「ねぇ静香ちゃん聞いた? AS組の出演メンバーをじゃんけんで決めたって噂」
「普通に考えてそんなわけないじゃない」
八事務所合同ライブの打ち合わせがあるということで現在会議室にて待機中。暇を持て余していた未来が突然そんなことを言い出した。
「今回私たちも参加させてもらうこのライブは、アイドル業界でも最大規模の注目をされている一大企画なの。そんな企画に参加するメンバーをじゃんけんなんて適当な方法で決めるわけないでしょ」
「むー、確かにそう聞いたんだけどなぁ……」
唇を尖らせて不服そうにする未来。きっと何か別の話と混ざってしまったのだろう。
「でもじゃんけんで決めるなんて、なかなかスリルあるネ!」
「そ、それはどうかしら……?」
そんな私たちと一緒に待機しているのは、琴葉さんとエレナさん。この二人は私たちのユニットには含まれていないので、おそらく二人組ユニットとして今回のライブに参加するのだろう……と思ったのだが。
「え、お二人のユニットじゃないんですか?」
「私もそうだと思ったんだけど……」
「なんかプロデューサーは『もう一人いる』って言ってたんだよねー」
三人組ユニットということか。あと一人は一体誰が……?
「それにしても、八つの事務所の合同ライブって本当に大きいよねー」
「確かにそうよね」
音楽番組や合同フェスで結果的に八つ以上の事務所が参加することはあるが、今回のように合同ライブという形で八つの事務所が共演するのは初の試みではないだろうか。
「リョーさんの123プロと、魔王エンジェルさんの1054プロと、あとはえっと……」
「346プロと876プロと315プロと283プロと310プロね」
「えっ、それだと一つ足りなくない?」
「私たちの所属している事務所を含めなさい」
346プロは日本一の所属アイドル数を誇る老舗芸能事務所。アイドル部門の発展こそ最近のものだが、それでも高垣楓や城ヶ崎美嘉といったトップアイドルを多数輩出しており、知名度という点では765プロにも引けを取らない大手事務所だ。
315プロは珍しく男性アイドルのみが所属する芸能事務所。設立したのが最近のため知名度は正直イマイチではあるが、今回の合同ライブへの参加が表明されてから急激に知名度が伸びている。一部の女性アイドルファンからの心無い批判を耳にすることはあるが……きっとその辺りのことはリョーさん……じゃなくて周藤良太郎さんがなんとかすることだろう。
その他にも876プロや310プロや283プロ……初めてのリモート会議のときの感じではどれも『周藤良太郎』さんの縁で集まったようではあるが、現在日本のアイドル事務所で良太郎さんと関わらない事務所の方がきっと少ないだろう。勿論私たちもそんな事務所の一つだ。
「私知ってるよ! そーゆーのって『縁故採用』って言うんだよね!」
「使い方間違ってるから、今後その言葉の使用を控えるように」
「えー?」
そんなことを話している内に翼と紬さんと歌織さんもやって来て、後はプロデューサーと最後の一人を待つばかりとなった。
「ホント、誰なんだろーね?」
「誰からもそういう話を聞いてないものね」
「ま、まさか新人……!?」
「えっ、また増えるの!?」
「この事務所ならあるいは……」
あーだこーだ予想は立つものの当然答えは出ない。
そしてその答えは……会議室のドアが開いてプロデューサーと共にやって来た。
「よーしみんな揃ってるな! 今日は特別ゲストがいるから気合入れろ!」
「プロデューサーさん遅ーい……え」
「特別ゲストって……え」
それは翼とエレナさんが思わず固まってしまうほどの衝撃だった。私と未来と紬さんと歌織さんと琴葉さんは何も発することが出来ずに固まってしまった。
そんな私たちのリアクションが余程面白かったらしく、プロデューサーは意地悪い笑みを浮かべていた。
「知らない人はいないだろうが……自己紹介お願いします!」
――にゃははっ!
