」

 

 なんだろう、みのりさんからの視線が急に生暖かくなった気がする。

 

「結局お話難しくてよく分かんなかったけど、とりあえずお腹いっぱいになればきっといい考え思い浮かぶよ! リョーさんもいっぱい食べよー!」

 

 空いていた俺のお皿に、いつの間にやら次のもんじゃが乗せられていた。どうやら俺たちが話している間にピエールがせっせと焼いていてくれたらしい。

 

「……そうだな、とりあえず今は飯だ飯だ」

 

 最近色々と難しく考えすぎるようになってしまった。変にシリアスになりすぎるとまたりんからおっぱいビンタされてしまうので、もう少し肩の力を抜くとしよう。

 

 なーに、なんだかんだ上手くいくさ! 多分!

 

 

 

 

 

 

「……アレ? もしかしてリョーさんって……い、いやいやまさかそんな……」

 

 

 




・みのりさんとの出会い
時期的には二章と三章の間ぐらい。

・結華ちゃん
出番までもーちょい。

・りあむちゃんだけ何も知らない方が
またしても何も知らない夢見さん(19)

・愚可愛い
うるみんお見事!

・口からもんじゃ
・オオナズチする
隠語いっぱい。



 美琴編とどっちを書くか悩んだ結果、特に理由はなくドルヲタ編に。まぁどっちも書くから順番は些細なことデス。

 そんなわけでドルヲタ編。何度か名前だけ出ていた彼女に加え、あの子やその子も登場する可能性が微レ存……?
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