アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ドルヲタ編ラストです。


Lesson342 私たち、ドルヲタアイドルです! 4

 

 

 

 私たちの集会はいつもカラオケで行われるが、基本的に自分たちで歌うことはない。では何をするのかというと。

 

「それではリョーさん、本日の一品をお願いします」

 

「お任せください。本日は……こちら!」

 

 恭しく頭を下げるありりんに応じて、リョーさんがカバンからとあるものを取り出す。

 

「去年の夏! 765プロの最上静香ちゃんが注目を浴びて大変話題となった346プロ主催の夏季ライブイベント! 『トロピカルサマーフェスティバル』です!」

 

「「「「おぉ~っ!」」」」

 

 去年の夏に行われたアイドルのライブのブルーレイボックスに、私たち全員が感嘆の声を上げる。

 

 そう、このカラオケはブルーレイの再生装置の貸し出しをしてくれるため、ライブの鑑賞会を行っているのだ。防音設備のあるカラオケならば気兼ねなく声を出せるし、ドリンクバーもあれば軽食も注文できるため、鑑賞会をするには最適な場所なのだ。

 

 ちなみに歌うことはほとんどない。曲を入れることもあるが、それは本人映像を観るためである。

 

「わぁ! これ見たかったんですよ!」

 

「チケット、取れなかったからなぁ……」

 

「私も!」

 

「実は俺も……仕事があって……」

 

 どうやら持参したリョーさん含め、全員不参加のライブだったらしい。

 

「全員不参加だなんて、私たちとしては随分と珍しいですね」

 

「言われてみれば」

 

「いつも誰かしらは参加してたもんね」

 

「ちょいちょいちょーい!」

 

 突然りあむんが声を上げた。

 

「全員不参加ってどういうこと!? ぼくはいたよ!? この現地にいたよ!?」

 

「「「「?」」」」

 

「少なくともそのことで弄って来たリョーさんは『アイドル側で参加してる』って確実に知ってるやろがぁぁぁい!」

 

「何が?」

 

「それすら忘れてるの!?」

 

 いやまぁ流石に冗談だけど、とリョーさん。りあむんは調子に乗せない方がいいっていうのが共通の認識だから……。

 

「っていうかスルーしそうになってたけど、これって発売日来月じゃなかったっけ!?」

 

「あっ」

 

 りあむんに言われて気が付いたが、確かにその通りである。

 

「リョーさんコレどうしたんですか?」

 

「……ま、俺にも色々な伝手があってね」

 

 人差し指を唇に当ててパチリとウインクをするリョーさん。無表情なことが少々気になるが、それでもその仕草が堂に入っていて思わずドキリとしてしまった。

 

「ど、どんな伝手なのか、聞かない方がいいですか……?」

 

「んー、そろそろ話してもいいかなーって思ってるけど、もうちょっとだけナイショ」

 

「えー? そろそろ教えてくれてもいーんじゃなーい? ぼくたちリョーさんのことなんにも知らないんだしー」

 

 恐る恐る聞いてみたもののリョーさんには受け流されてしまった。そこに更にりあむんからの援護射撃。

 

「ほらほら~アイドルりあむちゃんが横に座ってあげるからさ~」

 

「………………」

 

 ニヤニヤと笑いながらリョーさんの隣に座るりあむん。確かにりあむんは今やアイドルだし、容姿に関して言えば悪いわけではないのがキャラ的に袖にされそうである。現にリョーさんも全く反応してないし……ってよく見たらメッチャ右手で左手の甲を抓ってる! コレめっちゃ流されそうになってるのを耐えてる!

 

「ほらほら流されちゃえよ~、今更ぼくらに隠し事は無しっしょ~?」

 

「っ、リョ、リョーさん! 準備! 準備しましょう! ありさ待ちきれませんよ!」

 

 自分の優位を確信したらしいりあむんが更なる攻勢を見せようとしたところ、意外なことにありりんがそれに割って入った。確かに調子に乗ったりあむんを宥めるのはありりんとかみのりさん辺りの役割だけど……なんだか今までとは様子が違っているような気がした。

 

 ……えっ!? まさかありりん、そういうこと!?