そうしてプロデューサーに促されて一歩前に出てきた
765プロダクションシアター組より。
『春日未来』『最上静香』『伊吹翼』『白石紬』『桜守歌織』
『田中琴葉』『島原エレナ』
『???』
以上
「ふむ……」
事務所のラウンジで各事務所からの出演アイドルが記載された書類に目を通しながら、俺は指で眼鏡を押し上げる。最近本当に視力が落ちてきたなぁ……。
「うーん……やっぱり眼鏡クイッってやってるのは絵になるなぁ……」
そんなことを言いながら目を瞑り腕組みをしながらウンウンと頷くりん。お気に召していただけたようで何より。
「それにしても、765プロのAS組からは天海春香と双海真美と星井美希ねぇ……なんというか、いかにも
「じゃんけんで決めたらしいけどね」
「は?」
あとサラッと言ったけど123はりんのウチではないでしょ。
「ついでにシアター組からは七人……あぁ、春日未来と最上静香も参加するのね」
俺の肩に顎を乗せながらりんが後ろから俺の手元の書類を覗き込んでくる。大乳の圧が強い。去年の一件で色々あったため、他事務所のアイドルに関しての認識が薄いりんもこの二人に関してはしっかりと覚えていたようだ。
「あとは、えっと……」
「知ってる子いる?」
「………………」
無言で離れていった。うーん、昔の俺のような他者への興味のなさ……。
「ついでに346プロからはユニボの三人と元リップスの四人と……」
「興味なーい」
せめて志希も参加していたリップスぐらいは把握しといてあげて欲しいかなぁ。
「それじゃありんも興味が湧きそうな話題を教えてあげよう」
「え? なになに?」
ソファーで横になって無関心モードに入る寸前だったりんに「はいこれ」ととある書類を手渡す。
「……リョーくん、流石のアタシでもデカデカと『社外秘』って書かれた書類の中を見るのは躊躇するんだけど」
「気にしない気にしない」
ちょっとだけ眉間に皺が寄っていた。おそらく兄貴に怒られることを危惧しているのだろう。大丈夫、怒られるとしたら俺だけだから。
「そもそもコレなんの書類なの?」
「123プロからの参加アイドルについて」
「…え、全員出演するって話だったよね?」
「あぁ」
りんの言う通り、俺たち123プロダクションのアイドルは九人全員の出演が決定している。当初少しでも他事務所の新人アイドルへの枠を増やすために選抜しようというのが123プロ内での考えだったのだが、逆に他事務所からそれに待ったがかかった。
曰く『123と1054は主催事務所なのだから、出演メンバーを絞るのはファンからも不満が出るのでは』とのこと。
「言いたいことは分かるんだけど、やっぱり申し訳ない気もするんだよ」
勿論123のメンバーの出演を見送らせること自体も心苦しいものはあったが、そういった決断をするのも俺や兄貴といった上層メンバーの役割だ。そういった不満を受け止めるのも仕事だとは思っていたのだが……。
「出演事務所間での格差は作りたくなかったんだけどなぁ」
「そういうのは作りたくなくても出来ちゃうもんだからね」
結局他事務所からの要望という形で、123プロダクション所属アイドルは全員出演することになったのだが……そこで俺と兄貴は考えたのだ。
「それならば『いっそのこと123プロのアイドルとして出演させない』というのはどうだろうか、と」
「……え?」
「恵美ちゃんもまゆちゃんも出演はする。ただし
つまり毎度おなじみ『出向』さんの出番である。
「それはそれで他事務所のアイドルの存在を食っちゃうんじゃない?」
「その辺はセンターを別に据えたり色々考えるさ」
寧ろ『123プロのアイドルと一緒にステージに立つあの子は誰だ』という関心を持ってもらうことの方が重要だと考えている。
「特に美琴の場合、最近は殆ど表に出てきてなかったから知名度は皆無だろ? その辺りをフォローするためでもあるんだよ」
「なるほど……」
ちなみに思い出したくもないのだが、その話を何処からか聞きつけやがったアノヤロウが「それじゃあアタシが283プロとして参加してあげよっか?」なんてふざけた妄言を吐きやがったので中指を立てて拒否してやった。テメェなんか出禁だ出禁! さっさと海の向こうに帰りやがれ!
「とまぁ、そんな考えの元、所属アイドル全員で話し合った結果がそちらの書類となっております」
「………………」
改めてりんの手元にある書類を手で示すと、彼女は少しばかり緊張感が増した面持ちでゆっくりと表紙の紙を捲った。
「……なるほどねぇ」
123プロダクションより。
『周藤良太郎』
『天ヶ瀬冬馬』『伊集院北斗』『御手洗翔太』
以上四名、参加決定。
ならびに。
『所恵美』 765プロダクションに出向、および参加決定。
『佐久間まゆ』『一ノ瀬志希』 346プロダクションに出向、および参加決定。
『北沢志保』 283プロダクションに出向、および参加決定。
『三船美優』 876プロダクションに出向、および参加決定。
・「普通に考えてそんなわけないじゃない」
おっ、そうだな()
・シアター組参加メンバー
琴葉とエレナの名前が出た時点で察した人は多そう。
・毎度おなじみ『出向』さん
アイ転ではいつもお世話になっております……。
いや複数事務所を絡める展開はこれが一番やりやすいんだよ……。
・123プロ参加メンバー
全員出演は流石に贔屓が過ぎるかなとも思ったんだけど、主人公の事務所だから多少はね。
というわけで123プロ女性陣は全員他事務所のアイドルとしての出演になりました。
今回と前回で紹介された346と765のアイドルにそれぞれ123のアイドルを組み合わせると、とある三つの既存ユニットが出来ますね? つまりそういうことです。
『どうでもよくない小話』
楓さん4位おめでとうございます!!!
そしてまさかのイヴが1位!!!おめでとう!!!!!