 

 

 

(亜利沙ちゃんありがと……)

 

(い、いえ、ありさはただ本当に早くアイドルちゃんたちの活躍を見たかっただけで他意は……)

 

(このままではりあむちゃんのおっぱいに不覚を取って、気付いてもらう前に自分で全部もんじゃしちゃうところだったぜ……)

 

(えっ)

 

(あ、もんじゃするっていうのはこの前みのりさんたちと……)

 

(あ、いえ、その説明は大丈夫です……)

 

 

 

 うーんコソコソとなにやら話してるし……リョーさんの正体と同じぐらい気になることが増えてしまった。

 

(ちぇっ、なんとなくそんな気はしてたけど、やっぱり流されなかったかー。リョーさんってば基本的にチョロいのに、肝心なときのガードは固いんだもんなー)

 

(えっ)

 

(え? なんでそんな意外そうな声出すの?)

 

(だってりあむんがそこまで裏を考えて行動してたとは思わなくて……)

 

(今日はみんなして一段と失礼だな!?)

 

 でももしリョーさんが本当に『周藤良太郎』だった場合、ありりんの気持ち(暫定)は儚いものになってしまう可能性も高いのだ。そんな悲劇的な結末を回避するためにも、いち早くリョーさんの正体を解き明かしたいところなんだけど……。

 

 

 

「へっくしょん! アイドル」

 

 

 

(ほら今くしゃみの後にアイドルって言った! こんなの絶対にアイドルだよ!)

 

(完全にグルグルじゃんか! 結華ちゃんも知ってて言ってるでしょ!?)

 

 

 

「いやぁ思わずくしゃみの後にアイドルって言っちゃったよ。アイドル好きが溢れ出ちゃって困るね」

 

 

 

(なんだ……やっぱりそんな理由か……)

 

(ちょっと待って結華ちゃんあんな白々しい言葉を信じるの……?)

 

(でもリョーさんほどの人ならばくしゃみの後にアイドル好きが溢れ出てもおかしくないと思わない?)

 

(思わないよ!? ……あ、やべ、一瞬「それもありそう」とか思っちゃった……)

 

 

 

(今のどうかな? だいぶさり気なかったよね?)

 

(リョー君、あんまりこういうことを言いたくはないんだけど……)

 

(はい、くしゃみの後にアイドル好きが溢れるなんてリョーさん的に考えれば自然すぎます)

 

(そう、自然すぎる……え?)

 

(うーん確かに。アイドル好きは自然に溢れるものだもんね)

 

(あ、もしかして今回そういう話?)

 

 

 

 私とりあむんがコソコソと話をしているように、リョーさんもありりんとみのりさんの三人でコソコソと話をしている。え、まさかみのりさんも合わせて三角関係……!?

 

 

 

(どーしよりあむん! アイドルどころじゃなくなってきた!)

 

(奇遇だね、ぼくも友人関係の見直しの検討でそれどころじゃなくなってきたよ)

 

 

 

 とまぁそんなやり取りをしつつ、ブルーレイの鑑賞会が始まってしまった。

 

 正直気になることが多すぎて、ライブに集中できるかとても不安だったのだが、ここに集まった人間が全員生粋のアイドルオタクである以上――。

 

 

 

「ぎゃあああぁぁぁ! 今美波ちゃんこっちに向かってちゅうしたぞおおおぉぉぉ!」

 

「リョーさん今のところリピートしません!?」

 

「俺だって見たいけど我慢しろ! ホラお前らコールサボるな!」

 

「うお゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉぉぉぉぉぉ!」

 

「本当になんで私はここにいなかったんだあああぁぁぁ! 三峰のバカアアアァァァ!」

 

 

 

 ――こうなってしまうことは必至……というか私たちの日常風景である。こうなってしまえばリョーさんの正体とかそんなことは些細なことは頭の片隅へと追いやられてしまうのであった。そんなことよりも目の前のアイドルたちのステージの方が大事なのだ。

 

 

 

 

 

 

 いやぁやっぱりみんなで見るアイドルのライブは楽しいなぁ。こうやってワイワイ好き勝手に喋りながらする鑑賞会っていうのは、現地とは一味違う楽しみがある。

 

「やっぱりありさ的にはですね……」

 

「いや亜利沙ちゃんここは譲れないんだけど……」

 

「いやいやちょっと待って欲しいんだけど……」

 

 二枚組構成となっているブルーレイの前半が終わって後半へ入る前に休憩時間となったのだが、亜利沙ちゃんとりあむちゃんとみのりさんは先ほどのステージに対する熱い議論が始まってしまった。これは別に険悪なものではなく、あくまでもアイドルの魅力に対する個々人のこだわりのぶつけ合いなので、子犬のじゃれ合いの範疇である。

 

「ちょっとそれは聞き捨てなりませんねぇ!?」

 

「なんだよやんのかぁ!?」

 

「それは俺も黙ってられないよぉ!?」

 

 子犬のじゃれ合いの範疇である。

 

「ただいまー……ってまだやってた」

 

「おかえりー」

 

 お手洗いから帰って来た結華ちゃんが、キャンキャンを吠え合う三人の様子を見ながら苦笑する。

 

「元気だねー」

 

「普段の結華ちゃんもあっち側だよ」

 

「リョーさんこそ」

 

 要するに全員だった。

 

(……あ、俺だ)

 

 放置していたカラオケの画面が切り替わり、つい最近カラオケに追加されたばかりの新曲のMVが流れ始めた。

 

 この曲、俺にしては珍しくNG食らったんだよなー。やはりこれも老いか……。

 

(……あーここ。ここのファルセット)

 

 タイミング悪くちょっと喉がイガついてしまって上手く一発で出なかった。普段ならどんなに声を張り上げた後でも綺麗に出せるんだけどなー。

 

 そんなことを考えながら、気付けば俺はそのフレーズを口ずさんでいた。

 

 

 

(あ、『周藤良太郎』のMV……え?)

 

 

 

 しかし今日のじゃれ合いは長いなぁ。みのりさんが中立の立場に回ってくれると治まるのが早いんだけど、今回は完全に敵対ルートに回ってしまっている。あぁなったみのりさんは正直怖い。

 

「結華ちゃん、今のうちに何か食べる?」

 

「………………」

 

「……結華ちゃん?」

 

 なんでそんな目ぇ見開いて俺のこと見てるの? ……別に眼鏡はズレてないよな?

 

「……あ、いや、何でもないです。うーんそうだなー……あ、ポテト! ポテト食べましょ! 最近私の中のトレンドがカレ活することなんですよ!」

 

「それもしかしてポテト食べることを『北条加蓮活動』って呼んでるってこと?」

 

 何それウケる。後で加蓮ちゃんに知ってるか聞いてみよ。

 

「……ねぇ、リョーさん」

 

「ん?」

 

「りあむんたち、()()()()()()()になっちゃったけど。やっぱりアイドルって楽しいのかな」

 

「……うーん」

 

 アイドルが楽しいのかどうか、かぁ。

 

「みんながどう思ってるのかは知らないけど――」

 

 

 

 ――少なくとも、つまらなさそうにアイドルをやってる人は見たことないよ。

 

 

 

「俺はね」

 

「……うん、そっか。そうだよね。うんうん」

 

 何かを納得した様子でご満悦な結華ちゃん。

 

 一体どのような経緯でアイドルに興味を持ってくれたのかは分からないけど……可愛い女の子が笑顔なら、まぁいいか。

 

 

 

「リョーさん! りあむちゃんが『ぼくの大きさには勝てないアイドル大杉w』とか言い出しましたよ!」

 

「『大きさでも若さでも勝ってるぼくw』とも言ってたよ!」

 

「ちょっ、亜利沙ちゃんとみのりさん、それをリョーさんにチクるのはズルい……!?」

 

 

 

 おう、そこへなおれ、バカピンク。

 

 

 

 

 

 

 そっかそっか、や~っぱり、そーだったんだなー。

 

「………………」

 

 少しだけ。ほんの少しだけ。夢想する。

 

 フリフリピンクな衣装は流石に柄じゃない。だからどちらかと言うと、モノクロでゴシックな、そんな感じの衣装を着た自分の姿を思い浮かべて。

 

 

 

(……とりあえず、高校を卒業してから……かな?)

 

 

 

 なーんて。

 

 

 




・カラオケで鑑賞会
絶対に楽しい奴。

・色々な伝手
良「早めにちょーだい」
M常務「全く……今回だけだぞ」(頼まれれば次回もくれる)

・ありりんの気持ち(暫定)
暫定は暫定だよ()

・へっくしょん! アイドル
元ネタの連載開始三十年以上前……!?(宇宙猫)

・北条加蓮活動
少なくとも知り合いは何人か「北条加蓮する」って言ってる人がいる。

・モノクロでゴシックな、そんな感じの衣装
てや~ん!



 思えば亜利沙初登場からず~っと引っ張ってきていたアイドルオタク仲間たちのお話が、ようやくここで一区切りです。いやホント長かった。

 勿論ここで出番終了というわけではなく、今後もちょくちょく登場する予定です。こんな書きやすい集団を放っておくのは勿体ないからね。

 次回からは二週連続で番外編をお送りする予定です。
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